廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

1 / 2,000

2020年07月26日 | Jazz LP (Dawn)

Cy Coleman / S/T  ( 米 Seeco CELP 402 )


新宿で安レコが2,000枚出る、というので見に行った。枚数が多いので2回に分けて、1,000枚ずつ出すという。1回目は空振りで出ぶらで引きあげたが、
2回目に750円のこれを拾って来た。2,000枚探して、1枚。この2,000分の1という数値がこの趣味の実態を現わしている。世の中にはレコードが溢れている
けれど、実際に買うレコードはそのくらいの比率でしかないのだ。これは時たま見かけるレコードで別に珍しい物ではないけれど、値段が今まで見た中では
最安値だったので、拾って帰ることにした。

サイ・コールマンはショー・ビジネスの人という印象で、誰もジャズ・ピアニストとは思っていないだろう。そのピアノもただのカクテル・ピアノ扱いされている。
でも、実際に聴いてみると、そういうのとはちょっと違うんだなというのがわかる。しっかりとしたピアノの腕、卓越したリズム感、しっかりとフレーズが歌う
アドリブ、とジャズ・ピアノとして一級品だ。彼にしてみれば、ジャズという音楽は自分には簡単だし、カネにならないし、というので早々に引き上げたんじゃ
ないだろうか。

朗らかで、デリケートで、しなやかなピアノ・トリオで、あまりの良さに聴きながら正直驚いた。バックでピアノを支える無名のベースとドラムも上手過ぎるし、
何なんだこれは、と唸りながら、ピアノ・トリオとしての一体感に呆然としながら聴くしかなかった。

ただ上手いだけではなく、音楽にタメが効いていて、深い余韻が残る。上っ面だけで流暢に音楽が流れて行くことなく、意志を持ってコントロールされている。
自分の中で音楽が消化されて、血となり肉となって演奏されているのだと思う。

Seecoというレコード会社にはジャズをメインに取り扱うDawnレーベルがあるが、このアルバムはそちらではなくSeeco本体からリリースされているせいで、
ジャズファンの盲点になっているのは何とも皮肉なことだ。違いの判る人には、この演奏の良さがきっとわかるだろう。言うまでもなく、ジャケットのデザインは
バート・ゴールドブラッドで、このアルバムの内容に相応しい意匠だと思う。


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