報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「4話目・坂下蓮?」

2016-08-03 19:14:57 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月22日19:15.天候:曇 東京中央学園上野高校]

 稲生達は嫌な予感がして、先ほど坂下が用を足す為に居残ったトイレへ向かった。
 だいぶ外も暗くなっている。
 OBの為に遅くまで開けてくれているようだが、さすがにそろそろ帰らないと迷惑が掛かるかもしれない。
 稲生達は急いで件のトイレに向かった。

 

「……いませんね」
 煌々と輝く蛍光灯の明かりの割に、あの時よりも若干外が暗くなったからなのか、少しトイレ内が暗くなったような気がする。
「そんなはずは……」

 

「おい、坂下2号、おるか!?」
 大河内は薄暗い個室の中も開けた。
 しかし、トイレの中に坂下の姿は無かった。
「……おい、ユタ。こら、まずいんやないか?」
「う、うん……」
 稲生は困惑したように頷いた。
「大丈夫ですよ。きっと、行き違っただけかもしれませんよ?」
 と、福田。
「私達が階段を上っている間、坂下君は別の階段を下りたのかもしれません」
「なるほど、そうか」
 稲生達はそれで納得した。
「それじゃ、早く戻りませんと。坂下君が僕達がいないと知って、びっくりしちゃいますよ」
 と、太田が慌てたように言った。
 それはそれで面白いサプライズのように思えてしまったが、さすがにそれは悪趣味だ。
「そやな。取りあえず、戻ろか」
 大河内も頷いた。

 皆して逃げるようにそのトイレから出て、新聞部の部室に戻る。
 廊下やトイレの中は暑かったが、エアコンのある部室は涼しかった。
 だが、そこに坂下の姿は無かった。
「……いないね」
 福田が不安そうに言った。
「やっぱ、行き違ったんとちゃう……か」
「どうする?もう1度、探しに行ってみようか?」
「いや、でも……」
「また皆で行ってしまったら、また行き違いになっちゃうよ。しばらく、待ってみたらどうでしょうか?」
 と、太田が言った。
「そ、そうですね。そうした方がいいでしょう」
 と、稲生も同調した。
 だが、待てど暮らせど坂下が戻ってくる様子は無い。
 時々廊下に出て様子を見てみたが、坂下が戻ってくる気配は一向に無かった。
「……あいつ、帰ったんちゃうかな?」
 と、大河内。
「ええっ!?」
「トイレから戻ったんはいいけど、俺らがおらんことに気づいて、帰ってしまったかもしれんな」
「でも、僕達は荷物をおいたままなんですよ?帰ってしまったと思いますかね?」
 太田が反論した。
「あっ、もしかしたら、急用があって帰っちゃったのかもよ?」
 福田が思いついたかのように言った。
「よくあるじゃない?」
「そんな都合良くあるかいな」
「坂下君……お兄さんの方ね、急用があって来れないから代理である蓮君を寄越してきたわけでしょう?もしかしたら、そのお兄さんに呼ばれて行ってしまったのかも」
 と、稲生。
「あー、なるほどなぁ。だったら、連絡くらいくれっちゅうんだ。よし、俺から電話したるけん」
 大河内は自分のスマホを取り出した。
「おー、坂下か?えらい久しぶりやなぁ。大河内やけんど、そっちに弟は帰っちょるか?……いやな、あいつ途中でいなくなったけん、もしかしたら家に帰っちょった……あ?帰ってない?……は?何言うてんの?」
 段々と雲行きが怪しくなってきた。
 そして、あの大河内の手が震えていた。
「…………」
 ついに無言で電話を切ってしまう。
「あ、あの、大河内君……。坂下君は何て?」
「あいつ……何モンや?」
「は?」
「確かに坂下には蓮っちゅう弟がおるらしいんやけど……。3日前から交通事故で入院中やて」
「はあ!?」
「ええっ!?」
「うそ!?」
 すると、さっきまでいたのは一体……?
「ど、どど、どうしよう?ぼ、僕……帰ってもいいかな?」
 太田がガタガタと震え出した。
「……今、帰らない方がいいかもしれない」
 稲生はそう言った。
「な、何でだい!?一緒に帰ろうよ!?ほら、もうこんな時間だし、そろそろ帰らないと学校にも迷惑が掛かるし!」
「落ち着けや、太田。もしかしたら、これこそが罠かもしれんよ?」
「罠だって!?ここにずっといる方が危険じゃないか!今ならまだ若干外も明るい!明るいうちに帰る方がベストだよ!」
「逢魔が時っちゅう言葉を知らんのか?完全な夜よりも、その直前の夕方……夕方と夜の境目の時間が1番危険っちゅうけんな?もう少し様子を見た方……が!」
「僕は耐えられない!本物の幽霊が出たんだよ!?こんな所でぐずぐずしてる場合じゃない!僕は帰らせてもらうよ!」
「太田ァ!!」
 しかし、太田は大河内の制止も聞かず、自分の荷物を持って部室を飛び出して行ってしまった。
 彼は薄暗い廊下の奥に消えて行った。
「アホや、あいつ。死亡フラグに引っ掛かりまくりやけんな」
「でも、どうする?太田さんじゃないけど、僕達もずっとこのままってわけにも……」
「取りあえず、俺と福田で話をしよっか。ユタ、お前はどっちから話を聞きたい?」
「ええっ!?えーと……それじゃ、大河内君……かな」
「よし、そうこなくちゃな。それじゃ……」
 大河内はコホンと咳払いをした。
 しかし、
「……その前に一服させてや。なぁに、職員用喫煙所ならすぐそこやし、自販機でジュース買いに行くくらいなら、死亡フラグでも何でもないやろ。な?」
「はあ……」
 ま、確かにここらで一息入れたいところだが、それにしても、太田は坂下蓮のことを幽霊だと言っていたが、それは厳密には違うだろう。
 確かに電話口の坂下兄は弟が事故で入院中だと大河内に言っていたらしいが、死んだとは一言も言っていない。
 死んでないのに、幽霊になんかなれるはずがない。
 強いて言うなら幽体離脱とか、生き霊とかがあるが、それらが他人に害を及ぼすなんて話は聞いたことが無い。
 他人に害を及ぼすのは、石上も言っていた悪霊や死霊の類だ。
 ただ、もっと怖い事を考えるとするならば、坂下蓮の姿を象った何らの魍魎の類と言えなくもないが……。
 しかし、このまま急いで帰っても、何だか稲生は嫌な予感がするのだ。
 まだ、誰も魔女の話をしようとしていない。
 恐らく、それをするとするならば、福田ではないだろうか。
 稲生はそう思って、大河内の後をついて自販機で飲み物を買った。
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“大魔道師の弟子” 「3話目・太田友治」

2016-08-03 14:35:44 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月22日18:30.天候:曇 東京中央学園上野高校]

 どれだけの時間、何をしていたのか……。
 意識を失っていた稲生は、ふと目が覚めた。
 視界の中には心配そうに覗き込む、あのメンバー達がいた。
 大河内、太田、福田、荒川、そして坂下。
 石上の姿は無かった。
「僕は……?石上さんは……?」
 すると大河内が眉を潜めて言った。
 トレードマークの薄いサングラスを掛けている。
 天井を見上げると、レンズが照明に反射して濃いサングラスのようになる。
「石上なら俺達で取り押さえたき、安心せい」
 太田も言う。
「だけど、僕達が取り押さえるのが遅かったら、キミは間違い無くカッターの餌食になっていただろうね。危ないところだったよ」
 荒川がポツリと言った。
「……あなたが気絶している間、彼女は話してくれましたよ。事件のことを……。話に出て来た坂本成人君っていうのは、彼女の弟さんだったそうです。あの事件の数年前には、既に両親が離婚してしまって、それぞれ片親ずつに引き取られたんだそうです。それで、名字が違ったんですね。それでも仲の良さは変わらず、いつも一緒に登下校するほどの仲だったそうです。悪霊が原因かどうかは分かりませんが、彼がイジメが原因で学校を辞めて、自殺までしてしまったのもまた事実のようです。だからこそ、許せなかったんでしょうね。弟君をイジメた張本人達と、それを助けなかった周囲の人達が……。もちろん、稲生君が宗教の勧誘をしていたから悪霊が集まったなんてことは、ただの言い掛かりでしょう。でも、それほどまでに、彼女もまた追い詰められていたということなんだと思います。そこは、察してあげるべきかと」
「……はい」
 稲生はただ頷くしか無かった。
「ど……どうしましょう?」
 坂下が不安な顔で言った。
「このまま……このまま、この会合を続けてもいいんでしょうか?」
「そうやなぁ……。稲生、お前、どうする?」
「えっ?」
「この時点では、お前が1番ダメージ食らってるはずや。お前の意見を聞くけんね。お前が帰りたいんなら、お開きにするき。坂下1号には、俺から言うとくけん」
「えーと……」

 1:続ける
 2:もう帰る

「……いや、続けよう」
「大丈夫なのかい?無理しなくていいんだよ?」
 太田が稲生を心配そうに見る。
「……大丈夫です。あの時もそうだったじゃないですか。七不思議の会合を途中で止める方が、却って不吉なことに巻き込まれるって。だから、続けた方がいいと思うんです」
「……分かった。だけど稲生君、もしどうしても具合が悪くなったら早めに言うんだよ?」
 と、福沢が言った。
「分かった」
 稲生は頷き、さっきまで座っていた椅子に座り直したのだった。

「それじゃ、次は……あなたにお願いします」
 坂下は気を取り直し、太田に声を掛けた。
「うん、分かったよ。今度は僕の番だね。僕は太田友治。当時、3年10組だった。僕の怖い話の専門はね、トイレにまつわるものだけなんだよ。学校の怪談なんかでも、トイレが舞台の話は欠かせないだろう?学校以外でも呪われたトイレだとかは、結構有名なもんさ。で、この学校にも当然そういう話が沢山ある。この前は僕がこの学校を受験した時に巻き込まれた怪現象の話をしたけども、今回は別の話をしようと思うんだ。いや、なに……。話というか、ちょっと実験してみたくてね。ここに集まってる皆は、強い霊感の持ち主なんだよね。だからこそ、こうして皆に話ができる怪奇現象の体験なんかをよくしている。……あまり、良いことではないかもしれないけれど。そして坂下君、キミも何だかお兄さん譲りの強い霊感を持っている気がしてならないんだ。キミのお兄さんも、なかなかの霊感の持ち主だったからね。そこで実験というのはね、この学校のトイレを巡ってみようというものだ。その中でも強い霊気を感じてみたら、その霊気の元となっている物を探ってみようっていう魂胆だ。どうだい?やってみるかい?」
「はあ……それじゃ……」
 坂下は頷いた。
 というより、太田の気力に押されたといった方が正しかったかもしれない。
「ありがとう。それじゃ、皆さんも一緒に行きましょう」

 この学校の新校舎は東西に分かれている。
 今いる新聞部の部室は東校舎だ。

 

「ここが部室から1番近い東校舎1階のトイレだよ。どうだい、坂下君?何か感じるかい?」
「……いえ、別に何も」
「そうか。まあ、いきなり見つけたりしたら、それはそれでつまらないけどね。よし、分かった。次に行こう」

 今度は西校舎のトイレだ。

 

「ここが西校舎のトイレ……プッw」
 トイレに入るなり、太田が吹き出した。
「どうしたんですか、太田さん?」
 稲生が聞くと、太田が更なる笑いを堪えるようにして言った。
「いや、見てよ、これ」
 太田が指さしたところを見ると、奥の壁には、誰が貼ったか『禁煙』のマークが貼られていた。
 ここは高校だ。
 普通、誰もタバコなんか吸わないだろう。
「……まあ、俺は吸ってたけんね。俺みたいなヤツへの当てつけやけんな」
 大河内が苦笑した。
「てか、俺が使ってたトイレやけん。だから貼られたんたか?ヒャハハハ!」
「……次に行った方がいいかもしれないね」
 稲生は呆れて、メンバー達を促した。
 いくら何でも、不良の喫煙所と化していたトイレに幽霊なんか出るわけがないだろうと思った。

 

 階段で2階に上がる。
 2階のトイレでも、何も感じなかった。
 こうして稲生達は順繰りに、4階のトイレまで確認した。
 だが、坂下は何も霊気や妖気は感じなかったという。
「……そうなのかい?」
 太田は残念そうな顔をした。
「まあ、魔界の穴は僕達で塞いじゃいましたしね。あれ以来、霊気も妖気もほとんど無くなってしまいましたから」
 稲生は小さく笑った。
「まあ、平和でいいですね。こうして今でも、稲生君や大河内君の努力が実っているんですから、これでよしとしましょう」
 荒川が小さく言った。
「……だといいですね。じゃ、戻りましょうか」
「おい、太田。これじゃ、ネタにならんき、改めて別の話してくれや」
「分かりましたよ。ご足労掛けて、すいませんでした」
「あ、あの……」
 そこへ坂下が止めた。
「ん?何だい?やっぱり妖気を感じるのかい?」
「いえ、そうじゃなくて……。トイレを回っていたら、したくなってきちゃって……。すいませんけど、先に戻っててもらえますか?」
「はははっ、なるほど。ま、無理も無いよね。分かった。じゃ、僕達は戻って待ってるから。慌てなくていいよ。ゆっくりして来てね」
 太田はにっこり笑いながら言うと、トイレを出て行った。
 稲生達も後に続く。

 

 再び階段を部室のある1階へ下りながら、稲生が聞いた。
「あの、太田さん……」
「何だい、稲生君?」
「確かにあの時、僕達は魔界の穴を塞いで、それ以来、怪奇現象は無くなったと言います。実際、あのトイレでは僕は何も感じませんでした。因みに太田さんはあのトイレについて、どんな噂を聞いていたんですか?」
「……その話を部室に戻ってからしようと思ってたんだけどね。まあ、いいよ。要は、異次元に通じるトイレとでも言おうかな」
「えっ?」
「いや、最初その話をしようかと思っていたんだ。だけど、稲生君が先に話をしただろ?で、その時、キミは旧校舎の階段の鏡がそうだって話をしたじゃないか?」
「ええ」
「こりゃ先を越されたなと思って、それだったら、坂下君にどのトイレにするか選んでもらおうと思ってね。結局この学校のトイレって、全部が全部、最低1つの噂話があるからさ。坂下君が霊気を感じるトイレを選んでくれたら、そこのトイレにまつわる話をしようかと思っていたんだ」
「そうだったんですか」
「だけど無いって言うからさ。で、最後に選んだあのトイレを使ってるだろ?もう現象も起こらないんじゃ、どうしようも無いけれども、一応そういう噂があるよって話をしようか思う」
「なるほど」
「……ちょい待ち」
 大河内が怪訝な顔をした。
「何だい?」
「それ、霊現象とかとちゃうよ。あくまで稲生は、魔界と通じる鏡の話をしたんや。それで俺らは、確かにその穴を塞いだ。だけど、塞いだのは旧校舎の鏡だけだ。4階のトイレのことなんて、ちっとも知らんき、俺達は何も手ェ付けとらんよ?」
 ……何か嫌な予感がした。
 どうする?戻って確かめてみるか?

 1:さっきのトイレに戻って確かめる
 2:部室に戻って待つ
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“大魔道師の弟子” 「2話目・石上涼」

2016-08-03 10:18:38 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月22日17:15.天候:曇 東京中央学園上野高校 新聞部部室]

 坂下:「えーと……それでは、次の人は……あなたにお願いできますか?」

 坂下は今度は2人いるうちの1人の女性に顔を止めた。
 女性は大きく頷いた。

(ここから石上の一人称になります)

 私が2番目ね。分かった。
 その前に、坂下君に自己紹介をしておきましょうか。
 私の名前は石上涼。この会合があった当時、3年3組だったね。
 ところで坂下君、あなたは1年生だったよね。
 いきなりだけど、今あなたは誰かにいじめられてたりとかしてない?

 1:特にいじめられていない。
 2:実はいじめられている。
 3:むしろいじめる側です。
 4:どうしてそんなこと聞くんですか?

「いえ、特にそんなことはないですけど……」
 そう。あなたっておとなしそうなタイプに見えるから、もしかしたらと思ったんだけど、それは良かったね。
 でもね、この学校で生きて行くなら、気をつけなさいよ。
 この学校のイジメはちょっと特殊だから。
 何がって?悪霊よ。
 ……今、笑った?
 何言ってんだ、コイツって顔しなかった、今?……してない?まあ、いいわ。
 笑ったところで、今度はあなたがいじめられる番になるだけだから。
 この学校のイジメはね、悪霊が獲物と決めた者を追い詰めるため、何でもない生徒に取り憑いて、その獲物をイジメさせるんだよ。
 そうして自殺に追いやることで、仲間を作ろうとするの。
 ……ところで、稲生勇太君。
「はい」
 あなた、2年3組だったって言ったね?
 1年生の時は何組だった?確か、5組じゃなかったかな?
「あ、はい。確か、そうです」
 そう。やっぱりね。
 あなたが1年5組だった頃、同じクラスに坂本成人ってコがいたんだけど、知ってる?
「坂本……どこにでもいる名字ですからねぇ……」
 あなたがいたクラス、呪われてたんだよ。
 だって、悪霊が数人の生徒に取り憑いて、その坂本君をイジメさせていたんだからね。
 あなた、知ってる?
「えーと……すいません。あの時は、それどころじゃなくて……」

(今度は稲生勇太の一人称になります)

 僕は高校生になってすぐに顕正会に入信し、浅井会長を唯一無二の師匠と仰ぎ、何としてでも学校広布をしようと躍起になっていた。
 確かにあの時、坂本君って人がいたような気がする。
 だけど、僕はあまり覚えていない。
 多分、僕の折伏……ま、顕正会のは折伏という名の勧誘だけど、それに乗ってくれなかったから、諦めてさっさと次の人を勧誘しに行ったからだろう。
 今の顕正会員は1人の対象者をターゲットにすると、とことん話を何時間を詰めていくという方式を取っているが、当時の僕は脈無しと分かると、すぐ次の人に移っていった。
 それだけ対象者が豊富だったというのもある。
 だけど、どうして石上さんはそんな話をするんだろう?
 代行とはいえ、主催者は坂下君なんだから、坂下君に話せばいいのに……。
 僕が訝しがるのもお構い無しに、石上さんは話を続ける。

 話を聞いていくうちに、段々と話が変な方向に向かって行く。
 坂本君がいじめられているのにも関わらず、誰も助けてくれなかったのは、皆に悪霊が取り憑いていたからだとか、色々……。
 何かこの話を聞いていくうちに、僕はマリアさんのことを思い出した。
 彼女もまたイギリスにおいて、東欧からの移民だということでヒドいイジメを受けていたわけだが、その首謀者達が“魔の者”に取り憑かれていたからという話。
 それに似ているなと思った。

「……彼はついに、夏休みに入るのを待つことなく、学校を辞めたの。稲生君、あなた、それは知ってた?」
「それが、彼が学校に来なくなったなということくらいで……。彼が学校を辞めたというのは、夏休みが終わってから知りました」
「そう。そんなものだよね。あなたもまた悪霊を取り憑かれていたんですもの。いなくなって、せいせいしたよね?」
「いえ、そんなことは……」
「私、知ってるもの。あなたもまた坂本君がいなくなって、喜んでたうちの1人だって」
「な、何のことですか!?」
 確かに夏休みが明けて、僕は坂本君が学校を辞めたという話を聞いた。
 その時、先生から聞いた理由は、病気が重くなって、療養の為に辞めたということだった。
 そのことを当時所属していた隊の上長に話したことがある。
 僕の折伏を断り、せっかくの仏種を台無しにした罰であると。
 現証がピタリと当たって、驚いていたことがあった。
 だから僕はますます一層、坂本君の事例を出して、顕正会への入信を皆に促していたことがあった。
 でもそれはあくまで事例を出しただけのことであって、坂本君の退学を喜んだわけじゃない。
「……まあ、いいわ。でね、その話には続きがあるの。学校を辞めた後の坂本君、どうなったかなんて知らないよね?彼ね、家でも悪霊と戦い続けたの。悪霊は家にまでついてきて、ついには坂本君に取り憑いた。彼がなかなか自殺しようとしなかったから、悪霊もしびれを切らしたんでしょうね。直接、取り殺そうとしたみたい。そこまでされたら、さすがの彼も、もうどうすることもできなかった。結局彼は部屋にあったカッターナイフで、自分の首を何度も突き刺したり、切ったりしたの」
 室内の空気が一気に冷たくなった。
「……親が見つけた時には、既に部屋中が血の海だったというね。でもおかげで彼は悪霊から解放された。もっとも、友達にされただけかもしれないけど……。……どうしたの、稲生君?あなた、顔色が悪いよ?今さらながら、罪の意識が出てきたのかな?」

 1:僕は悪くないです。
 2:今思えば、僕も……。

「僕は悪くないです。そりゃ、顕正会はカルト教団で、今からすれば絶対にお勧めできません。でも……逆にあの時、僕の折伏に乗ってくれれば、もしかしたら何とかなったかもしれない。僕は顕正会経由で今のお寺に入れたクチだから、けしてそのルートも悪くなかったと思うんです」
「……まだ分からないの?」
「えっ?」
 石上さんは僕を蔑むような目で見据えると、スカートのポケットの中に手を入れた。
「その悪霊を呼んだのは、あなたよ!」
「は!?」
「お前が変な宗教を弘めようとしたから、悪霊が寄ってきたんだ!」
 そして、スカートのポケットの中から取り出したのは大型のカッターナイフ。
「お前だ!お前が成人を殺したんだ!責任を取れっ!!」
 そして、僕に飛び掛かるとキラッと光るカッターナイフを振り上げた。

 そんな……!まだ誰も、魔女の話をしていない……!なのに、どうしてこうなるんだ……!?

 僕は椅子から落ちた衝撃で頭を床に打ってしまい、意識が遠くなった……。
                                                   バッドエンド?
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