Lou Donaldson / Blues Walk ( Blue Note 1593 )
ジャズを聴いていてやっぱりこの音楽は異国の音楽なんだなあ、と感じる瞬間はいろいろあるけれど、一番それを実感するのはこういうコンガの
チャカポコが入っているのを聴いた時ではないでしょうか。 日本人の感覚からすれば、このチャカポコが入るととたんに音楽が下品になるような
気がして、なんでこんなことをするんだろう? と首を傾げてしまうというのが正直なところだし、私も若い頃はそう思っていました。
コンガはキューバの民族楽器で、元々は祝祭音楽で使われていたもの。 カストロが現れるまでの20世紀の前半はキューバはアメリカの傘下に
入ることを認めていたので、この時期の人やモノの交流の中でこの楽器もアメリカに入って来たわけですが、ブルーノートが他のレーベルに先駆けて
キューバ音楽を取り入れだした50年代後半の2国間の関係は、政情的にかなり不安定で微妙な時期でした。
にも関わらず、"Sabu" や "Orgy In Rhythm" などで執拗にキューバ音楽にこだわったのは、音楽とはそういう政治的なものからは自由で独立したものだ
というアルフレッド・ライオンの音楽プロデューサーとしての強い矜持があったからなんじゃないかと思います。
そう考えてみると、チャカポコを聴いた時の感想も少し違ったものになってくるわけです。
ルーさんはブルーノートの看板アルトサックスとして長く頑張った人で、初期の録音ではパーカーの影響がまだ濃厚ですが、そこからあまり時間を
置かずに脱出することができた。 その時に相棒に選んだのがハーマン・フォスターとコンガ奏者で、この人選が音楽を決定付けました。
コンガを入れるアーティストはこれ以降増えますが、あくまでもアクセントとしての使い方が多くて、ルーさんのようなゆるゆるキューバン・ブルース的
音楽をモノにした例はあまり見られないような気がします。
ただ、アルバムをつくる場合はそれだけでは単調になってしまうので、この盤のようにアクセントとしてコンガ抜きの素晴らしいバラードを
入れることが多くて、チャカポコが苦手でもこのバラードだけは聴きたい、と思わせてくれます。 特に、この盤に収録された "Autumn Nocturne"
の出来は群を抜いていて、ブルーノートのバラードランキングでも上から数えたほうが早いであろう素晴らしさです。
そういう入り方でもいいから、ルーさんの音楽をもっと評価してもらえるいいのにな、と思います。