Billie Holiday / The Blues Are Brewin' ( 米 Decca DL 8701 )
ビリー・ホリデイの歌手としてのキャリアは1930年代前半から59年までと相当の期間があったが、それに比べて録音はさほど多くなく、
一通り聴くのに時間はかからない。そんな中で最も埋もれているのがこのアルバムだろう。1946年から49年の間にデッカに吹き込まれた
SP録音の曲を58年に12インチLPに切り直したもの。
スタンダードは "Lover Man" の方へ片寄せされて、それ以外の無名のブルースばかりを集めたせいで地味な印象となっているが、
これが非常にいい出来だ。声は若々しく、表情も明るく、録音状態も良好だ。ルイ・アームストロングとのデュエットも2曲含まれていて、
いいアクセントになっている。
アルバム・タイトルになっている "The Blues Are Brewin'" はビリーの紹介映像などの中でよく使われる曲で、彼女のレパートリーとしては
曲名は知らなくても聴いたことがあるという人は多いであろう。50年代になってノーマン・グランツが録音する頃には声がやつれてくるが、
まだそうなる前の(少なくともレコードで聴く限りにおいては)元気そうで楽しそうに歌う様子が前面に出ていて、とてもいい。
とかく重苦しい雰囲気のイメージが付きまとう彼女だが、実際にレコードを聴くと決してそうではないことがよくわかる。
歌うことが楽しくて仕方がない、という様子がストレートに伝わってきて、聴いているこちらもそれに感化されるようなところがある。
みんながそう言うから、ということではなく、彼女が本当に好きななら伝わるものがしっかりとある、いいレコードだと思う。