報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔道師達の戦い」

2016-08-22 15:49:34 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月26日12:00.天候:曇 東京中央学園旧校舎(教育資料館)1F音楽室]

 音楽室内には古いピアノと足踏み式のオルガンがある。
 そのうち、ピアノがまるで自動演奏機能付きであるかのように、独りでに奏でていた。
「これは……どうしろというんでしょうか?」
 稲生はマリアに聞いた。
 因みに流れている曲は、聴いたこともない曲だ。
 しかも、どうやら主旋律を弾いているわけでもない。
「あのオルガンで主旋律を弾けって話じゃ?」
 と、稲生はふと思った。
 この音楽室には古いピアノ以外に、同じく埃被ったオルガンしか置いていない。
 しかも稲生の言葉に反応するかのように、オルガンの鍵盤の蓋が勝手に開いた。
「でも一体、何を弾けと?弾くにしても、曲が分からないようでは何もできないよ?」
 マリアは肩を竦めた。
「誰かこの曲、聴いたことある?」
 ナディアが稲生達に質問したが、誰も知らない。
「しょうがない。どこか、別の所を探してみよう。そこにあるかもしれない」
「そうだね」
 といっても、一体どこを探せば良いのやら……。

 体育教師の黒田に連れて行かれた、あの新しい壁か?

 それとも“トイレの花子さん”の舞台の始まりとなった教室か?

「ん?」
 その時、ふと稲生は思い出した。
 その“花子さん”のことだ。
 新聞部のアーカイブを見た時、名前は出ていなかったが、その“花子さん”の正体である自殺者は吹奏楽部だったらしい。
 ところで、どうして3階の女子トイレに出るのかというと、そこで“花子さん”が自殺したからである。
 自分の首をカッターで何度も切りつけて……。
「ちょっと、もう1度あのトイレを調べてみましょう」
 稲生達は3階へ上がった。
 そして、例の女子トイレに向かう。
「確か、奥から2番目だ」
 稲生がドアを開けると、そこには……。
「あった!楽譜!」
 便器の横に、血染めの楽譜が置かれていた。
「これで主旋律が分かるはずです」
 稲生はそれを拾う。

 再び音楽室に戻ると、ピアノはまだ演奏を続けていた。
「オルガンなら私が弾けます」
 と、ナディア。
「それは助かります」
 稲生はナディアに楽譜を渡した。
 ナディアはオルガンの前に座り、楽譜を鍵盤の上に置く。
 すると、それが合図であるかのようにピアノの音色が止まった。
 そして……。
「何だか、重々しい曲なんだな……」
 さっきのピアノは相変わらず副旋律を奏でているだけだが、オルガンが主旋律を奏でることにより、ちゃんとした曲になっていた。
 それが弾き終わると、カチッと鍵の外れる音がして、ギィィィィと音楽室の隣のドアが勝手に開いた。
 音楽準備室だろう。
「あそこだ!」
 3人の魔道師が音楽準備室に飛び込むと、そこにいたのは……。
「ジェニファー!」
「大丈夫ですか!?」
 倒れているジェニファーの姿があった。
「うう……」
「良かった!生きてる!」
「待って!今、回復魔法を……」
「大丈夫か?何があった?」
「ちょっと……シクったわ……。あっちの建物のピアノを調べていたら、『食われ』ちゃってね。気が付いたら、このザマよ」
「この学校の怪談話の主達は、ちょっとやそっとではいかないようです。確かに魔道師が、その一部を担っている部分もあるんですが……」
「とにかく、あとはここを脱出するだけだ」

[7月26日13:00.天候:晴 京成上野駅]

 稲生達はナディアを待ち合わせ場所の京成上野駅まで送った。
 ジェニファーは学校の外に出ると、ホウキに跨って日本における拠点に戻ると言って飛び去った。
「遅かったな……」
 待ち合わせ場所の改札口近くには、稲生悟郎が待っていた。
「悟郎兄さん」
「俺もウラジオストクに行くよ。ナディアの親族に挨拶してこなきゃな」
「ナディアも実家には家族が?」
「ダー。……はい」
 自動翻訳魔法が切れていた。
「大丈夫なの?悟郎兄さん、ロシア語喋れないじゃないか」
「大丈夫。少しは勉強してきたし、翻訳機もある。ナディアが日本語ペラペラだしな」
(いや、それは素で日本語がペラペラなんじゃなく……)

〔「今度の特急、成田空港行きは1番線から13時15分の発車です。……」〕

「それじゃ、そろそろホームに行くよ。ナディア、これキップな」
「スパシーバ。……ありがとう」
「まあ、気をつけて。また日本に来る機会があったら、私の家に来るといい」
 マリアはそう言った。
「ええ。よろしく。エレーナにもよろしく言っておいてください」
「ああ。『薪の値段については、一切の値引きはしない』ってな」
 マリアはニヤッと笑った。
 こうして、悟郎とナディアはコンコースの奥へと消えて行った。

[同日15:05.天候:晴 バスタ新宿]

 新宿に移動した2人は信州の山奥へと帰る為、高速バスのターミナルへと向かった。
「やっと帰れる……」
 稲生は荷物を荷物室に預け、バスに乗り込むとホッと一息ついた。
 マリアが苦笑して、
「ユウタの家はこっちの方だろう?」
 と言った。
「いや、何だか今はマリアさんの屋敷の方が落ち着きます。こっちに来る度、何か色々事件が起こって……」
「ああ、なるほど……」
 バスの後ろの方の席に、隣り合って座る。
 白馬行きのアルピコ交通バスは、全て4列シート(トイレ付き)で運転される。

 定刻通りにバスが出発する。

〔「お待たせ致しました。本日もアルピコ交通をご利用頂き、ありがとうございます。このバスは中央高速バス、白馬行きでございます。これから先、中央道三鷹、中央道深大寺、中央道府中、中央道日野、中央道八王子、安曇野スイス村、安曇野穂高、安曇野松川、信濃大町駅前、白馬五竜、白馬町、終点白馬八方バスターミナルの順に止まります。……」〕

「イリーナ先生に連絡はしましたか?」
「ああ。既に師匠、私の屋敷にいるらしい。眠そうな声で、『慌てず、ゆっくり帰っておいで〜』だってさ」
「相変わらずですねぇ……」
 稲生はニヤッと笑った。
「全く。弟子達が悪魔と戦っているというのに、暢気なグランドマスター(大魔道師)だ」
「帰ってから報告するのが大変ですよ。結局、大河内君も死んでしまったことだし……」
「申し訳無いが、それだけはどうしようもない。運が悪かったと思って、諦めてもらうしかない」
「はい……」

 バスは強い西日が差す中、甲州街道に出ると、西へ向かった。
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“大魔道師の弟子” 「再びの旧校舎へ」

2016-08-22 11:11:01 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月26日11:00.天候:曇 東京中央学園上野高校 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、ナディア・エリゴ・シェスタコワ]

 3人の魔道師(稲生だけ見習)は、何故だか東京中央学園の旧校舎の前にいた。
 これは昨夜、3人が3人とも同じ夢を見たからである。
 それはジェニファーからのメーデー。
「私より階級上の魔女が、こんな所で敵に足をすくわれるとはな……」
「空気からしてここには、強い妖気が渦巻いているからね。油断していると、やられるよ」
「僕達、入って大丈夫なんでしょうか?せめて、イリーナ先生の到着を待ってからの方が……」
「それだと遅い」
「そうよ」
 2人の魔女は大きく頷いた。
 だがその理由が、
「帰りのバスに間に合わなくなる」
「帰りの飛行機に間に合わなくなります」
「はあ……」
 因みに稲生とマリアは、バスタ新宿からの高速バスに乗るところだったし、ナディアは今日フライトのウラジオストク行きチャーター便に乗る予定だった。
「じゃ、鍵を開けるよ」
 マリアは開錠の魔法を使って、旧校舎入口のドアの鍵を開けた。
 本来なら全焼して無くなっているはずの旧校舎。
 それが、まるで火事そのものが無かったかのように、古い佇まいを残したままそこに建っている。
 入ってみると、やはり前回入ったのと同じ構造になっていた。
「ちっ、ひどい妖気だ。ただの人間が入ろうものなら、あっという間にカモにされるぞ」
 と、マリア。
「稲生さんは私達から離れないでください。多分、見習程度では負けると思いますから」
「わ、分かりました」
 何故なら、初っ端から、
「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!」
 マリアが廊下の端で魔法を唱える。
 すると、廊下全体の空間が陽炎のようにぐにゃりと曲がると、パーンという音がしてガラスが割れるような音が響いた。
「一体、何が起きたんですか?」
「何者かによって、空間が捻じ曲げられていたんです。何も知らずに入り込むと、この廊下から一生出られません」
「はあ!?」
「既に2人、やられたみたいだな」
 マリアが指さした所には、白骨死体が転がっていた。
「何年も何十年も、この廊下を走り続けていたのだろう」
「無限ループ……無限廊下ですか!」
「そうとも言う」

 1階の男子トイレに入ろうものなら、個室の中から魔界の植物が現れた。
 人間を養分にして成長する妖木だ。
 それは人間を養分にすると、幹や枝などに養分にした人間の顔が浮かび上がったり、種類によっては頭部だけそのままの実を付けたりするらしい。
 RPGの世界では枝葉を伸ばしてきて、木の方から養分となる人間を襲いに来るものもあるが、ここではそんなことは無かった。
「私達、魔女の薪となりなさい!」
 ナディアは魔法の杖を妖北に向けて、魔法を放った。
 恐らく真空系の魔法だろう。
 呪文はその魔女の母国語で良いらしく、ナディアもロシア語で喋るので、何を唱えているのか分からなかった(他の魔法を使う際、それまで使用中の魔法は解除される為。つまり、他の魔法を使っている間、言語変換魔法は解除される。都営バスWi-FiとドコモWi-Fiが同時に使えないのと同じw)。
「薪にした後、どうするんですか?」
「色々と使えるんですよ。例えばヒーラー系ですと、薬を作る為の釜焚きの燃料にしたり……」
「へえ……」
「まあ、持ち歩けないから、しばらくここに置いておこう」

 階段の途中にあったという魔鏡は無くなっていた。
 これはしっかり、ジェニファーに持ち出されたのだろう。
 つまり、魔法か何かで復元したにせよ、既に魔道師が関わったものについては再現されなかったようだ。
「ジェニファーは新校舎を探索したいと言ってました。それなのに、どうして旧校舎なんですか?」
「おおかた、計画とは違うことをしたからだろう。ここに巣くう悪魔に呼び寄せられて、見事に罠にはまったというわけだ」
「うーん……」
 3階の女子トイレに行ってみた。
「確かここには、“トイレの花子さん”の伝説があるはずですよ」
 と、稲生。
「それはどんな言い伝えだ?」
 “トイレの花子さん”というと小学校が舞台のばずだが、東京中央学園においては高校にもあるということだ。
 小学校の場合、まだその“花子さん”は可愛らしいものだが、こっちは違う。
「何十年も前に、この旧校舎に取り残された6人または7人の生徒を惨殺した妖怪だと言われてはいましたが、どうも違うらしいですね」
「違う?」
「その7人目こそが“花子さん”の正体で、残りの6人からヒドいイジメを受けて自殺した女子生徒の幽霊だというのが真相のようです」
「……それは誰かが成仏させた?」
「名前も知らないのに、塔婆供養なんかできませんよ。新聞部のアーカイブにも載っていないんですから。……あ、真相はそのアーカイブで知ったんですが、名前は不明となっていたんです。もっとも、過去数十年の間に自殺したコのデータを調べれば出てくるとは思いますけどね」
「……ここには霊気は無い。恐らく、自縛からは解放されたのだろう」
「だけど今頃、地獄には堕ちているでしょうね」
「やっぱりなぁ……」
 ここにもジェニファーの姿は無かった。
「あとはどこだろう?」

 再び階段を1階に下りようとするが、またもやマリアが魔法を使う。
「十三階段だ」
「えっ?」
 階段の降り口を魔法の杖で、ドンドン叩く。 
 すると階段が光って、また消えた。
 ……別に、何も起こっていないように見える。
「一体、何が?」
「何も知らずに十三階段を下りると、悪魔が襲って来るよ」
「えっ?」
「この程度の悪魔でしたら、あまり脅威ではないんですけど、ただ面倒ですからね」
 因みに日本語では全て『悪魔』の一言になってしまっているが、魔道師と契約できる悪魔とはまた違う存在である。
 ただ単に襲って来るだけの悪魔をデビルと呼び、契約悪魔の方をデーモンと呼ぶ。
 但し、魔道師はそう呼んでいるというだけで、実際にそういう分け方なのかは不明。
 尚、稲生達の後ろからは、しっかりとベルフェゴールとエリゴス(ナディアの契約悪魔)が付いてきている。
 彼ら上級悪魔が、周囲の中・下級悪魔に睨みを効かせてくれているというのもある。
 何故か2人ともスーツ姿であり、エリゴスは山高帽を深く被っている。
「ん?」
 階段を下りている最中、下の階からピアノの音色が聞こえて来た。
「ピアノが鳴っている?」
「1階には音楽室があります。きっとそこですよ」
 この旧校舎には稲生達以外には誰もいないはずだ。
 ということは……。
「音楽室だな!」
 3人は急いで音楽室に向かった。
コメント (5)
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