報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「最後のヒューストン」

2016-06-07 21:18:38 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月25日08:00.天候:晴 アメリカ合衆国テキサス州ヒューストン市・市街地のホテル]

 ダブルルームで寝泊まりする敷島夫妻。
 枕元のアラームが鳴る。
「うー……」
 敷島は手を伸ばしてアラームを止めようとしたが、何故だか障害物がある。
「……?」
 寝ぼけ眼で見ると、アリスの足がそこにあった。
「いつものことだが、何つー寝相の悪さだ。全く!」
 敷島はアメリカ人妻の足をどかして、アラームを止めた。
「おい、アリス、起きろ。時間だぞ」
「うーん……あと5分……」
「それを1時間以上繰り返す余裕は無いぞ!」
 アリスの寝相の悪さは今に始まったことではなく、ドクター・ウィリーの『復讐者』として敷島達の前に現れた時から、それは露呈していた。
 どうもロボット科学者としての最後の夢は、テレビドラマ“サンダーバード”に出てくるサンダーバード機を作ることらしい。
 で、その試運転をしている夢である為、寝相が悪くなるのだと言い訳していた。
(デイライトさんとしては、“サンダーバード”より“ターミネーター”を作る方に腐心していると思うんだが……)
 もっとも、ジャニスとルディで懲りただろうから、ターミネーターは日本に任せるつもりかもしれない。

 何とかアリスを起こし、レストランに向かう敷島夫妻。
「サンダーバード〜♪あおくひかる、ひっろーい……♪」
 エレベーター内で口ずさむアリス。
「何でお前、日本語版知ってんだよ?てか、それ相当昔のテーマソング……」
 敷島は呆れた。
 レストランに到着すると、既に平賀と鳥柴が朝食を取っていた。
「おはようございます」
「おはようございます」
 敷島達の姿を見つけると、平賀と鳥柴が挨拶してきた。
 敷島もすぐに返すが、
「何だか怪しいわねぇ……」
 と、アリスは平賀と鳥柴を距離を怪しんだ。
「何の話だ!?」
「帰国後、ドクター奈津子が爆発するような事態にはならないでしょうね?」
「大丈夫です。そのような事実は一切ありません。今回は偶然です」
 鳥柴がやんわりと否定した。
「そうだよ、アリス。昨日までボカロの梱包で忙しかったじゃないか」
「ヤング・ホーク団での爆弾発言については、日本に帰ってから説教だからね」
「いや、だから、あれは言葉のアヤで……」
(敷島さん達が乗った飛行機をハイジャックした時点で、テロリスト達の運命は決まっていたわけか……)
 平賀はズズズとコーヒーを啜りながら、敷島夫妻のやり取りを見て確信した。
「それより、早く注文を」
 ウェイターが敷島夫妻の着席を待っていた。
「おっ、そうだった。ジャパニーズ・スタイル(和食)は……無いよね。じゃ、アメリカン・ブレックファーストで」
「アタシも」
 ウェイターに注文を告げると、ウェイターはにこやかな顔で立ち去った。
「まあ敷島さん、これが最後のアメリカンブレックファーストですよ」
「だといいんですけどねぇ……」
「ビジネスクラスの機内食だと、和食も選べますよ」
「本当ですか。じゃあ、そうしようかなぁ。それにしても井辺君、エコノミークラスでアメリカに行ったって言うから凄いよなぁ……。あれだと、腰が痛くなってしょうがない」
「ミスター井辺は体も大きいから、尚更でしょうね」
 と、アリス。
 尚、帰国時においては、KR団に協力した礼としてプレミアム・エコノミーに乗せてもらったらしいが。
 そのプレミアム・エコノミーのシートピッチは、JR東日本・中距離電車の2階建てグリーン車と同じであるというから、それでも広いとは言えない。
 何しろ、東海道・山陽新幹線の普通車にも及ばないのだ。
「……だな。ボカロがもっと海外でも売れるようになって、海外出張が増えたりしたら、考えなくてはならないな」
 と、敷島。
 実は巡音ルカなど、海外レコーディングに赴いたことがある。
 その時は普通に、飛行機の荷物室に乗せた。
 これはボカロは銃火器を装備しておらず、シャットダウンして梱包するだけで輸送可能だったからだ。
 Pepperを飛行機で輸送するようなものである。
 但し、銃火器が標準装備のマルチタイプともなると、そうはいかない。
 出入国手続きでさえ、かなり猥雑なのである。
 これはやはり、過去にエミリーやシンディが密輸同然で入国してしまったことが大きい。
 警視庁の鷲田警視などがそれを重く見て、入管関係機関に働きかけたとされている。
 昨日、鷲田警視に帰国の予告をしたのだが、
「あ?あんな物騒なロボットども、アメリカに置いて来いよ」
 と、冷たくあしらわれた。
 敷島が、
「うちのエミリーやシンディは役に立ってるでしょう?特にシンディなんか、前に銀行強盗捕まえたじゃないですか!」
 と、言い返した。
「まだ全て信用したわけではない。そこまで言うのなら再度の入国は認めてやるが、もし人間に迷惑を掛けるようなことがあったら、スクラップだぞ?」
 と、言われた。
 尚、偉そうに『入国を認めてやる』なんて言っていたが、鷲田警視に直接の権限は無い。
 それでも一応、日本の警察からはOKが出たということで。
 さすがにジャニスやルディが人間を見下すような行動を繰り返していたことが、大きなマイナスポイントであったようだ。
「分かった、分かりました」
 敷島は辟易して、鷲田警視との電話を切った。
 ジャニスとルディのせいで、奇しくもKR団の主張がある程度正しかったことが露呈してしまった為に、敷島達の立場も弱くなってしまった感はある。

[同日10:20.天候:晴 ヒューストン市内ジョージ・ブッシュ・インターコンチネンタル空港]

 退院したクエントのキャデラックで、ホテルから空港まで送られる。
「ありがとう。クエント」
「何ノソノ、コレシキデス」
「ヘリでの特攻、カッコ良かったよ。おかげでジャニスを倒すことができた」
「カミカゼ・トッコータイノ気持チデス」
 アリスと平賀により、頭部と胴体を切り離されたジャニスは、2度と襲って来ることは無かった。
 今現在、首と胴体を切り離しても元気に稼働できるのは、鏡音レンだけである。
 彼はミュージカルに出た関係で、そのように改造された。
 本来ならミュージカルが終わった時点で元に戻さなくてはならなかったのだが、当時はドクター・ウィリーからの攻撃が凄まじく、前期型のシンディがちょくちょく攻撃を仕掛けてきたこともあって、そのヒマが無かった。
 で、結局今に至っている。
「俺もバスで特攻したからな、そうかもしれん。日本に来る機会があったら、教えてくれ。秋葉原に連れてってやるぞ」
「ソレハ楽シミデス」
(何故、秋葉原?)
 平賀と鳥柴が変な顔をした。
(そう言えば、アタシと初めて東京に行った時も秋葉原に連れて行かれたような……)
 敷島に取って、外国人旅行者の案内先は秋葉原と決まっているようである。
「それより、そろそろ搭乗手続きをしませんと」
 と、平賀。
「おっ、それもそうですな」
 敷島達はクエントと握手を交わすと、ターミナルの奥へと進んだ。
コメント (1)
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