報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「ロイド達の増上慢」

2016-06-03 20:57:44 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月18日14:00.天候:雨 アメリカ合衆国テキサス州ヒューストン市郊外・DC Inc.ヒューストン工場]

 平賀も特別に交わったチームで、ジャニスとルディの暴走の原因を探っていたデイライト・コーポレーション。
 その答えは彼らが遺したメモリーやデータ、そして鏡音リン・レンの中にあった。
 平賀は広大な工場の中の、大会議室でレポートを行っていた。
「今回、マルチタイプα号機とβ号機、通称ジャニスとルディが暴走した原因は、偏に“感情”です。“感情”の暴走。これに尽きます」
 平賀の発言に、室内の参加者達がざわついた。
 尚、この場に敷島とアリス、そして鳥柴はいない。
 ニューヨークのデイライト本社に行き、そこで役員達と会談することになっている。
 本来は平賀も呼ばれていたのだが、平賀はこちらの調査に加わりたいと自ら志願したのである。
 ジャニス達のメモリー、そしてリンとレンのメモリーから、原因がほぼ判明した。
「それでは、そもそもアンドロイドに“感情”を持たせること自体が間違いだったというのか?」
 参加者の科学者が手を挙げて質問した。
「いえ、それ自体は間違いではありません。現に、サンプルとして日本から輸送したボーカロイドの鏡音リンとレンを見て頂ければ分かるように、人間に劣らぬ豊かな感情でもって、人気を博している場合もあります」
「ではどうして、ジャニスとルディは暴走するに至ったのか?」
「それは、増長です」
「増長!?」
「はい。増上慢とも言いますね」
「どういうことだ?」
「アルバート所長の研究ノートを見るに、彼はそもそもマルチタイプの開発に積極的ではなかったようです。当初の話ですが……」

 アメリカのロボット研究者自体が、そもそも人間そっくりのロイドを作ることに消極的であった。
 ましてや、それに感情を持たせることなど、無駄でしかないと考える者が大多数であった。
 アルバートもその1人。
 だが日本において、それが一定の成功を収めていることを知ったデイライト本社の重役(アルバート・ブラックロード常務か)は、アルバートに開発を命じた。
 アルバートは感情豊かな者という理由でシンディのデータを取り寄せたが、やはり紛い物であったようだ。
 それでも感情を持たせたロイドの製作には成功する。
 日本人研究者ならそれを伸ばす実験を行うところだが(ボーカロイドでも、初音ミクは歌を歌わせるより先に感情を豊かにする実験を行った)、アメリカではテロ対策などの実戦に使えるかどうかの実験に入ってしまった。
 まず、そこが間違い。
 それでも感情を搭載されたジャニスとルディは、与えられた命令通りに、テロ組織や犯罪組織の撲滅を行った。
「まず、ここでも大きな間違いがあります」
 と、平賀。
「日本では警察や政府機関の指導で、マルチタイプを前面に出したテロ対策を行えません」
 また、ざわつく室内。
「それは警察のメンツなどが本音でありましょうが、しかしそれが結果オーライとなっています。エミリーとシンディはKR団崩壊後、活躍の場を狭めてしまいましたが、それが却って増長を招くことを防いでくれているのです。分かりますか?……ジャニスとルディは、製造後すぐ実戦投入され、それがなまじ成功を収めてしまった為に、増長を招いたということなんですよ」
「異議あり!」
 他の研究者が反対意見を述べた。
「それではまるで、マルチタイプを実戦投入してはいけないということになるではないか!しかし、日本の1号機と3号機はKR団との戦いや、先日のアーカンソー研究所の調査などに投入されたものの、暴走していないではないか!」
「それは彼女達が、ちゃんと『増長すると、後で痛い目を見る』ことを学習しているからですよ。しかしジャニス達は、そんな学習を積む前に実戦投入されてしまったのです」
「そんなの、いくらでも調整すれば良いではないか!」
「そこが、アルバート所長の大きな失敗の1つです」
「何だと?」
「恐らくアルバート所長も、功績を焦っていたのでしょう。何しろ、会社からの評価が気にくわないという理由で、すぐに独立を企てるような御仁ですからね。彼らの増上慢に気づかなかったか、或いはそれを『自信』とか『プライド』程度にしか思わなかったかと考えられます。だが、そうではなかった。彼らが製作者であるアルバート所長に対し、裏ではナメた行動をしている、実は暴走していることに気づいた時には既に修正不可能な状態になっていたということです」

 最初はジャニスやルディも素直に従い、テロ対策や凶悪犯罪対策の実験を受けていた。
 それが悉く成功したことで、製作者のアルバートはもちろんのこと、周囲の人間達もさぞかし喜んだことだろう。
 そして、それを見たジャニス達も、役に立てたことを素直に喜んだに違いない。
 ここまでは良かった。
 だが、味を占めたアルバートや周囲の者達は、更にそういった実験プロジェクトを進めてしまった。
 何しろ、アメリカのテロ対策や凶悪犯罪対策だ。
 テロリストや凶悪犯罪者で観念しない者は、射殺に決まっている。
 日本では例えそういった者であっても、マルチタイプが射殺することは許されていない。
 だが、アルバート達は平気でジャニス達にテロリストや犯人達を射殺させた。
 そうしていくうちに、ジャニス達にある感情が芽生える。
 『自分達は人間よりも強いのではないか』と。
 そう考えること自体は、そんなに問題ではない。
 エミリー達は、『だからこそ、自分達の力を世の為・人の為に役立てるのだ』という思考になっている。
 それも、長年稼働してきた中で培った“学習”によるもの。
 しかし、ジャニス達は違った。

「あろうことか、製作者であるアルバート所長より上に立とうとしていたのでしょう。しかし、そこは製作者。自分もそうですが、万が一に備え、緊急に強制シャットダウンさせるリモコンは持っています。彼もそれを持っていて、ジャニス達もそれは知っていた。だからこそ、表向きはアルバート所長に従う態度を取っていたのでしょう。ただ、どうもジャニスとルディとでは、多少考えが違ったようです」
「違った?」
「ジャニスは本当にアルバート所長に取って代わろうという気があったのに対し、ルディはまだある程度、アルバート所長に従う気はあったようです」
 そしてこの暴走姉弟は、リンやレンも仲間に引き入れようとした。
 恐らく、双子の姉弟機という共通点が、親近感を持たせたのではないか。
 だが、リンとレンは断ったらしい。
 ジャニスは怒ってリンとレンを破壊しようとしたが、何故かそれをルディが止めた。
 無論、それは裏でアルバート常務と通じていたからであり、それを考えると、ルディは姉のジャニスをも裏切ろうとしていた可能性がある。
 いずれにせよ、既に本人達は破壊された為、遺されたメモリーなどから調査するしかなかったわけだが……。
 尚、アルバート所長自体は警察からの事情聴取に対し、コピーロボットの暴走が原因で、自分が命令したわけではないと容疑を否認している。
 だが、コピーロボットのプログラムを調べてみると、最初から常務を射殺するように組まれていた為、もはや言い逃れはできない。
「いずれにせよ、マルチタイプは製造も使用法も難しいものです。何しろ、はっきり言ってオーバーテクノロジーですからね。『マルチタイプを世界一使いこなす男』、敷島孝夫さんのやり方に否定的な者もいるでしょうが、この結果を鑑みるに、あながち彼のやり方は否定できないものと思われます」

 工場内は社員の福利厚生の為に、単に社員食堂だけでなく、社内ラウンジも設けられている。
 そこには自動演奏機能付きのグランドピアノがあり、普段はそれでピアノが流れている感じだが、今はエミリーが座ってピアノを弾いていた。
 その横では、シンディがフルートを吹いている。
 大会議室では平賀のレポート発表と、質疑応答が行われている中、ラウンジではほのぼのとした時間が流れていた。
「『オーッホホホホホッ!さあ、跪きなさい!』昔々ある所に♪悪逆非道の王国の♪頂点に君臨するは♪齢14の王女様♪……」
 リンはミュージカルでも歌った持ち歌を披露していたが、如何に“傲慢の悪魔”ルシファーに取り憑かれて増長し、悪政に次ぐ悪政を敷いた王女が主人公の歌を歌うなど、平賀が発表したレポのテーマを痛烈に皮肉っているように思えた。
コメント (2)
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