廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

秋の深まりと共に

2015年10月25日 | ECM

Hajo Weber, Ulrich Ingenbold / Winterreise  ( 西独 ECM 1235 )


もともとは耽美的なピアノや氷のサックスというイメージだったECMですが、レコードを聴き進めていくうちに、このレーベルはギターのレーベルだ、
と思うようになってきました。 それだけ優れたギターのアルバムがたくさんあるのですが、こういうのはとても珍しいことです。 ジャズのレーベルでは
どこもギターの作品はほんの気持ち程度という扱いで、ギター好きとしてはいい作品を探すのにいつも苦労しているから、これは嬉しい誤算です。

本作は2人の無名のドイツ人ギタリストによるアコギ2本によるデュオ作品で、アクセントをつけるように2曲でウルリヒがフルートを吹いています。
1人がアルペジオで全体のサウンドを作り、もう1人がリードを取るという形を基本としていますが、とにかくこんなに美しいアコースティック・ギターは
滅多に聴くことができないんじゃないかと思います。 音の粒立ちの良さや乱れや濁りの無さはちょっと信じられないほどで、その技術力の高さは
ハンパじゃありませんが、それ以上に音色の美しさが際立ちます。 

録音の素晴らしさも頭一つ抜き出ている感じで、ギターが鳴れば鳴るほど、静寂感がより増していく感じがします。 まるで、静寂を録るために2本の
ギターに演奏させているかのように錯覚してしまうほど。 秋が深まっていくこれからの時期に、これ以上相応しい音楽は他にないと思わせてくれます。

音の美しさだけで中身がない凡百の作品とは違い、2人の持ち寄ったオリジナル作品はどれもクォリティーが高く、ピアノや他の楽器によるグループでも
演奏してもらいたいと思わせる出来です。 聴く人それぞれが自分だけの様々な情景を思い浮かべることになるであろう、優れた音楽。
自分の中でECMのベストワークの序列が大きく変わることになるかもしれない作品です。 

これが未CD化だというのは信じられない。 このレーベルは他にもそういう作品が多く、どうもCDを軽視しているようなところがあります。
それだけレコードの完成度に自信を持っているということなのかもしれませんが、この作品はオートリピートでいつまでも鳴らし続けたい。



コメント
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