報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「富士宮での夜」 2

2017-11-12 19:03:04 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月3日20:00.天候:晴 静岡県富士宮市ひばりヶ丘 スーパーホテル富士宮]

 イリーナ:「飲んだ食った飲んだ食った」

 ほろ酔い気分のイリーナと……。

 マリア:「うっぷ……!飲み過ぎた……かも」
 稲生:「マリアさん、後でソルマック……」
 マリア:「あ、うん……大丈夫」

 ヘタにハイにならずに深酔いしたのは、飲み慣れているワインのみ飲んだからだろう。

 イリーナ:「さて、あとは温泉でも入るか。ここは天然温泉なんでしょ?」
 稲生:「はい。そういうことになっています」
 イリーナ:「よしよし。早く部屋に戻って、温泉入る準備するかぁ」

 そんな3人、ホテルに戻る。
 部屋に戻って……。

 稲生:「ビジネスホテルながら浴衣で館内を移動できるのがいいな」

 但し、朝食会場へは浴衣での来場は禁止であるとのこと。

 稲生:「そろそろ、いいかな?」

 稲生はコネクティングルームとして解錠されている仕切り扉を開け、イリーナとマリアの部屋を覗いてみることにした。
 覗くといっても変な意味ではない。
 ちゃんとドアはノックする。

 稲生:「あのー、すいません。そろそろいいですか?」
 イリーナ:「いいよ」

 中からイリーナの声がしたので、稲生は部屋のドアを開けた。
 イリーナはちゃんと浴衣に着替えていた。
 しかし、マリアは……。

 稲生:「マリアさん、大丈夫ですか?」

 マリアは下段ベッドに横になっていた。

 マリア:「飲み過ぎた……かもしれない……」
 イリーナ:「別にアタシのペースに合わせなくても良かったんだよ?ユウタ君だって、自分のペースだったのに……」
 稲生:「マリアさん、僕、ソルマック持ってるんで」
 イリーナ:「都合良く持ってるねぇ」
 稲生:「僕の予知です」
 イリーナ:「ほお!?ユウタ君にも予知能力が?」
 稲生:「いえ。先生が恐らく使うだろうという……」
 イリーナ:「それは『予知』じゃなく、予想って言うんだよね」
 稲生:「はあ……」
 イリーナ:「しょうがない。温泉にはアタシとユウタ君で行こう。マリアは下のベッド使っていいから。上へはアタシが寝るよ」

 下段はダブルベッドくらいの広さがあるが、上段はシングルの広さである。
 元々はそこにマリアが寝ることになっていたが……。

 マリア:「いえ……私は上で……」
 イリーナ:「梯子から足を踏み外しても困るんだよ。アタシもよく知ってる痛みなんだから」
 稲生:(よく知るほど梯子から足を踏み外していたのか……)
 イリーナ:「とにかく、上着だけでも脱いどきな。ブレザーがシワになるよ」
 マリア:「はい……」

 稲生は自分の部屋に置いてある荷物からソルマックを持って来た。

 稲生:「じゃあ、マリアさん。ここに置いておきますから」
 マリア:「ありがとう……」

 稲生とイリーナはタオルを片手に大浴場に向かった。

 稲生:「マリアさん、あんなに酒弱かったかな?」
 イリーナ:「あのレストランのワインが強かったのかもね」
 稲生:「大丈夫かなぁ……」
 イリーナ:「うん。少し安静にしておけば大丈夫だよ」
 稲生:「そうですか。それなら、まあ……」

 エレベーターが1階に到着する。
 右に曲がればフロントやロビーがあり、左に曲がれば大浴場だ。

 イリーナ:「ねぇ、ユウタ君」
 稲生:「何ですか?」
 イリーナ:「あなたは何があってもマリアを選ぶでしょう?」
 稲生:「えっ?……ええ、それはもちろん」
 イリーナ:「そう。良かった」
 稲生:「何ですか?」
 イリーナ:「いえ、何でもないわ。それじゃ、ここでお別れね」

 スーパーホテルでは大浴場は男女入れ替え制という所も多いが、ここはちゃんと男女別になっている。

 稲生:(先生、どうしたんだろう?)

 稲生は男湯に入って首を傾げた。

 稲生:「ふう……」

 天然温泉のせいか、湯舟に入ると落ち着く。

 男性客:「お疲れさまです。稲生君」

 湯気でよく見えなかったが、何だか聞き覚えのある男の声が聞こえた。

 横田:「クフフフフフ……。私ですよ。横田です。先般の支部総登山における大感動は、未だ冷めやらぬものであります」
 稲生:「わあっ!?横田理事!?」

 稲生はびっくりして立ち上がった。
 が……。

 稲生:「わっ!」

 湯舟の底に足を滑らせた。

 稲生:「ガバゴボガバベボ……!」
 横田:「嗚呼、稲生君。三途の川を渡るのは、まだ先ですよ」

 横田、稲生を救出した。

 稲生:「プハッ!……はあ、はあ……!またあの205系が!」
 横田:「さすがは鉄ヲタですねぇ……。クフフフフフ……」
 稲生:「そ、そんなことより何しに来たんだ!?まさか女湯で下着ドロ……!?」
 横田:「心外ですよ、稲生君。天丼は2回まで、というではありませんか」
 稲生:「はあ!?どの口が言って……!」
 横田:「それに、只今はマリアンナさんの御入浴は無い様子。それでは下着ドロに忍び込んでも、何の旨味もありません」
 稲生:「…………」

 ゴゴゴゴゴと稲生の体から霊力のオーラが噴出する!

 横田:「じょ、冗談です。ゴメンナサイ……」

 横田は汗を拭き、眼鏡も吹いて咳払いした。

 横田:「本当は大石寺の様子を見に来たのです、ハイ」
 稲生:「魔界共和党理事としてではなく、本当に顕正会の理事としてか」
 横田:「さようでございます。クフフフフ……」
 稲生:「って、そんなこと僕に喋ってもいいのか?今の僕は大魔道師の弟子というよりは、法華講員として来たようなものだぞ?」
 横田:「大丈夫です。よしんばあなたが法華講の上長に喋ったところで、すぐに信じてもらえますでしょうか?」
 稲生:「なるほど。確かに僕が言っただけでは、悪い冗談にしか思ってもらえないかもな」
 横田:「でしょう?人間、そういうものです。クフフフフフ……」
 稲生:「でも藤谷班長だったら、イリーナ先生の名前を出せば信じてくれるかも……」
 横田:「あなた今、大魔道師の弟子としてここにいるわけではないとか仰ってませんでした?」
 稲生:「いや、まあ、よくよく考えてみれば、もう登山は終わってるわけだから、法華講員じゃなくていいのかも……」
 横田:「嗚呼、何と嘆かわしい。大聖人様が御照覧あそばされば、必ずやお嘆きになるでありましょう」
 稲生:「う……。だから、離檀願出したのに……。それで、何か収穫はあった?」
 横田:「ありましたとも!」
 稲生:「あったのか。何だい?今さら御僧侶が高級車に乗ってることくらい、ネタとして古過ぎるよ」
 横田:「あなたはそれでよろしいのですか!?」
 稲生:「いいよ!むしろ高貴な人が高貴な車に乗らなくてどうするの!?てか、そんな鉄板ネタ、古過ぎてて腐臭漂ってるよ!」
 横田:「あなたと仰る方は……!これだから宗門は堕落しているのです!」
 稲生:「むしろ、信徒の方が御僧侶より高い車に乗っていることの方が問題じゃない?その車、御供養しろよって思う
 横田:「ネタ提供、ありがとうございます!イエロー先生ですら、日産シーマですよ。型落ちの」
 稲生:「浅井会長は、むしろプレジデントに乗っててもいいと思うけどね」
 横田:「おおっ!そう仰ってくれますか?因みにソッカー首領ダイ・サークはロールスロイスですかね?」
 稲生:「それは、んっ?さんにでも聞いてみれば?」
 横田:「了解です」
 稲生:「横田理事は何の車に乗ってるの?」
 横田:「私ですか?クフフフフフ……。そうですねぇ……私くらいになりますと、自分で運転することはないですから……」
 稲生:「へえ!それもそっか。魔界じゃ、御者付きの馬車だもんね」
 横田:「ええ。それでは、そろそろお迎えが来る頃ですので、私はこれで失礼致します。良い旅を」
 稲生:「ああ、どうも」

 横田はそう言って、先に風呂から上がった。
 後から稲生も上がる。

 稲生:(珍しく何もしなかったケンショー・グリーンだ……)

 浴衣を着込んで、ロビーの方に向かうと……。

 稲生:「んっ!?」

 エントランスの外から赤ランプの光が見えた。

 稲生:「ま、まさか!?」

 稲生は急いでエントランスに向かった。

 警察官A:「横田高明!大石寺における不法侵入並びに女性信徒の盗撮容疑で逮捕する!」
 警察官B:「21時12分、被疑者逮捕!」
 横田:「いけません!この私のお迎えに日産クルーとは!せめてトヨタ・ゼロクラウンのパトカーで来なさい!」
 警察官A:「何言ってるんだ、コイツ!」
 稲生:「迎えって、コレかよ……」
 横田:「稲生君達でさえ、石川タクシー富士の日産セドリックだったのですぞ!」
 警察官B:「いいから早く乗れ!」

 タクシーでは小型(東京では低料金タクシー)に分類される車種のパトカーに乗せられ、富士宮警察署へと連行された横田だった。

 稲生:(何だろう?あっさり脱獄して、またさらっと会いそうな気がする……)

 弟子としての拙い魔力でもできる予知であった。
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“大魔道師の弟子” 「富士宮の夜」

2017-11-12 09:44:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月3日17:40.天候:晴 静岡県富士宮市ひばりヶ丘 スーパーホテル富士宮]

 予約したタクシーは何故か中型で来た。
 首都圏ではお馴染みの車種なのであるが。
 まあ、イリーナという、場所が場所ならVIPになるような人物が同行しているのだからそれでもいいかと思った稲生だった。

 タクシーがホテル前に到着する。

 稲生:「それじゃ、カードで支払います」
 運転手:「はい、ありがとうございます」

 稲生は予め預かっていたイリーナのカードを使った。
 案の定、イリーナは運転席の後ろで寝ていた。
 そんな彼女を引きずり降ろすのは、マリアの役目。

 イリーナ:「ふぃ〜っ!やっと着いたねぇ!早いとこチェック・インして、ディナーにしたいよ」
 稲生:「そうですね」

 ホテルの中に入る。

 スタッフ:「いらっしゃいませ」
 稲生:「予約を入れていた稲生ですが……」
 スタッフ:「はい、稲生様ですね」

 稲生はチェック・インの手続きをしながら、ふとあの魔道師師弟について思った。

 マリア:「師匠、酔っ払ってるわけじゃないんだから、自分で立ってください!」
 イリーナ:「ディナーで酔うから、その予行演習だお」
 マリア:「はあ!?」
 稲生:(長身でポンッキュッポンの先生を普通に支えられてる小柄のマリアさん、意外と体力はあるんじゃないだろうか……)

 と。

 スタッフ:「……ありがとうございます。お支払はいかがなさいますか?」
 稲生:「カードでお願いします」

 現金での支払いの場合は、フロント横にある自動精算機による事前精算である。
 その機械から出てくる領収書に、部屋番号と暗証番号が記載されている。
 稲生のようにカード精算の場合は、フロントスタッフを介して領収書が発行される。

 イリーナ:「ねぇねぇ、ここから枕持って行くの?」
 スタッフ:「浴衣もこちらからどうぞ。枕はお部屋備え付けでございますが……」
 マリア:「要は部屋の枕が合わなかったら、ここから持って行くってことでしょう」
 イリーナ:「んー、どれがいいかねぇ……」
 マリア:「いや、師匠の場合はどの枕でも爆睡できると思います」
 稲生:「ははは……」

 稲生は普通にMサイズの浴衣だけを取った。

 稲生:「部屋は3階です。行きましょう」
 イリーナ:「抱き枕は無いの?」
 スタッフ:「も、申し訳ありませんが、そのような物は……」
 マリア:「元々家にも無いでしょ!何言ってんですか!」

 エレベーターの中で、稲生はどうしても師弟漫才という言葉が頭から離れなかったという。

 
(スーパールームの室内。左奥のドアがコネクティング仕様になると解錠され、廊下に出ずに隣室に行ける仕組み)

 エレベーターを3階で降りて、割り当てられた部屋に向かう。
 部屋のドアは4ケタの暗証番号式になっている。
 その為、チェックアウトの際はフロントに立ち寄らずにそのまま出れる。
 ピッピッとドアノブの上にあるテンキーを打ち込んでドアを開けた。

 稲生:「それじゃ先生とマリアさん、荷物を置いてすぐに夕食に行きますか?」
 イリーナ:「そだね。そうしよう」
 マリア:「異議無し」

 尚、このスーパールーム、シングルで予約しても割り当てられることがある。
 プランによるものなのかは分からないが、少なくとも作者はこの富士宮店で、仙台から遊びに来た友人は大宮店で体験済み。
 で……。

 稲生:「ありゃ!?」

 稲生の場合もスーパールームを1人で使う形になっているわけだが、左奥のドアが解錠されていた。

 稲生:「マリアさん!?」
 マリア:「おわっ!?……あ、何だ。ミラーじゃなかったのか……」

 マリアはびっくりした様子だった。

 イリーナ:「これなら気軽に遊びに行けるね。いつでもおいで」
 稲生:「いや、これはちょっと……。このドアは閉めておきますね」

 稲生は白いドアを閉めた。
 もちろん閉めたところで、客室のドアと違って施錠されることはない。

 イリーナ:「別にいいのに」

 稲生はドアを閉めてから、どうしてこういう風になっているのかが分かった。
 スーパーホテルには、基本的に室内に電話機が無い。
 つまり、内線も外線も掛けられないわけだ。
 もちろん、外線にあっては手持ちのスマホなどを使えば良いわけだが……。
 フロントに用がある場合、エレベーターホールにある電話機を使うことになる。

 稲生:(なるほど。先生達を起こしに、電話が使えないってわけか……)

 因みにスマホを持っているのは稲生だけ。
 マリアは人間時代にガラケーを持っていたことはあったようだが、人間として『死亡』した際に手放した。

[同日18:15.天候:晴 同市内富士見ヶ丘 ガスト富士宮店]

 イリーナ:「プハハーッ!仕事終わりの一杯は最高だねぇ!HAHAHA!」
 マリア:「作者みたいなこと言って……」

 イリーナは角ハイボール、マリアはワイン、稲生はビールを頼んでいた。

 稲生:「マリアさん達は何をしていたんですか?」
 マリア:「富士山の麓に行って魔界の入口探しと、あと魔法具の材料で使えそうなものを集めたりとか」
 稲生:「何だか大変そうですね」
 マリア:「魔法具の材料は貴重だから、門内の仲間に高く売れるのだよ」
 稲生:「なるほど。相互扶助の精神ですね」
 マリア:「いや、よく分かんない」
 イリーナ:「そこのカッコいいお兄さん!ハイボールお代わり!」
 店員:「は、はい!」
 稲生:「先生。ハイボールだけに、テンションまでハイになり過ぎないように……」
 イリーナ:「まあまあ、いいじゃないの!日本の諺にもあるでしょ?『旅の恥は掻き捨て』って」
 稲生:「いや、まあ、それはそうですけど……」
 イリーナ:「今夜は私が奢るからね。ジャンジャン飲んで食べてよ!」
 稲生:(といっても、ファミレスな辺りがタカが知れてる部分もあるんだけど……)
 マリア:「そんなに材料は見つからなかったのに、随分と嬉しそう……」

 マリアは訝し気にワインを口に運んだ。
 その時、イリーナがまるで獲物を狙うような目で藤谷達を見送るシーンを思い出したのだった。

 マリア:(まさか……な)
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