Billie Holiday / All Or Nothing At All ( 米 Verve MG V-8329 )
私は "All Or Nothing At All" というスタンダードが好きなのだが、それはこのビリー・ホリデイの歌を聴いたのがきっかけだった。
この曲を最初に聴いたのはコルトレーンの "Ballads" だったが、何とも暗く陰鬱な曲だなあという印象で、その頃はこの曲がくると針を上げていた。
ところがこのアルバムを聴いてその印象は一変する。 聴く前はあの暗い曲をビリーが歌ったらどんなことになるんだ?と戦々恐々だったが、流れてきた
その歌は優しく朗らかな表情で、暖かい陽だまりの中で心地よいリズムに身を任せたような素晴らしい歌唱だった。 これで完全に目から鱗が落ちた。
ノーマン・グランツの巨匠趣味のお陰で、ヴァーヴ系列にビリー・ホリデイのアルバムがたくさん残ることになったのは幸いだった。 今となってみれば、
それはもう人類の大いなる遺産と言っていい。 レコーディングにも細心の注意が払われていて、当時のヴァーヴお抱えのビッグネームがスモール・コンボで
バックを固める。 パーカーがもう少し長生きしていればきっとグランツは参加させたはずだけど、そうできなかったのは残念だった。
このレーベルに残ったアルバムはどれもいい出来だけど、私はこのアルバムが一番好きだ。 ビリーの表情は終始穏やかで、歌も上質な羽毛のように軽い。
バックを固めるメンツの演奏もとにかくデリケートの極みで、その中でも特にベン・ウェブスターとバーニー・ケッセルが最高の歌伴をつける。
ケッセルの分散コードクークは魔法のようだ。
ビリーも調子が良かったようで、どのフレーズも丁寧に処理しているし、声もよく出ている。 何よりも明るい表情が素晴らしいけれど、それが明るければ
明るいほど、同時に得も言われぬ哀しみも増していく。 これこそがビリー・ホリデイである。 こんな情感は彼女の歌でしか感じられない。
嬉しいことに、このアルバムは録音がとてもいい。 初版のオリジナルはもちろんだが、以降の版で聴いても遜色ない素晴らしい音質で楽しむことができる。
暗くて重い演奏だけど、ビリー・ホリデイがこの演奏への印象を変えてくれた。 まるで "北風と太陽" のように。
paul bleyのfontana盤、以前から関心高い一枚です。が、聴いたことないです。
ポール・ブレイはアルバム毎に内容がガラガラと変わるので、事前調査が欠かせません。 フォンタナは聴き易い内容なので、きっと大丈夫じゃないでしょうか。