Charles Mingus / Mingus Plays Piano ~ Spontaneous Compositions and Improvisations ( 米 Impulse! A-60 )
職業ピアニストが弾いているのではないことは一聴して明らかだ。でも、そういうところは気にならない。聴いているうちに、ピアノのソロ
演奏だということは忘れてしまい、目の前にはある情景が浮かんでくる。
厚手のツイードのコートを着た男が陽の光がよく差し込んだ明るい森の中を散歩している。大きな背中を見ながら、その後を黙ってついて
行っているような感覚。乾いた枯葉を踏みしめるカサカサという音だけが聴こえる。
この人の内なる心象風景が無防備にそのまま映し出されたような、音楽を超えた情景そのものを見ているような不思議な感覚に包まれる。
そこには寂し気で孤独な雰囲気が漂っている。これを音楽として評価するのは不可能。そういう類いのものではない。
これを聴いてエリントンや他の誰かを感じることはない。ミンガスの心の中にある想いがメロディーという形をとって流れ出すのを見るだけだ。
それは柔らかい質感で、優しい感情で溢れている。女性が弾いているのか、と思うくらいのおだやかな質感だ。
ヴァン・ゲルダーもいつもの曇ったようなイコライズをかけず、鳴っているピアノの音をそのまま刻み込んだような感じにしてくれたのは
よかったと思うけれど、そういう話もどうでもよくなる。無拓な魂と成熟した音楽が、聴いている私をどこかへ連れて行ってしまう。
エリントンに似ているかと思いきや、そうじゃないところがミソですね。
ピアノは正直で、弾く人をそのまま映し出します。