報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「暴走アンドロイド」 2

2016-08-26 19:20:37 | 日記
[8月27日04:32.天候:雨 埼玉県さいたま市大宮区 敷島家]

 敷島は金曜日の夜に家に帰ってきて、月曜日の朝に出て行くという生活スタイルを取っている。
 平日は会社の近くのマンスリーマンションを借りて、そこで暮らしている。
 ということは、今はさいたま市内の家にいるというわけだ。
 家と言っても、そこもまたマンションである。
 敷島が1人で住む(といっても、シンディの監視付き)都内のマンションとは違い、こちらは3LDKSあった。
 サービスルームの部分は、シンディやメイドロイドの二海の控室にしている。
 そのマンションの中、リビングに設置されている固定電話が鳴り響いた。
 充電が完了し、時間まではスリープ状態になっている二海が起き上がって電話に出る。
 シンディもそれで起動した。
「はい、敷島でございます」
 二海が電話を取るのを見て、シンディは腕組みをした。
(こんな早朝に、一体誰から、何の用だろうねぇ……?)
「……は?敷島社長か、アリス博士でございますか?あいにくですが、ご主人様方はまだお休み中で……。え?いえ、ですが……」
 シンディはチョイチョイと右手の人差し指で、二海を呼んだ。
 そして、パッと電話を替わる。
「ご用件でしたら、後で社長方に言づけしておきますよ?」
{「ソレドコロデハアリマセン!」}
「あれ?あんた、マリオじゃないの?フザけた内容だったら、ブッ壊すわよ?」
{「違ウンデス!」}
 アリスが独自モデルで製造したバージョン5.0は2機、それも兄弟機である。
 電話の相手は、その兄機であるマリオであった。
 確か今、マリオは弟機のルイージと共にDCJ秩父研究所の臨時警備に当たっているはずだ。
{「研究所ガ破壊サレマシタ!セキュリティロボットは全滅!当直ノ人間ノ皆サンモ、重軽傷デス!」}
「はあ!?誰がそんなことしたの!?」
{「ジャニスとルディでス!脱走……イヤ、脱獄デス!」}
「嘘だったらブッ壊すからね?」
{「本当デス!本当デス!」}
 マリオとルイージはセキュリティロボットの中で唯一無事だった。
 ジャニスとルディは研究所から脱走することを第一に考えていたので、それをいち早く邪魔しに来たセキュリティロボットは全滅させても、泊まり込んでいる人間の警備員や研究員までは全員殺すつもりは無かったらしい。
 DCJ社内のマニュアルでは、こういう非常時はロボットに全て任せ、人間は自らの命を最優先に行動するように定められている。
 マリオとルイージにあっては、特にそういった人間達を第一優先で守るよう命令されていたので、却って助かった原因になったらしい。
 おかげで、現場の人間は全員重軽傷であるものの、死者は1人も出なかったという。

[同日05:35.天候:雨 JR大宮駅埼京線ホーム→JR川越線541K電車内]

〔おはようございます。今度の21番線の電車は、5時35分発、各駅停車、川越行きです〕
〔まもなく21番線に、各駅停車、川越行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕

 地下ホームに自動放送の音声が響く。
 トンネルの向こうから、強風と轟音を立てて電車が接近してきた。
 その風で、シンディのスリットの深いロングスカートが靡いた。
 スリットの切れ込みは、かなり膝丈の上の部分からある。

〔おおみや、大宮。ご乗車、ありがとうございます〕

 週末の始発電車ということもあってか、乗客はそんなに多くは無い。

〔この電車は川越線、各駅停車、川越行きです〕

 アリスはずっとさっきから、社内貸与のタブレットをいじくり回して、何度も最新情報を得ようとした。
「アリス、今はどうせ分からないよ。それより今は、着くまで寝てろ」
「そんなこと言ったって……。あ、あの化け物が脱走したのが本当だったら、大変なことになるわ!」
「まあ、そうなんだけど……。とにかく、DCJの関係者が車で東飯能駅まで迎えに来てくれるらしい。その時、また新たな情報があるかもしれないじゃないか」
「……!」
 そんなことをしている間に乗務員交替が行われ、すぐ発車の時間になる。

〔21番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 緑帯の電車は3打点チャイムのドアを閉めようとし、2回ほど再開閉を繰り返した。
 そして、ようやく走り出す。

〔この電車は川越線、各駅停車、川越行きです。次は、日進です。……〕

 まるで日号みたいな名前の駅だが、少なくともウィキペディア内に限り、日進という名のお坊さんは日蓮宗にも日蓮正宗にもいないもよう。
 電車は轟音を立てて、地下トンネル内を進む。

〔「……終点、川越には5時55分の到着です。終点の川越で、武蔵高萩、高麗川方面、八高線直通の各駅停車、八王子行きに連絡を予定しております。……」〕

 地上に出ると、雨粒が遮光フィルムの貼られた窓ガラスに当たる。
 敷島とアリスは緑色の座席に腰掛けているが、シンディは護衛の為か、その白い仕切り板の横に立っている。

{「シンディ」}
(あ、姉さん、やっと起きた?)
{「タイマーが・狂っている。後で・直さなければ・ならない」}
(元々今はバッテリーの節約で、そんなに早起きするような設定にはなっていないんでしょ?)
{「用件は・知っている。DCJ研究所が・襲われた件・だな?」}
(ロイドはすぐに用件を送信できるから、楽でいいわ。正確には外部から襲われたんじゃなく、ジャニスとルディが脱走したってことね)
{「私も・協力する」}
(多分、声が掛かるからその時頼むわよ)

[同日05:55.天候:雨 JR川越駅→川越線661H電車内]

〔まもなく終点、川越です。川越線、武蔵高萩、高麗川方面と東武東上線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
〔「川越駅3番線の到着、お出口は左側です。今度の川越線、高麗川方面の電車は向かい側4番線から、6時ちょうどの発車です。八高線直通、各駅停車の八王子行きです。……」〕

 電車が減速してポイントを渡り、1番東武東上線に近いホームに入る。
 1番線と2番線は東武東上線が使用し、残りの3番線以降をJRが使っている。

〔かわごえ〜、川越〜。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 乗り換え先は、長いホームの真ん中にちょこんと止まっている4両編成である。
 なので、10両編成の先頭車や最後尾に乗っていると、この高麗川方面行きの電車がいるかどうかも分からないことがある。
 敷島達は4両編成の先頭車内に乗り込んだ。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の4番線の電車は6時ちょうど発、各駅停車、八王子行きです〕

 まだ発車まで数分あるので、敷島はホームの自動販売機で缶コーヒーを買った。
 そういえば、朝食がまだだった。
「シンディ、お前はアリスに持って行ってやってくれ」
「分かりました」
 敷島はシンディに、ボトル缶入りのコーヒーを持って行かせた。
 パカッとプルタブを開け、中身を一気に飲む敷島。
(それにしても、ジャニスとルディが脱走したってことは、こりゃ大変なことになるぞ……!)

 ある程度は修理して、あとは実験用にするつもりだったという。
 さすがに再び稼働させて、シンディ達のようにはできなかった。
 メモリーだけでは解析不能だった増長の経緯について、本人達と実際に会話できるようになるまで直してやる必要があったらしい。
 その後で、改めて処分するかどうかを決める。
 その矢先だった。

〔「お待たせ致しました。6時ちょうど発、各駅停車の八王子行き、まもなく発車致します」〕

 敷島が缶コーヒーを飲み干して車内に戻るのと、発車の放送が流れるのは同時だった。
「あいつらを歩けるようになるまで直したのか?」
 と、アリスに聞いた。
「違うわよ。アタシは上半身だけ直したつもり。それなら、歩けるわけが無いからね」
 3打点チャイムを流して閉めていた埼京線側の電車だったが、山手線の中古電車を改造したものにあっては、違う音色のドアチャイムが流れてドアが閉まる。
「誰かが足まで直したのかもしれないね」
「どうしてそんなことするんだよ?」
「そんなのアタシが知るわけないじゃない!」

 電車は降りしきる雨の中、更に埼玉の奥地へと単線の線路の上を踏みしめるように走り出した。
コメント (3)
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“Gynoid Multitype Cindy” 「暴走アンドロイド」

2016-08-26 10:17:49 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月26日11:00.天候:晴 東北工科大学 研究棟]

 大学は夏休みであり、講義は無い為に学生の姿はあまり無いが、平賀などの研究者の姿はあった。
 そんな平賀の研究室に、1つの宅配便が届いた。
 送り主は敷島孝夫。
 中身はセキュリティトークンだった。
 事の経緯はこうである。
 昨日、ようやくデイライト・コーポレーション・アメリカの研究所から連れ出したマーメイドロイド、マーティの転売先が決まった。
 そこで改めて整備を行っていたところ、体内から見つかったのがセキュリティトークンであった。
 敷島エージェンシーでは解析ができない為、それを平賀に依頼してきたのである。
 因みにマーティも何故自分の体にそれが入っていたのか知らないし、シンディに見せても知らないという。
 もしかしたら、ウィルスにまみれているかもしれないので、ヘタにシンディに差し込むこともできない。
 そこで、そういった解析に長けている平賀の出番というわけである。
(といっても、実はこういうのは自分ではなくて、ナツの方が得意なんだけどな……)
 セキュリティトークンの見た目はオレンジ色で、人差し指大サイズのUSBメモリのように見える。
 だが、規格が合わないのか、一見してUSBに見えても、それをパソコンに刺そうとしても刺さらない。
 アメリカ製であることから、そもそもが日本とは規格が合わないのだろう。
(これは後で、ナツに任せよう)
 ナツとは平賀の妻で、平賀奈津子のことである。
 平賀とは同じロボット工学の研究者ではあるが、大学は別。
 但し、南里研究所時代に繋がりはあった。
 と、そこへ、平賀の机の上の固定電話が鳴った。
「はい、もしもし。……ああ、キミか。どうした?」
 同じ研究室の研究員からである。
「……えっ、取材?……あっ、そうか。もうそんな時間か。今更アメリカの事件のことについて、もうネタなんか無いのになぁ……。ああ、分かったよ。今行く」
 平賀は電話を切った。
(ああいうのは自分じゃなくて、バス特攻した敷島さんに聞けばいいのにな)
 平賀は研究室を出ると、新聞記者の待つ1階エントランスに向かった。

 この研究棟も築20〜30年は経っていて、いい加減、老朽化が目につくようになっている。
 新館もあるのだが、平賀達はここの旧館を宛がわれている。
 理由は……まあ、色々あるのだが。
 3階建ての研究棟。
 階段は当然あるのだが、エレベーターも1基ある。
 階段は非常階段も兼ねており、普段は防火戸が閉まっているせいか、何だかカビ臭い。
 それを嫌った平賀は、エレベーターで1階へ降りた。
 3階エレベーターの横には、何故だか壁を修理した跡がある。
 これはメイドロイド七海が開けた穴。
 日本初のメイドロイドを完成させた平賀は、この研究棟でもよく起動実験を行った。
 だがこの七海、天然ドジっ子キャラと言えば聞こえはいいが、よく平賀の命令を聞き間違えた。
 平賀の命令を聞いた七海はそれを文字変換して、命令の内容を把握するのだが、しょっちゅう漢字変換を間違えた。
 また、主人の求める内容を読み取る機能(空気を読む)を付けたのだが、これがまた曲解や誤解が相次いだ。
 研究棟の壁に穴を開けたのも、そういった暴走の一環である。
 大学側から、平賀の研究チームだけ未だに旧館なのは、そういったペナルティもあると思われる。
 音声案内も何も無いエレベーターを降りると、入口の管理人室のすぐ横に2人の男が立っていた。
「平賀教授、お忙しいところ、ありがとうございます」
「いえいえ。ただ、自分も色々やることがあるので、なるべく手短にお願いしたいのですが」
「分かっております。私は仙台日報文化部の石田と申します。こちらはカメラマンの吉村です」
「よろしくお願いします」
「どうも」
「教授、早速ですが、アメリカのデイライト社で起きたアンドロイド暴走事件について、お伺い致します」
「どうぞ」
「あの事件から2ヶ月ほど経ちましたが、暴走の原因などは明らかになったのでしょうか?」
「ええ。あれは人間側の管理ミスによって起きたものです。つまり、取扱いのミスですね。それが彼らを増長させ、暴走に至らしめたものと考えております」
「解析はどのように行われていますか?」
「ジャニスとルディは、デイライト社の日本法人で行われています。アメリカの方はあの不祥事で社内が大混乱に陥っている状態なので、とても解析ができない状態なので」
「今はDCJで行われている状態ですが、平賀教授もそれに参加される予定はありますか?」
「今のところはありません。が、オファーがあれば考える用意はできています」
「それは平賀教授も当事者だったからでしょうか?」
「それもありますが、一ロボット研究者として、とても興味があるからです」
 そう、実はジャニスとルディは破壊された状態で日本に空輸された。
 デイライト社で暴走の原因などが調査されているが……。

 取材の一環で、今度は南里志郎記念館に向かった平賀達。
 夏休み期間中でも、記念館は開けられている。
「ドクター平賀」
 入口ではエミリーが履き掃除をしていた。
「常設展示なんだから、奥の部屋でボーッとしててもいいんだぞ」
 平賀が言うと、
「少しでも・きれいにして・おきたかった・のです」
 と、答えた。
「こちらが南里先生渾身の傑作、マルチタイプ1号機のエミリーです」
「なるほど。他のマスコミが『美人過ぎるアンドロイド』なんてやってましたねー」
 写真を撮る吉村。
「ジャニスとルディのうち、ジャニスと戦った方ですね」
「そうです。彼女は近接戦が得意なので、取っ組み合いの戦いは手に汗握るものでした」
「なるほど。失礼ですが、エミリーさんもまた暴走する可能性はありますか?」
「無いとは言い切れませんが、確率はとても低いものです。それにその低い確率で暴走しても、こちらは二重三重の対策を取っていますので、何も心配はありませんよ」
「ジャニスとルディと、エミリーさん達とその違いは何でしょうか?」
「まず前者は、稼働時期がとても短く、こちらの彼女らは長いというのが大きいですね」
「と、言いますと?」
「人工知能には学習機能があります。エミリー達は自分達が暴走したら、どのような結果を招くかを長年稼働してきた実績でもって学習しています。しかしジャニス達は、そういった学習を蓄積していなかった。ただもう増長に任せてしまったのです。この実績は大きいですよ。それでも更に万が一の為の対応策は、既に取っています」
「なるほど」

 記者達と別れた平賀は、再び研究棟に戻った。
(さて、セキュリティトークンの解析をナツに頼んで来なきゃな……。あー……でも、あいつも学会が近いから忙しいか?もっと別の……あ、もう1人頼める人がいたなぁ……。ロボットの知識じゃなくても、要はトークンの解析さえできればいいんだもんな。そっちに頼んでみるか?どうしようか……)

 1:平賀奈津子に頼んでみる
 2:別の人に頼んでみる。
コメント (1)
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