[11月1日16:30.天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]
降りしきる雨の中、1台の黒塗りタクシーが稲生家の門の前で止まる。
運転手:「ちょうど1000円です」
稲生:「はい」
イリーナがカードを差し出す。
稲生:「すいません、カードで」
運転手:「はい、ありがとうございます」
イリーナはアメリカン・エキスプレスのプラチナカードをよく使うが、これが恐らくイリーナに対して最も出資している大富豪なのだろう。
尚、アメックスの一般会員カードはグリーンカードである。
アメックスの広告でグリーンカードはよく掲出されているので、とても有名だ。
日本における年会費の高さとそのサービス内容からして既に、他のクレカのゴールドカード並みである。
にも関わらず、その2ランク上のプラチナカードを渡すイリーナの出資者とは一体誰なのだろう。
イリーナはフラッと何日もいなくなることがあり、それは大抵、外国に行っていることが多い。
外国の大富豪や政府高官に対し、占いをしに行っているのだという。
その見料がアメックスのプラチナカードだというのだから驚きだ。
稲生:「さあ、どうぞ。急いで中へ」
イリーナ:「ローブ羽織ってるから大丈夫だけどね」
雨は傘が間違い無く必要なほど強い。
まだ風はそんなに強くは無く、それはこの雨が台風による直接的なものというより、それに刺激された前線や低気圧によるものであることを物語っている。
イリーナのことだから、儲け主義に走って反日国の味方をしないか不安になるかもしれない。
だが、稲生は前に聞いたことがある。
もし占いの依頼者が反日国家の政府関係者で、日本を叩く為にはどうしたら良いかという依頼を受けたら、と。
それに対して、イリーナはこう答えている。
「別に。依頼者の望む通りに占ってあげているだけよ。でもその結果を教えてあげると、大抵は皆いい顔しないの。ヒドい時には逆ギレして、見料を踏み倒されたこともあるわ」
と。
要するに反日主義者が本当に望み通りに日本叩きたかったら、その主義者が逆立ちしてもできないような条件が出てくるということだ。
尚、その反日国家とは韓国であると稲生は予想している。
北朝鮮は今、ダンテ一門ですら入れない状態である。
ロシアはイリーナの母国であるが故、どうしても私情が入ってしまう。
中国もまた東アジア魔道団の力が強い。
東アジア魔道団の失敗は、日本を既に入国していたダンテ一門(イリーナ組)によって死守されていたこと。
“魔の者”騒動の一環だったとはいえ、そこだけはダンテ一門に大きく有利に働いた。
禍を転じて福と為す、というか。
佳子:「まあ、ようこそ。先生方。雨の中、お疲れさまです」
稲生の母親の佳子が出迎えた。
イリーナ:「またお世話になります」
マリア:「ヨ、ヨロシクオ願イシマス!」
イリーナは自動翻訳魔法を使うが、ここではマリアは使わない。
自分で勉強した日本語を使う。
その方が印象が良いと聞いたからだ。
日本人としては無遠慮に自分とこの母国語でベラベラ喋られるより、片言でもいいから日本語を話してくれた方が印象が良いということだ。
やっぱりたどたどしくても日本語で道を聞いてくれる方が、そうでない外国人よりも印象は良い。
そういうことだ。
稲生:「どうぞどうぞ。前と同じ部屋で申し訳ないですが、奥へ案内します」
イリーナ:「いやいや。ちゃんとした部屋を用意してくれるだけでもありがたいよ。こう見えても、稲生君が生まれるずっとずっと前は旅費にも事欠く状態でね、物置小屋に泊まったこともあるよ」
イリーナがアメリカン・エキスプレスを手にしたのは、ほんの100年ほど前である。
因みにアメックスが日本に展開してきたのが1917年というから、本当に今年で100周年ということになる。
カードを手にしたと言っても、実はまだそんなに自由に使える立場ではなかったという。
今こうして稲生がイリーナからカードを借り、代わりに支払いをしているが、要はそういうことをイリーナもしていたということだ。
もちろん、イリーナより上の立場というからには、それは大師匠ダンテということになる。
佳子:「結局、お寺は辞められなかったのね」
稲生:「いや、ハハ……」
信仰を両親に反対されていた稲生。
ダンテ一門としては仏教徒に対する禁教は行っていなかったが、一応は魔法の道に入門するという意味からして、一旦の棄教が望ましいというのが通例になっていた。
なので稲生の場合も別に無理して日蓮正宗を退転する必要は無かったのだが、反対する両親の圧力を交わす為に御本尊を返納し、離檀願を出したというのが真相である。
実際は藤谷が離檀願は預かったままになっており、御本尊だけが返納された形になった。
“となりの沖田くん”ではトントン拍子に両親を説き伏せていることになっているが、現実はそう甘くはないのだよ。
佳子:「まあ、私はもういいけど。でも、こんな台風の中行くの?」
稲生:「ああ、明後日の朝に出発するよ。明日が台風のピークでしょう?明後日の朝にはもう台風が通過しているはずなんだ。そうですよね、先生?」
イリーナ:「ええ。そういうことになってるわ」
別にイリーナは占っていない。
占わなくても、別に稲生が何かトラブルに巻き込まれるような予知は出ていないので、何も心配は無いと思っているのだった。
イリーナとマリアが寝泊まりする部屋は稲生の自室の真下。
和室ではあるが、畳の上にカーペットを敷き、シングルサイズの折り畳みベッドと膨らませるタイプのベッド(正式名称失念)がある。
イリーナ:「こりゃ2泊するには勿体無いくらいだわ」
マリア:「そうですね。それにしても、この分だと明日はこの家に引きこもりですか?」
イリーナ:「死亡フラグを立てたくなかったらね。まあ、日本語の四字熟語に『晴耕雨読』というのがあるし、おとなしく本でも読んでいるのが無難だろうね」
マリア:「そういうことになりますか」
尚、稲生の信仰に対して1番反対していた父親の宗一郎への対策だが、イリーナが占いで、
「3日に富士山に向かうと大吉!」
と吹き込んだ為、事なきを得たとのこと。
但し、大石寺とは一言も言っていない。
降りしきる雨の中、1台の黒塗りタクシーが稲生家の門の前で止まる。
運転手:「ちょうど1000円です」
稲生:「はい」
イリーナがカードを差し出す。
稲生:「すいません、カードで」
運転手:「はい、ありがとうございます」
イリーナはアメリカン・エキスプレスのプラチナカードをよく使うが、これが恐らくイリーナに対して最も出資している大富豪なのだろう。
尚、アメックスの一般会員カードはグリーンカードである。
アメックスの広告でグリーンカードはよく掲出されているので、とても有名だ。
日本における年会費の高さとそのサービス内容からして既に、他のクレカのゴールドカード並みである。
にも関わらず、その2ランク上のプラチナカードを渡すイリーナの出資者とは一体誰なのだろう。
イリーナはフラッと何日もいなくなることがあり、それは大抵、外国に行っていることが多い。
外国の大富豪や政府高官に対し、占いをしに行っているのだという。
その見料がアメックスのプラチナカードだというのだから驚きだ。
稲生:「さあ、どうぞ。急いで中へ」
イリーナ:「ローブ羽織ってるから大丈夫だけどね」
雨は傘が間違い無く必要なほど強い。
まだ風はそんなに強くは無く、それはこの雨が台風による直接的なものというより、それに刺激された前線や低気圧によるものであることを物語っている。
イリーナのことだから、儲け主義に走って反日国の味方をしないか不安になるかもしれない。
だが、稲生は前に聞いたことがある。
もし占いの依頼者が反日国家の政府関係者で、日本を叩く為にはどうしたら良いかという依頼を受けたら、と。
それに対して、イリーナはこう答えている。
「別に。依頼者の望む通りに占ってあげているだけよ。でもその結果を教えてあげると、大抵は皆いい顔しないの。ヒドい時には逆ギレして、見料を踏み倒されたこともあるわ」
と。
要するに反日主義者が本当に望み通りに日本叩きたかったら、その主義者が逆立ちしてもできないような条件が出てくるということだ。
尚、その反日国家とは韓国であると稲生は予想している。
北朝鮮は今、ダンテ一門ですら入れない状態である。
ロシアはイリーナの母国であるが故、どうしても私情が入ってしまう。
中国もまた東アジア魔道団の力が強い。
東アジア魔道団の失敗は、日本を既に入国していたダンテ一門(イリーナ組)によって死守されていたこと。
“魔の者”騒動の一環だったとはいえ、そこだけはダンテ一門に大きく有利に働いた。
禍を転じて福と為す、というか。
佳子:「まあ、ようこそ。先生方。雨の中、お疲れさまです」
稲生の母親の佳子が出迎えた。
イリーナ:「またお世話になります」
マリア:「ヨ、ヨロシクオ願イシマス!」
イリーナは自動翻訳魔法を使うが、ここではマリアは使わない。
自分で勉強した日本語を使う。
その方が印象が良いと聞いたからだ。
日本人としては無遠慮に自分とこの母国語でベラベラ喋られるより、片言でもいいから日本語を話してくれた方が印象が良いということだ。
やっぱりたどたどしくても日本語で道を聞いてくれる方が、そうでない外国人よりも印象は良い。
そういうことだ。
稲生:「どうぞどうぞ。前と同じ部屋で申し訳ないですが、奥へ案内します」
イリーナ:「いやいや。ちゃんとした部屋を用意してくれるだけでもありがたいよ。こう見えても、稲生君が生まれるずっとずっと前は旅費にも事欠く状態でね、物置小屋に泊まったこともあるよ」
イリーナがアメリカン・エキスプレスを手にしたのは、ほんの100年ほど前である。
因みにアメックスが日本に展開してきたのが1917年というから、本当に今年で100周年ということになる。
カードを手にしたと言っても、実はまだそんなに自由に使える立場ではなかったという。
今こうして稲生がイリーナからカードを借り、代わりに支払いをしているが、要はそういうことをイリーナもしていたということだ。
もちろん、イリーナより上の立場というからには、それは大師匠ダンテということになる。
佳子:「結局、お寺は辞められなかったのね」
稲生:「いや、ハハ……」
信仰を両親に反対されていた稲生。
ダンテ一門としては仏教徒に対する禁教は行っていなかったが、一応は魔法の道に入門するという意味からして、一旦の棄教が望ましいというのが通例になっていた。
なので稲生の場合も別に無理して日蓮正宗を退転する必要は無かったのだが、反対する両親の圧力を交わす為に御本尊を返納し、離檀願を出したというのが真相である。
実際は藤谷が離檀願は預かったままになっており、御本尊だけが返納された形になった。
“となりの沖田くん”ではトントン拍子に両親を説き伏せていることになっているが、現実はそう甘くはないのだよ。
佳子:「まあ、私はもういいけど。でも、こんな台風の中行くの?」
稲生:「ああ、明後日の朝に出発するよ。明日が台風のピークでしょう?明後日の朝にはもう台風が通過しているはずなんだ。そうですよね、先生?」
イリーナ:「ええ。そういうことになってるわ」
別にイリーナは占っていない。
占わなくても、別に稲生が何かトラブルに巻き込まれるような予知は出ていないので、何も心配は無いと思っているのだった。
イリーナとマリアが寝泊まりする部屋は稲生の自室の真下。
和室ではあるが、畳の上にカーペットを敷き、シングルサイズの折り畳みベッドと膨らませるタイプのベッド(正式名称失念)がある。
イリーナ:「こりゃ2泊するには勿体無いくらいだわ」
マリア:「そうですね。それにしても、この分だと明日はこの家に引きこもりですか?」
イリーナ:「死亡フラグを立てたくなかったらね。まあ、日本語の四字熟語に『晴耕雨読』というのがあるし、おとなしく本でも読んでいるのが無難だろうね」
マリア:「そういうことになりますか」
尚、稲生の信仰に対して1番反対していた父親の宗一郎への対策だが、イリーナが占いで、
「3日に富士山に向かうと大吉!」
と吹き込んだ為、事なきを得たとのこと。
但し、大石寺とは一言も言っていない。