報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 第1章 「発生」 4

2016-06-27 20:50:48 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月24日20:45.天候:晴 某県霧生市中心部のとあるレストラン(が入居するビルの屋上)]

 どうやらこのビルにいる生存者は私、愛原学と助手の高橋正義、そして警視庁の私服刑事である高木巡査長だけであるようだ。
 私達は屋上に避難し、助けを待つことにした。
 幸い屋上に出るドアの鍵は掛かっていたものの、それは内鍵になっており、つまり階段側から開けることができた。
 そこは3階建てビルの屋上だから、フロア的には4階になるわけか。
 まあ、町の中心部とはいえ、地方都市の雑居ビルならこんなものだろう。
 だが、その屋上も安全な場所とは言えなかった。
「ギャア!ギャア!」
「うわっ、何だ何だ!?」
 屋上に出ると、どういうわけだかカラスが1羽、私に向かって襲ってきたからだ。
「うらぁッ!!」
 何と、高橋はそんなカラスを素手で殴り付けて叩き落してしまった。
 その時点でカラスはまだ生きていたが、
「先生に何てことすんだっ、このクソカラスが!!」
 最後にカラスを踏みつけてトドメを刺した。
「おいおい、高橋君……」
 私は苦笑いをした。
 ちょっとつつかれただけだ。
 もしかしたら、この辺にカラスの巣があるかもしれないな。
 だが、そうではなかったようだ。
「アァア……!」
「うわっ、ゾンビ!」
 屋上にはゾンビの男が1人、待ち構えていた。
 私達の姿を見ると、呻き声を上げてヨタヨタと向かって来たのだが、
「ギャアギャア!」
「ガァ!ガァ!」
「オウッッ!!」
 新手のカラスが飛んできて、そのゾンビに食らい付いた。
 さすがのゾンビも、カラス2羽に集られたのでは、さすがにキツいらしい。
「ここのカラス、どうやら巣があるから防衛の為に私達を狙ったんじゃないみたいですね!」
 と、高木巡査長。
「えっ?」
「先生!またカラスが来ます!」
 ゾンビに食らい付いていたカラス達だったが、生きている私達の血肉の方が美味そうだと気づいたか、今度は私達に向かってきた。
「どうやらここのカラス達、死肉を食らっているうちに、人間を(ゾンビも含めて)獲物だと思っているようです!」
 高木巡査長はハンドガンを構えて、カラスに向かって発砲したが当たらない。
「くそっ!せめて、ショットガンでもあれば……!」
「お巡り!……さん、先にあのゾンビ、ブッ殺してくれ!」
 高橋がカラスに食らい付かれながらも、まだ“生きて”いるゾンビを指さした。
「分かったよ!」
 高木巡査長はゾンビの男に向かって、3発ほど命中させた。
 ゾンビは倒れて血だまりを作り、起き上がってこなくなった。
「カァー!カァー!」
 直接血を噴き出し、腐肉とはいえ、それを剥き出しにしているゾンビの死体の方が簡単だと思ったか、カラス達はそのゾンビに群がった。
 私達のことなど、ガン無視で。
 その代わり、その数は10羽ほどに増えていた。
「よ、よし!今のうちに!」
 私達はカラス達に気づかれないように、屋上の階段室を回り込んで裏手に回った。
 給水塔やらエアコンの室外機などが置いてある。
「よし!どうやら、カラス達の視界から消えることができたな……!ゾンビもあれだけみたいだし……!」
「とはいえ、いつまたカラスに狙われるか分かりません。それに、階下のゾンビ達は知性や知能こそ無いものの、私達がこの建物にいること自体は知っているようですので、やはり上へ上へと追い掛けてくることでしょう。いつまでもぐすぐずしてはいられません」
「じゃ、どうするんだよ!?警視庁に連絡して、ヘリでも何でも飛ばしてもらえないのか!?」
 高橋は苛立ちを隠しきれず、高木巡査長にくって掛かった。
「既にこの状況は町の外にも知れ渡っているはずだ。ただ、この町は立地条件が悪過ぎる」
「確かに。◯×県自体が内陸部にある上、山の多い県です。ましてやこの霧生市自体、四方八方を山に囲まれた町ですよ。交通の便だって、正直、高規格の県道と、私鉄だか第三セクターだかの霧生電鉄しか存在しない。そんな状態で、よくここまで発展したものだと思います」
 それには大きな理由がある。
 新潟県みたいに、総理大臣でも出せばそうなるだろう。
 まるで高速道路みたいな高規格の国道7号線・新々バイパスや国道8号線の黒埼バイパス、そして1番有名なのが上越新幹線だろう。
 正に、その総理大臣の威光だと言われている。
 だが、霧生市自体は総理大臣どころか、1人の国務大臣も出していない。
 では、何故か?
 新潟県は政治的な理由であるが、こちらは経済的な理由である。
 町の経済を大都市並みに活性化させているものが、この町に存在するのだ。
 それは何かというと……。

〔「こちらは、霧生警察署です。まもなくこの地区は、暴動の鎮静化を図るため、封鎖されます。屋内に待避されている住民の方は、直ちにこちらまでお越しください。封鎖後につきましては……安全の保障ができません。速やかに、こちらまでお越しください。繰り返します……」〕

 その時、ビルの下で大音量の放送が聞こえてきた。
 ビルの下を覗いてみると、1台のワンボックスタイプのパトカーが通りに停車しており、そのスピーカーから放送されていたのだ。
 いつの間にか、この辺りのゾンビ達は警察隊によって一掃されていたようだ。
 とはいえ、まだビルの中は危険である。
 どうしたものか……。
「愛原さん」
 高木巡査長が声を掛けて来た。
「隣のマンションも同じ高さです。あちらに飛び移って、マンションの中を通って下りてみようかと思うんですが……」
「えっ?」
 私が一緒について行くと、確かに、走り幅跳びをすれば飛び移れそうなほどに近接したマンションがあった。
 マンションは5階建てで、飛び移る先には共用廊下がある。
 だがマンションに人の気配が無いことから、そこの住人達は避難した後らしい。
「な、なるほど……。ちょっと怖いですがね……」
「まずは私がお手本を……」
 屋上の手すりが一部壊れかかっている所があり、高木巡査長と高橋とで、それを完全に撤去する。
 何故そんな状態になっていたのか分からないが、あのゾンビが何かしたのだろうか。
 ところが、そんな作業をして、私達が飛び移るのを歓迎する者達がいた。
「アァア……!」
「アゥゥッ……!」
「マジですか……」
 マンションの玄関ドアが開き、そこからゾンビ化したマンションの住民達が出て来て、私達が飛び移るのを待っていた。
 私がガックリ肩を落とし掛けると、
「諦めないで!」
 高木巡査長がゾンビ達に向かって、銃弾を発砲した。
 それに血しぶきを上げて倒れるゾンビ達。
「新手が来る前に、急いで飛び移ってください」
 高木巡査長が先に助走をつけて、マンションに飛び移った。
「先生、次は俺が!」
 続いて、高橋がジャンプして飛び移る。
「先生!早く!」
「せ、急かすな!」
「愛原さん!後ろ!」
「ええっ!?」
「アアア……!」
「ウウウ……!」
「ハァァァ……!」
「うわっ!?」
 いつの間にかゾンビ達が屋上に到着していたようだ。
 私の姿を見つけて、白目を剥き出しに、腐った両手を前に突き出しながらヨタヨタと向かってきた。
「先生!」
「く、くそっ!」
 私もまだまだだ。
 プロの探偵ともあろう私が、足が竦んで動けないとはっ!
 だが、またもや事態が動いた。
「!!!」
 ゾンビの集団の後ろから、走って来る者がいた。
 その者は前にいるゾンビを邪魔っ気だとばかりに殴り飛ばしたり、蹴飛ばしたりして私に向かってくる。
「何だ、あいつは!?」
「先生!何かヤバそうです!早く!」
 それは全身が赤茶色に染まっているが、頭部はまるで全体がうっ血しているかのように赤紫色をしている。
 しかし相変わらず目は白く濁っている。
 今殴り飛ばしているゾンビと、元は同じ人間だったのだと思うが、何か違った。
 両手には、まるで鬼のように鋭く尖った爪。
 そう、まるであれは角や金棒を持たない赤鬼のようだった。
「わああああっ!」
 これも火事場の馬鹿力とでも言うのだろうか。
 私は助走を付けずに、マンションに向かって飛んだ。
 そして、鉄柵にしがみついた。
「先生!さすがです!」
 高橋がすぐに私の手を掴んで、鉄柵の内側へ引き上げようとする。
 だが、
「ウオオオオオッ!」
 ゾンビ達はジャンプする身体能力は無いが、あの“赤鬼”は走れるくらいだから、別格なのだろう。
 私達を逃がさんとばかりに、ジャンプしてきた。
 と!
「!!!」
 高木巡査長が廊下からショットガンを拾って、その“赤鬼”に発砲した。
 “赤鬼”はショットガンに被弾したことで、マンションまでの飛距離が足りず、下に落ちて行った。
 因みに下は用水路になっており、ドボーン!と派手に入水した。
 ゴポゴポと泡が立っていたものの、水面に浮き上がって来ることは無かった。
「な、何なんだ、今のは……?」
「先生、やっぱり人間じゃないのがこの町にいるようです」
「……そのようだな」
 私は何とかマンションの廊下に上がった。
 さっきまでいたビルには、ゾンビ達がこちらに向かってワァワァ騒いでいたが、さっきの“赤鬼”と違い、こちらにジャンプしてくる者はいなかった。
「巡査長、このショットガンは?」
「たまたまこの死体が持っていたんです。もしかしたら、猟銃を持ったままゾンビ化したのかもしれません」
 すると、このゾンビだった者も、あの店員のように元は人間で、ゾンビと戦っているうちにゾンビ化した?
 ……大丈夫なのか、私達は……?
「早く行きましょう。このマンションも、安全とは限りません。……というか、多分危険です」
 私達の気配に気づいたか、部屋の中からドアをドンドン叩く音が聞こえたからだ。
「先生」
「あ、はい。行きましょう」

 私達はマンションのエレベーターへと向かった。
コメント (6)
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