報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「ボーカロイドの謎」 2

2016-06-21 21:29:11 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月3日15:00.天候:曇 埼玉県さいたま市西区・DCJロボット未来科学館]

 ゲリライベントの打ち合わせは無事に終了した。
 リンが思わぬ損傷をしてしまったことについて懸念があったが、あくまでも単なる事故ということで、即座に修理すれば済む話とした。
「ねぇ、博士」
「なぁに、リン?」
「リン、右腕“ケガ”しただけだよね?」
「そうよ」
「それなのに、どうして『頭』も診ているの?」
「ギクッ!……一応、ソフト面に異常が無いかどうかをチェックしているのよ」
「別に、異常なんて出てないYo?」
「あ、いや、だから念の為よ、念の為」
「いいからリン、ドクターの言う通りになさい。ライブ中に異常が発生したりしたら大変でしょう?」
 一応、シンディがリンを損傷させた責任を取って、ずっと立ち会いをしている。
「早くレンと歌いたいのに……」

 因みにレンもまた、ソフトウェア関係のチェックをアリスによって行われた。
 で、その結果は……。
「特に、変な所は無かったね」
「マジか!?……リンとレンだけが特別ではないということか」
「“東京決戦”では、試作機6兄妹達が全員で歌ったわけでしょう?その時、何か起きたのかもしれないね」
「アルバート常務が生きていたら、ボコして吐かせるところなんだが……」
 敷島は腕組みをして考え込んだ。
「社長、そろそろ出ませんと、リンとレンの取材が……」
 リンとレンのマネージャーとして採用された敷島の部下が申し出た。
「それもそうだな。いいや、俺達は後で帰る。キミは先に車で会社に戻ってて」
「いいんですか?」
「バスと電車で帰るよ」
「分かりました」
「リン、レン、そういうわけだから、帰る仕度してくれ」
「はーい」
 リンとレンは研究室から会議室に戻って行った。
「それより、アーカンソー研究所からガメて……もとい、頂いて来たマーティはどうなった?」
「どうって、あなたこそ水族館への売り込みはどうだったの?」
「精巧過ぎて信じてもらえなかった。『水族館ナメてんのか』と、逆ギレされたり……」
「だから無理があるって言ったのよ!」
 恐らくデイライト・アメリカも、良い厄介払いだったのだろう。
「ここで展示できない?」
「人魚が泳げる水槽がどこにあるのよ!」
「分かった、分かった。引き続き探しておくよ。で、マーティは?」
「電源切って、箱の中に保管してあるよ」
「三叉股の槍でマルチタイプと互角に戦う力を持っているのになぁ……。海上自衛隊か海上保安庁辺りで買い取ってくれないかなぁ……」
 要は転売目的で購入した敷島だった。
「いい加減に転売先見つけないと、保管料請求するってよ?」
「分かったよ。あとはうちの会社で保管しておくから」
 敷島は慌てて手を振った。

「お姉ちゃん!修理終わった!?」
 エントランスホールに行くと、“展示品”であるマルチタイプ8号機のアルエットが掛け寄って来た。
 ギュッとシンディに抱きついて来る。
 番号は欠番になっているとはいえ、一応、続きの番号となっている。
 だが、アルエットとは同じマルチタイプでも規格が違う為に、実妹というよりは従妹という感じになるシンディだった。
「ああ、一応ね」
 アルエットは軽量化・小型化をコンセプトに製造されたこともあり、それに成功はしたが、12〜13歳程度の少女のようになっていた。
「アルるん、来週よろしくねー!」
「来週、イベントで来るから」
 鏡音姉弟もアルエットに笑って話し掛ける。
「いいなぁ!私も歌いたい!」
「マルチタイプに歌唱機能は無いから……」
 シンディは従妹機に残念そうな顔をした。
「アルるんは楽器が得意だから、リン達の歌の伴奏やってくれればいいんじゃない?」
「ああ、まあ、会議の打ち合わせで、そんなこと言ってたっけ」
 シンディは自分の髪をかき上げた。
「おーい、もう出発するよ!」
 マネージャーが車をエントランス横に着けて、迎えに来た。
「はーい!んじゃ、またねー!」
「さようなら」
 リン達は足早にエントランスから外に出ると、車に乗り込んで去って行った。
「ま、そういうわけだから、歌は諦めて、伴奏でイベントの手伝いしてくれればいいよ」
 と、シンディは後ろからアルエットを抱き寄せて言った。
「はーい」
「ん?そういえば萌はどこだ?萌もいるんだろ?」
 と、敷島。
「井辺プロデューサーが来れば、まるで飼い主が帰って来た犬のような反応するんだけどねぇ……」
 シンディは皮肉めいた顔になった。
「誰が飼い犬ですか!」
「うおっ、萌!?」
 いつの間にか敷島のスーツの上着の中に隠れていた。
 唯一の妖精型だけに、これはとても珍しがられている。
「ボクは翔太さんが好きなだけです!翔太さんを是非オーナー登録してください!」
「ロイドが人間選ぶかよ……。ジャニスやルディじゃあるまいし」
 敷島は呆れた顔になった。
「ジャニスやルディのメモリーを、もう少し洗えば何か出て来るかもしれないな」
「それは捜査当局の解析結果を待つしか無いわけね」
「まあな」
 いつの間にか科学館の中庭にはビニールハウスができていて、ゴンスケはここでもイモ栽培をしているようである。
 どうやら年がら年中、イモ栽培をしているようだ。
 できたイモは、館内のカフェテリアの料理に使われたり、たまにイベントで無料配布が行われている。
「常設展示として、大水槽でもあればなぁ……」
「だからムリだって」

 敷島とシンディは金曜日ということもあり、今日はさいたま市内のマンションに帰ることにした。
「ボーカロイドを開発したのは、南里所長だ。それに平賀先生も手伝ったことになっている」
「そうね」
「だけど、どうしてウィリーはボーカロイドを造らなかったんだ?」
「それこそ、研究性の違いってヤツでしょ。ドクター南里がバージョン・シリーズを造ったわけじゃないでしょう?ドクター十条が執事ロイド造ったわけじゃないよね?」
「まあ、そうなんだが……。バージョン・シリーズやキールはともかく、どうして南里所長がボーカロイドを作ったのかが分からないんだよなぁ……」
「姉さんなら何か知らないかしら?」
 と、リアシートに座るシンディが口を挟んだ。
「エミリーかぁ……。エミリーは多分知ってるだろうが、普通に聞いても教えてくれないだろうな……。!」
 敷島はちょうど信号が赤になったので、車を止めた。
 その時、ハッと気づく。
「そういえばエミリーの奴!」
「なに?」
「南里所長が亡くなって、平賀先生がエミリーを相続したんだけど、確かあの時、エミリーは所長から託された遺言を全部話していなかったな!」
「それよ!ボーカロイドの謎について、やっぱり墓場まで持って行かなかったんだわ!」
 いや、墓場まで持って行くつもりだったのだろう。
 か、もしくは本人も迷っていたか。
 何しろ、エミリーにはあの世まで一緒に来て欲しいと言い残した反面、財産は全て平賀に譲り、当然エミリーもその財産に入っているわけだが、平賀が相続したら、平賀の言う事を聞くようにとも言い残した。
 その平賀がエミリーの稼働停止を許さず、今後とも人類の役に立つようにとの命令を出し、今に至っている。
「でも、エミリーに聞いても答えてくれるかな?」
「それだよねぇ……。シンディ、何かいい方法無い?」
「……と、申されましても……。姉さんは、かなり口が堅いので。頭も固いですけど。ま、尻は軽いですけどねw」
「そうか!キールみたいなヤツがいれば、そいつを送り込んで吐かせるという手もあったか」
 何しろ、エミリーも情に脆いところがあり、妹のシンディかわいさに、昔は敵対していたにも関わらず、その接近を敷島達に伝えなかったり、キールに絆されて情報を流してしまったこともあった。
「シンディ、今、エミリーが好きなアンドロイドはいるか?」
「知りませんよ、そんなこと。何でしたら、私が面と向かって姉さんに聞いてみますよ」
「大丈夫なのか?」
「まあ、52.25%の確率で『流血の惨を見る事、必至であります』」
「ダメじゃねーか!!」

 ボーカロイドの隠された機能が何なのかは、今しばらく解明に時間が掛かりそうである。
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