夜の学校の女子水泳部部室。
このロッカールームに潜んでいた亡霊に捕まり、語り部の1人であった福田沙也加が殺されてしまった。
……いや、正確には殺されたのかどうかも分からない。
そもそも死体……どころか、その姿自体が引き込まれたロッカーから消えてしまったのだから。
「……ど、どうしよう、大河内君……」
稲生は震える声で、同じく冷や汗をかいている大河内に聞いた。
「どうもこうもあるか。明らかにこれ、魔界の穴が開いてもうた結果やろ?……旧校舎や!旧校舎へ向かうぞ!」
「ええっ!?」
「このまま学校から逃げ帰っても地獄が待っちょるけん、そんなら立ち向かうしか無い。そやろ?」
「う、うん……。あ、でも……」
「ん?」
「先に新聞部の部室に戻って、荷物を取ってこようよ?水晶球も、あの中だし……」
「ん、それもそうやね」
稲生達はまだ鉄の錆びた臭いの漂う女子水泳部の部室をあとにし、再び新校舎に向かった。
「…………」
だが、そんな2人の様子を伺う姿があったことに、稲生達本人は気付かなかったのである。
荷物を取って、再び旧校舎に向かう。
「オマエ、おもろいモン持っちょるなー?」
稲生の持ち物は、水晶球の他に魔道書と伸縮自在の魔法の杖。
今は最小限に縮めて、ズボンの腰のベルトに下げている。
まるで警察官の警棒や、警備員の警戒棒のようだ。
「うん、まあね……」
そして、旧校舎の前に到着する。
教育資料館として再生する為に耐震補強され、割れた窓ガラスや腐った木材を交換したというが、まるでエイジング加工されたかのように、古めかしい姿を保っている。
「お、大河内君、あれ!」
「何や?……あっ!」
稲生の指さした所、それは2階の教室だったが、そこに小さな明かりが漏れていた。
まるで、ロウソクの灯かりのようである。
確かに教育資料館として再生し、再び旧校舎内には電気が通るようにはなったが、当然こんな時間に人がいるはずがない。
「……こりゃ、ガチやけんね?」
「だね……」
稲生は腰に下げた魔法の杖に手を掛けた。
……と!
「!?」
「!!!」
突然、2人がまばゆい光に当てられた。
一体、何が起きたのだろうか?
「こら!お前達は誰だ!?ここで何をしている!?」
光源の後ろで、男の怒鳴るような誰何の声が聞こえて来た。
「その声は……黒田先生!?黒田先生ですよね!?」
「おー、黒ちゃん先生か」
黒田先生と呼ばれた男は訝し気に、手持ちのライトをずらし、稲生達の顔を見てきた。
「僕です!5〜6年前、2年生だった時に体育を教わった稲生です!」
「隠れてタバコ吸っちょって、色々お世話になった大河内ですー」
「……おっ、何だ、お前らか。思い出したぞ。とっくに同窓会も終わってるのに、何やってんだ、こんな所で?」
「あ、えっとぉ……。先生は5〜6年前のことを覚えてますか?」
「5〜6年前の何のことだ?」
黒田は首を傾げた。
因みに歳の頃は30代半ばといったところで、がっしりした体格をしていた。
白いTシャツを着て、下は黒いジャージのズボンを履いている。
この学校では、未だに教師が宿直として泊まり込んでいるのだろうか?
「ちょうど今くらいの時期、新聞部で学校の怪談特集をすることになって、皆で語りっていたところ、あまりに遅くなったんで、黒田先生に物凄く怒られたことです」
「……ああ。そんなこともあったかな。さすがに先生として、生徒が遅くまで残っているのを見過ごすわけにはいかなかったからな。それで?」
「同窓会ついでに、あの集まりをもう1回することになったんです。そしたら、またこんなに遅くなっちゃいまして……」
「全く。卒業しても変わらんな、お前達は……」
黒田は呆れた顔をした。
「で、臨場感を出す為に、今度は旧校舎に忍び込もうとしていたわけか」
「あ、いや、けしてそんなつもりでは……!」
「そうやで、黒ちゃん……あ、いや、先生。ちょうど2階に変な灯かりが点いてたけん、何やろと思って近づいただけや」
「2階?」
黒田は懐中電灯で2階の教室の窓を照らしたが、既に明かりは消えていた。
「何も無いじゃないか」
「本当です!さっきまで点いてたんです!」
「きっと侵入者や!俺達で捕まえるんよ!」
「それは頼もしいな。まあいい。もうお前達もいい大人なんだし、昔のようなカタいことは言わんよ」
「えっ?」
「実はな、先生も怖い話は嫌いじゃないんだ。この学校に伝わる怪談の数は、7つだけで収まり切らないってことも知ってるよ」
「先生……」
「ただな、お前達は知らなかったか?『七不思議の話、7つ全て聞くと悪いことが起こる』という言い伝えだ」
「いやあ……」
「何か、取って付けたような話ですわなぁ……」
「昔、同じことをやって、事故で死んだ生徒がいたらしいんだ。いや、先生がこの学校で先生をやる前の話なんだけどな」
「そうなんですか」
「そういったこともあって、あの時はお前達に辛く当たってしまったんだ。悪く思わないでくれよ。あの時は先生も本当に心配だったんだから」
「そういうことでしたか」
「それじゃ、仕方無いけんね」
「よし。分かったら、せっかくここまで来たんだ。一緒に中に入るか?」
「いいんですか?」
「ああ。ついでにその灯かりが灯っていたという所へ案内してもらおうかな?本当に侵入者がいるかもしれん。先生も腕力には自信があるけども、大の男3人掛かりなら逆に安心だ」
「願っても無い話ですわ〜。さすが黒ちゃん」
「……何か、言ったか?」
「何か言ったか、ユタ?」
「何も言ってないよ!」
「ま、とにかく中に入ろう」
黒田は手持ちの鍵でもって、旧校舎正面入口のドアの鍵を開けた。
「中は暗いからな。足元に気をつけて」
「はい」
「了解!灯かりが点きよってたんは、こっちです」
木造の建物ならば、当然ながら階段も木製。
上るとギィギィ音がする階段を2階に上がった。
「この辺りです」
「よし。入ってみるぞ。用意はいいか?」
「OKです」
黒田は懐中電灯の他に竹刀を持っていた。
体育の教師であると同時に、剣道部の顧問でもあるのだろうか。
もっとも、こういう所で不審者に遭遇した場合の護身用かもしれないが。
稲生の武器は言わずもがな、大河内は掃除用具入れから持って来たモップを手にしていた。
「覚悟せいや、クォラァァァァァっ!!」
大河内がバンッと思いっ切り教室のドアを開ける。
「……誰もいないね?」
稲生は魔法の杖を構えながら、辺りを見回した。
侵入者の気配など、全く無い。
「……やはり、お前達の見間違いだったようだな」
「そんな……」
「ま、せっかく来たんだ。先生もここの見回りをしなきゃいけないからな、ついでに一緒に来い。さすがに、こういう所は先生も少し緊張するからな、いい同伴者がいて逆に助かるよ」
「先生でも怖いんですか?」
と、稲生。
「まあな。学校に伝わる怪談話でも、この旧校舎を舞台にした話は断トツで多いだろう?それに、宿直の先生だって、昔は恐ろしい目に遭ったなんて話もあるし……。それに、先生は先生で別の話を知ってるんだ。そうだ。その話を聞いてみないか?」
1:是非、お願いします。
2:悪いけど、興味ありません。
3:もう帰らせてもらいます。
どうしようか……?
このロッカールームに潜んでいた亡霊に捕まり、語り部の1人であった福田沙也加が殺されてしまった。
……いや、正確には殺されたのかどうかも分からない。
そもそも死体……どころか、その姿自体が引き込まれたロッカーから消えてしまったのだから。
「……ど、どうしよう、大河内君……」
稲生は震える声で、同じく冷や汗をかいている大河内に聞いた。
「どうもこうもあるか。明らかにこれ、魔界の穴が開いてもうた結果やろ?……旧校舎や!旧校舎へ向かうぞ!」
「ええっ!?」
「このまま学校から逃げ帰っても地獄が待っちょるけん、そんなら立ち向かうしか無い。そやろ?」
「う、うん……。あ、でも……」
「ん?」
「先に新聞部の部室に戻って、荷物を取ってこようよ?水晶球も、あの中だし……」
「ん、それもそうやね」
稲生達はまだ鉄の錆びた臭いの漂う女子水泳部の部室をあとにし、再び新校舎に向かった。
「…………」
だが、そんな2人の様子を伺う姿があったことに、稲生達本人は気付かなかったのである。
荷物を取って、再び旧校舎に向かう。
「オマエ、おもろいモン持っちょるなー?」
稲生の持ち物は、水晶球の他に魔道書と伸縮自在の魔法の杖。
今は最小限に縮めて、ズボンの腰のベルトに下げている。
まるで警察官の警棒や、警備員の警戒棒のようだ。
「うん、まあね……」
そして、旧校舎の前に到着する。
教育資料館として再生する為に耐震補強され、割れた窓ガラスや腐った木材を交換したというが、まるでエイジング加工されたかのように、古めかしい姿を保っている。
「お、大河内君、あれ!」
「何や?……あっ!」
稲生の指さした所、それは2階の教室だったが、そこに小さな明かりが漏れていた。
まるで、ロウソクの灯かりのようである。
確かに教育資料館として再生し、再び旧校舎内には電気が通るようにはなったが、当然こんな時間に人がいるはずがない。
「……こりゃ、ガチやけんね?」
「だね……」
稲生は腰に下げた魔法の杖に手を掛けた。
……と!
「!?」
「!!!」
突然、2人がまばゆい光に当てられた。
一体、何が起きたのだろうか?
「こら!お前達は誰だ!?ここで何をしている!?」
光源の後ろで、男の怒鳴るような誰何の声が聞こえて来た。
「その声は……黒田先生!?黒田先生ですよね!?」
「おー、黒ちゃん先生か」
黒田先生と呼ばれた男は訝し気に、手持ちのライトをずらし、稲生達の顔を見てきた。
「僕です!5〜6年前、2年生だった時に体育を教わった稲生です!」
「隠れてタバコ吸っちょって、色々お世話になった大河内ですー」
「……おっ、何だ、お前らか。思い出したぞ。とっくに同窓会も終わってるのに、何やってんだ、こんな所で?」
「あ、えっとぉ……。先生は5〜6年前のことを覚えてますか?」
「5〜6年前の何のことだ?」
黒田は首を傾げた。
因みに歳の頃は30代半ばといったところで、がっしりした体格をしていた。
白いTシャツを着て、下は黒いジャージのズボンを履いている。
この学校では、未だに教師が宿直として泊まり込んでいるのだろうか?
「ちょうど今くらいの時期、新聞部で学校の怪談特集をすることになって、皆で語りっていたところ、あまりに遅くなったんで、黒田先生に物凄く怒られたことです」
「……ああ。そんなこともあったかな。さすがに先生として、生徒が遅くまで残っているのを見過ごすわけにはいかなかったからな。それで?」
「同窓会ついでに、あの集まりをもう1回することになったんです。そしたら、またこんなに遅くなっちゃいまして……」
「全く。卒業しても変わらんな、お前達は……」
黒田は呆れた顔をした。
「で、臨場感を出す為に、今度は旧校舎に忍び込もうとしていたわけか」
「あ、いや、けしてそんなつもりでは……!」
「そうやで、黒ちゃん……あ、いや、先生。ちょうど2階に変な灯かりが点いてたけん、何やろと思って近づいただけや」
「2階?」
黒田は懐中電灯で2階の教室の窓を照らしたが、既に明かりは消えていた。
「何も無いじゃないか」
「本当です!さっきまで点いてたんです!」
「きっと侵入者や!俺達で捕まえるんよ!」
「それは頼もしいな。まあいい。もうお前達もいい大人なんだし、昔のようなカタいことは言わんよ」
「えっ?」
「実はな、先生も怖い話は嫌いじゃないんだ。この学校に伝わる怪談の数は、7つだけで収まり切らないってことも知ってるよ」
「先生……」
「ただな、お前達は知らなかったか?『七不思議の話、7つ全て聞くと悪いことが起こる』という言い伝えだ」
「いやあ……」
「何か、取って付けたような話ですわなぁ……」
「昔、同じことをやって、事故で死んだ生徒がいたらしいんだ。いや、先生がこの学校で先生をやる前の話なんだけどな」
「そうなんですか」
「そういったこともあって、あの時はお前達に辛く当たってしまったんだ。悪く思わないでくれよ。あの時は先生も本当に心配だったんだから」
「そういうことでしたか」
「それじゃ、仕方無いけんね」
「よし。分かったら、せっかくここまで来たんだ。一緒に中に入るか?」
「いいんですか?」
「ああ。ついでにその灯かりが灯っていたという所へ案内してもらおうかな?本当に侵入者がいるかもしれん。先生も腕力には自信があるけども、大の男3人掛かりなら逆に安心だ」
「願っても無い話ですわ〜。さすが黒ちゃん」
「……何か、言ったか?」
「何か言ったか、ユタ?」
「何も言ってないよ!」
「ま、とにかく中に入ろう」
黒田は手持ちの鍵でもって、旧校舎正面入口のドアの鍵を開けた。
「中は暗いからな。足元に気をつけて」
「はい」
「了解!灯かりが点きよってたんは、こっちです」
木造の建物ならば、当然ながら階段も木製。
上るとギィギィ音がする階段を2階に上がった。
「この辺りです」
「よし。入ってみるぞ。用意はいいか?」
「OKです」
黒田は懐中電灯の他に竹刀を持っていた。
体育の教師であると同時に、剣道部の顧問でもあるのだろうか。
もっとも、こういう所で不審者に遭遇した場合の護身用かもしれないが。
稲生の武器は言わずもがな、大河内は掃除用具入れから持って来たモップを手にしていた。
「覚悟せいや、クォラァァァァァっ!!」
大河内がバンッと思いっ切り教室のドアを開ける。
「……誰もいないね?」
稲生は魔法の杖を構えながら、辺りを見回した。
侵入者の気配など、全く無い。
「……やはり、お前達の見間違いだったようだな」
「そんな……」
「ま、せっかく来たんだ。先生もここの見回りをしなきゃいけないからな、ついでに一緒に来い。さすがに、こういう所は先生も少し緊張するからな、いい同伴者がいて逆に助かるよ」
「先生でも怖いんですか?」
と、稲生。
「まあな。学校に伝わる怪談話でも、この旧校舎を舞台にした話は断トツで多いだろう?それに、宿直の先生だって、昔は恐ろしい目に遭ったなんて話もあるし……。それに、先生は先生で別の話を知ってるんだ。そうだ。その話を聞いてみないか?」
1:是非、お願いします。
2:悪いけど、興味ありません。
3:もう帰らせてもらいます。
どうしようか……?