報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 第1章 「発生」 1

2016-06-24 21:00:09 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月24日17:00.天候:曇 某県霧生市中心部・ホテル東横イン霧生]

 私の名前は私立探偵、愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今回は、仕事でこの一地方都市へやってきた。
 事件は無事に解決し、本来なら全て終わった時点で帰京するところだが、クライアントが是非にとホテルを取ってくれ、しょうがないので好意に甘えることにした。
 確かに今回の事件は難事件で、何日もクライアントの家に泊まり込んでの事件解決となった。
 その経緯については端折らせてもらうが、要は連日の大雨で、郊外にあるクライアントの洋館風の屋敷へと通じる道が崩壊し、孤立してしまったのだ。
 その為、警察が来るまでの間、ちょっとしたクローズド・サークル状態になってしまったというわけだ。
 私と助手の高橋正義はホテルに入り、夕食までの間、休憩することにした。
 私と高橋とはシングルが別々に取られていて、私は気兼ねなく休めそうだった。
 屋敷では私と高橋が同室だったので、いくら私に心酔してくれているとはいえ、やはりそれはそれで気を使うものだ。
 高橋が私の押し掛け助手になったのは先述した通りだが、あの時のことが仮眠中に夢に出てきた。

[3月22日13:00.天候:晴 東京都内某所 愛原の事務所兼住居]

 私は都内の住宅街に、2階建ての店舗兼住宅を借りている。
 1階は何かの店だったらしいのだが、私はそこを事務所、2階の住居部分をそのまま住居にしている。
 その日は特にボスからの電話も、クライアント直接の依頼も無かったので、私はのんびり事務所でテレビを見ていたのだが……。
 何故か私とテレビの間には、高橋が深刻な顔をして仁王立ちしていた。
 高橋の手には大きなキャリーバッグ、そしてリュックサックを背負っている。
 Tシャツの上からフード付きのパーカーを羽織り、下はジーンズである。
「あのさ、キミ。今、テレビ、いい所なんだけど……?」
「愛原先生。どうか俺を弟子にしてください」
「は?」
「先生の探偵としての洞察力、観察力に感動しました。俺、やっと自分のやりたいことを見つけた気がします。俺も先生のような一流の探偵になりたいです。だからどうか、ここで住み込みの弟子をさせてください!」
「う、うん……絶対ヤダ」
 何故にこの私が男と2人暮らししなければならんのだ。
 確かに高橋も容疑者候補となったあの事件、私は解決できた。
 だが、あれは真犯人があまりにも墓穴を掘り過ぎてくれた為に、簡単に分かったことなのだ。
 “名探偵コナン”でも、コナンに眠らされていない状態の毛利小五郎ですら簡単に解決できた事件であろう。
 この男、一体なにを考えている?
 見た目は20歳を過ぎていて……25歳は越えていない……か?
 どちらかというとイケメンの部類に入るであろう。
 つまり、前途有望な青年だ。
 こんな世界に入ってこなくても、もっと楽にドカッと稼ぐ仕事をやろうと思えばできるはずだ。
 それなのに、何故?
「どうしてですか!?」
「いや、どうしてって……。別に俺は弟子だかアシスタントだか欲しくて、あの事件を解決したわけじゃないんだ。そりゃプロとして報酬はもらったよ?プロってのは、お金をもらってその仕事を完遂するのが義務だからな。キミがどれほど俺のことをカッコいいと思ったんだか知らないが、俺は別にキミを弟子にしたくてカッコつけたわけじゃない……って、何メモってんだ!?」
「探偵の心得、ですね。勉強になります!今日からよろしくお願いします!」
「いや、だから、うちはそんなに経営が順風満帆ってわけじゃないから、人を雇い入れる余裕なんて無いんだ!」
 だが高橋、キャリーバッグの中から札束をドサッとテーブルの上に置いた。
 厚さからして100万、200万ではない。
「部屋代、並びに受講料は払います!」
「……確か、上の部屋1つ空いてたかな。ちょっと汚いが、掃除すれば住めると思う」
「ありがとうございます!」

 そういうわけで、彼は押し掛け同然の助手兼弟子となった。
 さすがにタダ働きさせるのもあれなので、アルバイト扱いしておいた。
 バイト代といっても、コンビニの高校生バイトよりも安いかもしれない。
 だが、それによる奏功はあった。
 ボスから回される仕事量が増えたのだ。
 何でもボスによれば、『助手を雇い入れるというそのやる気を買った』とのことだ。
 因みにボスが誰なのか、実は私もよく分かっていない。
 恐らく、探偵アソシエーション(協会)のおエラだと思っているのだが……。

[6月24日17:30.天候:曇 霧生市中心部のホテル]

 ベッドに横になっていた私だが、ライティングデスクの上の電話が鳴り響いて目が覚めた。
 私が起き上がってその電話を取ると、相手は高橋だった。
「お休みのところ申し訳ありませんが、そろそろ夕食にしませんか?」
 とのことだ。
「あー、そうだな。じゃ、行ってみるか」
 私は頷いて電話を切った。
 といっても東横インでは夕食の取れるレストランが無いので(一部例外あり)、本当に外に出て食べに行かなければならない。
 私は財布とスマホだけ持つと、すぐに支度をして部屋の外に出た。
「先生。行きましょう」
「そうだな」
 私と高橋はエレベーターに向かった。
「何食べる?」
「この町の名物なんかどうでしょう?」
「名物?何だっけ?」
「この町はハーブがよく自生するそうですので、ハーブを使った料理が名物らしいです」
「そうなのか。ハーブティーなんか、後でお土産に買って行くか」
「そうですね」
 エレベーターのボタンを押して、エレベーターを呼ぶ。
「いい店あるのか?」
「タクシーでここに来る時、途中にそれらしい店を見つけました。そこに行ってみようと思います」
「おっ、いいね」
 私と高橋はエレベーターに乗り込み、1階へ降りた。

 ホテルのフロントに鍵を預けて、外に出る。
「こっちです、先生」
「ああ。何か、雨降りそうだな?」
「天気予報では曇のようですが……」
「まあ、いいや。行ってみよう」
「はい」
 私と高橋は名物料理を出すというレストランに徒歩で向かった。
 そうしている間、何故か救急車や消防車、そしてパトカーがサイレンを鳴らして行き交っている。
「……何か、町の様子がおかしくないか?」
「そうですね。何かあったんでしょうか?」
 裏路地の方を見ると、酔っ払いが千鳥足でヨタヨタと歩いているのが見えた。
 まだ夕方だというのに、もう千鳥足の酔っ払いがいるのか。
 よく見たら、酔い潰れて寝ているのか、はたまたホームレスなのか、道端に転がっている者もいる。
 よく分からん町だ。

 そうしている間に、私と高橋は店に到着した。
「いらっしゃいませー!2名様ですか?」
「ええ」
「おタバコはお吸いになりますか?」
「いや、禁煙で」
「かしこまりました。あいにくですが、テーブル席の方が只今いっぱいになっておりまして、カウンター席でもよろしいでしょうか?」
「私は構いませんが……。高橋君はどうだ?」
「先生がよろしいと仰るのでしたら」
「じゃあ、カウンターでお願いします」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
 私達は若い男性店員に案内されて、カウンター席に座った。
 道路を背にして座る形であるが、ちょうどテレビが見える。
「先生、この『店長のオススメ』なんかいいかもですよ」
「どれどれ……?『三種のハーブをあえたチキンステーキ』か。いいね」
「『グリーンハーブは傷や体力を回復させる効果があり、ブルーハーブは毒消しの効果があり、レッドハーブはそれだけでは何の効果は無いものの、他のハーブと組み合わせることにより、そのハーブの効能をより一層高めることができます』とありますね」
「ふーん……なるほど。要は薬草をふんだんに使った薬膳の洋食版といったところかな?」
「きっとそうですよ。よし、じゃあ……」
 私は手を挙げて店員を呼んだ。
「ええ。この『店長のオススメコース』を1つ……」
「あっ、先生、俺もお願いします」
「ああ。じゃあ、2つで」
「はい。セットでライスかパンが付きますが、どちらになさいますか?」
「ライスで」
「俺も」
「かしこまりました。お飲み物は何になさいますか?」
「あー……と、そこは取りあえずビール。大瓶でグラス2つください」
「かしこまりました」
 注文すると、最初に運ばれてきたのは当然ビール。
「じゃあ、事件を無事に解決できたことだし、まずは乾杯だな」
「はい!」
 私は高橋のグラスにビールを注いでやった。
「先生に注いで頂けるなど、何と恐れ多い……!」
「気にするな。キミも助手としてよく頑張ったな。それじゃ、乾杯」
「お疲れさまです!」
 私と高橋は、グラスを口に運んだ。

 ここまでなら、ごく普通のよくある光景だ。
 だが、魔の手は刻々と私達に迫っていたのである。
コメント (6)
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