Bill Watrous / Coronary Trombossa! ( 米 Famous Door HL 136 )
DUの試聴機の前で思わずのけ反ってしまった。 これは一体何なんだ、こんなになめらかでしなやかなトローンボーンは今まで聴いたことがない。
凄いアルバムを聴いてしまった、と頭がクラクラしながら帰る道すがら調べてみると、これがその筋では有名な人だということがわかった。
知らないのは私だけ、といういつものパターンである。
軽音楽部でトロンボーンを吹いている若者たちには概して3人の神様がいるそうで、それはJ.J.ジョンソン、カール・フォンタナ、そしてこのビル・ワトラス
ということで相場は決まっているらしい。 知らなかった。
数々のビッグ・バンドで活躍するという常道を歩んでいるために、私のようなレコードで音楽を聴くのがメインの人種にはその名前はなじみがない。
なんと晩年のアート・ペッパーと2管アルバムも出しているそうだが、復帰後のペッパーを嫌うレコードマニアの世界ではこの手の話は語られることがない。
これも初耳だったが、いずれは聴いてみたいと思う。
ワンホーンで、半分の曲がフェンダー・ローズで、ボサノヴァ・タッチの曲もあるという泣かせる内容だが、何にも増してワトラスの伸びやかで音の継ぎ目のない
トロンボーンが最高の出来だ。 J.J.はドラマチックなフレーズで聴かせるが、この人の場合はブレが一切ない完璧な音程感にヤラれてしまう。
B-2の超絶技巧はどうだ。 こんなトロンボーン、聴いたことがない。
そして、出色は2曲のバラード。 最後の "Goodbye" はこの楽器で演奏されたバラードの最高峰ではないだろうか。 ローズの音色も切ない。
トロンボーンの世界は語られることの少ない、まだまだ未知なる領域の感がある。 でも、この人について行けば大丈夫かもしれない。