報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「新人魔女は二重人格?」

2016-06-14 20:15:39 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月1日09:00.天候:晴 長野県北部の山間部 マリアの屋敷]

「東京では5月から暑い日が続いていて、もう夏みたいだと藤谷班長からメールがありました」
 稲生は朝食後、大食堂でマリアと話をしていた。
「そうか。師匠の予言では、今後、関東ではダムの貯水量が減って、取水制限が行われるだろうとのことだ」
 マリアが微笑を浮かべて答えた。
「そうですか。今年は空梅雨なんですかね?」
「どうだろうな」
 マリアは首を傾げた。
 マリア自身も予言を行う力は持っているはずなのだが、イリーナと違って、意図的に予言を行うのではなく、予知夢を見るタイプの方である。
 もっとも、イリーナの場合も、人の生き死にに関する予知は夢で見ることの方が多い。
「それより、今日は来客があるから」
「来客?マリアさんにですか?」
「表向きは私だけども、ユウタにも紹介したいってさ」
「ん?誰ですか?」
「エレーナだ」
「エレーナが今さら?」
「ポーリン組に新しい弟子が入ったんだって」
「ええっ、マジですか!?」
「珍しい話だな」
「それより、エレーナの無期限登用休止を解除してあげてもらいたいものですよね」
「まあ、大師匠様がお決めになったことだから。それに……」
「それに?」
「要は、ポーリン師に新たに弟子を取らせる為の出来レースじゃないかとも言われてる」
「? どういうことですか?」
「ポーリン組も、今のところはエレーナしか弟子がいない状態でしょ?」
「ええ」
「ジルコニア達のせいで破門者や無期限謹慎者を何人も出したもんだから、ダンテ一門としては、それに代わる新しい弟子を入れたいそうなんだ。そして入れるとしたら、人数の少ない組の所を優先して……ということだな」
「なるほど……」
「既にアナスタシア組は、何人も新弟子を入れたらしいんだけど……」
「アナスタシア組は、むしろあれ以上増えない方がいいんじゃないでしょうか?」
「……と、アナスタシア組以外のほぼ全員がそう思っている」
 マリアは喉の奥で笑った。
 抑え殺した笑い方ではあるが、そもそも笑う事すらしなかった(できなかった)当初と比べれば、驚くほどの進歩だ。
「やっばり……」
 稲生も笑みを浮かべた。

「で、いつ来るんですか?エレーナ達は?」
「長野方面に配達のついでに来るらしい。『午前中指定』の便があるから、その後で来るってさ」
「正しく、“魔女の宅急便”ですね。その新弟子さんも、ホウキで空を飛ぶのでしょうか?」
「ポーリン組のオリジナル魔法の1つだからなぁ……」
 イリーナ組はホウキには跨らない。
 イリーナ組は、まずは瞬間移動魔法を修得することを旨とする。
 と、そこへ、玄関のベルが鳴らされた。
「おっ、噂をすれば……」
 稲生とマリアは、屋敷のエントランスホールへ向かった。
 2階吹き抜けのホールへ向かうと、既にメイド人形のミカエラが人間形態になっていて、玄関のドアを開けていた。
「こんにちはー」
 入ってきたのはホウキを手にしたエレーナ。
 相変わらず、いつもの魔女の姿をしている。
 魔女と言っても、着ているのは黒いスモッグではなく、エレーナの場合は黒いブレザーに黒いスカート、黒いベストを羽織っているだけで、その下のブラウスは白だし、首に着けているリボンは赤である。
 黒い帽子を被っているが、とんがり帽子ではなく、普通のハットである。
「やっと来たか」
「あれ?エレーナ1人?」
「エヘヘ……そうじゃなくて……」
 エレーナはホウキでトントンと、自分の足元を叩いた。
 すると、エレーナの影に隠れていたらしく、ズズズと上半身が出て来る。
「わっ!?」
 稲生はビックリしたが、マリアはその魔法を知っているせいか、やっぱりといった顔をしただけだった。
 エレーナの影の中から出てきたのは、小柄な少女であった。
 この中では1番背が低い。
「恥ずかしがり屋さんなんだ。ほら、自己紹介して」
 先輩のエレーナにポンと背中を叩かれた少女。
「!」
 薄紫色の髪は腰まで伸びているが、あまり手入れしていないのか、ボサっとしている。
 黒いスモッグを着ているが、やはり性格は明るい感じじゃなさそう。
 下を向きながら、ボソボソと喋る。
「あ、え……私の名前は………リリアンナ・ハーン、です……。り、リリィ……と、呼んでください……。歳は、15歳で、えっと………しゅ、趣味は……薬草栽培と調合……フヒヒヒ……。よ、よろしく………です……」
「わ、私はイリーナ組のマリアンナ・ベルフェ・スカーレット。18歳で魔道師になったのでこの姿だが、実年齢は25だ」
「同じく稲生勇太です。ダンテ一門で、唯一の日本人です。歳は23歳で、宗教は日蓮正宗です。よろしく」
 互いに自己紹介したが、リリィの根暗さに、さすがのマリアもヒいたらしい。
(私が魔道師になった時も、こんな感じだったかなぁ……?)
 と、首を傾げ、稲生は、
(悪いコではなさそうだけど、やっぱり人間時代に何かしら口にできない辛い目に遭ってきたんだろうなぁ……)
 と、思った。

[6月6日14:00.天候:雨 マリアの屋敷1Fリビングルーム]

「6月6日に雨ザァザァ降ってきて♪ですね」
 と、稲生。
「何それ?」
「絵描き歌ですよ。『かわいいコックさん』の」
「そんなのが日本にあるのか」
「まあ……。それより、今日は何かあるんですか?」
「師匠が何かあるそうだ」
 1Fのリビングルームと言えば、マリアが屋敷内で1日の大半を過ごす場所である。
 ここで人形作りをしたり、魔道書を読み漁ったりしている。
 稲生は稲生で東側の自室に籠もることが多いので、実は1つ屋根の下であっても、食事の時以外は顔を合わせることが無いということもある。
 が、今日は違った。
 師匠イリーナが久しぶりにこの屋敷に訪れ、ポーリン組で儀式があるから、それを見学するようにとの指示があった。
 といっても、ポーリン組がわざわざここに来てそれを行うわけではない。
 彼女らは彼女らの拠点があるので、そこで行われる儀式を中継で見せてくれるらしい。
 魔法の回線でもって、リビングルーム内の40インチテレビに映るという。
 どういう回線で、何のチャンネルに合わせられるのかは、あえて聞かない稲生であった。

「……というわけでね、ポーリンが拾ったコ、物凄い魔法薬作りの才能があるってんで、これは久しぶりに不老不死の妙薬ができるかもしれないんだって」
 イリーナが目を細めたまま稲生達に説明する。
「そうなんですか」
「できたら、稲生君にも分けてくれるってよ。本当は弟子入りしたら、それを飲むしきたりなんだけど、ポーリンもヤキが回って、なかなか作れないらしいからw」

〔「こらっ!聞こえてるぞ!イリーナ!」〕

 画面の向こうから、ポーリンがこちらに向かって抗議の声を上げた。
「あーら、ゴメンナサーイ!w」
「それより、例の子……リリィってコは?」
「今、準備してるみたいだぞ」
「そうなんですか」
 と、そこへ、エレーナが画面に出てきた。
「皆さーん!お待たせしましたー!それでは、これより、ポーリン組の不老不死の妙薬作りの儀式を始めたいと思いまーす!期待の新人、リリィが特別にお送りしますよー!それでは、準備ができたみたいですので、どうぞ!」
 大きな釜の前にボンッと煙が巻き起こって、その中から現れたのは……。
「!!!」
「!?」
「おぉ?おでましだねぃ……」

〔「ヒャアッハァーッ!フヒヒヒヒヒヒヒ!アーッハハハハハハハハーッ!」〕

 一瞬、ポーリン組にはもう1人弟子が入ったのかと思うほどに別人の姿をしていた。
 だが、よく見ると、狂った笑いを浮かべて出てきたそのコは、間違い無く、先日こちらに根暗な自己紹介をしてきたリリィに他ならなかった。
 違うのは、地味な黒いスモッグから、デスメタルの衣装のようなものに着替え、メイクもそれをイメージしたド派手のものに変わっていた。
 目つきも、本当に新弟子かと思うくらい、もうそれは“魔女の目つき”になっていた。

〔「マッシュルーム・マジックゥゥゥゥゥゥッ!!」〕

 煮立った釜の中、様々な材料を入れ、メタルでパンクなノリでかき混ぜるリリィ。
 稲生はもちろん、マリアでさえ唖然とした様子で見ていた。
 さすがのイリーナも、目は細めたままだが、
「あー……こりゃまた面白いコが入ったねぇ……」

〔「友達、放り投げてやったぜぇぇぇぇっ!ヒャーハァーッ!そう!これ!これだぜぇーっ!!」〕

「……イリーナ先生、人間時代にやっぱり何かやらかしたコなんでしょうか?」
「あー、そうだねぇ……。ま、ダンテ一門の魔女なんて、人間時代に何もやらかさなかったコの方が珍しいから」

[6月8日15:00.天候:晴 マリアの屋敷・エントラスホール]

「……え、あ、その……私が作った……例の妙法……もとい、妙薬……です」
「あ、ありがとう……」
 薬を届けに来たリリィは、最初の根暗魔女のままだった。
 当然、あのド派手メイクはしていない。
 マリアは瓶に入ったその薬を受け取った。
「報酬は後でうちの師匠から、直接ポーリン師に渡るようになっているから」
「フヒヒ……。それじゃ……また……。よろしく……です」
(二重人格か何かなのかなぁ、あのコ……)
 稲生が近づいても嫌がらないところを見ると、何か性的暴行を受けたとか、そんな感じではないようだが……。
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“私立探偵 愛原学” ショートストーリー

2016-06-14 19:27:40 | 私立探偵 愛原学シリーズ
 私の名前は私立探偵、愛原学。
 東京都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今回は大きな仕事が舞い込んできた。
 クライアントは、さる有名な財閥の御曹司。
 そこの総帥たる名誉会長が大往生し、莫大な遺産が遺族らに渡るということは既にマスコミやインターネットで世間に知れ渡っていた。
 そして、中にはそんな遺産を狙う不届き者もいるのもまた事実である。
 そのクライアントの予想は見事に当たり、遺族達に本当の遺産相続者を名乗る者から脅迫状が届いた為、裏でその犯人を見つけて欲しいというものであった。
 もし解決してくれれば、私の個人資産はあっという間に跳ね上がるであろう、と。

 場所は栃木県は那須にある高級別荘地。
 うむうむ。
 まるで、かの金田一探偵を彷彿とさせる展開ではないか。
 そして案の定、まるで小説のように、『人誅見舞人』を名乗る犯人の犯行声明通りに、次々と遺族達が殺されていった。
 だが、私はついに真犯人を突き止めることに成功したのだ!
 私は早速、皆を洋館風の別荘の大食堂に集めた。

「謎が全て解けました。真犯人『人誅見舞人』は、この中にいることが判明しました」
 驚愕の顔を浮かべる遺族やその関係者達。
「まず、一連の犯行についての背景ですが、【以下略】。そういったことから、これは単なる遺産目的の犯行では無かったのです。そして、いかにも遺産に目が眩んでいる遺族としてこの中に紛れ込んでいる、全くの別人。それが、真犯人です」
「だ、誰なんだ、それは!?」
「勿体ぶらずに、早く言いたまえ!」
「ぼ、ぼぼ、ボクは犯人じゃないぞ!こ、ここだって……お、伯父さんに無理やり連れて来られたんだ……」
「橋本……いや、姜!オマエだろ!?これだから朝鮮人をうちの屋敷で働かせるのは嫌だって言ったんだ!ったく!通名なんぞ使いおってからに!生粋の日本人の橋本さんに謝れ!」
「またヘイトですか!いい加減にしてください!」
「ヘイトじゃない!事実だ!そうだろ!?愛原さん!」
「ええ。ですので、更にもっと事実を話してもらえませんか?……厳田虎雄さん」
「な、なにっ!?今、何と言った!?」
「真犯人『人誅見舞人』は、あなただと言ったんですよ。厳田さん?」
「何だと!?この私のどこが犯人だというのだ!?」
「まず、第一の犯行のトリックですが、【以下略】。続いての事件については、【以下略】。更に【以下略】。というわけで、犯人はあなたしかいないんですよ。どうですか?」
「ふ……ふふふふふふ……ふはははははははは!そこまでバレては仕方が無いな!」
 真犯人は頭に被っていたマスクを取った。
 だが、その下はまるで“名探偵コナン”や“金田一少年の事件簿”みたいな、暴かれる前の真犯人のように真っ黒だ。
 ところが、だ。
 一同全員がマスクを取って、同じような姿になったではないか!
「この事件の犯人は最初からいなかったのだよ、愛原君?」
「言うなれば、全員が真犯人ニダ!」
「こ、ここ、この事件自体が……た、探偵さんを誘き出す為の……わ、罠だったんだな……」
「キミは我々『真犯人団』の手に掛かって、あえない最期を遂げるのだ」
 壁に追い詰められた私!
 そ、そんな!私以外、全員真犯人だなんて、バカな!?
「せっかくこの小説、連載開始が内定したのにねぇ……」
「我々の手によって、打ち切りだお♪」
「謝罪と賠償を求めるニダ!そしたら、許してやるニダ!」
 わーっ!誰か!助けてくれーッ!!

[6月14日午後のまだ明るい時間帯 天候:晴 東京メトロ新木場駅]

「うう……ん……。真犯人に殺されるなんて……ムニャムニャ……。うう……来週から『スーパー人間革命』が始まるだと……!」
「お客さん!終点ですよ!起きてください!お客さん!」

〔新木場、新木場。終点です。JR線、りんかい線はお乗り換えです。1番線の電車は、回送電車です。……〕
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