The Jazz Five featuring Vic Ash and Harry Klein ( 英Tempo TAP 32 )
普段はけなしてばかりの英国ジャズですが、中には「これは凄い」と思うものも当然あって、その筆頭がこのレコードです。
ヴィクター・アッシュという人はクラリネット奏者という印象が強いですが、実際はサックスもよく手にしていたようで、このアルバムもテナーを
吹いています。 ただ、クラリネットの印象が先行しているせいか、欧州の名盤が語られる際にはこのレコードはいつも選から漏れてしまって
いるような気がします。 でも、仏のアルバニタの "Soul Jazz" や独のナウラの "European Jazz Sounds" と互角に張り合える英国産は
これだろ、といつも思うのです。
テナーとバリトンの2管フロントという超重量級のサウンドで全編が固められた素晴らしいハードバップで、文句の付け処が見つからない。
収録された6つの楽曲がどれもみな素晴らしいですが、特にA面最後の "Hootin'"、B面最後の "Still Life" がカッコいい。
演奏の技量も非常に高くて、ほころび1つありません。 まるで現代の最優秀な常設グループの演奏のようです。
作品が他にもあるのかどうかわかりませんが、一定期間レギュラーグループとして活動していたのかもしれないと思わせる纏まりの良さも見事で、
アルバムがこれ1枚しかないのだとしたら、本当に残念なことです。
唯一のスタンダードの "Autumn Leaves" では間奏をクラリネットで吹きますが、バックのハードバップサウンドにクラリネットの音色が絶妙に
ブレンドされて、こんなサウンドカラーは他では聴いたことがありません。 そういうセンスの良さもあちこちで光ります。
アメリカのハードバップを詳細に研究した跡が伺えますが、その模倣にならずにきちんと自分たちの音楽を作り上げているところが素晴らしい。
1960年の晩秋にロンドンのデッカ・スタジオで録音され、レコードのプレスもデッカ工場でされているので、音質も極上の仕上がりです。
スター・プレイヤーがいない地味なメンツのせいかあまり目立たないレコードのようで、英国内でもこのレコードの存在を知らない人が結構いる
という話を教えてもらったことがあります。 でも日本の愛好家には普通に知られており、つくづく日本はすごい国だなと思います。