[1月3日17:00.天候:晴 東京都豊島区 日蓮正宗正証寺]
藤谷:「はーい、夕方勤行に参加の方はこちら〜!」
鈴木:「…………」
藤谷:「おい、鈴木君。任務なんだから、ちゃんと誘導案内しなきゃダメだよ」
鈴木:「班長。あの稲生先輩の彼女さんは入信しないんですか?」
藤谷:「キミもしつこいな。まだ彼女は信心決定(けつじょう)してないの。顕正会ならそれでも無理くり入信させて誓願数にしちゃうんだろうが、宗門は違うんだよ」
鈴木:「稲生先輩が知らないわけないんです。あの彼女さん、絶対に魔法が使える。班長は何かご存知無いんですか?」
藤谷:「さる有名な占い師のお弟子さんだってことしか知らんよ。日蓮正宗じゃ、占いを否定するから入信できんのだろ」
鈴木:「話をはぐらかさないでください。俺は稲生先輩の彼女さんが『魔女』だと確信します。それも、あのキリスト教から迫害されるほどの。恐らく彼女はキリスト教の魔女狩りを恐れている。その隠れ蓑代わりに、稲生先輩に近づいたんだとしたら?」
藤谷は大きな溜め息をついた。
藤谷:「何でこう顕正会員ってのは、思い込みが激しいかねぇ?占いには色々な流派があるのは知ってるだろ?」
鈴木:「知りません」
藤谷:「あっ、そ。まあ、あるんだよ。その中には黒魔術紛いのもあって、キリスト教からそりゃ睨まれるわなってのもあったりする。彼女の場合もまた、そういう占いの方法をしたりすることがある。だから確かに、キリスト教関係者に狙われたこともあったよ。だから俺達で対処したこともある」
鈴木:「ではやはり!?」
藤谷:「占いの仕方が魔法じみているというだけで、魔法そのものじゃねぇよ。キミはそれと見間違えたんだろ」
鈴木:「魔法陣に飛び込んで、消える占いなんてあるわけが無いです!俺はこの目で見たんです!」
藤谷:「だが、証拠が無ェだろ。本人に聞いて否定されて、だけども証拠が無けりゃどうしようも無ェよ。法論だって同じだろ?文証が無けりゃ、ただの言い掛かりだってな」
鈴木:「分かりました。じゃあ、証拠集めしてきます。班長、彼女さんの家を教えてください」
藤谷:「いや、俺は知らんよ」
鈴木:「じゃあ、稲生先輩に聞いてきます。稲生先輩の家を教えてください」
藤谷:「それも無理だって。稲生君もまた弟子入りしてるからさ、その占い師のお師匠さんの所に住み込んでるんだ。俺はそこまでは知らねーよ」
鈴木:「いいんですか!?占いを否定する日蓮正宗の信徒が、いくら高名だからって、占い師の元で修行だなんて謗法じゃないんですか!」
藤谷:「落ち着けよ。別に占いは宗教じゃないんだ。そっちの仕事をしてたって、別に謗法じゃねーよ」
鈴木:「ですが……!」
藤谷:「……鈴木君よ、この仏法には1つ弱点がある」
鈴木:「弱点?」
藤谷:「大聖人様に御祈念はできても、その結果を先読みできないことだ」
鈴木:「それが何か?」
藤谷:「稲生君が弟子入りしている有名占い師さんは、それができるんだよ。俺も実は世話になったことがある」
鈴木:「はあ!?」
藤谷:「大聖人様は蒙古襲来を先読みして、それを鎌倉幕府に教えただろう?顕正会でもその点は伝えてるよな?」
鈴木:「ええ」
藤谷:「それと同じことのできる人が、実は今この世に存在するんだ。但し、大聖人様と根本的に違うのは、それを宗教という形にしていないということなんだ」
鈴木:「つまりその占い師さんもまた、魔法使いだということですね?」
藤谷:「俺らから見れば、まるで魔法を使っているかのように見えるな。だけどよ、それなら何で日蓮大聖人は『魔法使い』じゃないんだ?腰越で首を刎ねられる前、鶴岡八幡宮で八幡大菩薩に叱咤し、いざというタイミングで“モーセの十戒”も真っ青の大現証を巻き起こした」
鈴木:「それはその……釈尊が滅後、末法の世に出現する上行菩薩だと……」
藤谷:「まあな。でもそんな釈尊の予言が無かったら、俺らが大聖人様だと拝んでいるあれは何だ?魔法使いみたいにならないか?釈尊が予言しなかっただけで、この世には大聖人様のような力を持った人達が少なからず存在するということだ。だがそれは、信仰の対象にはならない。何故なら、彼ら自身が信仰されることを望んでいないからなんだ」
鈴木:「……班長の仰りたいことは分かりました。ですが、俺の言いたいことは分かっていないようですね」
藤谷:「なに?」
鈴木:「俺は稲生先輩の彼女さんの正体を明かしたいと言ってるんですよ。その為の証拠集めをするとね。班長がこれ以上情報をくれないというのなら、俺はこれで失礼します」
藤谷:「お、おい、ちょっと待て!」
だが鈴木は、正証寺の本堂を飛び出してしまった。
[同日18:00.天候:晴 東京都大田区 羽田エクセルホテル東急 レストラン]
羽田空港のホテルに宿泊している稲生達。
ホテル内のレストランで夕食を取ることにした。
ダンテの奢りで注文したのは、フランス料理のフルコースだった。
ウェイター:「失礼します。オードブルをお持ち致しました」
ダンテ:「おお。さあさあ、食べようじゃないか。私の日本滞在最終日だ。まあ、盛大にやってくれ」
イリーナ:「マリア、飲み過ぎて本当に盛大にやっちゃダメよ?」
マリア:「分かってますよ」
稲生:「頂きます」
マリア:「師匠、大師匠様とは“お楽しみ”だったんですか?」
イリーナ:「あら?そのうちマリアも参加してもらうことになるかもよ?」
ダンテ:「ハハハハ!それはまだかなり先になる話だよ。元々マリアンナ君の体は若いじゃないか」
稲生:(一体、何の話なんだろう?)
ダンテ:「稲生勇太君、今マリアンナ君は“お楽しみ”だと言ったが、実はキミが想像している通りなんだ」
稲生:「お子様には見せられないシーン満載ですか」
ダンテ:「そういうことになる。だがそこに、今使用している肉体の耐用年数を伸ばす秘密が隠されているのだよ」
稲生:「ええっ?」
ダンテ:「分かるかね?イリーナは、今使用している肉体の耐用年数を伸ばそうとしているということだ。意味が分かるか?」
マリア:「今更この世に未練でも残りましたか?」
イリーナ:「広い意味ではね」
マリア:「は?」
ダンテ:「つまりこういうことだよ。キミ達には将来性が十分にある。その将来を見届けるのに、今の状態のままではとても間に合わん。その為、私から『耐用年数延長の儀式』を受ける必要があったのだ」
マリア:「代わりの肉体を見つけて“魂移し”した方が早いのでは?」
イリーナ:「だから、何度も言ってるでしょう?私はこの体が気に入ってるんだってば」
ダンテ:「それに、私も久しぶりに『娘』を『愛する』ことができた。それで十分だ」
マリア:「いつまでもお盛んですね」
稲生:(きっとその儀式の内容って、【18歳未満の詮索禁止】なんだろうなぁ……)
[同日18:10.天候:晴 JR池袋駅西口]
西口バスプールに1台のバスが到着する。
バス会社は稲生とマリアが羽田空港に行く時に乗ったものと同じだ。
運転手:「はい、お待たせ致しました。18時15分発、羽田空港行きです」
バス停に並んでいた乗客達が、ぞろぞろと1つしかないドアからバスに乗り込んで行く。
その中に、鈴木の姿があった。
適当に空いている席に座る。
鈴木:(ムフフ……。お寺の信徒名簿から稲生先輩の家の連絡先を割り出し、親に行き先を聞いたら羽田空港に一泊するってか。藤谷班長、ウソをついたな。だが、無理もない。まさか、お寺の裏庭に防犯カメラが設置されていたとはなぁ……。このテープには、バッチリ映っていたぞ〜。ムフフフフ……)
女性客:(なにコイツ、キモッ!)
バスはほぼ満席に近い乗客数であったが、鈴木のキモい笑みに、誰も隣に座らなかったという。
藤谷:「はーい、夕方勤行に参加の方はこちら〜!」
鈴木:「…………」
藤谷:「おい、鈴木君。任務なんだから、ちゃんと誘導案内しなきゃダメだよ」
鈴木:「班長。あの稲生先輩の彼女さんは入信しないんですか?」
藤谷:「キミもしつこいな。まだ彼女は信心決定(けつじょう)してないの。顕正会ならそれでも無理くり入信させて誓願数にしちゃうんだろうが、宗門は違うんだよ」
鈴木:「稲生先輩が知らないわけないんです。あの彼女さん、絶対に魔法が使える。班長は何かご存知無いんですか?」
藤谷:「さる有名な占い師のお弟子さんだってことしか知らんよ。日蓮正宗じゃ、占いを否定するから入信できんのだろ」
鈴木:「話をはぐらかさないでください。俺は稲生先輩の彼女さんが『魔女』だと確信します。それも、あのキリスト教から迫害されるほどの。恐らく彼女はキリスト教の魔女狩りを恐れている。その隠れ蓑代わりに、稲生先輩に近づいたんだとしたら?」
藤谷は大きな溜め息をついた。
藤谷:「何でこう顕正会員ってのは、思い込みが激しいかねぇ?占いには色々な流派があるのは知ってるだろ?」
鈴木:「知りません」
藤谷:「あっ、そ。まあ、あるんだよ。その中には黒魔術紛いのもあって、キリスト教からそりゃ睨まれるわなってのもあったりする。彼女の場合もまた、そういう占いの方法をしたりすることがある。だから確かに、キリスト教関係者に狙われたこともあったよ。だから俺達で対処したこともある」
鈴木:「ではやはり!?」
藤谷:「占いの仕方が魔法じみているというだけで、魔法そのものじゃねぇよ。キミはそれと見間違えたんだろ」
鈴木:「魔法陣に飛び込んで、消える占いなんてあるわけが無いです!俺はこの目で見たんです!」
藤谷:「だが、証拠が無ェだろ。本人に聞いて否定されて、だけども証拠が無けりゃどうしようも無ェよ。法論だって同じだろ?文証が無けりゃ、ただの言い掛かりだってな」
鈴木:「分かりました。じゃあ、証拠集めしてきます。班長、彼女さんの家を教えてください」
藤谷:「いや、俺は知らんよ」
鈴木:「じゃあ、稲生先輩に聞いてきます。稲生先輩の家を教えてください」
藤谷:「それも無理だって。稲生君もまた弟子入りしてるからさ、その占い師のお師匠さんの所に住み込んでるんだ。俺はそこまでは知らねーよ」
鈴木:「いいんですか!?占いを否定する日蓮正宗の信徒が、いくら高名だからって、占い師の元で修行だなんて謗法じゃないんですか!」
藤谷:「落ち着けよ。別に占いは宗教じゃないんだ。そっちの仕事をしてたって、別に謗法じゃねーよ」
鈴木:「ですが……!」
藤谷:「……鈴木君よ、この仏法には1つ弱点がある」
鈴木:「弱点?」
藤谷:「大聖人様に御祈念はできても、その結果を先読みできないことだ」
鈴木:「それが何か?」
藤谷:「稲生君が弟子入りしている有名占い師さんは、それができるんだよ。俺も実は世話になったことがある」
鈴木:「はあ!?」
藤谷:「大聖人様は蒙古襲来を先読みして、それを鎌倉幕府に教えただろう?顕正会でもその点は伝えてるよな?」
鈴木:「ええ」
藤谷:「それと同じことのできる人が、実は今この世に存在するんだ。但し、大聖人様と根本的に違うのは、それを宗教という形にしていないということなんだ」
鈴木:「つまりその占い師さんもまた、魔法使いだということですね?」
藤谷:「俺らから見れば、まるで魔法を使っているかのように見えるな。だけどよ、それなら何で日蓮大聖人は『魔法使い』じゃないんだ?腰越で首を刎ねられる前、鶴岡八幡宮で八幡大菩薩に叱咤し、いざというタイミングで“モーセの十戒”も真っ青の大現証を巻き起こした」
鈴木:「それはその……釈尊が滅後、末法の世に出現する上行菩薩だと……」
藤谷:「まあな。でもそんな釈尊の予言が無かったら、俺らが大聖人様だと拝んでいるあれは何だ?魔法使いみたいにならないか?釈尊が予言しなかっただけで、この世には大聖人様のような力を持った人達が少なからず存在するということだ。だがそれは、信仰の対象にはならない。何故なら、彼ら自身が信仰されることを望んでいないからなんだ」
鈴木:「……班長の仰りたいことは分かりました。ですが、俺の言いたいことは分かっていないようですね」
藤谷:「なに?」
鈴木:「俺は稲生先輩の彼女さんの正体を明かしたいと言ってるんですよ。その為の証拠集めをするとね。班長がこれ以上情報をくれないというのなら、俺はこれで失礼します」
藤谷:「お、おい、ちょっと待て!」
だが鈴木は、正証寺の本堂を飛び出してしまった。
[同日18:00.天候:晴 東京都大田区 羽田エクセルホテル東急 レストラン]
羽田空港のホテルに宿泊している稲生達。
ホテル内のレストランで夕食を取ることにした。
ダンテの奢りで注文したのは、フランス料理のフルコースだった。
ウェイター:「失礼します。オードブルをお持ち致しました」
ダンテ:「おお。さあさあ、食べようじゃないか。私の日本滞在最終日だ。まあ、盛大にやってくれ」
イリーナ:「マリア、飲み過ぎて本当に盛大にやっちゃダメよ?」
マリア:「分かってますよ」
稲生:「頂きます」
マリア:「師匠、大師匠様とは“お楽しみ”だったんですか?」
イリーナ:「あら?そのうちマリアも参加してもらうことになるかもよ?」
ダンテ:「ハハハハ!それはまだかなり先になる話だよ。元々マリアンナ君の体は若いじゃないか」
稲生:(一体、何の話なんだろう?)
ダンテ:「稲生勇太君、今マリアンナ君は“お楽しみ”だと言ったが、実はキミが想像している通りなんだ」
稲生:「お子様には見せられないシーン満載ですか」
ダンテ:「そういうことになる。だがそこに、今使用している肉体の耐用年数を伸ばす秘密が隠されているのだよ」
稲生:「ええっ?」
ダンテ:「分かるかね?イリーナは、今使用している肉体の耐用年数を伸ばそうとしているということだ。意味が分かるか?」
マリア:「今更この世に未練でも残りましたか?」
イリーナ:「広い意味ではね」
マリア:「は?」
ダンテ:「つまりこういうことだよ。キミ達には将来性が十分にある。その将来を見届けるのに、今の状態のままではとても間に合わん。その為、私から『耐用年数延長の儀式』を受ける必要があったのだ」
マリア:「代わりの肉体を見つけて“魂移し”した方が早いのでは?」
イリーナ:「だから、何度も言ってるでしょう?私はこの体が気に入ってるんだってば」
ダンテ:「それに、私も久しぶりに『娘』を『愛する』ことができた。それで十分だ」
マリア:「いつまでもお盛んですね」
稲生:(きっとその儀式の内容って、【18歳未満の詮索禁止】なんだろうなぁ……)
[同日18:10.天候:晴 JR池袋駅西口]
西口バスプールに1台のバスが到着する。
バス会社は稲生とマリアが羽田空港に行く時に乗ったものと同じだ。
運転手:「はい、お待たせ致しました。18時15分発、羽田空港行きです」
バス停に並んでいた乗客達が、ぞろぞろと1つしかないドアからバスに乗り込んで行く。
その中に、鈴木の姿があった。
適当に空いている席に座る。
鈴木:(ムフフ……。お寺の信徒名簿から稲生先輩の家の連絡先を割り出し、親に行き先を聞いたら羽田空港に一泊するってか。藤谷班長、ウソをついたな。だが、無理もない。まさか、お寺の裏庭に防犯カメラが設置されていたとはなぁ……。このテープには、バッチリ映っていたぞ〜。ムフフフフ……)
女性客:(なにコイツ、キモッ!)
バスはほぼ満席に近い乗客数であったが、鈴木のキモい笑みに、誰も隣に座らなかったという。