Bing Crosby / Merry Christmas ( 米 Decca DL 8123 )
ビング・クロスビーが歌った "White Christmas" は永遠のマスター・ピースで、おそらく世界で最も売れたクリスマス・ソング。
最初の録音は1942年でSPでリリースされ、1945年に再レコーディングされてVディスクでリリース。この45年ヴァージョンが
1955年リリースの12インチLPに収録されて、こちらが定番となった。
ビング・クロスビーのデッカ時代は40年代で、数えきれないほどの歌が録音されている。そのためこの12インチLPも複数のレコーディングが
ミックスされているため、バックのオケやコーラスもメンツはバラバラだが、やはりアンドリュー・シスターズとの歌が印象に残る。
お上品とは言い難いハーモニーだが、クロスビーのジェントルな歌声とはいい塩梅のバランス感を見せていて、聴いていて楽しい。
そういうごった煮的な編集でもかかわらず、全体の印象が乱れず統一しているのは、クロスビーの歌い方が一貫して変わらないためだ。
「夢見るような」とは正にこのことで、クルーナーという言葉を生んだ歌唱はすべての歌手にとっての北極星であり続ける。
A面は定番のクリスマス・ソングが教会音楽的なアレンジを施された伴奏で歌われる。こうして聴いていると、心が静まり穏やかな気持ちに
なっていく。キリストの降誕を祝うというお祭りを庶民にわかりやすく定着させるためにこれらの音楽が作られたわけだが、その狙いは
見事に成功している。こんなにも清く厳かな雰囲気を作り出す音楽群は他には例がないのではないか。ビング・クロスビーの歌がここまで
成功したのは、その歌声と歌い方が人々の中に共通して存在するクリスマスの幻影にこれ以上なくうまく重なったからだろう。
B面になるとアンドリュー・シスターズも加わり、明るく賑やかしいムードにシフトする。コーラスが弾むようなリズムを作る中、
クロスビーは完璧な音感でなめらかに歌っていく。厳かなクリスマスと朗らかなクリスマスの対比が見事なまでに描かれていく。
人々にとっての永遠の憧憬のようなクリスマスの風景がここには詰め込まれている。現実世界では中々理想通りには過ごせないからこそ、
このアルバムはいつまでも輝き続けるのだろう。