Tony Bennett / Cloud 7 featuring Chuck Wayne ( 米 Columbia Records CL 621 )
正直、いつ訃音が届いてもおかしくはない、と思っていたから大きなショックを受けたということはないけど、それでもトニー・ベネットが
亡くなったのは残念なことだと思う。ここ数年、SNSで彼の情報は頻繁に流れていてその近況や様子などもわかっていたから、来るべき日が
来たんだな、と静かに受け止めている。
私は彼のことがとても好きで、20代の頃からずっと聴いてきた。歌手としてはシナトラなんかよりもずっと好きで、とても近しい存在だった。
コロンビアにたくさんのレコードが残っていて、その大半は聴いたと思う。ベルカント唱法をベースにしたその歌声を聴くと、私の心の中の
靄はどこかへ吹き飛んで、どこまでも透き通った青空のように晴れ渡ったものだ。そんな気持ちにしてくれたのは彼しかいなかったと思う。
コロンビアのレコードのいいところは、バックのオーケストラの演奏が素晴らしいものが多いというところだ。それ単体で聴いても聴き惚れる
ものが少なくない。特にこのラルフ・バーンズのスコアは格別の出来。そして、そのフルオーケストラのサウンドにも負けないトニーの声量の
凄まじさ。でもそういう圧倒的な迫力だけではなく、彼の歌には常にどこか寂し気で哀しげな表情があった。そういう不思議さが私の心を打つ。
彼の最高傑作はこれ。個人的な思い入れが強すぎて客観的には語れないほど好きなアルバムで、モノラルとステレオの両方を聴いている。
他にもいいアルバムはたくさんあって、すべては載せきれない。どのアルバムもアメリカ音楽の良心のようなものばかりだ。
R.I.P トニー・ベネット。あなたの歌はいつも私の心の中にあり続ける。