報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「稲生家を過ごす」 3

2017-11-05 19:16:14 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月2日09:00.天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

〔「……台風23号は今後速度を速めながら関東地方に接近、夜遅くには荒れ模様となる見込みです」〕

 居間のテレビを観ているイリーナ組。

 稲生:「こりゃ完全に直撃コースですね」
 イリーナ:「この家の中にいれば安心だとは思うわ。でもこんな嵐なのに、日本人は仕事に行くのねぇ……」
 マリア:「電車さえ動いていれば仕事に行く。それが日本という所か」
 稲生:「違いますよ、マリアさん」
 マリア:「おっ……?(さすがに自粛するか?)」
 稲生:「電車が動いて無くても、取りあえず駅まで行くのが日本人の美徳です」(`・ω・´)
 マリア:「Why Japanese people!?」(←厚切りジェイソン風に)
 イリーナ:「死亡フラグを敢えて立てて向かう。正に、Kamikazeね」

 ズズズと紅茶を啜るイリーナ。

 イリーナ:「ロシアだったら、こんな嵐が来ようものなら、そもそも鉄道職員が真っ先に休むから仕事もクソも無いわね」
 マリア:「イギリスもです」

 テレビにはワイパーをフルに動かして走行する山手線の電車の映像が映っていた。

 稲生:「魔界高速電鉄はちゃんと営業してるのにねぇ……」
 イリーナ:「それでも本数は減らして運転してるのよ」
 稲生:「ああ、やっぱり。今日はこっちの電車も本数を減らして運転するそうですよ」
 イリーナ:「ううん、そうじゃないの」
 稲生:「えっ?」
 イリーナ:「嵐でも真面目に電車を走らせるのは、日本人職員だけだって。あとは皆休むから」
 マリア:「日本人達がやってくる前までは、平気で全面運休とかしてたらしいですね」
 イリーナ:「他の職員達にとっては強制労働の刑みたいなものだから」

 稲生は文化と習慣の違いを、日本にいながらにして思い知られた。

 イリーナ:「今日は昨夜に引き続き、『東京中央学園の怪談』をユウタ君に話してもらいましょうか」
 稲生:「分かりました」

 イリーナ組は奥の客間へと移動した。

 稲生:「紅茶のお代わり持って来ますね」
 イリーナ:「スッパスィーバ!」

 客間に移動する。

 稲生:「えー、それでは……魔道師が関わっていそうな話ですね」
 イリーナ:「何かある?」
 稲生:「だいぶ恐ろしい話があるんですけど……」
 イリーナ:「おっ、そういうのがいいね」
 稲生:「今から20年ほど前の話です。当時の新聞部が、やっぱり学校の七不思議の特集をしたらしいんですよ。当時1年生でまだ新人の部員がその担当に選ばれたそうなんですけどね……」
 イリーナ:「それで?」
 稲生:「今、その新聞部員はおろか、その部員に学校の七不思議の話をした7人はこの世にいません」
 イリーナ:「ほおほお?誰が呪殺したのかしら?」
 稲生:「全員が謎の変死です。頭をグチャグチャに潰されて死んでいたそうです」
 イリーナ:「グチャグチャ……?」
 稲生:「しかも全員が同じタイミングで。新聞部員だけが死に際、ダイイングメッセージを残していたらしいです。『のろいばり』と」
 イリーナ:「呪い針!?」
 マリア:「師匠、あなたが犯人ですか?」
 稲生:「ええっ!?そうなんですか、マリアさん!?」
 マリア:「そりゃ私だって呪殺くらいできるさ。私でさえできるんだから、師匠なんかそれはもうお手もの……」
 イリーナ:「ユウタ君!その話はパスだわ!次の話は!?」
 稲生:「……先生も何気に関わっていたんですね。全く、人が悪い」
 マリア:「だから言っただろ?こんな顔して意外と鬼BBA……いでででっ!?」
 イリーナ:「マリア、最近脂肪付いて来たんじゃない?ダメよ。ちゃんと運動しなきゃ」

 マリアの脇腹をつねるイリーナだった。

 マリア:「師匠よりマシです!」

 マリアはイリーナの巨乳を指さした。

 稲生:「あの……次の話行っていいですか?」
 イリーナ:「はいはい。よろしく」
 稲生:「えーと……次は、旧校舎で起きた話です。今は教育資料館として再生している旧校舎ですが、まだ放置されていた頃の話ですね。これに出てくる『3時ババァ』の話ですが……」

 と、そこへ稲生のスマホが鳴った。

 稲生:「あ、ちょっと失礼」

 稲生が何気にスマホを取ろうとした時だった。
 イリーナがパッと取ってしまった。

 イリーナ:「ハイ、お掛けになった電話番号は現在使われてませんよォ!」
 マリア:「……あの電話、多分『今の話を続けたら呪殺する』という電話だったかもしれないぞ?」
 稲生:「ええっ!?」
 イリーナ:「いいじゃないのよ、これも日本観光の一環なんだからぁ。カタいこと言わない。いいでしょ、いいでしょ?」
 稲生:「先生のお知り合いからだったようですね」
 マリア:「ユウタがそのまま出てたら、多分呪いの魔法を掛けられてたよ」
 稲生:「どんだけあの学校は、魔道師に狙われてたんだ……」
 マリア:「魔界の入口に建つような絶好条件だものなぁ……」

[同日21:00.天候:暴風雨 稲生家]

〔「……関東地方は現在、台風23号が上陸しており、各地で浸水の被害が出ております。この台風は速度を速めながら東北東の方向へ進んでおり、未明には茨城県沖に抜ける見込みです。各地の警報つきましては……」〕

 佳子:「台風の被害はどうだって?」
 稲生:「(埼玉の方は)まだ何も言ってない」

 稲生は居間で台風中継を観ていた。

 宗一郎:「おーい、風呂出たぞー」
 佳子:「はいはい。勇太、明日は早いんでしょう?早いとこお風呂入って寝ちゃいな」
 稲生:「分かった」

 稲生はソファから立ち上がった。

 佳子:「明日のゴルフは中止かしら?」
 宗一郎:「台風、明日には通過するんだろうが、この分だとコンデションがなぁ……」

 両親がそんなことを話している間、稲生は浴室に向かった。
 奥の部屋からはイリーナとマリアの話し声がするので、まだ当分寝ないのだろう。
 魔道師の夜は長いのである。

 稲生:「おっと!」

 脱衣場に入ると、稲生のスマホが鳴った。
 今度は出る前にディスプレイを見る。
 すると、相手は藤谷だった。

 稲生:「はい、もしもし?」
 藤谷:「おー、稲生君か。明日、気をつけてな」
 稲生:「班長も気をつけて」
 藤谷:「幸い台風が通過してからの出発ではあるんだが、まだ風が強いからな。明日はずっと台風の吹き返しの風が強いそうだから」
 稲生:「あー、なるほど……」

 実際に今も、窓がガタガタと鳴っている。

 藤谷:「稲生君達は新幹線だろ?止まることは無いと思うけど、気をつけてくれよ」
 稲生:「大丈夫です。速度規制食らったくらいでは遅刻しませんよ」
 藤谷:「そりゃ頼もしい。それじゃ、御山で」

 稲生は電話を切った。

 稲生:「班長として班員の登山に気にする、か。顕正会の大会前にも、似たようなのあったなぁ……」

 アンチ顕正会の法華講員は悪く見るが、実際には連絡された方はそんなに悪い気はしないものである。
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“大魔道師の弟子” 「稲生家を過ごす」 2

2017-11-05 10:57:17 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月1日22:00.天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 稲生家1F客間]

 外は雨が降りしきっている。
 まだ風はそんなに強くなく、今夜から明日の昼に掛けての関東は、台風接近に触発された前線の活発化よる大雨に注意との天気予報が出ていた。

 イリーナ:「それではユウタ君、お話を聞かせてもらいましょうか」
 稲生:「は、はい」
 マリア:「…………」

 テーブルを囲み、何か話そうとしている。
 一体、何の会合だろうか。

 稲生:「僕が新聞部だった頃の話ですね」
 イリーナ:「そうよ」

 稲生がその時にメモした手帳があった。

 稲生:「やはり、旧校舎に纏わる話が多いですね。夜は幽霊やお化けの巣窟ですから」
 イリーナ:「うん」
 稲生:「どういうタイプの話がいいですか?」
 イリーナ:「そうね……。魔道師が出てくるものがいいわ」
 稲生:「飴玉婆さんのキャサリン先生と、『3時の魔道師』くらいしか無いですよ」
 イリーナ:「うーん……だったら、呪いの話は?」
 稲生:「呪いの話?」
 イリーナ:「そう」
 稲生:「そうですねぇ……」

 稲生はパラパラと手帳を捲った。

 稲生:「あ、こんなのはどうでしょう?カラスが登場するので、案外魔道師が関わっている話かも……」
 イリーナ:「おっ、是非聞かせて!」
 稲生:「あ、はい」

 稲生はコホンと咳払いを1つした。

 稲生:「これは今から、10年前の新聞部の取材によるものですね。その時の取材メモですが、指輪に纏わるお話です」
 マリア:「指輪。魔法具としても、よく使われるな」
 稲生:「それよりずっと前のこと、その指輪……ルビーの指輪だったんですが、それを指輪を嵌めて学校に通っていた女子生徒がいたらしいんですよ。もっとも、それは彼女自身が買ったものではありません。別の学校に通っていた彼氏さんからもらったものだそうで。バイトしてお金を溜めて、彼女に買ってあげたらしいんですよ」
 イリーナ:「それで?」
 稲生:「その彼氏さん、しばらくして亡くなりました。病気だったそうです。で、しかもその指輪も先生に見つかって取り上げられたらしいんですよ。……あ、日本の高校以下の学校はそういう所厳しいもんで、東京中央学園もそんなもの学校に持って来ちゃいけないって決まりがあったので。……今は無いですけどね」
 イリーナ:「今は指輪くらいOKなんだ」
 稲生:「どうしてそうなったのか。正に、この事件がきっかけだったんですよ」

 女子生徒から指輪を取り上げたのはクラス担任教師ではなく、教科担任の方。
 歳は20代という若い男性教師であったが、今はこの学校にいない。
 ……というか、この世にもいない。

 稲生:「外国でも御法度でしょうがね、その先生、その女子生徒のことか好きだったらしいですよ。でもその女子生徒には、指輪までくれた彼氏さんがいたでしょう?」
 イリーナ:「……つまり、その男性教師は指輪に呪い殺されたというわけか。フムフム、臭うね」
 マリア:「カラスがまだ出て来てませんよ、師匠」
 稲生:「ええ。その男性教師は彼氏さんが亡くなったのをいいことに、彼女に猛アタックしていたらしいんですが、相手にされなかったらしいです」
 イリーナ:「アタックのタイミングが悪いね。もう少しほとぼりが冷めてからの方が良かったんじゃない?」
 マリア:「師匠じゃないんですから」
 稲生:「指輪は人質にしていたわけですが、全く相手にされない腹いせに、その指輪を捨ててやろうとしたらしいんです。そこで都内のある河川敷に向かい、川に捨ててやろうとしたらしいんですね。そしたら……」

 どこからともなくカラスの大群が現れ、その男性教師に一斉に襲い掛かったという。
 たかがカラスと侮るなかれ。
 “バイオハザード”シリーズでも、カラスは敵として登場する。
 プレイしたことのある人は分かると思うが、あれの大群に襲われた時の恐怖を味わったことはないだろうか。
 あれは所詮ゲームだから、ではない。
 本当にカラスに襲われた場合、死に直面することは多々あるということなのだ。
 で、その時にハンドガンしか持っていなかったら、もう逃げるしかない。
 現実でも鳥を射殺しようとする際、ハンドガンは無駄な抵抗だからである。

 稲生:「日本は銃の無い国ということになっていますから、ハンドガンすら持っていません。その時にショットガンでも持っていたら、また違ったんでしょうがね」
 イリーナ:「カラスは魔女の使い魔として当たり前の存在だよ。大群を使って暗殺することも可能だわ」
 稲生:「カラスに殺された男性教師の死体が見つかったのは、翌朝のことです。しかし、指輪はありませんでした。恐らく、カラスが持って行ったのでしょう。その証拠に、彼女の家のベランダに没収されたはずの指輪が落ちていたらしいですよ。彼女は今でも健在です。ただ、今どこに住んでいるかは分かりませんが」
 イリーナ:「フムフム。魔道師が関わった可能性大だね。これは当たってみる価値ありだわ」
 マリア:「でも師匠、これだけだと指輪が魔法具かどうか分かりません」
 イリーナ:「確率は高いじゃないのよ。上手い具合にカラスの大群を寄越すくらいだからね」
 マリア:「でも本人に返したということは、やっぱり違ったということなのでは?」
 稲生:「あっ、そうか!」
 イリーナ:「いや、そう?私だったら、例えそれが本物であっても、一旦は本人に返すわ。恐らくそのルビーの指輪は、魔力を溜めておくタイプのもの。その女子生徒さんがどんなに強い霊力を持った人なのかはこれから調べないと分からないけど、魔力が溜まったら、受け取りに行くのでしょう」
 稲生:「それじゃ、死んだ彼氏さんって……」
 イリーナ:「それは……」

 と言いかけて、イリーナは黙った。

 イリーナ:「いや、まだ予断は禁物ね。背後関係を洗っていくうちに分かるでしょう」
 稲生:「はあ……」
 イリーナ:「情報提供ありがとう。もうそろそろ休みましょうか。どうせ明日は台風直撃で何もできないし、明日また違う話を聞かせてね」
 稲生:「分かりました。僕も調べておきます。それでは」

 稲生は客間を出て行った。

 マリア:「師匠、どうしたんですか?さっき言い掛けたのは……」
 イリーナ:「まだ稲生君には聞かせられねぇ。その彼氏さん、多分魔道師に良いように使われて殺されたかもしれない」
 マリア:「ええっ!?」
 イリーナ:「多分、ルビーの指輪は真っ当な宝石屋で買ったものではないでしょう。恐らく、通常よりも格安で渡した魔道師がいたと思う。そりゃそうじゃない。ルビーを正規ルートで買おうとしたら、学生が普通に働いただけで手に入るわけが無いわ。家がよほどお金持ちとかでもない限りはね」
 マリア:「……何か、私には合わないやり方ですね。その女子生徒の霊力を手に入れる為に、魔法具の指輪を男に渡したということですか」
 イリーナ:「今なら魔道師の弟子にスカウトでもするんだろうけどね。アタシが前例作ったことだし、ユウタ君もベタな日本人の法則の如く、勤勉実直なコだから今は考えが変わってるけどね。でも昔は、誰もが日本人を弟子にするなんて考えなかったからね」

 今でもダンテ一門で日本人は稲生ただ1人である。
 これは西洋魔法が東洋人に習得できるわけがないという差別と偏見によるものだ。

 マリア:「その魔道師、一体誰なんでしょう?」
 イリーナ:「Facebookやってる某ロシア人のお姉さんが怪しいけどね」

 因みに最新の投稿は、『今日は鳥カフェでまったりしています』というものだったらしい。
 尚、鳥カフェというと、オウムとかインコとか人懐っこい鳥達に囲まれてリラックスするというのが定番のはずなのだが、何故かアナスタシアの周りにはカラスしかいなかったという。
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