報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 第2章 「異界」 1

2016-06-29 19:42:02 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日00:30.天候:曇 ◯×県霧生市霞台・霞台団地交番]

 私と高橋はパトカーの目的地だった霞台団地交番に向かった。
 さっき巡査部長が「右だ!」と言った道を行ってみる。
 交差点の看板にも、『←霞台団地交番』とある。
 また、『←霞台団地駅』ともあった。
 途中の道にもゾンビはいたものの、ニュータウンということもあってか道は広く、奴らに掴まれることなく交番に向かうことができた。
 交番の前はさぞかし大惨事なのだろうと思ったが、意外にもそうではなかった。
 正確に言えば、大惨事『だった』のだろう。
 交番の周りには無数の倒されたゾンビの死体が転がっており、それに無数のカラスが食らい付いている。
 幸い、まだそのカラス達は凶暴化していないのか、私達が近づいても襲っては来なかった。
 その中に、警察官の死体もあった。
 恐らく、同士討ちだったのだろう。
 何丁も銃は持っていけないので、取りあえず弾だけ頂戴していくことにした。
 交番も荒れており、窓ガラスが所々割れている。
 中に入ってみると、3人ほどのゾンビが血だまりを作って死んでいた。
 その中に、警察官もいた。
 こちらは銃弾を持っておらず、この3人のゾンビを倒したところで弾切れをしたらしい。
「先生、どうしましょう?」
「何か、重要な手掛かりは無いかな?」
「探してみます」
「頼む」
 ロッカーを開けるとショットガンやハンドガンが入っていた。
 中には腰のベルトに括り付けるタイプの弾薬ケースがあり、持ち切れない弾薬はこれに入れれば持って行けそうだった。
 別のロッカーには、救急スプレーや止血剤などの医療セットもあった。
 使う間も無く、ゾンビにやられてしまったのだろう。
 ロッカーには、『班長の許可無く、使用を禁ずる』と書かれていた。
 だが、その下には血文字のような字体で、『班長は死んだよ!!!!』とも書かれている。
 もしかして、このゾンビの下敷きになっている警察官が班長だろうか。
「申し訳ありません。使わせて頂きます」
 私は班長らしき警察官の死体に手を合わせて、弾薬と救急スプレーを取り出した。
「高橋君、キミもケガしてるだろ?これを使え!」
「先生、ありがとうございます」
 私達は救急スプレーなどを使い、取りあえずここまでで受けた傷を手当した。
「先生」
「何だ?」
「とんでもない縁起の悪い事、言っていいですか?」
「……あまりに下らない、フザけ過ぎることを言ったらぶん殴るぞ?」
「分かりました。俺もゾンビが町を徘徊する映画を観たことがあります。先生も観たことありますよね?」
「ああ。それと状況がよく似ていると言いたいんだろう?」
「それだけじゃないです。その……ゾンビに噛まれたヤツは……自分もゾンビとなって、他の生存者を襲うというヤツです」
「そうか。俺達も、ゾンビからカプッとやられたり、引っ掛かられたりしたな?」
「も、もしかして、俺達も……」
「さっき高木巡査長が、体が痒くなったり、熱が出たりしたら言えと言っていたが、それがゾンビ化の予兆だな。俺は今のところ大丈夫だが、高橋君は?」
「俺も今のところは……。ただ、いつそうなるか、とても不安です」
「病院に行けば、何らかの治療法があるかもと言っていたが、あの状況じゃな……。だが、いつまでもここにいるわけにはいかない。もしかしたら、実はちゃんとした名前のある病気で、実は治療法があるのかもしれない」
「そうですか?」
「東京のでっかい病院にでも行けば、何とかなるんじゃないか?」
「何とかなりますかね?」
「そう信じて前に進むしかないさ!幸い、今のところ、ちょっとケガしただけで、それはちゃんと手当てできたし、症状は出ていない。町の外に出て……東京に戻れば、何とかなる!」
「分かりました!」
「その前に情報収集だ。ついさっきまでちゃんとお巡りさん達がいたってことは、最新情報が入っているかもしれない」
「それなら先生、このファックスを」
「ん?」
 交番の中にある複合機。
 そこに1通のファックスが届いていた。
 それはもちろん、この町に起きている謎の大災害のことについてであったが、そこに希望の光が書かれていた。
 要点をまとめると、こうだ。
 この霞台団地から、もっと山の中に入った所に、大山寺というお寺がある。
 その境内の裏手にはヘリポートがあり、ここに県警や自衛隊のヘリコプターを定期的に離着陸させるので、住民をそこに避難させよという内容であった。
 町中や団地内はゾンビがいっぱいだが、まさか山寺の、またその裏手にまでゾンビがいるとは思えない。
 つまり、ヘリが離着陸できる安全は確保されているはずだと。
「これは……!」
「先生、あとこれを!」
 それは交番の中にある団地内の地図。
 地図の左側が西であるのだが、そこに『至大山寺』という文字が見受けられた。
「どうします、先生?」
「もちろん、行くさ!」
「道路と電車と、どっちで行きます?」
「こんな状況で電車が走ってるわけないだろ!……待てよ。普通に道路を行こうとすると、やっぱりゾンビと遭遇するかもしれないな。だったら、線路の上を歩いて行けばいいかもしれない。どうせ電車なんか走ってるわけ無いしな」
「そうと決まったら、駅に行きましょう」
「よし!」
 私達は交番の外に出た。
「アァア……!」
「ウウウ……!」
 私達を追ってきたゾンビ達が迫って来ていた。
 やはり、のんびりはできなかったか。
「高橋君、目の前のゾンビだけ倒せ!弾が持たんぞ!」
「分かってます!」
 私達は駅の方向に向かった。
 そちらからやってくるゾンビだけを倒し、駅に向かった。

 霞台団地駅はちょっと変わった構造をしている。
 駅前ロータリーや駅舎は、地方にあるごく普通の平屋の駅舎である。
 だがその駅舎の両側を見ても、線路は無かった。
 駅の平屋部分にキップ売り場と改札口があり、そこを抜けると地下へと続く階段やエスカレーターがある地下駅なのである。
 これはこの辺りが台地になっており、更に線路が山の奥へと繋がっているため、まるで地下鉄のようなトンネル構造にしなければならなかったのだろう。
 で、私達は駅構内にすんなり入ることはできなかった。
「こ、これは……!」
 入口のシャッターは固く閉ざされていた。
 ところが、そこに路線バスが突っ込んでいる。
 頭の先は、シャッターの向こう側にあるようだ。
 バスは首都圏では見られなくなったツーステップバスで、ドアが真ん中ではなく、更に後ろに付いているタイプだった。

 
(こんな感じのバス。ちょっと分かりにくいが、後部ドアが真ん中ではなく、後ろ寄りに付いている)

「確かこれは……」
 非常時の為に、こういうバスの自動ドアも外側から手動で開けられるようになっている。
 私は固く閉ざされた後部ドアを手動で開けると、バスに乗り込んだ。
「アア……!」
「オォオ……!」
「くそっ!こんな所にもいやがって!」
 バスの中には乗客と思しき、男女のゾンビがいた。
 さすがに狭い車内ではすり抜けることができない上、前扉も閉まっているので、倒す他無かった。
 ゾンビを倒した私達は、バスの前に向かった。
 運転席では、運転手がフロントガラスに上半身を突っ込ませた状態で死んでいた。
 折り戸タイプの前扉は、その横の非常コックを開いて手動で開けた。

 こうして私達は、駅の中に入ることができた。
 ここでは果たして、何が待ち受けているのか……。
コメント (10)
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“私立探偵 愛原学” 第2章 「異界」 プロローグ

2016-06-29 15:19:26 | 私立探偵 愛原学シリーズ
 ※第1章「発生」の目的は迫り来るゾンビの群れから脱出することであり、パトカーでそれを成功したと見なして完了です。

 第2章の舞台について。

 霧生電気鉄道:

 霧生市内を東西に走る私鉄。
 地方私鉄にしては珍しく、市中心部を境に東西方向の郊外に向かって線路が伸びている。
 四方八方を山に囲まれている町の為、東西の終点付近は丘陵地帯の高架線になっている。
 2両編成の電車が20分に1本の割合で運行されているが、朝夕のラッシュ時にはそれを2台繋いだ4両編成で運行されていた。
 車両はJR東日本E127系または701系に酷似している。
 かつては他の地方私鉄と同じく、首都圏大手私鉄のお古を使用していた。
 どこにそんな金があるのか、自社発注の車両を今は使用している。
 2両編成の場合はワンマン運転を行っており、4両編成の場合はツーマン運転であった。
 無人駅は少なく、どちらかというと“都市型ワンマン”が行われていたもよう。
 車両は1000系という形式番号が振られている。
 E127系や701系に酷似はしているが、前者はトイレが付いているものの、霧生電鉄1000系には無い。
 駅が無人の場合に備えて、運賃箱や整理券発行機は付いている。
 愛原達が向かう西の終点駅手前には、この鉄道会社の裏の資金源が隠されている。

 舞台となる駅について:

 駅名は『霞台団地』。
 名前の通り、台地に形成された団地の中に位置する駅。
 ここから電車は山の方向に向かって進む為、まるで地下鉄のようにトンネル内を進む。
 駅も地下にある(電車としてはそれまで高架線で走ってきたのが、トンネルに入って、駅があるという感じ)。
 停電はしていないものの、高架線に出る方のトンネルの出入口は崩壊している。
 ホームは2面2線の対向式。
 東方面(市街地を通って、反対側の山に向かう方)のホームには、2両編成を2台繋いだ4両編成の電車が中途半端な位置で止まっている。
 電車は先頭車部分が、トンネル崩壊部分に突っ込むような形で止まっている。
 目的は無事な後ろ2両を切り離し、その電車で西の終点駅に向かうこと。
 トンネルの中の駅である為、人間のゾンビ以外にもトンネルの中だからこそのクリーチャーも存在する。
 前回のステージのボスは実質的に、クリムゾンヘッドであったが、こちらのボスは別のクリーチャーとなる。
 クリア必須の条件として、駅構内に隠れている鉄道職員を救出しなければならない(当然愛原達は連結器の外し方、電車の運転の仕方を知らない為)。

 何故、愛原達はそんな所に行ったのか?
 それをこれからお送りしよう。

[6月24日23:15.天候:曇 ◯×県霧生市・霧生市民病院付近]

 私と高橋は、何とかゾンビ達の群れから逃げ出すことができた。
 だが、一応念の為ということで、病院で検査・治療を受けることにした。
 私達を乗せたパトカーは、封鎖区画を迂回しながら向かったものの……。
「何たるちゃあ……!」
 病院は大火災に見舞われ、その周辺をゾンビ達が闊歩(というか徘徊)していた。
「先生。どうやら、ゾンビ達が放火したようです」
 と、高橋。
「そのようだな」
「アァア……!」
「ウゥウ……!」
 ゾンビ達が私達の存在に気づいて、足を引きずったり、千鳥足状態ながら向かってきた。
「中川!離脱しろ!」
「は、はい……!」
 助手席に座る巡査部長は、運転席の中川巡査に命令した。
 パトカーは急いで、病院の敷地内をあとにした。
「どうしますか!?」
 同行している警視庁の高木巡査長が巡査部長に聞いた。
「今、無線を行う!中川、取りあえず街からは離れるんだ!この分では、本署も危険だ!」
「は、はい」
 巡査部長は無線を持った。
「あー、こちら◯◯。どこか、無線を取れる局はあるか?」
 まさか、警察も全滅したというのか?
 さっきから警察無線は入ってこないし、巡査部長の呼び掛けにも応答しない。
 だが!

〔「……こちら、霞台団地PB」〕

「おおっ!?まだ無事なPBがあったぞ!」
 PBとは交番のことである。
「霞台団地?聞いたことあるな……?」
 私が首を傾げていると、高木巡査長が、
「町の西の方の郊外にある、ニュータウンです」
 と、教えてくれた。
 更に高橋が、
「先生。あのクライアントさんの家の住所、霧生市霞台13丁目ですよ」
「あっ、そうか!行きは東京からの高速バスで、バスターミナルから迎えが来てくれたから、すっかり忘れてたよ」
 ポンと手を叩く私。
「先生、でも資料やら何やらはホテルの中では?」
「一応、大事な資料についてはUSBメモリーの中に入れてある」
 私はポケットの中からUSBメモリーを出した。
「おおっ!さすが先生!」
「わはは!天才と呼びなさい!」
「高木巡査長」
「何ですか?」
 巡査部長が高木巡査長を呼んだ。
「霞台交番はまだ無事のようだが、やはり向こうもゾンビだか暴徒だか分からん連中が跋扈していて、危険な状態らしい。応援を呼んでいる」
「分かりました。幸いここには武器も弾薬もありますし、私達3人で何とかしましょう」
「巡査長、私達も手伝いますよ」
「いえ。あなた達は一般人です。ここは警察にお任せください」
「何とかして交番に向かうので、着いたらあなた達は交番の中に隠れててください。あとは私ら警察で何とか暴徒達を鎮圧しますので、安心してください」
 大丈夫かな、と私は思った。

 パトカーが霞台団地に到着する。
 だが、きれいに造成された宅地であったが、あちこちの家から火災が起きていた。
 で、やはり、ゾンビが跋扈している。
 団地から脱出しようとしていたのか、団地の入口にある大きな看板に、霧生電鉄バスが激突事故を起こしていた。
 車内からは、ゾンビ化した乗客達が呻き声を上げて、こちらを見ている。
 『霞33 市役所前経由 中央バスターミナル』と、今や珍しい幕式の行き先表示が目についた。
 避難バスではなく、元々通常運行していたバスだったのか。
「確か、霞台交番は霞台団地駅のすぐ近くだったな。……となると、そこを右だな」
 巡査部長が中川巡査に指示を出す。
 だが、中川巡査はスピードを落とさず、交差点を直進した。
「おい、何やってんだ?右だぞ!……中川!?」
 中川巡査はハンドルを握ったまま、俯いていた。
「おい、寝るな!起きろ!」
 巡査部長が中川巡査の肩を強く叩いたり、揺さぶったりする。
「……ウウ……」
「!?」
 中川巡査が顔を上げると、それはゾンビであった!
「ウアアアア!」
 そして、隣の巡査部長に襲い掛かる。
「バカ、よせ!やめろ!放せっ!」
「くっ!」
 高木巡査長はシートベルトを外し、ハンドガンに弾を込めて中川巡査の頭に銃口に向けた。
「うああああっ!!」
 血しぶきを上げる巡査部長。
 しかも!
「巡査長、危ない!」
 中川巡査がゾンビ化したことで、パトカーが暴走状態に陥った。
 パトカーはそのまま速度を落とさず、ガソリンスタンドに突っ込んだ。

「うう……た、高橋君、無事か……?」
「ええ……何とか……」
 ワンボックスパトカーの1番後ろに座っていた私と高橋は無事だった。
 シートベルトを締めて、事故の瞬間、頭を低くしていたことが幸いだったようだ。
 ということは……。
「巡査長……」
 前にいた警察官3人は死亡していた。
 運転席の中川巡査と巡査部長、それにシートベルトを外していた高木巡査長はフロントガラスに突っ込んで……。
「! 先生!早く逃げましょう!」
「なに!?」
「ここはガソリンスタンドです!しかも、油臭い!」
「あっ!」
 悲しんでいる暇は無い。
 幸い、ハッチの損傷はそんなに激しくない。
 高橋が内側からハッチを開けた。
 さすがに歪んでいたが、すんなりは開けられなかったものの、私も手伝って何とかこじ開けることに成功した。
「先生、これを持って!」
「なにっ!?」
 高橋は私に、車内にあったショットガンとその弾を渡した。
「サツが全員死ぬ状態で、丸腰は危険ですから!」
「た、確かに!」
 高橋はハンドガンとその弾薬を持ち出した。
「キミはショットガンはいいのか!?」
「俺は2丁持ちの方がいいんです!」
 よく見ると、高橋はハンドガンをもう1つ持っていた。
 パトカーの外に出ると、騒ぎを聞きつけたゾンビ達がこちらに向かっていた。
「高橋君、撃つなよ!引火する!」
「分かってますよ!どけや、コラぁっ!!」
 高橋はハイキックで目の前に現れたゾンビを蹴り飛ばした。
「多分、絶望的だと思うが、交番に向かってみよう!」
「はい!」
 私達は急いでガソリンスタンドから離れた。
 そして、ついにパトカーから火の手が上がる。
 漏れた燃料に引火したのだ。
 パトカーは給油機をなぎ倒して、事務所に突っ込んだ形である。
 ということは、給油機からダダ漏れしているガソリンにも燃え移るというわけだから……。

「たーまやーっ!!」
「不謹慎なこと言うなっ!」
 ガソリンスタンドが大爆発を起こした。
 それを花火に見立てた高橋が叫ぶが、さすがに私はそれを叱り付けた。
 私達を助けてくれた警察官達が黒焦げになってしまった。
「アアア!」
「ウォォッ!!」
 そしてガソリンスタンドやその周辺にいた、住民のゾンビ達も巻き込まれていた。
 直接爆発に巻き込まれた者は言わずもがな。
 そうでない者も、火だるまになっていた。
「すいませんでした、先生。どうやら、ここは本当に地獄のようです」
「本当にここは日本なのか!?」
「間違い無いですよ」
「一体、何がどうしてこうなったんだッ!!」
「それを突き止めましょう。どうせすんなり、この町からは脱出できなさそうです」
「……そうだな。まずは交番に行ってみよう。もうダメだとは思うが、あのお巡りさん達の意思を尊重したい」
「先生」
「交番に行って応援に行くのが目的だったわけだろ?」
「……そうですね」

 私達は燃え盛る火炎を背に、霞台交番へと向かった。
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