[11月3日15:30.天候:晴 静岡県富士宮市内某所]
市内を歩くイリーナとマリア。
2人とも魔道師のローブを羽織ってフードを深く被っている。
それで顔は見えないわけだが、2人の特徴をよく知っている人物ならば、すぐに気づけた。
藤谷:「む?あれは……っ?ちょっと、スーちん!車止めろ!」
鈴木:「いい加減、俺の渾名、統一してくださいよ」
鈴木は実家から乗り付けたベンツのVクラスを運転していた。
藤谷のEクラスが左ハンドル車なのに対し、こちらは右ハンドル車である。
後ろには往路で乗せて来た正証寺の婦人部員達を乗せていた。
藤谷:「イリーナ先生にマリアさん!」
イリーナ:「おや、藤谷さん。これからお帰りですか?」
藤谷:「そうなんですよ。お2人は?もし良かったらお送りしますよ?」
イリーナ:「気持ちはありがたいんだけど、アタシらまだ他に行くところがあってねぇ……。遠慮しとくよ」
藤谷:「そうですか」
イリーナ:「ユウタ君はまだ大石寺ですか?」
藤谷:「ええ。今頃、売店……の喫茶店で一服してると思いますぜ」
イリーナ:「そうですか。大石寺にいるのなら、何も心配は無いです」
藤谷:「ん?」
イリーナ:「それじゃ、お気をつけて」
藤谷:「へ、へい。そんじゃ」
鈴木:「あの、稲生先輩と合流されたら、鈴木が『またゲーム作るからよろしく』と伝えてもらえませんか?」
イリーナ:「はい。伝えておきますよ」
鈴木は車を走らせてイリーナ達と別れた。
イリーナ:「…………」
イリーナは普段から目を細めていて、それがのほほんとした表情であり、見る者を安心させる。
それは良く言った場合の表現であり、悪く言うなれば油断を誘うと言っても良い。
それが今、鈴木の車を見送るイリーナの両目が開いていた。
ロシア人(の中でも西側に多いスラブ民族)に多い緑色の瞳が特徴的である。
イリーナが目を開くと、とても冷たい印象を受ける。
それを隠す為に、普段から目を細めているのだとマリアは理解していた。
にも関わらず、それが今開いているのは……。
マリア:「師匠?どうかしましたか?あの日本人達が、何か師匠の不興を買いましたか?」
イリーナ:「ん?あ、いや、そんなこと無いよ。ミスター鈴木だっけ?面白い日本人がいたものね」
マリア:「そうですか?ユウタと違って、あまり好感が持てない日本人ですけど?」
イリーナ:「それはあなたがユウタ君を好きなだけ。それ以外は男性嫌悪症で、みんな嫌ってるだけでしょ?」
マリア:「まあ、それはそうかもしれませんけど。でも、意外です。ミスター藤谷は師匠を“魔の者”から助けたこともあって、それなりに評価できる人物だと思いますが、あの鈴木という日本人に関しては何の恩義もありません」
イリーナ:「ええ。私も藤谷さんは評価に値する人物だと思うわ。だから、藤谷さんは選ばない」
マリア:「は?」
イリーナ:「しかし、ミスター鈴木はまだ評価の段階ではない。そして、あなたの第一印象は悪い」
マリア:「はあ……」
イリーナ:「ま、いずれ分かるわ。いずれね」
マリア:「? (師匠、また何か企んでるな……)」
[同日16:30.天候:晴 同県同市上条 日蓮正宗大石寺 六壺]
六壺は客殿と大坊の間に位置する堂宇である。
その歴史は古く、大石寺建立の時から存在していた。
名前の謂われは建立当時、六室に分かれていたからとされるが定かではないらしい。
現在の六壺は当然ながら当時からあった建物ではなく、昭和63年10月に日顕上人により再建されたもの。
勤行が行われる座敷に安置されている御本尊は、日興上人書写のものである。
……と、離檀した今でもこれくらいは記憶に残っている作者である。
別に記憶力を自慢したいのではなく、それほどまでに足しげく通っていたということである。
御書の内容は殆ど記憶から飛んでいるのにね。
今でも観光案内としてなら、大石寺境内を案内はできる。
夕方の勤行は16時半からで、信徒はその30分前の16時から入れる。
え?朝の勤行は何時からだって?
確か5時だか5時半だかって聞いたことがあるけど、多分信徒は参加しない……というかできないと思う。
どうしてかって?
信徒の朝の勤行は客殿の丑寅勤行、または宿泊している宿坊での勤行がセオリーだからである。
稲生:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
稲生達、参加者の信徒達は、座敷内に建っている2本の柱を境にその後ろに座るのがベタな法則(明文化された規則があるわけではないが、あまり前に座っていると婦人部のオバちゃんに注意されるぞー!)。
夕勤行が始まる15分くらい前から所化僧が太鼓を叩いてくれるので、それに合わせて唱題する。
婦人部員A:「御所化さん達もまだ小さいのね。何かかわいい〜
」
婦人部員B:「ちょっと、そこのあなた。かわいいなんて言ってはダメですよ。今はかわいい所化さんでも、将来はアタシ達の御住職様になられるかもしれない金の卵ですよ?軽率なことを言ったら罰が当たりますよ」
婦人部員A:「あ、はい……」
上記の婦人部員達の会話は、実際に作者が六壺の勤行に参加した時に聞いた内容である。
もちろん記憶に頼っているので、一言一句までは外れているが、だいたいそのようなことを聞いた。
で、“となりの沖田くん”にも似たような描写がある。
件のマンガでは丑寅勤行での話であるが。
そういえば、“となりの沖田くん”では六壺での勤行の話が出てこないようだ。
マンガとしてのネタに欠けるのか、或いは作者さんが参加したことが無いのかのいずれかもしれない。
もっとも、婦人部員達の会話は僧侶不要論者が聞けば嘲笑う内容であろう。
しかし、宗門内においてはそれが正論なのだから仕方が無い。
六壺における夕勤行だが、特に信徒側が何か特別なことをするわけではない。
強いて言うなら、もし塔婆供養や納骨供養を依頼していた場合は、唱題の最中に焼香しに行くというくらいか。
作者は1度もそれをしたことが無いので、焼香まではしたことがない。
塔婆供養の意味だが、どうも説明が難し過ぎて今イチ理解ができないのだ。
一応マンガで説明している“となりの沖田くん”も、せっかく分かりやすくマンガで取り上げているにも関わらず、説明を難しくしている為に理解しにくくなっている。
私がようやっと理解できたのは、“鬼灯の冷徹”という地獄界の大幹部獄卒を主人公にしたマンガを読んでからである。
謗法だと侮るなかれ。
謗法の徒が説明した方が分かりやすい場合もあるのだ。
勤行が一通り終わると導師の僧侶が信徒達の前にやってくる。
その際、勤行に出ていた所化僧達がサッと両脇に避けて道を作る。
その様はモーゼの十戒をイメージするのは私だけであろうか?
いずれにせよ、導師は信徒達の前で挨拶する。
まあ、塔婆供養や納骨供養に際し、懇ろに供養したという信徒への報告である。
導師:「本日、願い出のございました……」
から始まり、
導師:「……懇ろに供養致しました。本日の御登山、真に御苦労様でございました」
で終わる。
“鬼灯の冷徹”をもう少し早く読んでいたなら、私も塔婆供養して御先祖さん達に対する救済措置を仏様に依頼するところだが、時既に遅しだ。
いや、真に申し訳ない。
[同日17:10.天候:晴 大石寺 裏門]

(大石寺裏門。11月3日の17時過ぎだともっと暗いと思われるが、これしか写真が無かったのでよろしく)
イリーナ:「ユウタ君!」
稲生:「先生!マリアさん」
イリーナ:「うん、実にいいタイミング」
マリア:「一応、ユウタは『17時過ぎに終わる』と言ってましたからね」
稲生:「お待たせしました。これで大石寺における御登山は全て終了しましたので、下山しましょう」
イリーナ:「じゃあ、次は……」
稲生:「タクシーでホテルへ移動しましょう。チェック・インしたら、夕食でもと思います」
イリーナ:「OK!それで行きましょう」
稲生:「タクシーは予約してあります。こちらです」
稲生は先に立って、タクシー乗り場のある第二ターミナルへと向かった。
市内を歩くイリーナとマリア。
2人とも魔道師のローブを羽織ってフードを深く被っている。
それで顔は見えないわけだが、2人の特徴をよく知っている人物ならば、すぐに気づけた。
藤谷:「む?あれは……っ?ちょっと、スーちん!車止めろ!」
鈴木:「いい加減、俺の渾名、統一してくださいよ」
鈴木は実家から乗り付けたベンツのVクラスを運転していた。
藤谷のEクラスが左ハンドル車なのに対し、こちらは右ハンドル車である。
後ろには往路で乗せて来た正証寺の婦人部員達を乗せていた。
藤谷:「イリーナ先生にマリアさん!」
イリーナ:「おや、藤谷さん。これからお帰りですか?」
藤谷:「そうなんですよ。お2人は?もし良かったらお送りしますよ?」
イリーナ:「気持ちはありがたいんだけど、アタシらまだ他に行くところがあってねぇ……。遠慮しとくよ」
藤谷:「そうですか」
イリーナ:「ユウタ君はまだ大石寺ですか?」
藤谷:「ええ。今頃、売店……の喫茶店で一服してると思いますぜ」
イリーナ:「そうですか。大石寺にいるのなら、何も心配は無いです」
藤谷:「ん?」
イリーナ:「それじゃ、お気をつけて」
藤谷:「へ、へい。そんじゃ」
鈴木:「あの、稲生先輩と合流されたら、鈴木が『またゲーム作るからよろしく』と伝えてもらえませんか?」
イリーナ:「はい。伝えておきますよ」
鈴木は車を走らせてイリーナ達と別れた。
イリーナ:「…………」
イリーナは普段から目を細めていて、それがのほほんとした表情であり、見る者を安心させる。
それは良く言った場合の表現であり、悪く言うなれば油断を誘うと言っても良い。
それが今、鈴木の車を見送るイリーナの両目が開いていた。
ロシア人(の中でも西側に多いスラブ民族)に多い緑色の瞳が特徴的である。
イリーナが目を開くと、とても冷たい印象を受ける。
それを隠す為に、普段から目を細めているのだとマリアは理解していた。
にも関わらず、それが今開いているのは……。
マリア:「師匠?どうかしましたか?あの日本人達が、何か師匠の不興を買いましたか?」
イリーナ:「ん?あ、いや、そんなこと無いよ。ミスター鈴木だっけ?面白い日本人がいたものね」
マリア:「そうですか?ユウタと違って、あまり好感が持てない日本人ですけど?」
イリーナ:「それはあなたがユウタ君を好きなだけ。それ以外は男性嫌悪症で、みんな嫌ってるだけでしょ?」
マリア:「まあ、それはそうかもしれませんけど。でも、意外です。ミスター藤谷は師匠を“魔の者”から助けたこともあって、それなりに評価できる人物だと思いますが、あの鈴木という日本人に関しては何の恩義もありません」
イリーナ:「ええ。私も藤谷さんは評価に値する人物だと思うわ。だから、藤谷さんは選ばない」
マリア:「は?」
イリーナ:「しかし、ミスター鈴木はまだ評価の段階ではない。そして、あなたの第一印象は悪い」
マリア:「はあ……」
イリーナ:「ま、いずれ分かるわ。いずれね」
マリア:「? (師匠、また何か企んでるな……)」
[同日16:30.天候:晴 同県同市上条 日蓮正宗大石寺 六壺]
六壺は客殿と大坊の間に位置する堂宇である。
その歴史は古く、大石寺建立の時から存在していた。
名前の謂われは建立当時、六室に分かれていたからとされるが定かではないらしい。
現在の六壺は当然ながら当時からあった建物ではなく、昭和63年10月に日顕上人により再建されたもの。
勤行が行われる座敷に安置されている御本尊は、日興上人書写のものである。
……と、離檀した今でもこれくらいは記憶に残っている作者である。
別に記憶力を自慢したいのではなく、それほどまでに足しげく通っていたということである。
御書の内容は殆ど記憶から飛んでいるのにね。
今でも観光案内としてなら、大石寺境内を案内はできる。
夕方の勤行は16時半からで、信徒はその30分前の16時から入れる。
え?朝の勤行は何時からだって?
確か5時だか5時半だかって聞いたことがあるけど、多分信徒は参加しない……というかできないと思う。
どうしてかって?
信徒の朝の勤行は客殿の丑寅勤行、または宿泊している宿坊での勤行がセオリーだからである。
稲生:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
稲生達、参加者の信徒達は、座敷内に建っている2本の柱を境にその後ろに座るのがベタな法則(明文化された規則があるわけではないが、あまり前に座っていると婦人部のオバちゃんに注意されるぞー!)。
夕勤行が始まる15分くらい前から所化僧が太鼓を叩いてくれるので、それに合わせて唱題する。
婦人部員A:「御所化さん達もまだ小さいのね。何かかわいい〜

婦人部員B:「ちょっと、そこのあなた。かわいいなんて言ってはダメですよ。今はかわいい所化さんでも、将来はアタシ達の御住職様になられるかもしれない金の卵ですよ?軽率なことを言ったら罰が当たりますよ」
婦人部員A:「あ、はい……」
上記の婦人部員達の会話は、実際に作者が六壺の勤行に参加した時に聞いた内容である。
もちろん記憶に頼っているので、一言一句までは外れているが、だいたいそのようなことを聞いた。
で、“となりの沖田くん”にも似たような描写がある。
件のマンガでは丑寅勤行での話であるが。
そういえば、“となりの沖田くん”では六壺での勤行の話が出てこないようだ。
マンガとしてのネタに欠けるのか、或いは作者さんが参加したことが無いのかのいずれかもしれない。
もっとも、婦人部員達の会話は僧侶不要論者が聞けば嘲笑う内容であろう。
しかし、宗門内においてはそれが正論なのだから仕方が無い。
六壺における夕勤行だが、特に信徒側が何か特別なことをするわけではない。
強いて言うなら、もし塔婆供養や納骨供養を依頼していた場合は、唱題の最中に焼香しに行くというくらいか。
作者は1度もそれをしたことが無いので、焼香まではしたことがない。
塔婆供養の意味だが、どうも説明が難し過ぎて今イチ理解ができないのだ。
一応マンガで説明している“となりの沖田くん”も、せっかく分かりやすくマンガで取り上げているにも関わらず、説明を難しくしている為に理解しにくくなっている。
私がようやっと理解できたのは、“鬼灯の冷徹”という地獄界の大幹部獄卒を主人公にしたマンガを読んでからである。
謗法だと侮るなかれ。
謗法の徒が説明した方が分かりやすい場合もあるのだ。
勤行が一通り終わると導師の僧侶が信徒達の前にやってくる。
その際、勤行に出ていた所化僧達がサッと両脇に避けて道を作る。
その様はモーゼの十戒をイメージするのは私だけであろうか?
いずれにせよ、導師は信徒達の前で挨拶する。
まあ、塔婆供養や納骨供養に際し、懇ろに供養したという信徒への報告である。
導師:「本日、願い出のございました……」
から始まり、
導師:「……懇ろに供養致しました。本日の御登山、真に御苦労様でございました」
で終わる。
“鬼灯の冷徹”をもう少し早く読んでいたなら、私も塔婆供養して御先祖さん達に対する救済措置を仏様に依頼するところだが、時既に遅しだ。
いや、真に申し訳ない。
[同日17:10.天候:晴 大石寺 裏門]

(大石寺裏門。11月3日の17時過ぎだともっと暗いと思われるが、これしか写真が無かったのでよろしく)
イリーナ:「ユウタ君!」
稲生:「先生!マリアさん」
イリーナ:「うん、実にいいタイミング」
マリア:「一応、ユウタは『17時過ぎに終わる』と言ってましたからね」
稲生:「お待たせしました。これで大石寺における御登山は全て終了しましたので、下山しましょう」
イリーナ:「じゃあ、次は……」
稲生:「タクシーでホテルへ移動しましょう。チェック・インしたら、夕食でもと思います」
イリーナ:「OK!それで行きましょう」
稲生:「タクシーは予約してあります。こちらです」
稲生は先に立って、タクシー乗り場のある第二ターミナルへと向かった。