[7月22日19:15.天候:曇 東京中央学園上野高校]
稲生達は嫌な予感がして、先ほど坂下が用を足す為に居残ったトイレへ向かった。
だいぶ外も暗くなっている。
OBの為に遅くまで開けてくれているようだが、さすがにそろそろ帰らないと迷惑が掛かるかもしれない。
稲生達は急いで件のトイレに向かった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/d1/32986b3b0215e3b247b60bfb14c82212.jpg)
「……いませんね」
煌々と輝く蛍光灯の明かりの割に、あの時よりも若干外が暗くなったからなのか、少しトイレ内が暗くなったような気がする。
「そんなはずは……」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/f6/6ba902df2cebb3a6418a0f23cb041f8c.jpg)
「おい、坂下2号、おるか!?」
大河内は薄暗い個室の中も開けた。
しかし、トイレの中に坂下の姿は無かった。
「……おい、ユタ。こら、まずいんやないか?」
「う、うん……」
稲生は困惑したように頷いた。
「大丈夫ですよ。きっと、行き違っただけかもしれませんよ?」
と、福田。
「私達が階段を上っている間、坂下君は別の階段を下りたのかもしれません」
「なるほど、そうか」
稲生達はそれで納得した。
「それじゃ、早く戻りませんと。坂下君が僕達がいないと知って、びっくりしちゃいますよ」
と、太田が慌てたように言った。
それはそれで面白いサプライズのように思えてしまったが、さすがにそれは悪趣味だ。
「そやな。取りあえず、戻ろか」
大河内も頷いた。
皆して逃げるようにそのトイレから出て、新聞部の部室に戻る。
廊下やトイレの中は暑かったが、エアコンのある部室は涼しかった。
だが、そこに坂下の姿は無かった。
「……いないね」
福田が不安そうに言った。
「やっぱ、行き違ったんとちゃう……か」
「どうする?もう1度、探しに行ってみようか?」
「いや、でも……」
「また皆で行ってしまったら、また行き違いになっちゃうよ。しばらく、待ってみたらどうでしょうか?」
と、太田が言った。
「そ、そうですね。そうした方がいいでしょう」
と、稲生も同調した。
だが、待てど暮らせど坂下が戻ってくる様子は無い。
時々廊下に出て様子を見てみたが、坂下が戻ってくる気配は一向に無かった。
「……あいつ、帰ったんちゃうかな?」
と、大河内。
「ええっ!?」
「トイレから戻ったんはいいけど、俺らがおらんことに気づいて、帰ってしまったかもしれんな」
「でも、僕達は荷物をおいたままなんですよ?帰ってしまったと思いますかね?」
太田が反論した。
「あっ、もしかしたら、急用があって帰っちゃったのかもよ?」
福田が思いついたかのように言った。
「よくあるじゃない?」
「そんな都合良くあるかいな」
「坂下君……お兄さんの方ね、急用があって来れないから代理である蓮君を寄越してきたわけでしょう?もしかしたら、そのお兄さんに呼ばれて行ってしまったのかも」
と、稲生。
「あー、なるほどなぁ。だったら、連絡くらいくれっちゅうんだ。よし、俺から電話したるけん」
大河内は自分のスマホを取り出した。
「おー、坂下か?えらい久しぶりやなぁ。大河内やけんど、そっちに弟は帰っちょるか?……いやな、あいつ途中でいなくなったけん、もしかしたら家に帰っちょった……あ?帰ってない?……は?何言うてんの?」
段々と雲行きが怪しくなってきた。
そして、あの大河内の手が震えていた。
「…………」
ついに無言で電話を切ってしまう。
「あ、あの、大河内君……。坂下君は何て?」
「あいつ……何モンや?」
「は?」
「確かに坂下には蓮っちゅう弟がおるらしいんやけど……。3日前から交通事故で入院中やて」
「はあ!?」
「ええっ!?」
「うそ!?」
すると、さっきまでいたのは一体……?
「ど、どど、どうしよう?ぼ、僕……帰ってもいいかな?」
太田がガタガタと震え出した。
「……今、帰らない方がいいかもしれない」
稲生はそう言った。
「な、何でだい!?一緒に帰ろうよ!?ほら、もうこんな時間だし、そろそろ帰らないと学校にも迷惑が掛かるし!」
「落ち着けや、太田。もしかしたら、これこそが罠かもしれんよ?」
「罠だって!?ここにずっといる方が危険じゃないか!今ならまだ若干外も明るい!明るいうちに帰る方がベストだよ!」
「逢魔が時っちゅう言葉を知らんのか?完全な夜よりも、その直前の夕方……夕方と夜の境目の時間が1番危険っちゅうけんな?もう少し様子を見た方……が!」
「僕は耐えられない!本物の幽霊が出たんだよ!?こんな所でぐずぐずしてる場合じゃない!僕は帰らせてもらうよ!」
「太田ァ!!」
しかし、太田は大河内の制止も聞かず、自分の荷物を持って部室を飛び出して行ってしまった。
彼は薄暗い廊下の奥に消えて行った。
「アホや、あいつ。死亡フラグに引っ掛かりまくりやけんな」
「でも、どうする?太田さんじゃないけど、僕達もずっとこのままってわけにも……」
「取りあえず、俺と福田で話をしよっか。ユタ、お前はどっちから話を聞きたい?」
「ええっ!?えーと……それじゃ、大河内君……かな」
「よし、そうこなくちゃな。それじゃ……」
大河内はコホンと咳払いをした。
しかし、
「……その前に一服させてや。なぁに、職員用喫煙所ならすぐそこやし、自販機でジュース買いに行くくらいなら、死亡フラグでも何でもないやろ。な?」
「はあ……」
ま、確かにここらで一息入れたいところだが、それにしても、太田は坂下蓮のことを幽霊だと言っていたが、それは厳密には違うだろう。
確かに電話口の坂下兄は弟が事故で入院中だと大河内に言っていたらしいが、死んだとは一言も言っていない。
死んでないのに、幽霊になんかなれるはずがない。
強いて言うなら幽体離脱とか、生き霊とかがあるが、それらが他人に害を及ぼすなんて話は聞いたことが無い。
他人に害を及ぼすのは、石上も言っていた悪霊や死霊の類だ。
ただ、もっと怖い事を考えるとするならば、坂下蓮の姿を象った何らの魍魎の類と言えなくもないが……。
しかし、このまま急いで帰っても、何だか稲生は嫌な予感がするのだ。
まだ、誰も魔女の話をしようとしていない。
恐らく、それをするとするならば、福田ではないだろうか。
稲生はそう思って、大河内の後をついて自販機で飲み物を買った。
稲生達は嫌な予感がして、先ほど坂下が用を足す為に居残ったトイレへ向かった。
だいぶ外も暗くなっている。
OBの為に遅くまで開けてくれているようだが、さすがにそろそろ帰らないと迷惑が掛かるかもしれない。
稲生達は急いで件のトイレに向かった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/d1/32986b3b0215e3b247b60bfb14c82212.jpg)
「……いませんね」
煌々と輝く蛍光灯の明かりの割に、あの時よりも若干外が暗くなったからなのか、少しトイレ内が暗くなったような気がする。
「そんなはずは……」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/f6/6ba902df2cebb3a6418a0f23cb041f8c.jpg)
「おい、坂下2号、おるか!?」
大河内は薄暗い個室の中も開けた。
しかし、トイレの中に坂下の姿は無かった。
「……おい、ユタ。こら、まずいんやないか?」
「う、うん……」
稲生は困惑したように頷いた。
「大丈夫ですよ。きっと、行き違っただけかもしれませんよ?」
と、福田。
「私達が階段を上っている間、坂下君は別の階段を下りたのかもしれません」
「なるほど、そうか」
稲生達はそれで納得した。
「それじゃ、早く戻りませんと。坂下君が僕達がいないと知って、びっくりしちゃいますよ」
と、太田が慌てたように言った。
それはそれで面白いサプライズのように思えてしまったが、さすがにそれは悪趣味だ。
「そやな。取りあえず、戻ろか」
大河内も頷いた。
皆して逃げるようにそのトイレから出て、新聞部の部室に戻る。
廊下やトイレの中は暑かったが、エアコンのある部室は涼しかった。
だが、そこに坂下の姿は無かった。
「……いないね」
福田が不安そうに言った。
「やっぱ、行き違ったんとちゃう……か」
「どうする?もう1度、探しに行ってみようか?」
「いや、でも……」
「また皆で行ってしまったら、また行き違いになっちゃうよ。しばらく、待ってみたらどうでしょうか?」
と、太田が言った。
「そ、そうですね。そうした方がいいでしょう」
と、稲生も同調した。
だが、待てど暮らせど坂下が戻ってくる様子は無い。
時々廊下に出て様子を見てみたが、坂下が戻ってくる気配は一向に無かった。
「……あいつ、帰ったんちゃうかな?」
と、大河内。
「ええっ!?」
「トイレから戻ったんはいいけど、俺らがおらんことに気づいて、帰ってしまったかもしれんな」
「でも、僕達は荷物をおいたままなんですよ?帰ってしまったと思いますかね?」
太田が反論した。
「あっ、もしかしたら、急用があって帰っちゃったのかもよ?」
福田が思いついたかのように言った。
「よくあるじゃない?」
「そんな都合良くあるかいな」
「坂下君……お兄さんの方ね、急用があって来れないから代理である蓮君を寄越してきたわけでしょう?もしかしたら、そのお兄さんに呼ばれて行ってしまったのかも」
と、稲生。
「あー、なるほどなぁ。だったら、連絡くらいくれっちゅうんだ。よし、俺から電話したるけん」
大河内は自分のスマホを取り出した。
「おー、坂下か?えらい久しぶりやなぁ。大河内やけんど、そっちに弟は帰っちょるか?……いやな、あいつ途中でいなくなったけん、もしかしたら家に帰っちょった……あ?帰ってない?……は?何言うてんの?」
段々と雲行きが怪しくなってきた。
そして、あの大河内の手が震えていた。
「…………」
ついに無言で電話を切ってしまう。
「あ、あの、大河内君……。坂下君は何て?」
「あいつ……何モンや?」
「は?」
「確かに坂下には蓮っちゅう弟がおるらしいんやけど……。3日前から交通事故で入院中やて」
「はあ!?」
「ええっ!?」
「うそ!?」
すると、さっきまでいたのは一体……?
「ど、どど、どうしよう?ぼ、僕……帰ってもいいかな?」
太田がガタガタと震え出した。
「……今、帰らない方がいいかもしれない」
稲生はそう言った。
「な、何でだい!?一緒に帰ろうよ!?ほら、もうこんな時間だし、そろそろ帰らないと学校にも迷惑が掛かるし!」
「落ち着けや、太田。もしかしたら、これこそが罠かもしれんよ?」
「罠だって!?ここにずっといる方が危険じゃないか!今ならまだ若干外も明るい!明るいうちに帰る方がベストだよ!」
「逢魔が時っちゅう言葉を知らんのか?完全な夜よりも、その直前の夕方……夕方と夜の境目の時間が1番危険っちゅうけんな?もう少し様子を見た方……が!」
「僕は耐えられない!本物の幽霊が出たんだよ!?こんな所でぐずぐずしてる場合じゃない!僕は帰らせてもらうよ!」
「太田ァ!!」
しかし、太田は大河内の制止も聞かず、自分の荷物を持って部室を飛び出して行ってしまった。
彼は薄暗い廊下の奥に消えて行った。
「アホや、あいつ。死亡フラグに引っ掛かりまくりやけんな」
「でも、どうする?太田さんじゃないけど、僕達もずっとこのままってわけにも……」
「取りあえず、俺と福田で話をしよっか。ユタ、お前はどっちから話を聞きたい?」
「ええっ!?えーと……それじゃ、大河内君……かな」
「よし、そうこなくちゃな。それじゃ……」
大河内はコホンと咳払いをした。
しかし、
「……その前に一服させてや。なぁに、職員用喫煙所ならすぐそこやし、自販機でジュース買いに行くくらいなら、死亡フラグでも何でもないやろ。な?」
「はあ……」
ま、確かにここらで一息入れたいところだが、それにしても、太田は坂下蓮のことを幽霊だと言っていたが、それは厳密には違うだろう。
確かに電話口の坂下兄は弟が事故で入院中だと大河内に言っていたらしいが、死んだとは一言も言っていない。
死んでないのに、幽霊になんかなれるはずがない。
強いて言うなら幽体離脱とか、生き霊とかがあるが、それらが他人に害を及ぼすなんて話は聞いたことが無い。
他人に害を及ぼすのは、石上も言っていた悪霊や死霊の類だ。
ただ、もっと怖い事を考えるとするならば、坂下蓮の姿を象った何らの魍魎の類と言えなくもないが……。
しかし、このまま急いで帰っても、何だか稲生は嫌な予感がするのだ。
まだ、誰も魔女の話をしようとしていない。
恐らく、それをするとするならば、福田ではないだろうか。
稲生はそう思って、大河内の後をついて自販機で飲み物を買った。