私の名前は愛原学。
東京都内で小さな探偵事務所を開いている。
今日は仕事で東北の小さな町へやってきた。
東京駅から新幹線に乗り、それが1時間に1本しか止まらないような駅から、今度は1時間に1本しか出ない在来線に乗り換え、更に1時間ほど電車に揺られた。
しかし、クライアントの家までは、これで終わりではない。
最寄りの駅から、更にバスに乗り換えてやっと到着できるような場所であった。
ところが、だ。
そのバスというのが、1日に3本しか無いと来る!Σ(・□・;)
時刻表を見ると、朝に1本、昼に1本、夕方に1本あるらしい。
昼の便までは、あいにくと1時間以上待たされてしまうようだ。
それでクライアントは、約束の時間は午後で良いと言っていたのか。
仕方が無い。
この町で、バスの時間まで時間を潰すとしよう。
幸いダイレクトに、私の腹は昼食の時間であることを告げている。
うむ。私の体内時計は正確だ。
さて、と……。どこかで、昼食が取れる場所は……と。
この田舎町、良く言えば静かなのだろう。
だが、悪く言えば活気が無い。
はっきり言って、寂れている。
駅前の商店街は、軒並みシャッター街と化してしまっている。
辛うじて、コンビニくらいは開いているが。
長旅で疲れていることだし、どこかゆっくり座って食べたいものだ。
私は寂れた商店街を歩いた。
と!商店街の外れに、一見のファストフード店を発見した。
こんな田舎町にも、ファストフード店はあるものだな。
だが、チェーン店ではない。
しかし店の入口には、ハンバーガーやフライドポテトの絵が描かれている看板が立っていた。
一応営業しているみたいだし、ここに入ってみることにしよう。
「いらっしゃいませー」
店に入ると、一応そこはベタな法則のファストフード店ではあるようだ。
だが、外の商店街と同様、店内も活気が無い。
何というか……チェーン店のそれと比べると、そんなに明るくない。
それに、お昼時だというのに、私以外に客の姿が見受けられない。
これでは開店休業状態だ。
一応、カウンターレジの前には、20歳〜30歳くらいの店員の兄ちゃんが立っているが……。
「こちらでお召し上がりですか?」
「あ、はい」
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「あ、えーと……」
店の雰囲気はチェーン店のそれと比べると違和感があったが、店員は普通のようだ。
メニューを見ても、変な物が売っているという感じもしない。
どうやら、私の思い過ごしであるようだ。
私はメニューの中から商品を選んだ。
「この、Gセットを1つ。飲み物はホットコーヒーで」
と、私が注文すると……。
「ええっ!?」
店員は突然驚きの声を上げ、震える声でキッチンに言った。
「じ、ジ……Gセット……プリーズ……!」
「ちょ、ちょっと待て。ちょい待ち!何をそんなにうろたえてるんだ?」
「な、何言ってんスか、お客さん……?ぼ、ボクは何も……」
店員は震えながら私の疑惑を否定しようとする。
だが、態度が明らかにおかしい。
これは事件の臭いか!?
と、そこへ!
「ぅぎゃああああああああああっ!!」
キッチンの奥から、断末魔が聞こえてきた。
「!!!」
見ると、キッチンの奥から、血だらけの店員が倒れ込んできたではないか!
「どうした!?」
レジの店員が、その血だらけの店員に駆け寄る。
「じ、じ……Gに、殺られ………た…………」
ガクッと事切れるキッチンの店員。
「バイトくーん!しっかりしろーっ!!」
こ、これはマズい!
もしかして、とんでもない店に迷い込んでしまったのか!?
いかにプロの探偵と言えど、犯人そのものと格闘するわけにはいかない!
コナンや金田一だって、警察がいる前で真犯人を暴いているではないか。
さすがに警察がいない所で、犯人と遭遇するのは、それはイコール死亡フラグを意味する!
私は急いで、店の外に避難しようとした。
確か、駅前に駐在所があったはずだ。
取りあえず、そこへ行こう。
だが!
「待てや、コラ!!」
後ろからレジの店員に羽交い絞めにされた。
「わあっ!?な、何なんだ!?」
「アンタのせいで人が死んでんだっ!食ってから帰れ!!」
朴訥な村の青年団員といった感じの店員だったが、今では鬼のような形相になっている。
これは素直に従わないと、私もヒドい目に遭わされるかもしれない。
「わ、分かった!分かったよ!ただ、Gセットは危険なのでキャンセル!えーと……そうだ!チーズバーガー!チーズバーガーのSセットだ。これをくれ!」
「かしこまりました。……チーズバーガーは増殖するのとそうでないのとがありますが、どちらになさいますか?」
「いや、しない方に決まってんだろ!何だよ、増殖って!?」
「……ただいま、キャンペーン中ですので、こちらをどうぞ」
店員はレジの下から、クジ箱を取り出した。
「くじ?」
よくコンビニなんかでも、何百円以上お買い上げで1枚引けるというのがある。
それをファストフード店で行うこと自体は、何らおかしいことではない。
だが、何だろう?『クジ箱はミミックだった!!』的な展開がありそうな気がするのは?
「どうなさいました?」
店員の目がギラッと光る。
「……手を入れた途端、噛み付かれる可能性はあるか?」
「な、何言ってんスか、お客さん。そんなこと、あるわけじゃないですか……。去年、別のクジ箱に手を入れたお客さんが、そのまま吸い込まれて亜空間に消えたくらいっスよ」
「何だよ、それは!?」
「今度は大丈夫ですって」
「本当だろうな!?」
私はクジ箱に手を入れてみた。
噛み付いて来ることも無ければ、吸い込まれることもなかった。
指先は、確かにクジらしき紙の感触がある。
私は1枚取って、手を抜いた。
「ほら、お客さん。普通のクジだったでしょ?」
「まあ、な……」
早速私はクジの表面をコインで削ってみた。
すると、現れたのは4等賞であった。
「ん?4等?当たりなのか?」
「はい。これはですね、今ならランダムで、セットをもう1つプレゼントというものでして、ここが剥がれるようになってるんスよ」
「そうなのか」
私はクジの表面を剥がしてみた。
すると、出て来たのは……。
「ら、ら……ラッキー……!じ、ジ……Gセット……プリーズ!」
「くぉらぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
その後、この店員の兄ちゃんも、血だらけの状態で発見されたという。
この店で何が行われていたのか、今では知る由も無い。
クライアントの依頼を解決した後、試しに再び行ってみたら、どういうわけだか自衛隊が出動しており、商店街が全て封鎖されていたという事実だけ確認できたことだ。
何の事件だか知らんが、そっちからの依頼でなくて、本当に良かったと思う。
終
東京都内で小さな探偵事務所を開いている。
今日は仕事で東北の小さな町へやってきた。
東京駅から新幹線に乗り、それが1時間に1本しか止まらないような駅から、今度は1時間に1本しか出ない在来線に乗り換え、更に1時間ほど電車に揺られた。
しかし、クライアントの家までは、これで終わりではない。
最寄りの駅から、更にバスに乗り換えてやっと到着できるような場所であった。
ところが、だ。
そのバスというのが、1日に3本しか無いと来る!Σ(・□・;)
時刻表を見ると、朝に1本、昼に1本、夕方に1本あるらしい。
昼の便までは、あいにくと1時間以上待たされてしまうようだ。
それでクライアントは、約束の時間は午後で良いと言っていたのか。
仕方が無い。
この町で、バスの時間まで時間を潰すとしよう。
幸いダイレクトに、私の腹は昼食の時間であることを告げている。
うむ。私の体内時計は正確だ。
さて、と……。どこかで、昼食が取れる場所は……と。
この田舎町、良く言えば静かなのだろう。
だが、悪く言えば活気が無い。
はっきり言って、寂れている。
駅前の商店街は、軒並みシャッター街と化してしまっている。
辛うじて、コンビニくらいは開いているが。
長旅で疲れていることだし、どこかゆっくり座って食べたいものだ。
私は寂れた商店街を歩いた。
と!商店街の外れに、一見のファストフード店を発見した。
こんな田舎町にも、ファストフード店はあるものだな。
だが、チェーン店ではない。
しかし店の入口には、ハンバーガーやフライドポテトの絵が描かれている看板が立っていた。
一応営業しているみたいだし、ここに入ってみることにしよう。
「いらっしゃいませー」
店に入ると、一応そこはベタな法則のファストフード店ではあるようだ。
だが、外の商店街と同様、店内も活気が無い。
何というか……チェーン店のそれと比べると、そんなに明るくない。
それに、お昼時だというのに、私以外に客の姿が見受けられない。
これでは開店休業状態だ。
一応、カウンターレジの前には、20歳〜30歳くらいの店員の兄ちゃんが立っているが……。
「こちらでお召し上がりですか?」
「あ、はい」
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「あ、えーと……」
店の雰囲気はチェーン店のそれと比べると違和感があったが、店員は普通のようだ。
メニューを見ても、変な物が売っているという感じもしない。
どうやら、私の思い過ごしであるようだ。
私はメニューの中から商品を選んだ。
「この、Gセットを1つ。飲み物はホットコーヒーで」
と、私が注文すると……。
「ええっ!?」
店員は突然驚きの声を上げ、震える声でキッチンに言った。
「じ、ジ……Gセット……プリーズ……!」
「ちょ、ちょっと待て。ちょい待ち!何をそんなにうろたえてるんだ?」
「な、何言ってんスか、お客さん……?ぼ、ボクは何も……」
店員は震えながら私の疑惑を否定しようとする。
だが、態度が明らかにおかしい。
これは事件の臭いか!?
と、そこへ!
「ぅぎゃああああああああああっ!!」
キッチンの奥から、断末魔が聞こえてきた。
「!!!」
見ると、キッチンの奥から、血だらけの店員が倒れ込んできたではないか!
「どうした!?」
レジの店員が、その血だらけの店員に駆け寄る。
「じ、じ……Gに、殺られ………た…………」
ガクッと事切れるキッチンの店員。
「バイトくーん!しっかりしろーっ!!」
こ、これはマズい!
もしかして、とんでもない店に迷い込んでしまったのか!?
いかにプロの探偵と言えど、犯人そのものと格闘するわけにはいかない!
コナンや金田一だって、警察がいる前で真犯人を暴いているではないか。
さすがに警察がいない所で、犯人と遭遇するのは、それはイコール死亡フラグを意味する!
私は急いで、店の外に避難しようとした。
確か、駅前に駐在所があったはずだ。
取りあえず、そこへ行こう。
だが!
「待てや、コラ!!」
後ろからレジの店員に羽交い絞めにされた。
「わあっ!?な、何なんだ!?」
「アンタのせいで人が死んでんだっ!食ってから帰れ!!」
朴訥な村の青年団員といった感じの店員だったが、今では鬼のような形相になっている。
これは素直に従わないと、私もヒドい目に遭わされるかもしれない。
「わ、分かった!分かったよ!ただ、Gセットは危険なのでキャンセル!えーと……そうだ!チーズバーガー!チーズバーガーのSセットだ。これをくれ!」
「かしこまりました。……チーズバーガーは増殖するのとそうでないのとがありますが、どちらになさいますか?」
「いや、しない方に決まってんだろ!何だよ、増殖って!?」
「……ただいま、キャンペーン中ですので、こちらをどうぞ」
店員はレジの下から、クジ箱を取り出した。
「くじ?」
よくコンビニなんかでも、何百円以上お買い上げで1枚引けるというのがある。
それをファストフード店で行うこと自体は、何らおかしいことではない。
だが、何だろう?『クジ箱はミミックだった!!』的な展開がありそうな気がするのは?
「どうなさいました?」
店員の目がギラッと光る。
「……手を入れた途端、噛み付かれる可能性はあるか?」
「な、何言ってんスか、お客さん。そんなこと、あるわけじゃないですか……。去年、別のクジ箱に手を入れたお客さんが、そのまま吸い込まれて亜空間に消えたくらいっスよ」
「何だよ、それは!?」
「今度は大丈夫ですって」
「本当だろうな!?」
私はクジ箱に手を入れてみた。
噛み付いて来ることも無ければ、吸い込まれることもなかった。
指先は、確かにクジらしき紙の感触がある。
私は1枚取って、手を抜いた。
「ほら、お客さん。普通のクジだったでしょ?」
「まあ、な……」
早速私はクジの表面をコインで削ってみた。
すると、現れたのは4等賞であった。
「ん?4等?当たりなのか?」
「はい。これはですね、今ならランダムで、セットをもう1つプレゼントというものでして、ここが剥がれるようになってるんスよ」
「そうなのか」
私はクジの表面を剥がしてみた。
すると、出て来たのは……。
「ら、ら……ラッキー……!じ、ジ……Gセット……プリーズ!」
「くぉらぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
その後、この店員の兄ちゃんも、血だらけの状態で発見されたという。
この店で何が行われていたのか、今では知る由も無い。
クライアントの依頼を解決した後、試しに再び行ってみたら、どういうわけだか自衛隊が出動しており、商店街が全て封鎖されていたという事実だけ確認できたことだ。
何の事件だか知らんが、そっちからの依頼でなくて、本当に良かったと思う。
終