報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「ロイド達の一夜」

2016-06-02 22:46:49 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月16日23:00.天候:晴 アメリカ合衆国アーカンソー州リトルロック・市街地のホテル]

「まだ“起きて”たの?早いとこ“寝”なさい」
 シンディはリンとレンの部屋に入った。
 双子のボーカロイドは、部屋のテレビを観ていた。
「シンディ。いや、新しいバッテリーを入れてくれたおかげで、そんなに減ってはいないんだ」
「リンも」
「そりゃまあ、アタシもついさっき充電が終わったところだけどね……」
「シンディは社長達についていなくていいの?」
「せっかくの旅行なんだもの。事件も解決したことだし、今夜は夫婦水入らずの夜ね」
「でも、まだ油断できないんでしょう?」
「まあ、社長達の部屋、隣だし。いざとなったら、壁ブチ破ってでも駆け付けるわよ」
 シンディは片目を瞑った。
「ルディはアタシが頭を撃ち抜いてやったし、後でクエントがそいつの燃料電池をスッカラカンにしてやったから、もう動けないからね。ジャニスはエミリーがダメージを与えてくれたみたいだけど、結局、社長達がトドメを刺したって感じ」
「社長が!?」
「社長だけじゃなく、クエントもアリス博士も平賀博士も……」
「凄いね!社長、マルチタイプに立ち向かうなんて」
「ええ。ジャニスの敗因は、人間をナメたことよ。エミリーをバッテリー切れに追い込んで勝ったと思ったのはいいけど、それで油断したのが大きな原因ね」
「社長達、強いもんね」
「うん!」
「ていうか……」
「ん?」
 シンディは贖罪の為、前期型のメモリーをあえて残されている。
 敷島も生身の人間だ。
 自分の装備している銃火器で簡単に屠れるはずなのに、何故か敷島にはそれができる確率を計算すると、とても低く出るのだ。
「とにかく、あなた達も社長達の言う事をよく聞くのよ?」
「もっちろん!」
「当然だよ」
「どれ……」
「『寝る』の?」
「その前に体を洗いたい。あの戦いの後で、ろくに“洗浄”してないの」
 シンディはそう言って、自分の着ている服を脱ぎ始めた。
「あぁあ、ほら、レン!向こう向いてて!」
「う、うん!」
 リンが慌てて双子の弟を、明後日の方向に向けさせる。
「あー、そうだったわね。ゴメンね。気が利かなくて」
 それでもシンディはワンピースは脱いで、同じ色のビキニだけになると、その恰好のままバスルームに入った。

 シャワーで体を洗っていると、
{「シンディ。無事か?」}
 エミリーから通信が来た。
「姉さん」
{「やっと・修理が・終わった」}
「もう!?姉さん、かなり損傷してたって聞いたけど……?」
{「プロフェッサー平賀と・ヘルプの・スタッフさん達の・おかげだ」}
「ま、平賀教授の腕前なら、納得行く所はあるけどね」
{「シンディは・どうだ?」}
「私は姉さんほどやられたわけじゃないから。すぐに終わったよ」
{「そう、か」}
「姉さんが動けなくなった後、社長達がジャニスに総攻撃したんだってね。信じられないわ」
{「私は・役立たず・だ。申し訳無い」}
「そんなことないよ。誰も姉さんが『役立たず』だなんて言ってないよ」
{「そうか?」}
「そうだよ。姉さん、今は平賀教授の護衛中なんでしょう?」
{「プロフェッサー平賀と・ミズ鳥柴は・お休み中だ」}
「鳥柴さんと同じホテルなの?大丈夫?」
{「? 何が?」}
「いや、奈津子博士にバレたら……」}
{「同じ・部屋に・泊まっている・わけでは・ない」}
「大丈夫なの?」
{「お前が・敷島社長の・『護衛』を・しているのと・同じように・私も・プロフェッサー平賀の・『護衛』を・ドクター奈津子より・仰せ使って・いる」}
「あ、そういうことなの」
{「だから・心配無い」}
「そうね」
 平賀太一と奈津子では勤務している大学が違うが、研究内容は全く同じであり、奈津子はその大学の専任講師である。
{「鏡音リン・レンは?」}
「元気に稼働してるよ」
{「リン・レンこそ・むしろ・護衛を・強化した方が・良いかも・しれない」}
「油断はしないわ」

 そこで通信が終わった。
 シンディはアルバート常務の話を聞いていた。
 ボーカロイドに備わっている特殊な力を最大限に発揮させると、その力はマルチタイプ以上だと。
 電気信号を歌に換えて歌うことがそうであるとシンディも知っていた。
 前期型の時、それで痛い目を見たことがある。
 初音ミクがそれをやったものだから、前期型の時はミクを目の敵にしたものだ。
 だが、ミクだけではなかったということだ。
 東京決戦の時は、今の敷島エージェンシーの古参ボカロ全員が総出で電気信号の歌を歌い、バージョン3.0の軍団の指揮系統をメチャクチャにした。
 それへの対策は中堅型の4.0になっても、最新型の5.0になっても不可能であるという。
 ボカロの歌は聴いた人間を幸せにする。
 アイドルなら誰でもそれを目指すものだが、ボカロはそれを既に達成してしまっている。

 シンディは体を洗った後、いつものビキニを着用して、その上からバスローブを羽織った。
「おっ、シンディ。キレイになったね」
 リンが笑みを浮かべた。
「やっとキレイになったわ。……ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」
「なーに?」
「『上手く歌うんじゃなくて、心を込めて歌うよ』って歌詞、知ってる?」
「ああ!それ、みくみくの持ち歌だよ!」
「前にライブで披露してたね。でも、それがどうしたの?」
「上手く歌うんじゃなくて♪心を込めて歌うよ♪世界中でたった1人の♪キミの為にー♪」
 リンが試しに、シンディが気にした歌詞のワンフレーズを歌ってみた。
「リン、ミクのカバー曲できそうだね」
「最近、みくみくの歌のカバー歌ってばっかだもんね」
「知ってるわよ。でも、“千本桜 〜和楽ヴァージョン〜”は大好評だったじゃない」
 この双子のボカロ、14歳という低年齢設定の割には、こぶしの利いた歌い方もできる。
 初音ミクの持ち歌である“千本桜”を和風テイストにしたカバー曲は、双子のこぶしの利いた歌い方が好評であったという。
「まあね」
「社長が、僕達のこぶしが使えると気づいてくれたようです」
「こぶしか……」
 シンディは何か考えた。
「なに?どうしたの?」
(このコ達、こぶしを利かせると、何か変な信号が出るとか、そういうことなんだろうか……)
 シンディは、どうしてもアルバート常務の言っていたことが気になっていた。
 リンとレンを連れ去ったのは、たまたまだったのだろうか。
 もし今回来ていたのがMEIKOとかKAITOであっても、連れ去られていたのだろうかと……。
「シンディ?」
「あ、いや、何でもないわ。そうだ。『寝る』前に、少しカードゲームでもしましょうか」
「おおっ!?いいねぇ!」
 シンディは荷物の中から、トランプを出した。
「なになに?ポーカーでもやるの?」
「ブラックジャックなんてどう?」
「いいねぇ!」
(“大魔道師の弟子”、クイーン・アッツァー号のカジノに出てきた女ディーラー……w)
 レンはニヤッと笑った。
「社長からは起床時に、アタシ達のバッテリーが100%になっているようにしておきなさいっていう指示だから」
「はーい」

 後でシンディ達のメモリーがチェックされた時、
「まるで人間みたいなやり取りだなー」
 と、敷島がつぶやいていたという。
コメント (8)
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