Jeremy Steig / First Album ( 日 CBS/Sony SONP 50217 )
いいジャケットだ。 オリジナルのコロンビア盤(Flute Fever)では買う気になれなくて、国内盤のこちらで聴いている。 国内盤も捨てたもんじゃない。
ジェレミー・スタイグを知るきっかけになったのは、ご多分に漏れずエヴァンスとの共演盤だった。 エヴァンスのアルバムらしくない荒々しい仕上がりに
驚いたものだが、その中の "So What" のカッコよさにはシビれた。 あれはマイルス以外のこの曲の演奏に興味を持つようになったきっかけにもなった。
このアルバムはエヴァンス盤にも負けないいい出来で、それはひとえにバックのザイトリンのトリオの演奏に依るところが大きい。 ベン・タッカーのベースは
相変わらず大きく太い音で唸っているし、何よりザイトリンのピアノが新鮮だ。 このピアノ・トリオが何か新しいことを予感させるような雰囲気を持っていて、
そこいらのありふれたジャズとはどこか違う、というちょっとドキドキさせる感じがある。
スタイグが現れるまで、こういう情に委ねるようなフルート演奏をした人は果たしていたのだろうか。 ボビー・ジャスパーにしても、ハービー・マンにしても、
こういう演奏をしていたのを聴いた記憶がない。 ドルフィーの演奏ですら、知の塊のように思える。
でも、それはただ感情的なだけではない。 バンド全体の演奏をドライヴし、音楽をグイグイと前へと推し進めていく機能を果たしている。 やみくもに感情に
溺れているわけではなく、しっかりと音楽へ没頭しているだけなのだ。 だから、意外なほどバンドとしての纏まりはいい。
このアルバムに収録された "So What" もカッコいい。 全員が一丸となって疾走していく。 最後のザイトリンのソロもハービー・ハンコックばりの斬新さ。
収穫の多いデビュー作だったと思う。
どこかでスタイグは顔面の半分が麻痺で特殊なマウスピースを使っている云々の記事を読んだ記憶が。
晩年は鎌倉で静かに過ごし、近年、逝去されましたね。