[7月25日02:30.天候:雷雨 埼玉県さいたま市中央区・稲生家1F客間 マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]
※前々回において、ジェニファーの探索協力を申し出た場合に分岐するストーリーはこれ。どちらを選んでも、ジェニファーと探索することはないのだが……。
「……!?」
マリアは稲生家の客間で寝ていた。
威吹は畳の上に布団を敷いて寝ていたというので、マリアはベッドを使用させてもらっている。
そんなマリアが夜中、寝苦しさを覚えて意識を戻した。
だが、目は開けていない。
開けるとヤバい、そんな気がしたのだ。
外からは時折、雷鳴と共に強い雨が窓ガラスを叩き付けるのが聞こえて来る。
恐らく寝苦しくなくても、この悪天候の音で目を覚ましたかもしれない。
何故寝苦しいのだろう?
暑苦しさではない。
この部屋にもエアコンはあって、稲生はそれを自由に使って良いと言った。
日本の夏はジメジメしてて、夜でも暑い。
その為、お言葉に甘えて、エアコンを稼働させたままベッドに入ったのだが……。
「!」
体を起こそうとしても、起き上がれない。
金縛りだ!
(魔道師であるこの私が金縛りに掛かるなんて……!)
違う、金縛りではない。
……誰かが上に乗っている!
マリアは目が開けられなかった。
だが、仰向けに眠っている顔には、明らかに上に乗っている者のものと分かる生暖かい息が掛かっている。
かなり、興奮しているようだ。
荒い息を抑えようとしているのが分かる。
その息が耳元に移動した。
微かに、何かを言っている。
「……る……」
(なに……?)
「………やる…………してやる……………」
(何だって?)
「………殺してやる……………殺してやる…………!」
「わあっ!?」
さすがのマリアもその殺気には、寝たふりができなくなった。
マリアが驚いて目を開けると、その視界に飛び込んできたのは……!
「!!!」
これが普通の女性だったら、叫び声を上げて気絶していただろう。
そして、その乗っている者に殺されたに違いない。
しかし、そこは魔道師。
驚きはしたが、そこまでではない。
「キサマ、亡霊だな!?」
青白い顔をした女の幽霊。
目は血走らせて、手には大型のカッターナイフを持っている。
しかもマリアには、その幽霊を見たことがあった。
「お前は確か……マユ・ヤンベとか言ったな?ユウタに供養されて成仏したんじゃないのか?」
山家麻友だった。
稲生に塔婆供養をされたはずだが、効かなかったのか?
「……もう遅いのよ。私は低級霊に影響されて、悪霊になってしまったの。もう木村の幽霊は地獄に堕ちていなくなってしまった。でも、それはもういいの」
そして、マリアの首筋にカッターナイフを当てる。
「……お前は稲生君の何?私の遺体を見つけてくれるのは、稲生君だけのはずだった。お前は何?」
「……フン、そんなことが気になって成仏できないのか。私はユウタの姉弟子だよ。魔道師のね」
だが、山家は更に瞳を殺気をみなぎらせて、カッターナイフを押し当てた。
「嘘をつくな……!私は稲生君を連れて行くはずだった。お前はそれを邪魔した。許さない……!」
「それで?」
「稲生君は私のことを好きだと言ってくれたの。猫と同化している時に、とても可愛がってくれたの。だから私も稲生君のことが好きなの。……だから、オマエは邪魔だ……!」
山家がカッターナイフを振り上げるのと、ベッドの下に潜んでいた人形達が飛び出てくるのは同時だった。
「人形なんかに私は倒せない!」
山家が人形をカッターで振り払った。
「なにっ!?」
亡霊ごとき、マリアの使役する人形でもって対応すれば簡単に勝てると思っていただけに、人形の方が負けるのは想定外だった。
(まずい……!)
「泥棒猫!稲生君は渡さな……!」
その時、山家の動きが止まった。
「!?」
よく見ると、青白い彼女の姿が見る見るうちに透けて行く。
「い、いやだ!ま、まだ……!どうして……!?稲生君……!」
無念の表情を浮かべ、山家の悪霊は消えてしまった。
「おっ……と」
亡霊が消えたことで、マリアの動きが自由に取れるようになった。
一体、何が起きたのだろうか?
マリアは部屋の外に出ると、真上の部屋で寝ているはずの稲生の所へ向かった。
すると、稲生の部屋の中から読経の声が聞こえて来た。
丑寅勤行をやっているのだった。
稲生は前に、寝付けなかったり、寝苦しかったりして夜中に目が覚めた場合は丑寅勤行を行うことがあると言っていたのをマリアは思い出した。
稲生もまた夜中に目が覚めたのだろう。
それはこの雷雨の音かもしれないし、2階にいながら、階下の山家の気配に気づいてのことかもしれない。
山家の亡霊は、この稲生の丑寅勤行の影響を受けてしまったのだろう。
塔婆供養をしたのと、何か関係があるのかもしれない。
いずれにせよ、稲生にまた助けられた。
マリアはホッと安心して、客間に戻って行ったのだった。
相変わらず雷鳴と強雨の音は聞こえていたが、幽霊がいた気配はすっかり無くなっており、マリアは再びベッドに潜り込んだ。
続く
[7月25日02:30.天候:雷雨 埼玉県さいたま市中央区・稲生家2F 稲生勇太の部屋]
※ジェニファーの新校舎探索に対し、協力を申し出ず、素直に帰った場合はこれ。
稲生は寝苦しさを覚えて目が覚めた。
外からは雷鳴の音と強い雨の降る音が聞こえて来る。
それで目が覚めてしまったのだろうか。
いや、違う。
寝返りを打とうとした彼は、その動きが何かの力によって不可能な状態にされていることに気づいた。
金縛りだ!……いや、違う。誰かが乗っている。
誰かが仰向けに寝ている稲生の胸の上に乗っかっている為に、苦しくて目が覚めたのだ。
でも、何だろう?今、目を開けてはならないような気がした。
だが、顔には上に乗っている者のものと思われる生暖かい息が吹き掛けられる。
それが耳元に移動し、耳に息が吹き掛けられる。
そして、それに混じって微かな声が聞こえて来た。
「……る……」
(え……?)
「………やる…………してやる……………」
(な……!?)
「………殺してやる……………殺してやる…………!」
「わあっ!?」
稲生はついに堪え切れなくなり、飛び起きた。
そして、その視界に飛び込んできたのは……。
「い、石上さん!?」
そう。
あの、学校の七不思議の会合に参加した石上涼だった。
稲生を弟のイジメ加害者の1人だと誤解し、自殺に追いやった張本人だとして襲って来たあの石上涼だった。
何故か顔は青白く、稲生の首に手を掛ける手も青白いし、とても冷たい。
まるで幽霊のようだ。
稲生を睨みつける目は血走っていた。
「……弟はね、悪霊達に殺されたの。弟の死を悼んでいたら、私にも悪霊が取り憑いてしまった。だから、私も戦ったわよ。こうしてね」
「うわ!?」
石上の喉元はパックリ割れて、そこから血が滴り落ちていた。
「だから今度はあなたの番。私、言ったでしょう?あなたはこれから責任を取ればいいって」
「そ、そんなことは聞いてない……!」
稲生は否定したが、石上の耳には届いていないようだった。
「今取ってもらうわ。大丈夫よ。私がいるもの。寂しくはないわ。……ふふふふ……。そう。私、実は稲生君のことが好きだったの。現世では告白できなかったけど、霊界で一緒になりましょう?山家麻友ってヤツ、あなたに成仏させられたみたいだし、マリアンナってヤツも霊界までは追ってこれない。これでもうあなたを横取りする泥棒猫はいないってわけ。ふふふふふ……アーッハッハッハッハッハッ!!」
これだけ高笑いする亡霊も初めて見たような気がする。
……死ぬ直前は、意外とこんな冷静に、くだらないことを考えられるのかもしれない。
稲生は石上が取り出したカッターナイフによって首を掻っ切られ、飛び出す自分の血しぶきを見ながら、その意識を途絶えさせていった……。
“大魔道師の弟子” 完(Bad end)
※前々回において、ジェニファーの探索協力を申し出た場合に分岐するストーリーはこれ。どちらを選んでも、ジェニファーと探索することはないのだが……。
「……!?」
マリアは稲生家の客間で寝ていた。
威吹は畳の上に布団を敷いて寝ていたというので、マリアはベッドを使用させてもらっている。
そんなマリアが夜中、寝苦しさを覚えて意識を戻した。
だが、目は開けていない。
開けるとヤバい、そんな気がしたのだ。
外からは時折、雷鳴と共に強い雨が窓ガラスを叩き付けるのが聞こえて来る。
恐らく寝苦しくなくても、この悪天候の音で目を覚ましたかもしれない。
何故寝苦しいのだろう?
暑苦しさではない。
この部屋にもエアコンはあって、稲生はそれを自由に使って良いと言った。
日本の夏はジメジメしてて、夜でも暑い。
その為、お言葉に甘えて、エアコンを稼働させたままベッドに入ったのだが……。
「!」
体を起こそうとしても、起き上がれない。
金縛りだ!
(魔道師であるこの私が金縛りに掛かるなんて……!)
違う、金縛りではない。
……誰かが上に乗っている!
マリアは目が開けられなかった。
だが、仰向けに眠っている顔には、明らかに上に乗っている者のものと分かる生暖かい息が掛かっている。
かなり、興奮しているようだ。
荒い息を抑えようとしているのが分かる。
その息が耳元に移動した。
微かに、何かを言っている。
「……る……」
(なに……?)
「………やる…………してやる……………」
(何だって?)
「………殺してやる……………殺してやる…………!」
「わあっ!?」
さすがのマリアもその殺気には、寝たふりができなくなった。
マリアが驚いて目を開けると、その視界に飛び込んできたのは……!
「!!!」
これが普通の女性だったら、叫び声を上げて気絶していただろう。
そして、その乗っている者に殺されたに違いない。
しかし、そこは魔道師。
驚きはしたが、そこまでではない。
「キサマ、亡霊だな!?」
青白い顔をした女の幽霊。
目は血走らせて、手には大型のカッターナイフを持っている。
しかもマリアには、その幽霊を見たことがあった。
「お前は確か……マユ・ヤンベとか言ったな?ユウタに供養されて成仏したんじゃないのか?」
山家麻友だった。
稲生に塔婆供養をされたはずだが、効かなかったのか?
「……もう遅いのよ。私は低級霊に影響されて、悪霊になってしまったの。もう木村の幽霊は地獄に堕ちていなくなってしまった。でも、それはもういいの」
そして、マリアの首筋にカッターナイフを当てる。
「……お前は稲生君の何?私の遺体を見つけてくれるのは、稲生君だけのはずだった。お前は何?」
「……フン、そんなことが気になって成仏できないのか。私はユウタの姉弟子だよ。魔道師のね」
だが、山家は更に瞳を殺気をみなぎらせて、カッターナイフを押し当てた。
「嘘をつくな……!私は稲生君を連れて行くはずだった。お前はそれを邪魔した。許さない……!」
「それで?」
「稲生君は私のことを好きだと言ってくれたの。猫と同化している時に、とても可愛がってくれたの。だから私も稲生君のことが好きなの。……だから、オマエは邪魔だ……!」
山家がカッターナイフを振り上げるのと、ベッドの下に潜んでいた人形達が飛び出てくるのは同時だった。
「人形なんかに私は倒せない!」
山家が人形をカッターで振り払った。
「なにっ!?」
亡霊ごとき、マリアの使役する人形でもって対応すれば簡単に勝てると思っていただけに、人形の方が負けるのは想定外だった。
(まずい……!)
「泥棒猫!稲生君は渡さな……!」
その時、山家の動きが止まった。
「!?」
よく見ると、青白い彼女の姿が見る見るうちに透けて行く。
「い、いやだ!ま、まだ……!どうして……!?稲生君……!」
無念の表情を浮かべ、山家の悪霊は消えてしまった。
「おっ……と」
亡霊が消えたことで、マリアの動きが自由に取れるようになった。
一体、何が起きたのだろうか?
マリアは部屋の外に出ると、真上の部屋で寝ているはずの稲生の所へ向かった。
すると、稲生の部屋の中から読経の声が聞こえて来た。
丑寅勤行をやっているのだった。
稲生は前に、寝付けなかったり、寝苦しかったりして夜中に目が覚めた場合は丑寅勤行を行うことがあると言っていたのをマリアは思い出した。
稲生もまた夜中に目が覚めたのだろう。
それはこの雷雨の音かもしれないし、2階にいながら、階下の山家の気配に気づいてのことかもしれない。
山家の亡霊は、この稲生の丑寅勤行の影響を受けてしまったのだろう。
塔婆供養をしたのと、何か関係があるのかもしれない。
いずれにせよ、稲生にまた助けられた。
マリアはホッと安心して、客間に戻って行ったのだった。
相変わらず雷鳴と強雨の音は聞こえていたが、幽霊がいた気配はすっかり無くなっており、マリアは再びベッドに潜り込んだ。
続く
[7月25日02:30.天候:雷雨 埼玉県さいたま市中央区・稲生家2F 稲生勇太の部屋]
※ジェニファーの新校舎探索に対し、協力を申し出ず、素直に帰った場合はこれ。
稲生は寝苦しさを覚えて目が覚めた。
外からは雷鳴の音と強い雨の降る音が聞こえて来る。
それで目が覚めてしまったのだろうか。
いや、違う。
寝返りを打とうとした彼は、その動きが何かの力によって不可能な状態にされていることに気づいた。
金縛りだ!……いや、違う。誰かが乗っている。
誰かが仰向けに寝ている稲生の胸の上に乗っかっている為に、苦しくて目が覚めたのだ。
でも、何だろう?今、目を開けてはならないような気がした。
だが、顔には上に乗っている者のものと思われる生暖かい息が吹き掛けられる。
それが耳元に移動し、耳に息が吹き掛けられる。
そして、それに混じって微かな声が聞こえて来た。
「……る……」
(え……?)
「………やる…………してやる……………」
(な……!?)
「………殺してやる……………殺してやる…………!」
「わあっ!?」
稲生はついに堪え切れなくなり、飛び起きた。
そして、その視界に飛び込んできたのは……。
「い、石上さん!?」
そう。
あの、学校の七不思議の会合に参加した石上涼だった。
稲生を弟のイジメ加害者の1人だと誤解し、自殺に追いやった張本人だとして襲って来たあの石上涼だった。
何故か顔は青白く、稲生の首に手を掛ける手も青白いし、とても冷たい。
まるで幽霊のようだ。
稲生を睨みつける目は血走っていた。
「……弟はね、悪霊達に殺されたの。弟の死を悼んでいたら、私にも悪霊が取り憑いてしまった。だから、私も戦ったわよ。こうしてね」
「うわ!?」
石上の喉元はパックリ割れて、そこから血が滴り落ちていた。
「だから今度はあなたの番。私、言ったでしょう?あなたはこれから責任を取ればいいって」
「そ、そんなことは聞いてない……!」
稲生は否定したが、石上の耳には届いていないようだった。
「今取ってもらうわ。大丈夫よ。私がいるもの。寂しくはないわ。……ふふふふ……。そう。私、実は稲生君のことが好きだったの。現世では告白できなかったけど、霊界で一緒になりましょう?山家麻友ってヤツ、あなたに成仏させられたみたいだし、マリアンナってヤツも霊界までは追ってこれない。これでもうあなたを横取りする泥棒猫はいないってわけ。ふふふふふ……アーッハッハッハッハッハッ!!」
これだけ高笑いする亡霊も初めて見たような気がする。
……死ぬ直前は、意外とこんな冷静に、くだらないことを考えられるのかもしれない。
稲生は石上が取り出したカッターナイフによって首を掻っ切られ、飛び出す自分の血しぶきを見ながら、その意識を途絶えさせていった……。
“大魔道師の弟子” 完(Bad end)