報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 第1章 「発生」 2

2016-06-25 20:34:00 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月24日19:15.天候:晴 某県霧生市中心部のとあるレストラン]

 私と高橋は名物料理と酒に舌鼓を打っていた。
 普段は大真面目で多少天然なところがある高橋だが、酒を飲ますと笑顔になって多弁になる。
 恐らく10代の頃は荒れていたが、立派に更生すると、このようになるのではないか。
 そう思った。
 そんな彼だが、やはりどこか暗い過去があったらしく、酒を飲ませても、なかなかその時のことを語ろうとしない。
 そもそも、まだ若い彼のこと、両親などは健在と思うのだが、その存在が未だ明らかになっていないのだ。
「キミは頭がいいから、大学とかも出てるのか?」
「あ、いえ。一応、色々と事情があって、何とか高校を出たくらいです」
「そうなのか」
「それも、通信制です」
「ん?そうなのか」
「はい」
「10代の頃は、だいぶ荒れてたか?」
「どうしてそう思うんですか?」
「いや、何となくさ。それと、警察の御厄介になったこともあっただろう?」
「どうしてそう思うんですか!?」
「事件解決の時、警察が色々と俺達にも話を聞いていたけど、キミはやたら警戒していたじゃないか」
「そ、それは……ですね……」
「ははっ、言いたくなかったらいいよ。ただ、今現在、警察の御厄介になるようなことは……」
「そ、そんなことは絶対にしてませんっ!」
「だろうな。もしそうだとしたら、とっくにうちの事務所にガサ入れが来るよ」
「先生の御迷惑になるようなことは、絶対にしませんから……!」
「ああ、頼むよ」
 私はクイッとビールのグラスを飲み干した。
 と、頭上のテレビがニュースを報道する。

〔「……今日午後2時頃、◯×県霧生市の霧生スタジアムで、サッカーの試合中、観客同士による乱闘騒ぎがあり、この乱闘は暴動にまで発展した上、未だに鎮静化のメドは立っていないもようです」〕

「んっ?」
 私は咄嗟にテレビを見た。
「霧生市のってここだよな?」
「そうですね。霧生スタジアムというと、郊外にある多目的球場ですよ。サッカーの試合やってたんですね」
「乱闘が暴動って……浦和レッズよりひでぇ!」
「こちらのチームのサポーターは、レッズのその上を行くのでしょうか?」
「どうだかなぁ……?俺はあんまりサッカーには興味無いからな……」

〔「はい、こちら現場となった霧生スタジアム前です。えー、御覧頂けますでしょうか?地元の霧生警察署の機動隊が出動し、辺りは騒然となっています。警察の発表によりますと、暴徒の数は時間を追うごとに増え、現在その数は把握し切れていない状況です。現在、スタジアム周辺の通りは警察によって封鎖されておりますが、暴徒達が何故このような活動をしているのか全くその意図は分からず、現在もなお混乱が続いている状況です。以上、現場となったスタジアム周辺から……わああああっ!!」〕

「!!!」

〔「や、やめろっ!放せ!!わあああああっ!」〕

 テレビリポーターが、後ろから近付いてきた暴徒に組み付かれ、押し倒されてしまった。
「せ、先生!?」
「基本、暴動を起こしている奴等であっても、マスコミは襲撃の対象外だと思うんだが……」
 マスコミを敵に回せば、自分達の不利になるような報道がされるからである。
 と、そこへ、店の扉が開けられた。
 店のドアは自動ドアではなく、手動で押したり引いたりして開けるドアだ。
 木製のオシャレなデザインのドアなのだが、そこから奇妙な男が入ってきた。
 ホームレスなのだろうか?
 全身がボロボロの服を着ており、俯き加減で、更には酔っぱらっているのか、はたまた足が悪いのが、その足を引きずりながら店の中へと入って来る。
(? 客かな?)
 店員も一瞬、首を傾げた様子だった。
 多分、酔っ払いか何かだと思うが、一応、店員はその男に話し掛けようと近づいた。
「先生、何か変な奴ですね」
 と、高橋。
「そうだな……。!」
 その時、私達とは同じカウンター席の、反対側に座る2人連れの男のうちの1人が倒れた。
「どうした、鈴木!?もう酔い潰れたのか?まだ2杯目だぞ?」
「わああああっ!?」
 店の入口から叫び声がした。
 店員があの男に噛み付かれていた。
「何をするっ!?」
「!」
 私と高橋は席を立って、その店員の所に駆け付けようとした。
 しかし店員は必死に抵抗してその男を引き剥がし、店の外に追い出すと、ドアを閉めて鍵を掛けた。
「大丈夫ですか!?」
「は、はい……!」
 私が掛けよると、店員はその場に崩れ落ちた。
 喉元を噛みつかれており、出血が酷い。
「高橋君!警察だ!警察を呼べ!店員さんが噛み付かれて重傷だと伝えるんだ!」
「せ、先生!窓っ!」
「!?」
「アァア……!」
「ウウウ……!」
 店員に噛み付いた男と似た風体をした者達が、窓にへばりついていた。
 その度にベチャッ、ベチャッと音がする。
 それは血糊などであった。
 外からこの店に侵入しようとしている連中はケガをしているのか?
 しかし仮に助けを求めているにしては、おかし過ぎる。
 そもそも全員、目がイッてしまっている……というか、黒目が無い!?
「先生!」
 連中は窓から侵入できないと分かると、今度は鍵の掛けられたドアをこじ開けようとしていた。
 ドンドンッ!と力任せに叩かれている。
 このままでは、ドアを破られるのも時間の問題だろう。
「高橋君!窓際のテーブルと椅子をドアの前へ!バリケードにするんだ!」
「は、はい!」
 私と高橋は窓際のテーブルと椅子をドアの前に積み上げた。
 これでしばらくは、大丈夫だろう。
 窓の方も通りに面しているからなのか、分厚い強化ガラスのようだ。
 だが、私はおかしいと思った。
「これだけの騒ぎだというのに、警察が駆け付ける様子が無い」
 私は自分のスマホを出して、110番通報することにした。
「! 繋がらない!?」
「そうなんです、先生!俺もさっきからやってるんですが……。もしかしたら、基地局がスタジアムの暴徒達とかにやられたのかもしれません!」
「何だって!?こうなったら……!」
 私は店内にある公衆電話に駆け寄った。
 ケータイの基地局がダメなら、公衆電話の回線は別回線だから繋がるはずだ。
 私はすぐにそれで110番通報した。
 今度はすぐに繋がったが、何故か交換台が集中しているのか、なかなか出ない。
「お客さん!早く裏から出てください!」
「!」
 店長が厨房から私達に声を掛けた。
 既に他の客達は、裏口から脱出したらしい。
「しょうがない!通報は後だ!きっとこの騒ぎだ!他に誰かが通報してくれているだろう!」
「はい!」
 私と高橋は厨房へ駆け込み、そこから外へ出ようとした。
 だが!
「先生、危ない!」
「ウオオオッ!!」
 裏口からも暴徒が侵入してきた。
「わああああっ!?」
 今度は裏口のドアの前にいた店長が噛み付かれた。
「こ、この野郎!!」
 私は厨房にあった消火器で暴徒の頭を殴り付けた。
 だが、何だかおかしい。
 やっぱりこの暴徒も、最初からケガしていた上に、
「放せ!!」
 高橋が厨房から大型の包丁を持ち出して暴徒に切りつけたのだが、切られた肉は簡単にそぎ落とされてしまった。
 しかも暴徒は痛がる様子が無い。
 一体、どういうことなんだ?まさか、人間ではないとでもいうのか!?
 高橋が何度も切りつけているというのに、暴徒は倒れる様子が無い。
 ようやく倒した時、暴徒は血だまりの中に倒れた。
「せ、先生、俺……!」
「正当防衛だ。俺が証言する。見ろ。店長が殺された。こんなんで、抵抗するなってのがおかしいだろ」
「で、でも、これじゃ裏口も……」
 私は咄嗟に裏口を閉めたのだが、外から新手がやってきたのか、やはりドアをドンドンと力任せに叩かれている。
「上だ!上に逃げよう!上なら、外からは侵入できんだろう!そこで助けを待とう!」
「は、はい!」
「アゥゥア……!」
「ん!?」
 すると客席の方で呻き声が聞こえた。
 それはさっきの暴徒が発する呻き声とよく似ていた。
 まさか、もう表の方は破られて侵入されたのか!?
 しかし、だとしたらもっと大きな音がするだろうから、すぐに分かりそうなものだが……。
「わっ!?」
 それは何と、酔い潰れて倒れた客……確か、鈴木と呼ばれていたか。
 それと、暴徒に襲われて倒れた店員だった。
「先生!どういうことですか!?」
 店員と鈴木という客が、暴徒と同じ風体になって、私達にゆっくりと向かってきている。
「お、俺にも分からん!」
「せ、先生!は、早く逃げ……!」
 私は足がすくんで動けない。
 それは高橋も同じだったようだ。
「アア……!」
「ウウ……!」
 2人の暴徒は私達に狙いを定めて、両手を前に出し、向かってきた。

 私達の命運も、もはやこれまでか……。
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする