Stan Getz / Chamber Music ( 米 Roost RLP 417 )
20代の終わり頃(つまり大昔)、スタン・ゲッツのレコードを探しては熱心に聴いていた時期があった。その頃、ルーストの中ではこの10インチが最も
稀少だった。私の印象では、リー・コニッツのストーリーヴィルの10インチよりもこれを見る頻度は少なかったように思う。ネットがない時代で頼れる
メディアは雑誌や本だけだったが、このレコードはそこでも取り上げられることはなく、私のように意図的に探していた人間だけがこのレコードの存在を
知っていたような感じだった。だから、このレコードには少しばかり思い入れがある。
尤も、今はすっかり様相は変わっていて、ありふれたレコードとして立派なミドルクラスに落ち着いている。値段が安くなったのはいいことだと思う。
スタン・ゲッツのルースト・セッションは50年代初頭のSP末期で録音は貧弱だが、このアルバムはその中でも比較的マシな録音の楽曲が集中していて、
聴く分には悪くない内容だ。ルーストの10インチでは牛乳瓶が有名だけど、あれはどれも録音が悪くて全然楽しめない。
そして、極めつけの "Autumn Leaves" の名演が収録されている。なぜかこの曲だけがMUZA盤のような残響がしっかりと効いた録音になっていて、
暗闇の中からゲッツの姿が浮かび上がってくるような絶品の演奏が聴ける。メロディーの歌わせ方もフレージングもゲッツお馴染みのやり方で、
彼のスタイルの典型が凝縮された演奏だ。この曲のためだけにでも買う価値がある。
緑と赤の色使いがクリスマスの雰囲気を醸し出しており、12月が近くなると何となく聴きたくなるレコードで久し振りにターンテーブルに乗せて
ぼんやりと聴いていると、昔のことがいろいろと思い出されてくる。スタン・ゲッツの古いレコードにはそういうところがどこかある。