報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔界の入口」

2016-08-16 21:09:08 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月24日19:30.天候:晴 東京都台東区 東京中央学園上野高校]

 稲生の母校である高校に着いて、2人の魔女と1人の魔道師見習は立ち尽くしてしまった。
「う……そ……!?」
「!!!」
「……!?」
 あえて裏門から行った3人なのだが、そこで信じられないものを見たからである。
 教育資料館という名の旧校舎。
 全焼して瓦礫と化しているはずだった。
 世界中の魔器を集める役目を負っているという、ダンテ一門内のジュリエット組に所属するジェニファー。
 彼女の丸いレンズの眼鏡がズリ落ちた。
 何が起きたのかというと、
「旧校舎が建ってる!?」
 そうなのだ。
 火事で焼け落ちたはずの旧校舎が、何事も無かったかのように、そこに建っていた。
 相変わらずの古い木造建築の佇まいは残したままで……。
「マリアさん、これはイリーナ先生が復元したんでしょうか?」
「師匠になら……できるけど、そんな理由は無いだろう。師匠だって、無駄な労力は使いたくない派なんだから……」
 マリアがそう答えた。
 とにかく、3人はその旧校舎に向かってみることにした。
 途中に、あの使用禁止になっている外トイレがある。
「うっ!?」
 そこには、明らかに幽霊と思しき者が佇んでいた。
 どうして幽霊だとすぐに分かったのかというと、そこから漂わせている空気が、あの山家麻友とそっくりだったからだ。
 だが、その幽霊は山家ではない。
 夏制服姿の男子生徒の幽霊。
 ガラの悪そうな姿をしており、生前は真面目な生徒ではなかったとすぐに分かる。
 稲生はすぐにその幽霊の正体が分かった。
「木村!お前、木村だな!?」
 山家と同化した黒猫を虐殺し、その祟りでこのトイレに括られてしまった木村に他ならなかった。
 木村は振り向いて、その青白い顔に笑みを浮かばせた。
 それは嘲笑うかのような笑顔。
「終わりだ!何もかも終わったよ!」
「何がだ!?」
「魔界の穴が開いちまった!もうここは悪魔達の領域だ!人間は皆、エサになるんだよ!!」
 そう言って高笑いすると、スーッと幽霊らしく、旧校舎の入口の所まで移動した。
「木村!待つんだ!」
 稲生達も後を追う。
「……じゃあな。先に地獄で待ってるからよ」
 そう言うと、木村はズブズブと泥壁の向こうに吸い込まれるかのように、旧校舎の入口の向こうへと消えていった。
「追いましょう!」
 稲生が入口ドアの取っ手に手を掛ける。
 が、
「待て!」
 マリアに阻止された。
「まだ師匠の許可を得ていない!」
「そうよ。これだけの建物を誰にも気づかれずに復元したなんて、きっと何かがあったんだわ。あの幽霊の言っていることが全て正しいとは限らないからね」
 幽霊ほど自己中心的な者はいない。
 自分中心の考えで、木村が勝手にああ思っていただけかもしれないのだ。
「何があったのか、確かめてからにしないと……」
「どうするんですか?」
「私に任せて。取りあえず、ここを調査することになっているのは私だから」
「はあ……」
「で、あっちの建物の入口を教えてちょうだい」
 ジェニファーは新校舎を指さした。
「分かりました」
 稲生は仕方なく、ジェニファーの希望を叶えようと思った。
 と、その時!
「……何か聞こえませんか?」
 旧校舎の方から、オルガンとピアノの音色が聞こえて来た(※“学校であった怖い話”SFC版ED曲)。
「ふーん……。魔器の方から、居場所を教えてくれるなんてね。でも、その手には乗らないわよ。予定通り、あの建物から調べさせてもらうわ」
 稲生は新校舎の昇降口から非常口から、全ての出入口の場所を教えた。
「ありがとう。あとはもういいわ。ご協力ありがとう」

 1:それでは失礼します。
 2:待ってください。僕達も調査に参加させてください。

「どうしたの?でも、ダメよ。魔器の調査はジュリエット組が一手に任されているの。イリーナ組の協力を仰ぐ気は今のところ無いわ」
「大丈夫なんですか?あの……本当にこの学校、ちょっとヤバいかもですよ」
「怪談話が多発しているって話?そりゃ確かに、人間にとっては危険な場所だろうね」
「ですよね?だから、1人では危ないですよ」
 ジェニファーは眼鏡を外して眉を潜めた。
「まだ分からないの?私達はむしろここの人間達に、怪談話を提供する側よ?」
「あっ……」
 その時、稲生は赤いローブを羽織ってフードを深く被ったキャサリンの姿を思い出した。
 彼女は自作の魔法のキャンディを生徒達に配っていたことで、怪談話の標的になったのだった。
「そういうことだよ、ユウタ。それに、ジェニファーは私よりも強いから」
「えっ!?」
「ほら、これ」
 マリアはローブに着けているブローチを見せた。
 マリアのは緑色で、ジェニファーはブルーである。
 緑色は『マスター』、ブルーは『ハイマスター』という意味らしい。
 つまり、同じ一人前になった者であっても、マリアはまだ若葉マーク状態で、ジェニファーはそれが取れている状態だということだ。
 すると、イリーナは……。
「ああ……そうですね。確か、イリーナ先生はゴールドのブローチを着けていましたね」
 要は魔道師の階級章みたいなものか。
 イリーナ組は最低限の上下関係しかないが、実は師弟相対の節目から上下関係に至るまで厳しい所だったりする。
 稲生のような見習は、白いブローチが与えられていた。
 仮免許証も確か白かったかな、と。
「ま、とにかくそういうことだから」
「分かりました」
 稲生とマリアは、東京中央学園をあとにしたのだった。

[同日20:00.天候:曇 JR上野駅構内]

 稲生とマリアは、上野駅の改札内にあるエキュートで遅い夕食を取っていた。
 寿司屋のカウンター席に隣り合って座っている。
「ジェニファーさん、大丈夫ですかね?」
「本人が大丈夫だって言ってるんだから、大丈夫だろう」
 マリアは赤身のマグロ寿司を口に含んだ。
 久しぶりに日本料理を口に運んだ気がするが、実は生魚をこぞって食べたいわけではなかった。
 稲生が久しぶりの日本食を口にしたいということだったので。
 どうしても屋敷では、和食が出て来る機会はあまり無い。
 マリアが作ったメイド人形に、そのスキルが無いからである。
 それは作り主であるマリアに、その知識が無いというのもあるのだが。
 寿司を口にすると、ハイボールも口に運んだ。
「魔器の収集に関しては、本当に私達は勝手な手出しはできないから。とにかく、後で師匠に、あの木造の建物について報告はしておこう」
「そうですね」
「あの建物を復元することで、得する誰かがいるってことだよ。それが誰かは分からない。ただ単に復元しただけならいいけども、“魔の者”が変に関わっていたりしたら厄介だ」
「そうですね。……あの……」
「ん?」
「サーモンとタコとイクラ、追加で頼んでいいですか?」
「ああ、いいよ」
 今回はマリアが先輩魔道師として、多めに出してくれるらしい。
(ジェニファーと一緒じゃなくて良かったな……。あいつ、魚嫌いだから……)
コメント (7)
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