[6月25日00:30.天候:曇 ◯×県霧生市霞台・霞台団地交番]
私と高橋はパトカーの目的地だった霞台団地交番に向かった。
さっき巡査部長が「右だ!」と言った道を行ってみる。
交差点の看板にも、『←霞台団地交番』とある。
また、『←霞台団地駅』ともあった。
途中の道にもゾンビはいたものの、ニュータウンということもあってか道は広く、奴らに掴まれることなく交番に向かうことができた。
交番の前はさぞかし大惨事なのだろうと思ったが、意外にもそうではなかった。
正確に言えば、大惨事『だった』のだろう。
交番の周りには無数の倒されたゾンビの死体が転がっており、それに無数のカラスが食らい付いている。
幸い、まだそのカラス達は凶暴化していないのか、私達が近づいても襲っては来なかった。
その中に、警察官の死体もあった。
恐らく、同士討ちだったのだろう。
何丁も銃は持っていけないので、取りあえず弾だけ頂戴していくことにした。
交番も荒れており、窓ガラスが所々割れている。
中に入ってみると、3人ほどのゾンビが血だまりを作って死んでいた。
その中に、警察官もいた。
こちらは銃弾を持っておらず、この3人のゾンビを倒したところで弾切れをしたらしい。
「先生、どうしましょう?」
「何か、重要な手掛かりは無いかな?」
「探してみます」
「頼む」
ロッカーを開けるとショットガンやハンドガンが入っていた。
中には腰のベルトに括り付けるタイプの弾薬ケースがあり、持ち切れない弾薬はこれに入れれば持って行けそうだった。
別のロッカーには、救急スプレーや止血剤などの医療セットもあった。
使う間も無く、ゾンビにやられてしまったのだろう。
ロッカーには、『班長の許可無く、使用を禁ずる』と書かれていた。
だが、その下には血文字のような字体で、『班長は死んだよ!!!!』とも書かれている。
もしかして、このゾンビの下敷きになっている警察官が班長だろうか。
「申し訳ありません。使わせて頂きます」
私は班長らしき警察官の死体に手を合わせて、弾薬と救急スプレーを取り出した。
「高橋君、キミもケガしてるだろ?これを使え!」
「先生、ありがとうございます」
私達は救急スプレーなどを使い、取りあえずここまでで受けた傷を手当した。
「先生」
「何だ?」
「とんでもない縁起の悪い事、言っていいですか?」
「……あまりに下らない、フザけ過ぎることを言ったらぶん殴るぞ?」
「分かりました。俺もゾンビが町を徘徊する映画を観たことがあります。先生も観たことありますよね?」
「ああ。それと状況がよく似ていると言いたいんだろう?」
「それだけじゃないです。その……ゾンビに噛まれたヤツは……自分もゾンビとなって、他の生存者を襲うというヤツです」
「そうか。俺達も、ゾンビからカプッとやられたり、引っ掛かられたりしたな?」
「も、もしかして、俺達も……」
「さっき高木巡査長が、体が痒くなったり、熱が出たりしたら言えと言っていたが、それがゾンビ化の予兆だな。俺は今のところ大丈夫だが、高橋君は?」
「俺も今のところは……。ただ、いつそうなるか、とても不安です」
「病院に行けば、何らかの治療法があるかもと言っていたが、あの状況じゃな……。だが、いつまでもここにいるわけにはいかない。もしかしたら、実はちゃんとした名前のある病気で、実は治療法があるのかもしれない」
「そうですか?」
「東京のでっかい病院にでも行けば、何とかなるんじゃないか?」
「何とかなりますかね?」
「そう信じて前に進むしかないさ!幸い、今のところ、ちょっとケガしただけで、それはちゃんと手当てできたし、症状は出ていない。町の外に出て……東京に戻れば、何とかなる!」
「分かりました!」
「その前に情報収集だ。ついさっきまでちゃんとお巡りさん達がいたってことは、最新情報が入っているかもしれない」
「それなら先生、このファックスを」
「ん?」
交番の中にある複合機。
そこに1通のファックスが届いていた。
それはもちろん、この町に起きている謎の大災害のことについてであったが、そこに希望の光が書かれていた。
要点をまとめると、こうだ。
この霞台団地から、もっと山の中に入った所に、大山寺というお寺がある。
その境内の裏手にはヘリポートがあり、ここに県警や自衛隊のヘリコプターを定期的に離着陸させるので、住民をそこに避難させよという内容であった。
町中や団地内はゾンビがいっぱいだが、まさか山寺の、またその裏手にまでゾンビがいるとは思えない。
つまり、ヘリが離着陸できる安全は確保されているはずだと。
「これは……!」
「先生、あとこれを!」
それは交番の中にある団地内の地図。
地図の左側が西であるのだが、そこに『至大山寺』という文字が見受けられた。
「どうします、先生?」
「もちろん、行くさ!」
「道路と電車と、どっちで行きます?」
「こんな状況で電車が走ってるわけないだろ!……待てよ。普通に道路を行こうとすると、やっぱりゾンビと遭遇するかもしれないな。だったら、線路の上を歩いて行けばいいかもしれない。どうせ電車なんか走ってるわけ無いしな」
「そうと決まったら、駅に行きましょう」
「よし!」
私達は交番の外に出た。
「アァア……!」
「ウウウ……!」
私達を追ってきたゾンビ達が迫って来ていた。
やはり、のんびりはできなかったか。
「高橋君、目の前のゾンビだけ倒せ!弾が持たんぞ!」
「分かってます!」
私達は駅の方向に向かった。
そちらからやってくるゾンビだけを倒し、駅に向かった。
霞台団地駅はちょっと変わった構造をしている。
駅前ロータリーや駅舎は、地方にあるごく普通の平屋の駅舎である。
だがその駅舎の両側を見ても、線路は無かった。
駅の平屋部分にキップ売り場と改札口があり、そこを抜けると地下へと続く階段やエスカレーターがある地下駅なのである。
これはこの辺りが台地になっており、更に線路が山の奥へと繋がっているため、まるで地下鉄のようなトンネル構造にしなければならなかったのだろう。
で、私達は駅構内にすんなり入ることはできなかった。
「こ、これは……!」
入口のシャッターは固く閉ざされていた。
ところが、そこに路線バスが突っ込んでいる。
頭の先は、シャッターの向こう側にあるようだ。
バスは首都圏では見られなくなったツーステップバスで、ドアが真ん中ではなく、更に後ろに付いているタイプだった。
(こんな感じのバス。ちょっと分かりにくいが、後部ドアが真ん中ではなく、後ろ寄りに付いている)
「確かこれは……」
非常時の為に、こういうバスの自動ドアも外側から手動で開けられるようになっている。
私は固く閉ざされた後部ドアを手動で開けると、バスに乗り込んだ。
「アア……!」
「オォオ……!」
「くそっ!こんな所にもいやがって!」
バスの中には乗客と思しき、男女のゾンビがいた。
さすがに狭い車内ではすり抜けることができない上、前扉も閉まっているので、倒す他無かった。
ゾンビを倒した私達は、バスの前に向かった。
運転席では、運転手がフロントガラスに上半身を突っ込ませた状態で死んでいた。
折り戸タイプの前扉は、その横の非常コックを開いて手動で開けた。
こうして私達は、駅の中に入ることができた。
ここでは果たして、何が待ち受けているのか……。
私と高橋はパトカーの目的地だった霞台団地交番に向かった。
さっき巡査部長が「右だ!」と言った道を行ってみる。
交差点の看板にも、『←霞台団地交番』とある。
また、『←霞台団地駅』ともあった。
途中の道にもゾンビはいたものの、ニュータウンということもあってか道は広く、奴らに掴まれることなく交番に向かうことができた。
交番の前はさぞかし大惨事なのだろうと思ったが、意外にもそうではなかった。
正確に言えば、大惨事『だった』のだろう。
交番の周りには無数の倒されたゾンビの死体が転がっており、それに無数のカラスが食らい付いている。
幸い、まだそのカラス達は凶暴化していないのか、私達が近づいても襲っては来なかった。
その中に、警察官の死体もあった。
恐らく、同士討ちだったのだろう。
何丁も銃は持っていけないので、取りあえず弾だけ頂戴していくことにした。
交番も荒れており、窓ガラスが所々割れている。
中に入ってみると、3人ほどのゾンビが血だまりを作って死んでいた。
その中に、警察官もいた。
こちらは銃弾を持っておらず、この3人のゾンビを倒したところで弾切れをしたらしい。
「先生、どうしましょう?」
「何か、重要な手掛かりは無いかな?」
「探してみます」
「頼む」
ロッカーを開けるとショットガンやハンドガンが入っていた。
中には腰のベルトに括り付けるタイプの弾薬ケースがあり、持ち切れない弾薬はこれに入れれば持って行けそうだった。
別のロッカーには、救急スプレーや止血剤などの医療セットもあった。
使う間も無く、ゾンビにやられてしまったのだろう。
ロッカーには、『班長の許可無く、使用を禁ずる』と書かれていた。
だが、その下には血文字のような字体で、『班長は死んだよ!!!!』とも書かれている。
もしかして、このゾンビの下敷きになっている警察官が班長だろうか。
「申し訳ありません。使わせて頂きます」
私は班長らしき警察官の死体に手を合わせて、弾薬と救急スプレーを取り出した。
「高橋君、キミもケガしてるだろ?これを使え!」
「先生、ありがとうございます」
私達は救急スプレーなどを使い、取りあえずここまでで受けた傷を手当した。
「先生」
「何だ?」
「とんでもない縁起の悪い事、言っていいですか?」
「……あまりに下らない、フザけ過ぎることを言ったらぶん殴るぞ?」
「分かりました。俺もゾンビが町を徘徊する映画を観たことがあります。先生も観たことありますよね?」
「ああ。それと状況がよく似ていると言いたいんだろう?」
「それだけじゃないです。その……ゾンビに噛まれたヤツは……自分もゾンビとなって、他の生存者を襲うというヤツです」
「そうか。俺達も、ゾンビからカプッとやられたり、引っ掛かられたりしたな?」
「も、もしかして、俺達も……」
「さっき高木巡査長が、体が痒くなったり、熱が出たりしたら言えと言っていたが、それがゾンビ化の予兆だな。俺は今のところ大丈夫だが、高橋君は?」
「俺も今のところは……。ただ、いつそうなるか、とても不安です」
「病院に行けば、何らかの治療法があるかもと言っていたが、あの状況じゃな……。だが、いつまでもここにいるわけにはいかない。もしかしたら、実はちゃんとした名前のある病気で、実は治療法があるのかもしれない」
「そうですか?」
「東京のでっかい病院にでも行けば、何とかなるんじゃないか?」
「何とかなりますかね?」
「そう信じて前に進むしかないさ!幸い、今のところ、ちょっとケガしただけで、それはちゃんと手当てできたし、症状は出ていない。町の外に出て……東京に戻れば、何とかなる!」
「分かりました!」
「その前に情報収集だ。ついさっきまでちゃんとお巡りさん達がいたってことは、最新情報が入っているかもしれない」
「それなら先生、このファックスを」
「ん?」
交番の中にある複合機。
そこに1通のファックスが届いていた。
それはもちろん、この町に起きている謎の大災害のことについてであったが、そこに希望の光が書かれていた。
要点をまとめると、こうだ。
この霞台団地から、もっと山の中に入った所に、大山寺というお寺がある。
その境内の裏手にはヘリポートがあり、ここに県警や自衛隊のヘリコプターを定期的に離着陸させるので、住民をそこに避難させよという内容であった。
町中や団地内はゾンビがいっぱいだが、まさか山寺の、またその裏手にまでゾンビがいるとは思えない。
つまり、ヘリが離着陸できる安全は確保されているはずだと。
「これは……!」
「先生、あとこれを!」
それは交番の中にある団地内の地図。
地図の左側が西であるのだが、そこに『至大山寺』という文字が見受けられた。
「どうします、先生?」
「もちろん、行くさ!」
「道路と電車と、どっちで行きます?」
「こんな状況で電車が走ってるわけないだろ!……待てよ。普通に道路を行こうとすると、やっぱりゾンビと遭遇するかもしれないな。だったら、線路の上を歩いて行けばいいかもしれない。どうせ電車なんか走ってるわけ無いしな」
「そうと決まったら、駅に行きましょう」
「よし!」
私達は交番の外に出た。
「アァア……!」
「ウウウ……!」
私達を追ってきたゾンビ達が迫って来ていた。
やはり、のんびりはできなかったか。
「高橋君、目の前のゾンビだけ倒せ!弾が持たんぞ!」
「分かってます!」
私達は駅の方向に向かった。
そちらからやってくるゾンビだけを倒し、駅に向かった。
霞台団地駅はちょっと変わった構造をしている。
駅前ロータリーや駅舎は、地方にあるごく普通の平屋の駅舎である。
だがその駅舎の両側を見ても、線路は無かった。
駅の平屋部分にキップ売り場と改札口があり、そこを抜けると地下へと続く階段やエスカレーターがある地下駅なのである。
これはこの辺りが台地になっており、更に線路が山の奥へと繋がっているため、まるで地下鉄のようなトンネル構造にしなければならなかったのだろう。
で、私達は駅構内にすんなり入ることはできなかった。
「こ、これは……!」
入口のシャッターは固く閉ざされていた。
ところが、そこに路線バスが突っ込んでいる。
頭の先は、シャッターの向こう側にあるようだ。
バスは首都圏では見られなくなったツーステップバスで、ドアが真ん中ではなく、更に後ろに付いているタイプだった。
(こんな感じのバス。ちょっと分かりにくいが、後部ドアが真ん中ではなく、後ろ寄りに付いている)
「確かこれは……」
非常時の為に、こういうバスの自動ドアも外側から手動で開けられるようになっている。
私は固く閉ざされた後部ドアを手動で開けると、バスに乗り込んだ。
「アア……!」
「オォオ……!」
「くそっ!こんな所にもいやがって!」
バスの中には乗客と思しき、男女のゾンビがいた。
さすがに狭い車内ではすり抜けることができない上、前扉も閉まっているので、倒す他無かった。
ゾンビを倒した私達は、バスの前に向かった。
運転席では、運転手がフロントガラスに上半身を突っ込ませた状態で死んでいた。
折り戸タイプの前扉は、その横の非常コックを開いて手動で開けた。
こうして私達は、駅の中に入ることができた。
ここでは果たして、何が待ち受けているのか……。