[5月22日11:00.天候:晴 東京都江東区豊洲・敷島エージェンシー 井辺翔太]
「えー、社長の安否につきましては大至急、確認しているところでございます。……はい」
敷島夫妻が乗った飛行機がハイジャックされただけでもニュースなのに、墜落したとあっては、マスコミが駆け付けないわけが無かった。
井辺を始め、手の空いている社員達はマスコミを含む関係各所への対応に追われていた。
「……ええ。今、孝夫社長の社員達が総出で対応に当たっていますがね、できれば、本社よりもう少し応援を頂きたいと……」
事務室で井辺が場立ちのような対応をしているのを見ながら、矢沢常務が別の電話をしていた。
矢沢常務は敷島エージェンシーの親会社である四季エンタープライズの役員で、敷島がアメリカに行っている間、社長代行として派遣されていた。
今は敷島の伯父に当たる親会社の社長に、現況を報告している。
{「分かった。できる限りの応援をしよう」}
「ありがとうございます。こちらとしましても、精一杯の対応を致します」
{「ああ。そちらも大変だろうが、よろしく頼むよ」}
「はい。失礼します」
矢沢常務は、敷島の代わりに詰めている社長室の電話を切った。
「失礼します、常務!」
井辺が社長室に入って来る。
「常務、記者会見についてですが……」
「ああ。そこは本社の方で、何とかしてくれるらしい。それまでもう少し、時間を引き延ばしてもらってくれ」
「分かりました。……あの、敷島社長……四季エンタープライズの敷島社長も、とても御心配なさっておられるでしょうか?」
「そりゃ甥っ子のことだからね、心配はされているだろうさ。ただ……かなり落ち着かれてはいる」
「えっ?」
「もしかすると、甥っ子の生存をどこかで強く信じているのかもしれん」
「ですが、飛行機は墜落してしまったと……」
「カリブ海の無人島に不時着したという情報もあるから、墜落がどの程度のものなのかにもよるね」
と、そこへ、
「た、大変です!」
MEIKOが飛び込んできた。
「MEIKOさん!?」
「しゃ、社長が……!」
「!!!」
井辺と矢沢は応接室に飛び込んだ。
そこのテレビでは、
〔「いやー、視界が悪い中、いきなり無人島の岸壁が目の前に現れた時には死ぬかと思いましたよー。はっはっはー!」〕
元気にマスコミのインタビューを受ける敷島の姿があった!
「しゃ、社長!?」
「……『敷島一族は殺しても死なん』と、前に社長が言っていたが……どうやら本当のようだな」
古参ではあるが、敷島一族ではない矢沢常務は、経営者一族の生命力の高さに呆れ果てたという。
[5月23日13:00.天候:晴 アメリカ合衆国テキサス州ヒューストン市]
ヒューストンの空港に降り立った敷島達を、平賀達が出迎えた。
「いや、さすが敷島さんですね。飛行機墜落の中、生き延びるとは……」
平賀もまた嬉しさを飛び越えて呆れるほどだった。
長い付き合いである為、彼もまた、心のどこかで生存を信じていた1人ではあったが、まさか本当に生き延びるとはと……。
「アリス博士、社長、よく御無事で……」
シンディの目には涙が浮かんでいた。
「シンディ、ゴメンね。心配掛けちゃって」
「リン達も心配したんだYo!」
「生きてて良かったです」
双子のボカロ姉弟も嬉し泣きだった。
「ああ。お前達を遺して逝けるか」
敷島はリンとレンの頭を撫でながら答えた。
「敷島社長の・生存率が・98.24%・という数字が・出ていましたので・私は・確信して・おりました」
エミリーが1番落ち着いていた。
「はははは!さすがエミリーだな。そんなに高かったか」
「姉さんだって、社長生存の一報が来た時、少し泣いてたじゃない!」
「頭部の・冷却水・オーバーフロー・だ」
「はいはい、照れ屋さん」
「シンディこそ・敷島社長達が・安否不明となった時・1番泣いていた」
「そ、そりゃ、悲しいに決まってるじゃないのよ!」
「そうか。俺達の為に、泣いてくれたか。お前も変わったな」
敷島はシンディの頭をクシャクシャに撫でてやった。
「御無事で何よりです。まずは工場に向かいましょう」
鳥柴も笑顔で言った。
「帰国の準備もできていますので、再びシンディさん達を梱包して、先に日本に送る必要があります」
「それもそうですね」
空港ターミナルを出ると、キースが出迎えてくれた。
キースもまた敷島達の生存を喜んでいた。
自慢のベンツVクラス(キースのマイカーではないらしい)に乗り込むと、一路、工場を目指す。
「会社も相当心配しているだろうから、なるべく早く帰国したいな」
「ええ。そうですね」
敷島の言葉に、平賀も大きく頷いた。
「帰国してから、またロイド達を再起動させる必要があるから大変ですね」
「鳥柴さん、日本に着いたら、また成田営業所に行って再起動の準備を?」
「はい。ただ、ヒューストンの空港から成田までですと、どうしても夕方近くの到着になってしまいます。ホテルをお取りしますので、長旅のお疲れを癒してから作業に入られても構いませんよ」
「いや、その心配は要りません」
「えっ?」
「さっきうちの井辺君……社員に電話したら、成田空港まで迎えに来てくれるので、私は帰国したその足で会社に寄る必要がありそうです。アリスはデイライトの社員ですから……」
「ちょっと待って、タカオ!」
アリスが咎めるように指摘する。
「リンとレンを置いて行っちゃダメよ。ちゃんと連れて帰りなさい」
「リンとレンは2人でも行動できるぞ。現に、行く時、2人だけで成田駅まで来れたじゃないか」
「そういう問題じゃないって」
「?」
「リンとレンはあなたの会社の『商品』でしょ?ちゃんと面倒見なさい」
「……すっかり忘れてた。やっぱり、迎えには来てもらった方がいいな。ていうか、アレだ。いっそのこと、再起動作業、俺んとこの会社でやればいいんじゃないか?再起動した後はそこに置いとけるだろ」
「いいの?」
「鳥柴さん、うちの事務所を貸しますから、そこでいいですか?」
「あ、はい。敷島社長がよろしければ……」
「よし。そうしよう。平賀先生も」
「いいんですか。じゃあ、エミリーの再起動だけさせてください」
「そうと決まれば、井辺君に連絡だ」
敷島はスマホを取り出すと、それで井辺に連絡した。
因みに敷島の活躍で、飛行機はカリブ海の無人島に不時着。
墜落というのはマスコミの誇大表現で、機体は損傷したものの、客室内は無事であった。
その為、乗客達とヤング・ホーク団の多くがケガで済み、死者は1人も出なかったという。
但し、当然ながらヤング・ホーク団は全員が治安当局に拘束され、連行されていった。
「怨嫉謗法はやめなさい!私に悪意の手を触れると、神罰が下りますよ!」
とか何とか言ってた団長のジャック・シュラ・カッパーだったが、拘束されたからには【お察しください】。
「えー、社長の安否につきましては大至急、確認しているところでございます。……はい」
敷島夫妻が乗った飛行機がハイジャックされただけでもニュースなのに、墜落したとあっては、マスコミが駆け付けないわけが無かった。
井辺を始め、手の空いている社員達はマスコミを含む関係各所への対応に追われていた。
「……ええ。今、孝夫社長の社員達が総出で対応に当たっていますがね、できれば、本社よりもう少し応援を頂きたいと……」
事務室で井辺が場立ちのような対応をしているのを見ながら、矢沢常務が別の電話をしていた。
矢沢常務は敷島エージェンシーの親会社である四季エンタープライズの役員で、敷島がアメリカに行っている間、社長代行として派遣されていた。
今は敷島の伯父に当たる親会社の社長に、現況を報告している。
{「分かった。できる限りの応援をしよう」}
「ありがとうございます。こちらとしましても、精一杯の対応を致します」
{「ああ。そちらも大変だろうが、よろしく頼むよ」}
「はい。失礼します」
矢沢常務は、敷島の代わりに詰めている社長室の電話を切った。
「失礼します、常務!」
井辺が社長室に入って来る。
「常務、記者会見についてですが……」
「ああ。そこは本社の方で、何とかしてくれるらしい。それまでもう少し、時間を引き延ばしてもらってくれ」
「分かりました。……あの、敷島社長……四季エンタープライズの敷島社長も、とても御心配なさっておられるでしょうか?」
「そりゃ甥っ子のことだからね、心配はされているだろうさ。ただ……かなり落ち着かれてはいる」
「えっ?」
「もしかすると、甥っ子の生存をどこかで強く信じているのかもしれん」
「ですが、飛行機は墜落してしまったと……」
「カリブ海の無人島に不時着したという情報もあるから、墜落がどの程度のものなのかにもよるね」
と、そこへ、
「た、大変です!」
MEIKOが飛び込んできた。
「MEIKOさん!?」
「しゃ、社長が……!」
「!!!」
井辺と矢沢は応接室に飛び込んだ。
そこのテレビでは、
〔「いやー、視界が悪い中、いきなり無人島の岸壁が目の前に現れた時には死ぬかと思いましたよー。はっはっはー!」〕
元気にマスコミのインタビューを受ける敷島の姿があった!
「しゃ、社長!?」
「……『敷島一族は殺しても死なん』と、前に社長が言っていたが……どうやら本当のようだな」
古参ではあるが、敷島一族ではない矢沢常務は、経営者一族の生命力の高さに呆れ果てたという。
[5月23日13:00.天候:晴 アメリカ合衆国テキサス州ヒューストン市]
ヒューストンの空港に降り立った敷島達を、平賀達が出迎えた。
「いや、さすが敷島さんですね。飛行機墜落の中、生き延びるとは……」
平賀もまた嬉しさを飛び越えて呆れるほどだった。
長い付き合いである為、彼もまた、心のどこかで生存を信じていた1人ではあったが、まさか本当に生き延びるとはと……。
「アリス博士、社長、よく御無事で……」
シンディの目には涙が浮かんでいた。
「シンディ、ゴメンね。心配掛けちゃって」
「リン達も心配したんだYo!」
「生きてて良かったです」
双子のボカロ姉弟も嬉し泣きだった。
「ああ。お前達を遺して逝けるか」
敷島はリンとレンの頭を撫でながら答えた。
「敷島社長の・生存率が・98.24%・という数字が・出ていましたので・私は・確信して・おりました」
エミリーが1番落ち着いていた。
「はははは!さすがエミリーだな。そんなに高かったか」
「姉さんだって、社長生存の一報が来た時、少し泣いてたじゃない!」
「頭部の・冷却水・オーバーフロー・だ」
「はいはい、照れ屋さん」
「シンディこそ・敷島社長達が・安否不明となった時・1番泣いていた」
「そ、そりゃ、悲しいに決まってるじゃないのよ!」
「そうか。俺達の為に、泣いてくれたか。お前も変わったな」
敷島はシンディの頭をクシャクシャに撫でてやった。
「御無事で何よりです。まずは工場に向かいましょう」
鳥柴も笑顔で言った。
「帰国の準備もできていますので、再びシンディさん達を梱包して、先に日本に送る必要があります」
「それもそうですね」
空港ターミナルを出ると、キースが出迎えてくれた。
キースもまた敷島達の生存を喜んでいた。
自慢のベンツVクラス(キースのマイカーではないらしい)に乗り込むと、一路、工場を目指す。
「会社も相当心配しているだろうから、なるべく早く帰国したいな」
「ええ。そうですね」
敷島の言葉に、平賀も大きく頷いた。
「帰国してから、またロイド達を再起動させる必要があるから大変ですね」
「鳥柴さん、日本に着いたら、また成田営業所に行って再起動の準備を?」
「はい。ただ、ヒューストンの空港から成田までですと、どうしても夕方近くの到着になってしまいます。ホテルをお取りしますので、長旅のお疲れを癒してから作業に入られても構いませんよ」
「いや、その心配は要りません」
「えっ?」
「さっきうちの井辺君……社員に電話したら、成田空港まで迎えに来てくれるので、私は帰国したその足で会社に寄る必要がありそうです。アリスはデイライトの社員ですから……」
「ちょっと待って、タカオ!」
アリスが咎めるように指摘する。
「リンとレンを置いて行っちゃダメよ。ちゃんと連れて帰りなさい」
「リンとレンは2人でも行動できるぞ。現に、行く時、2人だけで成田駅まで来れたじゃないか」
「そういう問題じゃないって」
「?」
「リンとレンはあなたの会社の『商品』でしょ?ちゃんと面倒見なさい」
「……すっかり忘れてた。やっぱり、迎えには来てもらった方がいいな。ていうか、アレだ。いっそのこと、再起動作業、俺んとこの会社でやればいいんじゃないか?再起動した後はそこに置いとけるだろ」
「いいの?」
「鳥柴さん、うちの事務所を貸しますから、そこでいいですか?」
「あ、はい。敷島社長がよろしければ……」
「よし。そうしよう。平賀先生も」
「いいんですか。じゃあ、エミリーの再起動だけさせてください」
「そうと決まれば、井辺君に連絡だ」
敷島はスマホを取り出すと、それで井辺に連絡した。
因みに敷島の活躍で、飛行機はカリブ海の無人島に不時着。
墜落というのはマスコミの誇大表現で、機体は損傷したものの、客室内は無事であった。
その為、乗客達とヤング・ホーク団の多くがケガで済み、死者は1人も出なかったという。
但し、当然ながらヤング・ホーク団は全員が治安当局に拘束され、連行されていった。
「怨嫉謗法はやめなさい!私に悪意の手を触れると、神罰が下りますよ!」
とか何とか言ってた団長のジャック・シュラ・カッパーだったが、拘束されたからには【お察しください】。