[12月30日15:00.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 敷島家]
敷島:「ただいまぁ……」
アリス:「あら、お帰りなさい。会長さんのお説教は終わったの?」
敷島:「まあな」
仕事納めの打ち上げで、会長のヅラを取ってしまった敷島だった。
その為、直接詫びに行った次第。
敷島:「辞表出そうとしたんだが、エミリーの火炎放射器で焼却されたよ」
シンディ:「姉さん、やるねぇ!」
エミリー:「あれは会長の御命令です」
アリス:「取りあえず、首は繋がったわけだ。何か条件でも提示された?」
敷島:「来年の新年会に、エミリーとシンディをコンパニオンとして連れて来いだってさ」
アリス:「それだけ?」
敷島:「ああ。それと、『いい加減、ハイヤーで通勤しろ』と言われた」
アリス:「タカオなら当然でしょ」
敷島:「そんな成金……」
アリス:「そうじゃなくて、防衛の為よ。タカオの命狙ってるテロ組織は、KR団だけじゃないんだからね」
敷島:「俺は『不死身の敷島』だ。必ず生き残るぞ」
アリス:「そうじゃなくて、アタシがもしテロリストだったら、シンディを使って、アンタが電車に乗っていようがバスに乗っていようが吹っ飛ばすって言ってんの」
敷島:「多くの無関係の命を狙うなんて、何て悪どいヤツだ!」
アリス:「あのね、テロリストだったら、誰でも考えるって。だけどアンタが車で通勤すれば、少なくとも巻き添えにされる人は少なくて済むって話よ」
敷島:「分かった、分かったよ。新幹線の中で終点まで寝るのも面白かったのに……」
エミリー:「それをハイヤーでして頂ければ良いと思います」
シンディ:「激しく同意」
アリス:「ま、とにかく、あまりお咎めも無かったようね。それは何よりだわ」
敷島:「分かったら、出掛ける準備をしろ。平賀先生の所へ挨拶に行くぞ」
シンディ:「あ、社長、その事なんですけど……」
敷島:「何だ?」
シンディ:「先ほど平賀博士から電話があって、『年末年始はハワイで過ごすことになった』との連絡が入りました」
敷島:「はあ!?著名人じゃあるまいし、平賀先生も何を考えて……」
アリス:「いや、著名人だから。日本アンドロイド学会の重鎮だし」
敷島:「じゃ年末年始、何もすること無いじゃん」
アリス:「たまには家でゆっくりしなさいよ。日本人ならではのウサギ小屋で」
敷島:「悪かったな」
敷島やアリスの稼ぎで一戸建てくらいは買えそうなものだが、何故か賃貸マンション暮らしである。
エミリー:「でも、アリス博士の仰る通りです。いつもお忙しいのですから、年末年始くらいはゆっくりなさってください」
敷島:「ま、そうさせてもらうか」
敷島はコタツに入った。
アリス:「Japanese Kotatsu.いいね〜」
敷島:「融通無碍。フローリングのリビングでも、カーペットを敷けば使えるのがいいな」
アリス:「埼玉も寒いからねぇ……」
敷島:「いや、全く。しばらく出たくないな……ん?」
アリス:「どうしたの?」
敷島:「あ、いや……その……」
落ち着きが無くなる敷島。
アリス:「もしかしてトイレ?」
敷島:「あ、うん……。おい、シンディ。ここではメイドだろ?俺の代わりに行ってこい」
シンディ:「私の体、そういう構造にはなってないんで」
敷島:「マジレスすんなよ……。あー、もうしょうがない」
敷島は渋々とコタツから出た。
アリス:「ついでにリモコン取って」
シンディ:「炊飯器のスイッチ、入れてもらっていいですか?」
エミリー:「換えのバッテリーもお願いします」
敷島:「え?」
コタツを最初に出た者の宿命。
敷島:「ほら、リモコン。炊飯器の『予約』は18時でいいな?」
アリス:「Thank you.」
シンディ:「その通りです。ありがとうございます」
敷島:「ところでさっきトイレに行った時に気づいたんだが、納戸の前に置かれてる杵と碓は何だ?」
シンディ:「正月用の餅をつく為に借りて来ました」
敷島:「本格的だが、別にそこまでする必要は無いんじゃないか?」
シンディ:「いいえ。季節の行事を取り仕切るのはメイドの役目ですから」
敷島:「ふーん……」
シンディ:「因みに二海と一緒に、おせちの仕込みもしておきました」
敷島:「そうか。……あれ?エミリーはどこ行った?」
シンディ:「蒸したもち米を管理人さんからもらいに行ってるはずです」
敷島:「ええっ!?わざわざ管理人さんに!?」
シンディ:「美味しいもち米の銘柄とかも教えて下さったんですよ」
敷島:「ついた餅、おすそ分けしに行かなきゃいかんな」
というわけで……。
シンディ:「はぁーっ!」
ペン!
エミリー:「はい!」
シンディ:「はぁっ!」
ペン!
エミリー:「はい!」
このマンションは屋上が共用スペースになっている為、そこに杵と碓を持って行き、餅つきを始める敷島家。
杵を持つのはシンディ、水を付けてこねる役がエミリーである。
敷島は缶コーヒー片手に見学し、アリスは息子のトニーを抱っこして見ていた。
エミリー:「はい、できました!」
敷島:「ご苦労さん。力加減、上手くできてたなー。下手すりゃ、碓ごと割りそうな力なのに」
シンディ:「私達には『学習能力』がありますから」
得意げのシンディ。
敷島:「なるほど。しかし、こんなに沢山食い切れるかなぁ……?」
アリス:「バカね。ご近所にお裾分けする分に決まってるでしょ」
敷島:「そ、そうなのか?そんなに近所付き合いある?」
アリス:「シンディや二海がよくやってくれてるのよ」
敷島:「そうなのか。よく仲良くやれてるなぁ?」
シンディ:「いや、何か適当に愛想良くしてたら、向こうの人達も愛想良くなってくれただけです」
敷島:「お前ら、まだ人間の感情、理解してない所があるな」
シンディ:「もちろん、姉さんと社長の仲は理解してますよ。相思相愛ですねっ?」
敷島:「やっぱり理解していない……」
敷島は溜め息を吐いた。
[同日18:00.天候:晴 同市内 敷島家]
尚、ここにメイドロイド二海が登場していないのは、納戸内に保管されているからである。
あくまでもトニーに対するナースメイドとしての役割の為、その出番が無い時は休止になっている。
シンディ:「お餅のお裾分け、終わりました。これは逆に頂いたものです」
シンディが手に持っていたのは、お節料理の栗金団や静岡県産のミカン一箱、それに来年の干支である犬の彫刻であった。
ダンボールに入ったミカン一箱も随分と重いだろうが、シンディは軽々と持ち上げている。
敷島:「ご苦労さん」
エミリー:「お食事の支度が整いました」
敷島:「分かった。エミリー、シンディ」
エミリー:「はい」
シンディ:「何でしょうか?」
敷島はエミリーとシンディにエネルギー缶を出した。
中身はアルコールの類である。
缶に大きく『E』と書いてあるのが特徴。
敷島:「これ、飲んでくれ。その……近所付き合いとか、俺達の家事とか色々……ありがとう。エミリーも、俺の仕事のサポートありがとな」
シンディ:「社長……。お役に立てて何よりです」
エミリー:「私もです。お言葉に甘えて頂きます」
マルチタイプの姉妹機は、同じ仕草でエネルギー缶の中身を飲んだ。
シンディ:「これが私達にとっての回復アイテムですものね」
エミリー:「社長の味がします」
敷島:「しねーよw」
敷島:「ただいまぁ……」
アリス:「あら、お帰りなさい。会長さんのお説教は終わったの?」
敷島:「まあな」
仕事納めの打ち上げで、会長のヅラを取ってしまった敷島だった。
その為、直接詫びに行った次第。
敷島:「辞表出そうとしたんだが、エミリーの火炎放射器で焼却されたよ」
シンディ:「姉さん、やるねぇ!」
エミリー:「あれは会長の御命令です」
アリス:「取りあえず、首は繋がったわけだ。何か条件でも提示された?」
敷島:「来年の新年会に、エミリーとシンディをコンパニオンとして連れて来いだってさ」
アリス:「それだけ?」
敷島:「ああ。それと、『いい加減、ハイヤーで通勤しろ』と言われた」
アリス:「タカオなら当然でしょ」
敷島:「そんな成金……」
アリス:「そうじゃなくて、防衛の為よ。タカオの命狙ってるテロ組織は、KR団だけじゃないんだからね」
敷島:「俺は『不死身の敷島』だ。必ず生き残るぞ」
アリス:「そうじゃなくて、アタシがもしテロリストだったら、シンディを使って、アンタが電車に乗っていようがバスに乗っていようが吹っ飛ばすって言ってんの」
敷島:「多くの無関係の命を狙うなんて、何て悪どいヤツだ!」
アリス:「あのね、テロリストだったら、誰でも考えるって。だけどアンタが車で通勤すれば、少なくとも巻き添えにされる人は少なくて済むって話よ」
敷島:「分かった、分かったよ。新幹線の中で終点まで寝るのも面白かったのに……」
エミリー:「それをハイヤーでして頂ければ良いと思います」
シンディ:「激しく同意」
アリス:「ま、とにかく、あまりお咎めも無かったようね。それは何よりだわ」
敷島:「分かったら、出掛ける準備をしろ。平賀先生の所へ挨拶に行くぞ」
シンディ:「あ、社長、その事なんですけど……」
敷島:「何だ?」
シンディ:「先ほど平賀博士から電話があって、『年末年始はハワイで過ごすことになった』との連絡が入りました」
敷島:「はあ!?著名人じゃあるまいし、平賀先生も何を考えて……」
アリス:「いや、著名人だから。日本アンドロイド学会の重鎮だし」
敷島:「じゃ年末年始、何もすること無いじゃん」
アリス:「たまには家でゆっくりしなさいよ。日本人ならではのウサギ小屋で」
敷島:「悪かったな」
敷島やアリスの稼ぎで一戸建てくらいは買えそうなものだが、何故か賃貸マンション暮らしである。
エミリー:「でも、アリス博士の仰る通りです。いつもお忙しいのですから、年末年始くらいはゆっくりなさってください」
敷島:「ま、そうさせてもらうか」
敷島はコタツに入った。
アリス:「Japanese Kotatsu.いいね〜」
敷島:「融通無碍。フローリングのリビングでも、カーペットを敷けば使えるのがいいな」
アリス:「埼玉も寒いからねぇ……」
敷島:「いや、全く。しばらく出たくないな……ん?」
アリス:「どうしたの?」
敷島:「あ、いや……その……」
落ち着きが無くなる敷島。
アリス:「もしかしてトイレ?」
敷島:「あ、うん……。おい、シンディ。ここではメイドだろ?俺の代わりに行ってこい」
シンディ:「私の体、そういう構造にはなってないんで」
敷島:「マジレスすんなよ……。あー、もうしょうがない」
敷島は渋々とコタツから出た。
アリス:「ついでにリモコン取って」
シンディ:「炊飯器のスイッチ、入れてもらっていいですか?」
エミリー:「換えのバッテリーもお願いします」
敷島:「え?」
コタツを最初に出た者の宿命。
敷島:「ほら、リモコン。炊飯器の『予約』は18時でいいな?」
アリス:「Thank you.」
シンディ:「その通りです。ありがとうございます」
敷島:「ところでさっきトイレに行った時に気づいたんだが、納戸の前に置かれてる杵と碓は何だ?」
シンディ:「正月用の餅をつく為に借りて来ました」
敷島:「本格的だが、別にそこまでする必要は無いんじゃないか?」
シンディ:「いいえ。季節の行事を取り仕切るのはメイドの役目ですから」
敷島:「ふーん……」
シンディ:「因みに二海と一緒に、おせちの仕込みもしておきました」
敷島:「そうか。……あれ?エミリーはどこ行った?」
シンディ:「蒸したもち米を管理人さんからもらいに行ってるはずです」
敷島:「ええっ!?わざわざ管理人さんに!?」
シンディ:「美味しいもち米の銘柄とかも教えて下さったんですよ」
敷島:「ついた餅、おすそ分けしに行かなきゃいかんな」
というわけで……。
シンディ:「はぁーっ!」
ペン!
エミリー:「はい!」
シンディ:「はぁっ!」
ペン!
エミリー:「はい!」
このマンションは屋上が共用スペースになっている為、そこに杵と碓を持って行き、餅つきを始める敷島家。
杵を持つのはシンディ、水を付けてこねる役がエミリーである。
敷島は缶コーヒー片手に見学し、アリスは息子のトニーを抱っこして見ていた。
エミリー:「はい、できました!」
敷島:「ご苦労さん。力加減、上手くできてたなー。下手すりゃ、碓ごと割りそうな力なのに」
シンディ:「私達には『学習能力』がありますから」
得意げのシンディ。
敷島:「なるほど。しかし、こんなに沢山食い切れるかなぁ……?」
アリス:「バカね。ご近所にお裾分けする分に決まってるでしょ」
敷島:「そ、そうなのか?そんなに近所付き合いある?」
アリス:「シンディや二海がよくやってくれてるのよ」
敷島:「そうなのか。よく仲良くやれてるなぁ?」
シンディ:「いや、何か適当に愛想良くしてたら、向こうの人達も愛想良くなってくれただけです」
敷島:「お前ら、まだ人間の感情、理解してない所があるな」
シンディ:「もちろん、姉さんと社長の仲は理解してますよ。相思相愛ですねっ?」
敷島:「やっぱり理解していない……」
敷島は溜め息を吐いた。
[同日18:00.天候:晴 同市内 敷島家]
尚、ここにメイドロイド二海が登場していないのは、納戸内に保管されているからである。
あくまでもトニーに対するナースメイドとしての役割の為、その出番が無い時は休止になっている。
シンディ:「お餅のお裾分け、終わりました。これは逆に頂いたものです」
シンディが手に持っていたのは、お節料理の栗金団や静岡県産のミカン一箱、それに来年の干支である犬の彫刻であった。
ダンボールに入ったミカン一箱も随分と重いだろうが、シンディは軽々と持ち上げている。
敷島:「ご苦労さん」
エミリー:「お食事の支度が整いました」
敷島:「分かった。エミリー、シンディ」
エミリー:「はい」
シンディ:「何でしょうか?」
敷島はエミリーとシンディにエネルギー缶を出した。
中身はアルコールの類である。
缶に大きく『E』と書いてあるのが特徴。
敷島:「これ、飲んでくれ。その……近所付き合いとか、俺達の家事とか色々……ありがとう。エミリーも、俺の仕事のサポートありがとな」
シンディ:「社長……。お役に立てて何よりです」
エミリー:「私もです。お言葉に甘えて頂きます」
マルチタイプの姉妹機は、同じ仕草でエネルギー缶の中身を飲んだ。
シンディ:「これが私達にとっての回復アイテムですものね」
エミリー:「社長の味がします」
敷島:「しねーよw」