[11月4日?時刻不明 天候:曇? 地獄界閻魔庁界隈 冥鉄の駅]
噴煙などが風向きによっては容赦なく吹き付けて来るホーム。
その中から現れたのは、1両単行の電車だった。
稲生:「ええっ!?これだけ!?」
ホームの有効長は長く、10両編成の列車が多少のオーバーランをしてもまだ何とかなるくらいだというのに(ホームから飛び出せば事故扱いになり、ニュースで報道されるが、ホームから飛び出さなければそうはならない)。
稲生が驚いたのは、これだけではない。
たったの1両編成の癖に、車内は超満員だったからだ。
駅員:「危ないですから、下がってください」
ドアが開くと同時に、乗客が無理やり降ろされた。
獄卒C:「閻魔庁の入口だ!ここで降りろォ!」
獄卒D:「逃げても無駄だぞ!罪が重なるだけだぞ!」
稲生:「うわ……!」
イリーナ:「これでも西洋の地獄よりは優しい方なのよ」
稲生:「これで!?」
イリーナ:「仏教には輪廻転生という考え方があるでしょ?」
稲生:「は、はい」
イリーナ:「英語でソウルロンダリング(魂洗浄)w」
稲生:「それは言わないと思います」
イリーナ:「例え罪を犯して地獄に堕ちたとしても、長い時間を掛けてそれを償い、再び来世に転生するという考え方ね」
稲生:「はい」
イリーナ:「つまり刑務所と同じで、更生に重きを置いているのよ」
稲生:「なるほど」
イリーナ:「西洋の地獄はとにかく懲罰。更生なんて機会は一切与えない。だから獄卒でも、悪魔と鬼は全く別なのよ」
その地獄界での『刑期』を終え、やっとこさ転生したとしても安心できない。
再び罪障を積めばもう1度、「おいでませ、地獄界」ということになるし、そもそも幸せな家庭に生まれてくる確率が物凄く低い。
赤ん坊のうちに虐待死するパターンが多々あるが、これこそ地獄界からの転生組ではないかと思うのだ。
で、その殺された赤ん坊が“賽の河原”に行く。
そこにやってくるのは獄卒だけではなく、閻魔大王の使いでもある地蔵菩薩がいずれはやってきて、今度は幸せな家庭の所に転生させてくれるのだという(作者が他宗の某寺住職に聞いた話)。
ぶっちゃけ日蓮正宗の折伏より、こっちの話の方が夢があって良くね?
つまり、「子供には罪が無い」というのは間違いであり、実際は「過去世において大罪をしてきた罰である」と言えるのである。
仏教もなかなか冷徹と言えよう。
もっとも、虐待死させた親が堕ちる十六小地獄もちゃんと用意されているので悪しからず。
車掌:「お待たせしました。キップを拝見します」
稲生:「はい。人間界までお願いします」
稲生は3人分の乗車券を車掌に渡した。
そして、車内に入る。
稲生:(15メートル車くらいか。旧国鉄の車両じゃないな)
片開きの1枚ドアが片側に2つある。
座席はロングシートで、床は木張りであった。
前面展望は無い。
真ん中に乗務員室ドアがあって、そこにしか窓が無いからだ。
しかも、運転室側の方はそのブラインドが下ろされていた。
取りあえず、ドア間の座席に座る。
車掌:「レピーター点灯」
稲生:(レピーターあるの!?)
車掌:「時刻よし」
ピイッ!(車掌の笛)
車掌:「乗降、終了」
稲生:(普段はJRと同じような安全確認をするのに、あの『最終電車』は……)
その為、冥鉄ではワンマン運転は行われない。
例え1両単行であったとしてもだ。
電車は釣り掛け駆動のモーター音を響かせて発車した。
稲生:「どのくらいで着くんですかねぇ?」
イリーナ:「こういう通勤電車みたいなヤツだから、そんなには掛からないと思うけどぉ……」
マリア:「白馬駅に着いたら面白いな」
稲生:「善光寺白馬電鉄が全線開通していたら、有り得たかもしれませんね」
JR長野駅に程近い南長野駅を起点とした私鉄。
終点を白馬駅(当時の駅名は信濃四ツ谷駅)にする予定だったが、完成には至らず、未成線となっている。
尚、全区間未成だった蔵王高速電鉄と違ってちゃんと部分開通はしていた。
現在、鉄道部門は全廃したが、貨物事業部門は残され、現在も鉄道会社の名前のままのトラック会社として健在している。
イリーナ:「この電車がどこの鉄道会社で走っていたかが、大きな行き先のヒントになりそうね。ユウタ君、何か分からない?」
稲生:「そうですねぇ……。旧国鉄の車両ではないと思います。どこかの地方私鉄……いや、大手私鉄でも時代によってはこういう車両は……」
そこで稲生、ふと気づく。
稲生:「そうだ、銘板!」
稲生は乗務員室扉の上を見た。
稲生:「ナニワ工機?」
今のアルナ車両株式会社のことである。
稲生:「なるほど。確かに、阪急の電車っぽいような……ええっ?」
塗装はクリーム色に赤色であるが……。
稲生:「まさか、関西地方にでも連れて行かれるかなぁ……」
イリーナ:「ま、いいじゃない。新幹線で帰ればいいよ」
マリア:「新幹線の沿線に着いてくれればいいんですけどね」
と、電車がトンネルの中に入った。
稲生:「ちょっと!照明が点いてないよ!?」
イリーナ:「サービス悪い鉄道会社ね」
なので車内は真っ暗だ。
車掌:「失礼しました」
ようやく車内灯が点灯する。
とはいえ、古い電車だ。
蛍光灯は所々にしか無い為、今の電車と比べれば照度は低かった。
稲生:「なかなか長いトンネルですよ?」
イリーナ:「亜空間トンネルだからね。今、現世に向かっているのは確かよ」
稲生:「『最終電車』でも亜空間トンネルはかなり長かったですもんねぇ……」
イリーナ:「いや、全く。いつ外に出るか分からないから、アタシゃ寝てるよ」
稲生:「マジですか……」
それからどれくらいの時間が経ったのか。
電車が古いモーターの音を響かせて走行していたのだが、それが減速し始めた。
時速30〜40キロくらいの速度に落ちた時、電車はトンネルを出た。
稲生:「どこだ!?」
稲生とマリアは窓の外に食い付いた。
マリア:「ここ……どこだ?」
稲生:「えーっと……」
少なくとも、都会ではないことだけは分かった。
山に囲まれた、どこかのローカル線っぽい。
稲生:「大糸線にこんな風景があったかな……?」
マリア:「やっぱり屋敷の近くか!良かった良かった」
稲生:「いや、まだ分かりませんが……」
まるで廃駅のようなホームを通り過ぎた。
稲生:「ん?今の駅は違うのかな?」
電車が更に減速する。
さっきの廃駅っぽいホームは進行方向左側にあったが、今度は右側にホームが現れた。
電車はそこで停車する。
車掌:「停止位置、よし!」
大きなエアー音がして、引き戸がガタゴト言いながら開いた。
車掌:「ご乗車ありがとうございました。無人駅ですので、乗車券をもらいます」
稲生:「ああ、どうも……」
マリア:「師匠、降りますよ!」
イリーナ:「何だい、せっかく寝入った所なのに……」
稲生は車掌にキップを渡して電車を降りた。
稲生:「ここ……どこ?」
パッと見た感じ、ホームは1面1線。
車掌は無人駅だと言っていたが、ちゃんと駅舎はある。
もっとも、昼間は有人駅であっても、早朝と深夜は無人駅ということは地方では多々ある。
稲生は駅名看板を探したが、ホームには無かった。
いや、厳密に言えば看板が掲げられていた跡はあったのだが……。
稲生:「車掌さん、ここどこ!?」
だが、電車はすぐに発車してしまった。
イリーナ:「逃げられたねぇ……」
マリア:「逃げられたじゃないですよ!」
駅舎に入ろうにも、鍵が掛かっていて入れない。
恐らく、まだ始発列車が走る時間ではないのだろう。
東の空は少し明るいものの……あれは東の空だろうか?それとも……。
稲生:「あー、朝だな……」
稲生がスマホを取り出すと、11月5日の午前6時半を指していた。
イリーナ:「ユウタ君、こっちから外に出られるっぽいよ?」
イリーナがホームの先を指さした。
ホームは短くて、さっきの電車の4両編成分ほどしかない。
しかも終点駅らしく、車止めが付いていた。
そしてレールを見ると、やたら錆びているのだ。
それに、6時半というと、どんな地方のローカル線であっても、いい加減列車が走る時間帯だ。
にも関わらず、駅員がいないのはいいとして、駅舎すら入れないとは……。
稲生達は駅舎の脇を通って、ようやく外に出た。
稲生:「ああっ!」
駅の外には貨車と機関車が静態保存されていた。
それも、JRの貨物ではない。
そして、駅舎の正面に回ってみると、ようやく駅名が分かった。
そこには、こう書いてあった。
細倉マインパーク前駅と。
稲生:「あれは栗原電鉄の車両だったのかーっ!!」
頭を抱えてorzの姿勢になった稲生だった。
噴煙などが風向きによっては容赦なく吹き付けて来るホーム。
その中から現れたのは、1両単行の電車だった。
稲生:「ええっ!?これだけ!?」
ホームの有効長は長く、10両編成の列車が多少のオーバーランをしてもまだ何とかなるくらいだというのに(ホームから飛び出せば事故扱いになり、ニュースで報道されるが、ホームから飛び出さなければそうはならない)。
稲生が驚いたのは、これだけではない。
たったの1両編成の癖に、車内は超満員だったからだ。
駅員:「危ないですから、下がってください」
ドアが開くと同時に、乗客が無理やり降ろされた。
獄卒C:「閻魔庁の入口だ!ここで降りろォ!」
獄卒D:「逃げても無駄だぞ!罪が重なるだけだぞ!」
稲生:「うわ……!」
イリーナ:「これでも西洋の地獄よりは優しい方なのよ」
稲生:「これで!?」
イリーナ:「仏教には輪廻転生という考え方があるでしょ?」
稲生:「は、はい」
イリーナ:「英語でソウルロンダリング(魂洗浄)w」
稲生:「それは言わないと思います」
イリーナ:「例え罪を犯して地獄に堕ちたとしても、長い時間を掛けてそれを償い、再び来世に転生するという考え方ね」
稲生:「はい」
イリーナ:「つまり刑務所と同じで、更生に重きを置いているのよ」
稲生:「なるほど」
イリーナ:「西洋の地獄はとにかく懲罰。更生なんて機会は一切与えない。だから獄卒でも、悪魔と鬼は全く別なのよ」
その地獄界での『刑期』を終え、やっとこさ転生したとしても安心できない。
再び罪障を積めばもう1度、「おいでませ、地獄界」ということになるし、そもそも幸せな家庭に生まれてくる確率が物凄く低い。
赤ん坊のうちに虐待死するパターンが多々あるが、これこそ地獄界からの転生組ではないかと思うのだ。
で、その殺された赤ん坊が“賽の河原”に行く。
そこにやってくるのは獄卒だけではなく、閻魔大王の使いでもある地蔵菩薩がいずれはやってきて、今度は幸せな家庭の所に転生させてくれるのだという(作者が他宗の某寺住職に聞いた話)。
つまり、「子供には罪が無い」というのは間違いであり、実際は「過去世において大罪をしてきた罰である」と言えるのである。
仏教もなかなか冷徹と言えよう。
もっとも、虐待死させた親が堕ちる十六小地獄もちゃんと用意されているので悪しからず。
車掌:「お待たせしました。キップを拝見します」
稲生:「はい。人間界までお願いします」
稲生は3人分の乗車券を車掌に渡した。
そして、車内に入る。
稲生:(15メートル車くらいか。旧国鉄の車両じゃないな)
片開きの1枚ドアが片側に2つある。
座席はロングシートで、床は木張りであった。
前面展望は無い。
真ん中に乗務員室ドアがあって、そこにしか窓が無いからだ。
しかも、運転室側の方はそのブラインドが下ろされていた。
取りあえず、ドア間の座席に座る。
車掌:「レピーター点灯」
稲生:(レピーターあるの!?)
車掌:「時刻よし」
ピイッ!(車掌の笛)
車掌:「乗降、終了」
稲生:(普段はJRと同じような安全確認をするのに、あの『最終電車』は……)
その為、冥鉄ではワンマン運転は行われない。
例え1両単行であったとしてもだ。
電車は釣り掛け駆動のモーター音を響かせて発車した。
稲生:「どのくらいで着くんですかねぇ?」
イリーナ:「こういう通勤電車みたいなヤツだから、そんなには掛からないと思うけどぉ……」
マリア:「白馬駅に着いたら面白いな」
稲生:「善光寺白馬電鉄が全線開通していたら、有り得たかもしれませんね」
JR長野駅に程近い南長野駅を起点とした私鉄。
終点を白馬駅(当時の駅名は信濃四ツ谷駅)にする予定だったが、完成には至らず、未成線となっている。
尚、全区間未成だった蔵王高速電鉄と違ってちゃんと部分開通はしていた。
現在、鉄道部門は全廃したが、貨物事業部門は残され、現在も鉄道会社の名前のままのトラック会社として健在している。
イリーナ:「この電車がどこの鉄道会社で走っていたかが、大きな行き先のヒントになりそうね。ユウタ君、何か分からない?」
稲生:「そうですねぇ……。旧国鉄の車両ではないと思います。どこかの地方私鉄……いや、大手私鉄でも時代によってはこういう車両は……」
そこで稲生、ふと気づく。
稲生:「そうだ、銘板!」
稲生は乗務員室扉の上を見た。
稲生:「ナニワ工機?」
今のアルナ車両株式会社のことである。
稲生:「なるほど。確かに、阪急の電車っぽいような……ええっ?」
塗装はクリーム色に赤色であるが……。
稲生:「まさか、関西地方にでも連れて行かれるかなぁ……」
イリーナ:「ま、いいじゃない。新幹線で帰ればいいよ」
マリア:「新幹線の沿線に着いてくれればいいんですけどね」
と、電車がトンネルの中に入った。
稲生:「ちょっと!照明が点いてないよ!?」
イリーナ:「サービス悪い鉄道会社ね」
なので車内は真っ暗だ。
車掌:「失礼しました」
ようやく車内灯が点灯する。
とはいえ、古い電車だ。
蛍光灯は所々にしか無い為、今の電車と比べれば照度は低かった。
稲生:「なかなか長いトンネルですよ?」
イリーナ:「亜空間トンネルだからね。今、現世に向かっているのは確かよ」
稲生:「『最終電車』でも亜空間トンネルはかなり長かったですもんねぇ……」
イリーナ:「いや、全く。いつ外に出るか分からないから、アタシゃ寝てるよ」
稲生:「マジですか……」
それからどれくらいの時間が経ったのか。
電車が古いモーターの音を響かせて走行していたのだが、それが減速し始めた。
時速30〜40キロくらいの速度に落ちた時、電車はトンネルを出た。
稲生:「どこだ!?」
稲生とマリアは窓の外に食い付いた。
マリア:「ここ……どこだ?」
稲生:「えーっと……」
少なくとも、都会ではないことだけは分かった。
山に囲まれた、どこかのローカル線っぽい。
稲生:「大糸線にこんな風景があったかな……?」
マリア:「やっぱり屋敷の近くか!良かった良かった」
稲生:「いや、まだ分かりませんが……」
まるで廃駅のようなホームを通り過ぎた。
稲生:「ん?今の駅は違うのかな?」
電車が更に減速する。
さっきの廃駅っぽいホームは進行方向左側にあったが、今度は右側にホームが現れた。
電車はそこで停車する。
車掌:「停止位置、よし!」
大きなエアー音がして、引き戸がガタゴト言いながら開いた。
車掌:「ご乗車ありがとうございました。無人駅ですので、乗車券をもらいます」
稲生:「ああ、どうも……」
マリア:「師匠、降りますよ!」
イリーナ:「何だい、せっかく寝入った所なのに……」
稲生は車掌にキップを渡して電車を降りた。
稲生:「ここ……どこ?」
パッと見た感じ、ホームは1面1線。
車掌は無人駅だと言っていたが、ちゃんと駅舎はある。
もっとも、昼間は有人駅であっても、早朝と深夜は無人駅ということは地方では多々ある。
稲生は駅名看板を探したが、ホームには無かった。
いや、厳密に言えば看板が掲げられていた跡はあったのだが……。
稲生:「車掌さん、ここどこ!?」
だが、電車はすぐに発車してしまった。
イリーナ:「逃げられたねぇ……」
マリア:「逃げられたじゃないですよ!」
駅舎に入ろうにも、鍵が掛かっていて入れない。
恐らく、まだ始発列車が走る時間ではないのだろう。
東の空は少し明るいものの……あれは東の空だろうか?それとも……。
稲生:「あー、朝だな……」
稲生がスマホを取り出すと、11月5日の午前6時半を指していた。
イリーナ:「ユウタ君、こっちから外に出られるっぽいよ?」
イリーナがホームの先を指さした。
ホームは短くて、さっきの電車の4両編成分ほどしかない。
しかも終点駅らしく、車止めが付いていた。
そしてレールを見ると、やたら錆びているのだ。
それに、6時半というと、どんな地方のローカル線であっても、いい加減列車が走る時間帯だ。
にも関わらず、駅員がいないのはいいとして、駅舎すら入れないとは……。
稲生達は駅舎の脇を通って、ようやく外に出た。
稲生:「ああっ!」
駅の外には貨車と機関車が静態保存されていた。
それも、JRの貨物ではない。
そして、駅舎の正面に回ってみると、ようやく駅名が分かった。
そこには、こう書いてあった。
細倉マインパーク前駅と。
稲生:「あれは栗原電鉄の車両だったのかーっ!!」
頭を抱えてorzの姿勢になった稲生だった。