[12月30日20:15.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区内・某市道]
宗一郎はマリアの予知を信じることにした。
宗一郎:「分かった。マリアさんの予言を信じよう。キミ、車を止めてくれないか?」
運転手:「は、はい」
運転手はタクシーを路肩に止めた。
車内にはハザードが点滅する音が響いている。
宗一郎:「一体、何が起こるというのかね?」
稲生:「シッ!」
運転手:「!?」
運転手は運転席の窓を開けた。
すると、進行方向からけたたましいパトカーのサイレンの音が聞こえる。
それも、1台や2台ではない。
運転手:「あ、あれは!?」
稲生:「うそォ!?」
マリア:「!!!」
件の黒塗り乗用車がパトカーに追われていたが、それが何と市道を逆走していた!
運転手:「このままでは危ない!」
運転手はタクシーをバックさせ、すぐ沿道のコンビニの駐車場に逃げ込んだ。
直後にタクシーがいた車線を平気で逆走して行く暴走車。
稲生:「あのまま進んでいたら……!」
正面衝突は避けられなかっただろう。
直後、聞こえてくる大クラッシュ音!
稲生:「一体、何が?」
稲生はタクシーを降りて、暴走車の走り去った方向を見た。
稲生:「何たるちゃあ……!」
市道の先は急な右カーブになっていて、その先に国道17号線(中山道)との交差点がある。
ほとんど90度カーブと言って良いほどの急カーブの為、手前には予告信号が設置されているほどだ。
その国道交差点からやってきた大型トラックと正面衝突し、その弾みで中央分離帯を飛び越えて元の車線に戻ったはいいものの、並走して追跡していたパトカーと激しく衝突したらしい。
宗一郎:「このままでは危険だ。早いとこ帰ろう」
稲生:「う、うん」
[同日20:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 市道→稲生家]
そのまま市道を南下し、地下に首都高速さいたま新都心線が通る県道の交差点を越えれば市道・与野中央通りに入れる。
稲生達が駆け込んだコンビニからそこまでは、車で行けばものの5分といったところなのだが、少し時間を取られてしまった。
件の暴走車が他の車などを巻き込んだこともあり、警察によって通行規制が敷かれていたからである。
信号柱にめり込んだ軽自動車は、暴走車を避けようとしたのか、或いは接触された衝撃でぶつかったものなのか。
稲生:「げ……!バス停が……!」
あの暴走車は歩道も走ったのか!?
重石で設置するタイプのバス停のポールがなぎ倒されていた。
宗一郎:「とんでもないな……」
交差点で交通整理をする警察官が誘導棒を振り、ピィピィと笛を吹いている。
警備員のそれは『交通誘導』と言って何の権限も無い為、無理して従わなくても何の罰則も無いが、警察官の場合はちゃんと法的根拠のあるものなので、従わないということはそれは信号無視と同じことであり、罰則が待っている。
稲生達が時間を取ったのは、そんな交差点のど真ん中でクラッシュさせられた車の撤去作業に引っ掛かったからであり、信号が青であったにも関わらず、警察官に停止命令を食らったからであった。
宗一郎:「それにしても、ガソリンスタンドに突っ込まなくて良かったなー」
件の交差点、実はその角にはガソリンスタンドがある。
バス停をなぎ倒した暴走車だが、歩道上には車止めのポールが立っており、これに阻まれてガソリンスタンドへは侵入できなかったようである。
ようやく交差点を越えて、与野中央通りに入る。
そこをしばらく走ってタクシーは路地を左折し、ようやく稲生家の前に着いた。
宗一郎:「ああ、お釣りは要らないよ。取っといて」
宗一郎は長財布を取り出して、タクシー料金を払った。
あんなことがあったものだから、通常なら1000円でお釣りが来そうな額なのだが、2倍近く掛かってしまった。
運転手:「これはどうもすいません。ありがとうございます」
宗一郎:「いやいや。咄嗟にコンビニに入ってくれなきゃ、ただ止まっただけじゃね、巻き込まれていたかもしれない。あなたの判断も良かったよ」
家に入る稲生達。
マリアは客間に向かったが、やはり水晶球が鈍い点滅をしていたようだ。
稲生:(まるでケータイの『着信あり』だな……)
と、稲生は思った。
マリア:「What’s!?……Oh!Shit!!(これは!?……ああっ、くそっ!!)」
マリアは水晶球に映し出された画像を見て、テーブルをバンバン叩いた。
稲生:「どうしたんですか!?」
マリア:「Look this!(これを見ろ!)」
水晶球には、暴走車が何故暴走するに至るかの詳細が映し出されていた。
稲生:「盗難車ではなく、偽造ナンバー?……で、トランクには……」
稲生もまたムンクの叫びを上げた。
稲生:「誘拐じゃん!?」
マリア:「私の予知能力が持っと高ければ……!」
トランクには両手足を縛られて、猿ぐつわをされた小学生くらいの少女が押し込まれていた。
それをアジトまで移送中、警察の職質を食らいそうになり、慌てて逃げ出したというのが真相のようだ。
稲生:「あの大事故では恐らく……」
稲生が見た限り、車が炎上していたことから……。
マリア:「もう少し……もう少し……私は修行が……」
だが、別にマリアが悪いわけではない。
魔道師に予知能力が身に付く時、まずは自分の身の周りのことで起きる事件や事故を予知する。
マリア自身が誘拐されるわけでも、その被害者の知り合いというわけでもない為、現段階ではそれに関する予知は現れない。
むしろ、今回の場合はその加害者の逃走劇に巻き込まれる恐れが多大にあったわけで、そちらを優先とした予知ができたということらしい。
その為、どうしても予知の内容としては、『誘拐犯の逃げる車が』ではなく、『警察からの追跡を受けている(単なる)暴走車が』という視点になってしまうのである。
宗一郎:「ユウタ、マリアさん!ちょっと来てくれ!」
宗一郎に呼ばれて、2人はリビングに行った。
そこのテレビではニュースをやっていたのだが、あの逃走劇を報道していた。
〔「……尚、誘拐された女の子は衝突直前に車から脱出し、重傷を負ったものの、命に別状はありませんでした」〕
稲生:「脱出していたのか!」
マリア:「信じられない……」
〔「……女の子は病院に搬送される途中、何度も『魔法使いに助けてもらった』とのことで、あまりの恐怖に精神状態が不安定と思われ……」〕
稲生:「は?」
マリア:「なに?あのキャスターは何て言ってるの?」
稲生は今の報道を英訳した。
マリア:「私は何もしてないぞ!?」
稲生:「分かってます。きっと、他の魔道師がやったんでしょう。エレーナ辺りだったりして?」
マリア:「アイツじゃないだろう。とにかく、私以外に人助けをしている魔道師がいるようだ。何だか安心した」
マリアはホッとした。
[同日21:00.天候:晴 JR大宮駅西口]
アンナ:「アナスタシア先生、アンナです。応答願います」
水晶球に向かって交信するのは、アナスタシア組のアンナだった。
アナスタシア:「どう?首尾は?」
アンナ:「はい。さいたま市内から東京へ向かっていた車から、スーパーオリハルコンを奪還しました。やはり既に、東アジア魔道団は日本国内に侵入しているようです」
アナスタシア:「ご苦労さん。随分と大騒ぎしたようね?」
アンナ:「申し訳ありません。どうやら連中、北朝鮮の工作員を装っていたようで、日本人の少女を拉致していました。スーパーオリハルコン奪還の際、一応脱出させてはおきましたが」
アナスタシア:「アンナは優しいね。正体はバレてないでしょうね?」
アンナ:「ご安心ください。まだ夢多き子供です。普通にマンガの魔法使いが助けに来たくらいにしか思っていません」
アナスタシア:「分かったわ。さいたま市というと、イリーナ組のユウタ・イノウとマリアンナ・スカーレットが滞在している先ね。彼らには会った?」
アンナ:「それも目くらまししています。奴らは暴走車から逃れることで、精一杯だったようです」
アナスタシア:「ご苦労さん。あとは足が付かないように、電車で東京まで来て」
アンナ:「了解しました」
アンナは水晶球の通信を切った。
魔道師の世界も陰謀渦巻く所のようである。
宗一郎はマリアの予知を信じることにした。
宗一郎:「分かった。マリアさんの予言を信じよう。キミ、車を止めてくれないか?」
運転手:「は、はい」
運転手はタクシーを路肩に止めた。
車内にはハザードが点滅する音が響いている。
宗一郎:「一体、何が起こるというのかね?」
稲生:「シッ!」
運転手:「!?」
運転手は運転席の窓を開けた。
すると、進行方向からけたたましいパトカーのサイレンの音が聞こえる。
それも、1台や2台ではない。
運転手:「あ、あれは!?」
稲生:「うそォ!?」
マリア:「!!!」
件の黒塗り乗用車がパトカーに追われていたが、それが何と市道を逆走していた!
運転手:「このままでは危ない!」
運転手はタクシーをバックさせ、すぐ沿道のコンビニの駐車場に逃げ込んだ。
直後にタクシーがいた車線を平気で逆走して行く暴走車。
稲生:「あのまま進んでいたら……!」
正面衝突は避けられなかっただろう。
直後、聞こえてくる大クラッシュ音!
稲生:「一体、何が?」
稲生はタクシーを降りて、暴走車の走り去った方向を見た。
稲生:「何たるちゃあ……!」
市道の先は急な右カーブになっていて、その先に国道17号線(中山道)との交差点がある。
ほとんど90度カーブと言って良いほどの急カーブの為、手前には予告信号が設置されているほどだ。
その国道交差点からやってきた大型トラックと正面衝突し、その弾みで中央分離帯を飛び越えて元の車線に戻ったはいいものの、並走して追跡していたパトカーと激しく衝突したらしい。
宗一郎:「このままでは危険だ。早いとこ帰ろう」
稲生:「う、うん」
[同日20:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 市道→稲生家]
そのまま市道を南下し、地下に首都高速さいたま新都心線が通る県道の交差点を越えれば市道・与野中央通りに入れる。
稲生達が駆け込んだコンビニからそこまでは、車で行けばものの5分といったところなのだが、少し時間を取られてしまった。
件の暴走車が他の車などを巻き込んだこともあり、警察によって通行規制が敷かれていたからである。
信号柱にめり込んだ軽自動車は、暴走車を避けようとしたのか、或いは接触された衝撃でぶつかったものなのか。
稲生:「げ……!バス停が……!」
あの暴走車は歩道も走ったのか!?
重石で設置するタイプのバス停のポールがなぎ倒されていた。
宗一郎:「とんでもないな……」
交差点で交通整理をする警察官が誘導棒を振り、ピィピィと笛を吹いている。
警備員のそれは『交通誘導』と言って何の権限も無い為、無理して従わなくても何の罰則も無いが、警察官の場合はちゃんと法的根拠のあるものなので、従わないということはそれは信号無視と同じことであり、罰則が待っている。
稲生達が時間を取ったのは、そんな交差点のど真ん中でクラッシュさせられた車の撤去作業に引っ掛かったからであり、信号が青であったにも関わらず、警察官に停止命令を食らったからであった。
宗一郎:「それにしても、ガソリンスタンドに突っ込まなくて良かったなー」
件の交差点、実はその角にはガソリンスタンドがある。
バス停をなぎ倒した暴走車だが、歩道上には車止めのポールが立っており、これに阻まれてガソリンスタンドへは侵入できなかったようである。
ようやく交差点を越えて、与野中央通りに入る。
そこをしばらく走ってタクシーは路地を左折し、ようやく稲生家の前に着いた。
宗一郎:「ああ、お釣りは要らないよ。取っといて」
宗一郎は長財布を取り出して、タクシー料金を払った。
あんなことがあったものだから、通常なら1000円でお釣りが来そうな額なのだが、2倍近く掛かってしまった。
運転手:「これはどうもすいません。ありがとうございます」
宗一郎:「いやいや。咄嗟にコンビニに入ってくれなきゃ、ただ止まっただけじゃね、巻き込まれていたかもしれない。あなたの判断も良かったよ」
家に入る稲生達。
マリアは客間に向かったが、やはり水晶球が鈍い点滅をしていたようだ。
稲生:(まるでケータイの『着信あり』だな……)
と、稲生は思った。
マリア:「What’s!?……Oh!Shit!!(これは!?……ああっ、くそっ!!)」
マリアは水晶球に映し出された画像を見て、テーブルをバンバン叩いた。
稲生:「どうしたんですか!?」
マリア:「Look this!(これを見ろ!)」
水晶球には、暴走車が何故暴走するに至るかの詳細が映し出されていた。
稲生:「盗難車ではなく、偽造ナンバー?……で、トランクには……」
稲生もまたムンクの叫びを上げた。
稲生:「誘拐じゃん!?」
マリア:「私の予知能力が持っと高ければ……!」
トランクには両手足を縛られて、猿ぐつわをされた小学生くらいの少女が押し込まれていた。
それをアジトまで移送中、警察の職質を食らいそうになり、慌てて逃げ出したというのが真相のようだ。
稲生:「あの大事故では恐らく……」
稲生が見た限り、車が炎上していたことから……。
マリア:「もう少し……もう少し……私は修行が……」
だが、別にマリアが悪いわけではない。
魔道師に予知能力が身に付く時、まずは自分の身の周りのことで起きる事件や事故を予知する。
マリア自身が誘拐されるわけでも、その被害者の知り合いというわけでもない為、現段階ではそれに関する予知は現れない。
むしろ、今回の場合はその加害者の逃走劇に巻き込まれる恐れが多大にあったわけで、そちらを優先とした予知ができたということらしい。
その為、どうしても予知の内容としては、『誘拐犯の逃げる車が』ではなく、『警察からの追跡を受けている(単なる)暴走車が』という視点になってしまうのである。
宗一郎:「ユウタ、マリアさん!ちょっと来てくれ!」
宗一郎に呼ばれて、2人はリビングに行った。
そこのテレビではニュースをやっていたのだが、あの逃走劇を報道していた。
〔「……尚、誘拐された女の子は衝突直前に車から脱出し、重傷を負ったものの、命に別状はありませんでした」〕
稲生:「脱出していたのか!」
マリア:「信じられない……」
〔「……女の子は病院に搬送される途中、何度も『魔法使いに助けてもらった』とのことで、あまりの恐怖に精神状態が不安定と思われ……」〕
稲生:「は?」
マリア:「なに?あのキャスターは何て言ってるの?」
稲生は今の報道を英訳した。
マリア:「私は何もしてないぞ!?」
稲生:「分かってます。きっと、他の魔道師がやったんでしょう。エレーナ辺りだったりして?」
マリア:「アイツじゃないだろう。とにかく、私以外に人助けをしている魔道師がいるようだ。何だか安心した」
マリアはホッとした。
[同日21:00.天候:晴 JR大宮駅西口]
アンナ:「アナスタシア先生、アンナです。応答願います」
水晶球に向かって交信するのは、アナスタシア組のアンナだった。
アナスタシア:「どう?首尾は?」
アンナ:「はい。さいたま市内から東京へ向かっていた車から、スーパーオリハルコンを奪還しました。やはり既に、東アジア魔道団は日本国内に侵入しているようです」
アナスタシア:「ご苦労さん。随分と大騒ぎしたようね?」
アンナ:「申し訳ありません。どうやら連中、北朝鮮の工作員を装っていたようで、日本人の少女を拉致していました。スーパーオリハルコン奪還の際、一応脱出させてはおきましたが」
アナスタシア:「アンナは優しいね。正体はバレてないでしょうね?」
アンナ:「ご安心ください。まだ夢多き子供です。普通にマンガの魔法使いが助けに来たくらいにしか思っていません」
アナスタシア:「分かったわ。さいたま市というと、イリーナ組のユウタ・イノウとマリアンナ・スカーレットが滞在している先ね。彼らには会った?」
アンナ:「それも目くらまししています。奴らは暴走車から逃れることで、精一杯だったようです」
アナスタシア:「ご苦労さん。あとは足が付かないように、電車で東京まで来て」
アンナ:「了解しました」
アンナは水晶球の通信を切った。
魔道師の世界も陰謀渦巻く所のようである。