ひょんなことから、教育資料館として再生されている旧校舎にて、かつての恩師より怪談話を聞くことになった稲生達。
だが、何だか話が変な方向に向かっていた。
「それで先生、どうやってその兵士の幽霊から逃げたんですか?」
「逃げられるわけないだろう。だがな、その幽霊は、ある条件と引き換えに、先生を解放してくれたんだ」
「……ロクでもない条件やろなぁ……」
「そうだ。ロクでもない条件だったさ。何せ、今日までに『魂を7つ集めて捧げろ』なんて言ってきたんだからな」
稲生は眉を潜めた。
「何だか、悪魔みたいな幽霊ですねぇ……」
「全くだ。あれは幽霊ではなく、悪魔……まあ、先生は死神様だと思っているがね。これで真相が判明した。元々この壁の向こうはもちろん、この辺に幽霊などいなかったんだ。いたのは死神様だよ。それなら、伝わっている内容と実際に現れる者が大きく違う理由も頷ける。そうだろ?」
「それはそうかもしれませんけど、ではその死神様とやらはどこから来たんです?」
「そんなのは先生の知ったこっちゃない。とにかく、魂を7つ集めなければならなかった。そうでないと、先生の命が危なかったからな。……今日までで、やっと5つ集められたよ。あと、2つだ。あと2つで、先生は本当に解放されるんだ」
「ちょ……ちょい待ち!その残り2つって……もしや……?」
「他に誰がいる?」
そう言って、黒田は不気味な笑みを浮かべた。
「……!!」
稲生は背筋が寒くなるのを感じた。
「いやいや、黒ちゃん、ホンマにおもろかったけんね。さすがは先生やけん。俺や他の連中が喋った話よりも怖い話やけん」
だが、黒田は真顔のままだった。
「……今のが冗談話だと思ったのか?」
「もう、やめ!やめや!俺らの負けや!」
「……それじゃ、もっと怖い話を追加してやろう。5〜6年前、お前達は新聞部の肝煎りで七不思議の語り合いをしただろう?」
「ええ」
稲生は頷いた。
「あの時、7人目が来なかったと言ってたな?」
「そうです。……でも、どうしてそれを知ってるんですか?」
「その7人目を死神様に捧げたのが俺だからだ」
「……ちょっと、言ってる意味が分からんけん、どういうことでっか?」
「最初の1人目の魂の為、後ろからナイフで突き刺してやったよ」
「ええっ!?」
「死体は……この壁の向こう側に埋めておいた」
「!!!」
稲生は更にゾクッと背中が寒くなった。
黒田の言っていることが本当だと、すぐに分かった。
だが大河内は、信じようとしない。
信じたくないという気持ちが、すぐに伝わって来る。
「はっ、はは……ハハハハハハハハハ!さすが、黒ちゃん、ホンマにおもろいわー!」
「まだ分からんのか?2人目の魂は石上だ。随分と焦っている感じだったから、後ろから刺し殺すのは簡単だったな。取りあえず、そこの女子トイレの中に死体は隠している。……見たかったら、見てもいいんだぞ?」
「3人目は……?」
「太田だよ。俺の姿を見て挨拶してきたが、ちょうどその時、首を掻っ切ってやったよ。さすがにデブは運びにくいから、ゴミ集積場に隠すのが精一杯だったかな」
「4人目は?」
「4人目と5人目は死神様が手伝ってくれた。そうですよね?」
すると、船長服を着た男は大きく頷いた。
「……福田沙也加と坂下蓮。この2人だ」
「坂下蓮は入院中やろ!?」
「……先ほど臨終した。これで、魂は残り2つ……」
船長服を着た男は抑揚の無い声で言った。
「そういうことだ」
黒田は赤く染まったナイフを取り出した。
「さあ、死んでくれ!俺の自由の為に!」
黒田はナイフを振りかざして向かってきた。
「わああああっ!」
稲生は一目散に逃げ出した。
「ユタ、待ってくれっ!!」
船長服を着た死神は大河内を羽交い絞めにしたが、
「逃げても無駄だぞ、稲生!」
黒田の言葉に狼狽した。
(稲生……!?)
「うぎゃあああああああああっ!!」
黒田のナイフの餌食になった大河内が断末魔を上げる。
「ど、ドアが開かない!!」
稲生は正面入口のドアを開けようとして、開けられなかった。
「この旧校舎は死神様の力が働いてるんだ!残りの魂はお前で最後だ!!」
黒田が新しい血糊のついたナイフを手に走って来る。
「待て……!」
だがその後ろから、死神の声が響いて来た。
「死神様、お任せください!あと1つ、必ずやお捧げ致します!」
「待てと言っている……!!」
背後からの威圧的な低い声に、黒田の動きが止まった。
「死神様?もしかして、最後の魂は死神様が御自ら、ですか?」
「……その者に、資格無し……」
「!?」
「は?それはどういう……?」
「……その者、我が生け贄となる資格無し……」
「何故ですか!?稲生のどこが資格無しだと!?」
「……!?」
稲生は稲生で訝し気な顔をした。
あの死神をどこかで見たような気がしたのだ。
「死神様、ここまで来て、そんな……!」
「……代わりとなる生け贄が必要だが……」
そして、稲生は思い出した。
「黒田先生が兵隊の幽霊というから、それも海軍の軍服かと思ってたから……。それ、海軍の軍服じゃない!豪華客船の船長の制服だ!あなたは死神じゃない!」
「……時間切れだ」
「あなたは冥界鉄道公社船舶事業部(通称、冥鉄汽船)の船長……」
「……お前の魂を頂く!!」
稲生がその船長服を着た男の名前を言うのと、黒田が大河内と同じ断末魔を上げるのは同時だった。
稲生の目の前で、黒田が自らナイフを胸に突き立てた。
何度も何度も……。
「稲生……!お前は………何者……………だ………………!!」
「ユウタ!無事か!?」
教育資料館の正面入口ドアを魔法で開けたマリアが飛び込んだ時、既に稲生は意識を失っていた。
「サンモンド船長!何やってる、こんな所で!?」
「ああ、これはこれはマリアンナさん。お久しぶりですなぁ……。稲生君なら大丈夫。ちょっと、色々あって気を失ってるだけだ。あなたの回復魔法で、すぐに回復できるはずだ」
「……何があった?」
マリアはサンモンドを睨むように見つめた。
「豪華幽霊船の船長として、乗客を集める業務をしていただけさ。冥鉄汽船の船長としての、正当な業務だよ」
「それって、ただの死神稼業だろ?まさかキサマ、ユウタを……!!」
「いや、だから、それはさすがにマズいと思ったさ。もし稲生君を乗客としてご案内したら、私はダンテ門流の魔道師全員を敵に回してしまうよ」
「その話、本当だな?」
「ああ、本当だって。もしまだ疑うっていうのなら、後でイリーナに説明してもいい。イリーナ相手だと、どんな嘘もつけないのはキミも知ってるだろう?」
「……稲生は返してもらう」
「始発電車の時間まで、この学校の宿直室か保健室でも使ったらどうだい?」
「大きなお世話だ!」
マリアはローブの中から、ミク人形とハク人形を取り出した。
そして魔力を放つと、その人形達が動き出す。
「ミカエラとクラリス、ユウタを運んで」
2人のメイド人形は主人の命令に頷くと、すぐに稲生を担ぎ上げた。
「……後でうちの師匠に説明してもらうからな?」
「分かったよ」
サンモンドは肩を竦めた。
だが、何だか話が変な方向に向かっていた。
「それで先生、どうやってその兵士の幽霊から逃げたんですか?」
「逃げられるわけないだろう。だがな、その幽霊は、ある条件と引き換えに、先生を解放してくれたんだ」
「……ロクでもない条件やろなぁ……」
「そうだ。ロクでもない条件だったさ。何せ、今日までに『魂を7つ集めて捧げろ』なんて言ってきたんだからな」
稲生は眉を潜めた。
「何だか、悪魔みたいな幽霊ですねぇ……」
「全くだ。あれは幽霊ではなく、悪魔……まあ、先生は死神様だと思っているがね。これで真相が判明した。元々この壁の向こうはもちろん、この辺に幽霊などいなかったんだ。いたのは死神様だよ。それなら、伝わっている内容と実際に現れる者が大きく違う理由も頷ける。そうだろ?」
「それはそうかもしれませんけど、ではその死神様とやらはどこから来たんです?」
「そんなのは先生の知ったこっちゃない。とにかく、魂を7つ集めなければならなかった。そうでないと、先生の命が危なかったからな。……今日までで、やっと5つ集められたよ。あと、2つだ。あと2つで、先生は本当に解放されるんだ」
「ちょ……ちょい待ち!その残り2つって……もしや……?」
「他に誰がいる?」
そう言って、黒田は不気味な笑みを浮かべた。
「……!!」
稲生は背筋が寒くなるのを感じた。
「いやいや、黒ちゃん、ホンマにおもろかったけんね。さすがは先生やけん。俺や他の連中が喋った話よりも怖い話やけん」
だが、黒田は真顔のままだった。
「……今のが冗談話だと思ったのか?」
「もう、やめ!やめや!俺らの負けや!」
「……それじゃ、もっと怖い話を追加してやろう。5〜6年前、お前達は新聞部の肝煎りで七不思議の語り合いをしただろう?」
「ええ」
稲生は頷いた。
「あの時、7人目が来なかったと言ってたな?」
「そうです。……でも、どうしてそれを知ってるんですか?」
「その7人目を死神様に捧げたのが俺だからだ」
「……ちょっと、言ってる意味が分からんけん、どういうことでっか?」
「最初の1人目の魂の為、後ろからナイフで突き刺してやったよ」
「ええっ!?」
「死体は……この壁の向こう側に埋めておいた」
「!!!」
稲生は更にゾクッと背中が寒くなった。
黒田の言っていることが本当だと、すぐに分かった。
だが大河内は、信じようとしない。
信じたくないという気持ちが、すぐに伝わって来る。
「はっ、はは……ハハハハハハハハハ!さすが、黒ちゃん、ホンマにおもろいわー!」
「まだ分からんのか?2人目の魂は石上だ。随分と焦っている感じだったから、後ろから刺し殺すのは簡単だったな。取りあえず、そこの女子トイレの中に死体は隠している。……見たかったら、見てもいいんだぞ?」
「3人目は……?」
「太田だよ。俺の姿を見て挨拶してきたが、ちょうどその時、首を掻っ切ってやったよ。さすがにデブは運びにくいから、ゴミ集積場に隠すのが精一杯だったかな」
「4人目は?」
「4人目と5人目は死神様が手伝ってくれた。そうですよね?」
すると、船長服を着た男は大きく頷いた。
「……福田沙也加と坂下蓮。この2人だ」
「坂下蓮は入院中やろ!?」
「……先ほど臨終した。これで、魂は残り2つ……」
船長服を着た男は抑揚の無い声で言った。
「そういうことだ」
黒田は赤く染まったナイフを取り出した。
「さあ、死んでくれ!俺の自由の為に!」
黒田はナイフを振りかざして向かってきた。
「わああああっ!」
稲生は一目散に逃げ出した。
「ユタ、待ってくれっ!!」
船長服を着た死神は大河内を羽交い絞めにしたが、
「逃げても無駄だぞ、稲生!」
黒田の言葉に狼狽した。
(稲生……!?)
「うぎゃあああああああああっ!!」
黒田のナイフの餌食になった大河内が断末魔を上げる。
「ど、ドアが開かない!!」
稲生は正面入口のドアを開けようとして、開けられなかった。
「この旧校舎は死神様の力が働いてるんだ!残りの魂はお前で最後だ!!」
黒田が新しい血糊のついたナイフを手に走って来る。
「待て……!」
だがその後ろから、死神の声が響いて来た。
「死神様、お任せください!あと1つ、必ずやお捧げ致します!」
「待てと言っている……!!」
背後からの威圧的な低い声に、黒田の動きが止まった。
「死神様?もしかして、最後の魂は死神様が御自ら、ですか?」
「……その者に、資格無し……」
「!?」
「は?それはどういう……?」
「……その者、我が生け贄となる資格無し……」
「何故ですか!?稲生のどこが資格無しだと!?」
「……!?」
稲生は稲生で訝し気な顔をした。
あの死神をどこかで見たような気がしたのだ。
「死神様、ここまで来て、そんな……!」
「……代わりとなる生け贄が必要だが……」
そして、稲生は思い出した。
「黒田先生が兵隊の幽霊というから、それも海軍の軍服かと思ってたから……。それ、海軍の軍服じゃない!豪華客船の船長の制服だ!あなたは死神じゃない!」
「……時間切れだ」
「あなたは冥界鉄道公社船舶事業部(通称、冥鉄汽船)の船長……」
「……お前の魂を頂く!!」
稲生がその船長服を着た男の名前を言うのと、黒田が大河内と同じ断末魔を上げるのは同時だった。
稲生の目の前で、黒田が自らナイフを胸に突き立てた。
何度も何度も……。
「稲生……!お前は………何者……………だ………………!!」
「ユウタ!無事か!?」
教育資料館の正面入口ドアを魔法で開けたマリアが飛び込んだ時、既に稲生は意識を失っていた。
「サンモンド船長!何やってる、こんな所で!?」
「ああ、これはこれはマリアンナさん。お久しぶりですなぁ……。稲生君なら大丈夫。ちょっと、色々あって気を失ってるだけだ。あなたの回復魔法で、すぐに回復できるはずだ」
「……何があった?」
マリアはサンモンドを睨むように見つめた。
「豪華幽霊船の船長として、乗客を集める業務をしていただけさ。冥鉄汽船の船長としての、正当な業務だよ」
「それって、ただの死神稼業だろ?まさかキサマ、ユウタを……!!」
「いや、だから、それはさすがにマズいと思ったさ。もし稲生君を乗客としてご案内したら、私はダンテ門流の魔道師全員を敵に回してしまうよ」
「その話、本当だな?」
「ああ、本当だって。もしまだ疑うっていうのなら、後でイリーナに説明してもいい。イリーナ相手だと、どんな嘘もつけないのはキミも知ってるだろう?」
「……稲生は返してもらう」
「始発電車の時間まで、この学校の宿直室か保健室でも使ったらどうだい?」
「大きなお世話だ!」
マリアはローブの中から、ミク人形とハク人形を取り出した。
そして魔力を放つと、その人形達が動き出す。
「ミカエラとクラリス、ユウタを運んで」
2人のメイド人形は主人の命令に頷くと、すぐに稲生を担ぎ上げた。
「……後でうちの師匠に説明してもらうからな?」
「分かったよ」
サンモンドは肩を竦めた。