The Dave Brubeck Quartet featuring Jimmy Rushing / Brubech And Rushing ( 米 Columbia CL 1553 )
ブルースが弾けない、スイングしない、歌心がない、と言われて硬派なファンからは完全無視されるブルーベック・カルテット。 大手コロンビアと
契約したおかげで稀少盤もなく、コレクターからもまったく相手にされない。 わかりやすいもの、メジャーなものは価値がないという思い込みが
素直に音楽を聴こうとする姿勢を邪魔する。 ブルーベック・カルテットの演奏の凄みを本当の意味で知るには、 "Time Out" なんかを聴くよりも
このジミー・ラッシングとの共演を聴く方がいいのではないかと思う。 そしてこの共演盤とラッシングの別のアルバムとを比較することで浮かび上がる
相対化されたブルーベック・カルテットの演奏の本当の価値に唖然とすることになるだろう。
このアルバムを聴けば、ブルースができない、スイングしない、という話がでたらめだということがわかる。 ブルーベックはきちんとブルースの
フレーズでオブリガートを付けているし、ジョー・モレロのブラシ・ワークがスイングしまくっている。 ラッシングの歌が一区切りついてデスモンドに
リードが引き継がれて間奏が始まる時の雰囲気がガラリと変わる瞬間の凄さはどうだろう。 古い素材がデスモンドの透明な世界の中で安定しながら
何の違和感なく同居する不思議さ。 ジミー・ラッシングの個性を殺すことなく音楽が完成していく様子が驚異的だと思う。
Jimmy Rushing / The Jazz Odyssey Of James Rushing ESQ. ( 米 Columbia CL 963 )
ジミー・ラッシングのアルバムの中で1番好きなのはこのコロンビア盤。 ラッシングの代表的歌唱が凝縮された至宝だ。 アーニー・ロイヤル、
ヴィック・ディッケンソン、ハンク・ジョーンズ、ミルト・ヒントン、ジョー・ジョーンズらが演奏する古き良きスタイルの演奏を聴いていると、
そこから1直線に伸びていく道のはるか彼方にブルーベック・カルテットの演奏があって、この2つはしっかりと繋がっているのを感じることができる。
ブルーベック・カルテットの演奏は洗練の極みを見せていて外形上は違うスタイルだけど、それでもこの2つの演奏は道から外れることなく、途中で
寄り道することなく、1本の線で繋がっているのがよくわかる。 そして、ブルーベック・カルテットの演奏が何気に極めた頂点にいることもはっきりと
わかるのだ。 そうやって比較するとその凄さがわかるのに、単独で聴いている分には敷居の高さなどまったく感じさせることがない。
ブルーベック・カルテットの演奏というのはそういう演奏だと思う。
ブルーベックをバックにラッシングが歌う "Evenin'" がとても好きで、これを聴くと世俗の憂さなどどうでもいいや、という気分になる。
幸せをもたらしてくれる素晴らしいアルバムだ。