報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 第1章 「発生」 Final

2016-06-28 22:25:03 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月24日22:15.天候:晴 ◯×県霧生市中心部のとあるマンション→裏通り]

 ゾンビの群がるビルから、急きょ隣のマンションに飛び移った私達。
 既にこの町は、死者の町であることを実感させられた。
 死者どころか、どうやら妖怪みたいなものもいる様子。
 一体、何がどうなっているのやら……。
「うわっ、エレベーターの前にも!」
 4階から1階へ、エレベーターで降りた。
 マンションのエレベーターというのは、ドアに窓が付いていて、外が見えるようになっている。
 1階に着くと、ゾンビが待ち構えていた。
 ドアが開くと同時に、
「ウアア……!」
「くそっ!どこにでもいやがって!!」
 高橋は手持ちの鉄パイプで、ゾンビの頭を叩き割った。
 ゴッと鈍い音がしたかと思うと、叩かれた所から血しぶきを上げ、口から血の泡を吹きながら倒れた。
「先生、今のうちに!」
「ああ!」
 私達はゾンビが昏倒しているうちに、マンションの外に出た。
 そして、集合を呼び掛けていたワンボックスタイプのパトカーに駆け寄った。
「ん?これだけか……」
 警察官は私達の姿を見て少しびっくりした様子だった。
 ゾンビが来たとでも思ったのだろうか。
 その警察官は高木巡査長の姿を見ると、
「ん?確か、あなたは……」
「警視庁の高木巡査長です。東京での事件を捜査中に、この暴動に巻き込まれてしまいました」
 高木巡査長は警察手帳を出して、自分の身分証を見せた。
「それは、とんだ災難でしたな」
「他に避難者は?」
「それが、あなた達だけのようです」
「ええっ!?」
「ま、とにかく、生存者がいるだけでも良かった。早いとこ、乗ってください」
 運転席にいるのは高木よりも、もっと若い巡査だった。
 高橋と同じくらいの歳かもしれない。
 乗車を促した警察官は40代くらいで、制服の階級章を見るに、巡査部長であるようだ。
 私達はすぐにパトカーのスライドドアを開けてもらい、中に乗り込んだ。
 すぐにパトカーが走り出す。
「高橋君?どうした?」
「いや、何か……気分が悪いものです」
「体の具合が悪いのかい?」
 と、高木巡査長。
「いや……パトカーに乗るのは、何とも気分の悪いものだな、と……」
「少年課の世話になっていたことでもあるのかな?」
「うるさいな」
 高橋は眉を潜めた。
「高木巡査長、高橋君は今は立派に私の事務所で働いてくれてますから」
 私は高橋の肩を掴んで、高木巡査長に言った。
「ええ。それ以上の詮索はしませんよ」
「しかし巡査長、ここまで来たら、東京で何の事件が起きたかくらいは教えて頂いてもよろしいのでは?」
 私が言うと、高木巡査長は小さく息を吐いた。
「都内のとある公園の池に、死体が沈められていたという事件はニュースで聞いてますか?」
「あ、はい。確か……」
「殺人事件と見て捜査本部を設置しまして、ガイシャ……被害者がこの町の出身であるところまで分かったんです。そこまで行こうとした時に、この騒ぎに巻き込まれました」
「なるほど……」
「しかし、高木巡査長」
「何ですか?」
 助手席の巡査部長が話し掛けた。
「単独で捜査に当たっていたのですか?確か、暴動が発生する前、うちの署に来た時は、別の人と一緒だったはずじゃ?」
「たまたま別行動をしている時に、この暴動で……。こんな状況では、互いに連絡も取り合えず……このザマです」
「なるほど。これはやはり署に戻った方がいいな」
「いえ。まずは、この人達を病院に……。あの騒ぎの中、ほんの微傷で住んでいるのが奇跡ですが……」
「なるほど。まずは治療が先ですな」
 巡査部長は運転席の巡査に、病院へ行くよう指示した。
 表通りはゾンビで溢れかえっている為、裏通りを進むわけだが……。
「部長!ここも塞がれてます!」
 あっちこっち、バリケードで塞がれてしまっていた。
「むむむ……」
「いいです、部長。ここからは歩いて向かいます。確か、ここから病院は近かったですよね?」
 と、巡査長が言った。
「まあ、確かにそうだが……。あの歩道橋を渡って、通りの反対側に出ると、病院が見えて来る」
「だそうです。それでいいですか?」
「ええ。今は警察の指示に従うのが得策ですから」
 と、私は応えた。
 私達はパトカーを降りた。
「ああ、そうだ。せっかくだから、PC内の武器・弾薬を持って行くと良い」
 巡査部長が言う。
「いいんですか?」
「そんな猟銃をどこで拾ったのかは分からんが、警察純正の武器・弾薬の方が良いとは思わんか?」
「確かに」
 機動隊が乗るようなパトカーだ。
 ここにも、ショットガンのような物が積まれていた。
「すいませんが、お借りします」
「ああ。せっかくの生存者だ。しっかり守ってあげてくれ。お2人は、この警視庁の刑事さんの指示に従ってください」
「分かりました」
「……………」
「高橋君」
 高橋が返事をしなかったので、私は仮を促した。
「……ハイ」
「もし途中で合流できるようであれば、ピックアップしよう」
「よろしくお願いします」
 私達は裏通りから、表通りを目指した。

 幸いにも歩道橋の近辺には、ゾンビはいなかった。
 ただ、死体は転がりまくっており、それをゾンビ化した犬の群れが食らい付いている。
 犬達は私達の気配に気づくと、こちらに向かってきた。
「くっ!」
 高木巡査長がショットガンでゾンビ犬達を狙う。
 だが、全て屠ることはできず、数匹がすり抜けて私達の所へやってくる。
「このやろ!!」
 高橋が鉄パイプを振るうが、犬のゾンビはゾンビ化しても俊敏性が失われておらず、高橋の攻撃をすり抜けてしまう。
 ……と!
 そういえば私、実は高木巡査長が置いて行った猟銃を持ち出していた。
 後で怒られるかな?
「バウッ!」
 と!そんなこと考えてる場合じゃない!
 私は猟銃を発砲した。
「キャン!」
「ギャン!」
「……あれ?」
 弾はしっかり犬2匹に命中し、体から血を流して動かなくなった。
「先生、さすがです!」
「そ、そう?」
 適当に撃っただけなのだが、これがビギナーズ・ラックというヤツなのか?
「愛原さん、それは捨てて来た銃なのに……!」
 案の定、巡査長が眉を潜めて私の所にやってきた。
「いや、アハハハ……」
 私は笑って誤魔化そうとしたが、高橋が、
「先生がこれを持って来なかったら、ゾンビ犬に噛まれてたんだぞ!?」
 と、巡査長に食って掛かった。
「先生は治外法権にしろ!」
「いや、あのね!……まあ、今回は非常時だから大目に見ますけど……」
「すいませんね、巡査長」
 私達は歩道橋に上がった。
「うわ……!」
 そこからこの町のメインストリートを見ると、そこは地獄絵図だった。
 まるで、ゾンビ映画のような、ゾンビの行進が行われていた。
 そこから銃声が聞こえており、機動隊の姿も見られた。
 だが、多勢に無勢のような気がする。
「先生、あれを!」
「どれを!?」
 高橋が持ち前の強視力(両目とも2.0)で、何かを見つけたようだ。
「警察官までゾンビ化してますよ!?」
「マジか!?一体、どうなってるんだ!?」
「……キミ達、今、体の具合はどうだい?」
「体の具合?」
「体が痒かったり、熱っぽかったりはしないかい?」
「いや、別に、大丈夫ですが……」
「元ヤンキーのキミは?」
「うるせっ!……俺は何とも無い」
「そうですか。もし、体に痒みが発生したり、熱が出るようなことがあれば言ってください」
「……それがゾンビ化するサインなんだな?」
 高橋が巡査長に詰め寄った。
「……実はあのレストランに行く前の間、私が聞いた情報だ。中にはいきなりゾンビ化する者もいるだろうが、多くは予兆がある。全身に痒みが発生したり、高熱が出た時だ」
「どうしてゾンビ化するってなった時、そうなるんです?」
「そこまでは分からない。だから当初は、原因不明の皮膚病か熱病だと思われていたそうだ」
「病気ねぇ……」
 と、そこへ、さっきのパトカーがやってきた。
「あれ?」
「いや、申し訳無い!1ヶ所、封鎖が解かれていた道があって、そこを通ってきた。もう1回乗ってくれ」
「分かりました!」
 私達はまたパトカーに乗り込んだ。
「非常線の都合上、少し通り回りですが、何とか病院に行けると思います」
「病院ならこの状況だ。治療法までは分からなくとも、もしかしたら、原因くらいまでは分かっているかもしれない」
 と、巡査長。
「これまで多くのゾンビ化する前の市民達を診てきたわけですから、膨大な資料が残っているはずです」
「臨床結果ですね。なるほど」

 私達は裏通りを右に左に曲がり、途中でゾンビの攻撃を交わしながら、病院に向かう。
「死人が町をうろつき、人を喰らう。それが当たり前になったんじゃ、かなわないよな」
 と、私が言うと、
「そうですね」
 高橋は頷いた。
 病院へ向かうにつれ、ゾンビの姿も見かけなくなりつつあるので、一応は安全な方に向かっているのだろう。
 だが、まだ町を脱出できていない私達に、安堵は訪れないのだった。

                                                      続く
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