廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

1960年 Birdland のビル・エヴァンス・トリオ(1)

2020年08月25日 | Jazz LP (ブートレグ)

Bill Evans / A Rare Original  ( ALTO Records AL 719 )


ビル・エヴァンスの公式アルバムはすべて聴いてしまった。死後に発表された未発表作も、すべてではないにせよ、無理せず入手できる物の
大部分は聴いてしまった。現在は、モノラル盤で持っていたアルバムのステレオ盤を聴いてみたり、欧州プレスや国内盤などの国籍違いを
聴いたり、という感じで遊んでいるけれど、よく考えたらブートレグ(海賊盤)はまだ聴いていなかった。

ブートの存在については色々な意見があるものの、自分が好きなアーティストの演奏がより多く聴けるという点では有難いことなのではないか。
もちろん、アーティスト本人やレコード会社にとっては権利侵害の重罪以外の何物でもない。でも、そのアーティストを愛するリスナーから
してみれば、純粋に新しい演奏を聴くことができる喜びを抑えることは難しいということも否定し難い事実なのである。

特に、それがエヴァンス、ラ・ファロ、モチアンのトリオの演奏ということになると、あの4枚だけで我慢しろと言われても、そんなのは
土台無理な話なのだ。世界中のファンがそのフラストレーションを解消するべく、同一タイトルの版違いを何枚も買い込んだりして、
私自身も含めて、物欲の過食症状態に陥っている。

そういう日頃の鬱憤を晴らすのにこのブートは一役買ってくれるかもしれないということで、聴いてみることした。ブートの課題は音質の
悪さや編集の粗さだが、チャーリー・パーカーのブートに比べると時代が10年進んでいることもあって、音質の劣化はさほど気にならない。
正確に言うと、音質は良いとは言えないけれど、この時期独自の演奏内容に夢中になるうちに脳内でサウンドが勝手に補正されていくので
音質の問題自体がどうでもよくなっていくということだ。人間の脳の神秘である。

1960年3月19日にトリオがバードランドで演奏したもので、"Portrait In Jazz" (1959年12月28日) と "Explorations" (1961年2月2日) の
間の空白の1年間を埋める貴重な記録である。この1年という期間は、ファンにとっては無限の空白に値する。

レコードに針を落とすと、あのトリオの演奏が鳴り始める。聴き進めていくうちに、何とも言えない深い感慨が湧き上がってくる。
やはこの時期の演奏には、他にはない何かが宿っているのだ。

以前から思っていたことが確信へと変わる。それは、このトリオの魅力がラ・ファロの演奏にあるのではなく、エヴァンスのピアノの
弾き方そのものにあるということだ。この2年にも満たない短い時期のエヴァンスのリズム感、ブロック・コード、フレージングの
何もかもがその前後の時期とは違う。この独特の弾き方が圧倒的に素晴らしいのだ。

モチアンはエヴァンスのピアノの弾き方にピッタリと合わせるようについて行っていて、これも他のドラマーたちとは違う。
そのせいでトリオの演奏が一番まとまっているように聴こえるのだと思う。

"Beautiful Love" が演奏されているけれど、後のスタジオ録音と比べると原メロディーがしっかりと残っていて、これが発展して
あの演奏のようにメロディーが崩されたんだなということがよくわかる。"Blue In Green" もライヴらしい饒舌な演奏で、
静謐な演奏だけが魅力的なわけではないのだ。とにかく、どの演奏からも耳が離せない。

それにしても、このクラブの観客たちの会話のうるさいことと言ったら・・・。ほとんど誰も演奏を聴いていないんじゃないのか、
と思うような賑やかさだ。これに比べたら、ヴィレッジ・ヴァンガードは高級クラブのようにすら思えてくる。
でも、こういう賑やかさも今となっては古き良き時代の懐かしさに溢れていて、それすらも愛おしい。


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