Tony Lada / The Very Thought Of You ( Sterling Bell Records SB001 )
1年ほど前にこの人の "On The Edge" という作品を聴いて、その凄まじいテクニックに圧倒されたトニー・ラダ。 ボストンを拠点に活動するいわゆる
ローカルミュージシャンなので作品として残されたものが少なく、目にすることもなければ実際に聴くことも難しい残念な状態です。 ただ、それは
音盤マニアの間に限った話で、実際はトロンボーンを志す若い後進への指導者として音楽の現場では名の通った人のようで、この人に教えを乞うた
日本の若者も大勢いるということを少し前に知りました。 だから、レコードを作っているようなヒマはなかっただけなのかもしれません。
スライドトロンボーンのワンホーンによる現代のストレートハードバップで、とにかくこんなに音程が正確で安定したトロンボーンは他では聴いたことが
ありません。 音量も豊かで張りがあり、痩せた小さな身体でよくこんな大きな音を出せるなと驚いてしまいます。 アップテンポの曲では最大限に張った
ビッグトーンで一糸乱れぬなめらかさで長いフレーズを繰り出し、ミドルテンポのミュートをつけた曲では繊細な音でデリケートに歌い、バラードでは
陰影に富んだ彫の深い音で抒情的に鳴らすなど、その引き出しの多さや表情の多彩さは圧巻。 トロンボーンという楽器の演奏そのものでここまで
感動させられるのは他に例がありません。
歌物のスタンダードが4曲、ジャズメンのオリジナルが2曲、自身のオリジナルが2曲、という選曲バランスもよく、やっていることは極めて平易でシンプル
ですが、純粋に演奏の力だけで音楽の格を大きく上へと押し上げているのがよくわかります。
また、おそらくはこの作品をリリースするために立ち上げられたのではないかと思われるレーベルにも関わらず、音質が非常にいいです。
各楽器がクッキリと分離して音像もシャープで、楽器の音がきちんと前へ出ている素晴らしい録音です。 1988年5月にボストンのバークレー音楽院の
スタジオで録音された、現代ジャズの傑作です。 ちょっとげんなりするジャケットですが、未CD化のはずなのでそこは目をつぶって。