報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「JR宇都宮線……は正式名称ではない」

2018-01-06 20:06:07 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月29日14:08.天候:晴 JR上野駅→宇都宮線543M電車1号車内]

 昼食を取り終えた稲生達は、そのまま上野始発の宇都宮線電車に乗り込んだ。
 上野駅の13番線から17番線までは『低いホーム』と呼ばれ、上野駅を終点とする電車の殆どが到着するホームである。
 そして、多くはその後で下り列車として折り返す。
 また、ここなら稲生達がパスタランチした店からもほぼフラットで行けるという寸法だ。

〔「お待たせ致しました。14時8分発、宇都宮線普通列車、宇都宮行き、まもなく発車致します」〕

 ホームに発車ベルが鳴り響く。
 メロディではなく、電子電鈴だ。
 13番線ではかつて“あゝ上野駅”が流れていたが、今は通常の発車メロディに取って代わられ、代わりに通常の発車メロディが流れていた特急ホームである16番線と17番線で“あゝ上野駅”が流れている。

〔「15番線から宇都宮線の普通列車、宇都宮行き、まもなく発車致します。……前、オーライです。15番線、ドアが閉まります。ご注意ください」〕

 ガタッ!〔ピンポーンピンポーンピンポーン♪〕……ガチャン!(E231系近郊タイプの閉扉は大体こんな感じ)

 稲生:「これで大宮まで行くことの、バス乗り換えです」
 マリア:「いつも通りだな」
 稲生:「こんなもんですよ」

 電車は低いホームをゆっくりと走り出した。
 稲生とマリアはドア横の2人席に腰掛けている。
 ボックスシートも狙えたが、あえてドア横にした次第。
 ま、稲生がマリアと密着したいからだろう、きっと。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は宇都宮線、普通電車、宇都宮行きです。4号車と5号車は、グリーン車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください。次は、尾久です〕

 イリーナと一緒だったら、グリーン車に乗っていただろう。
 ダンテと一緒だったら、そもそも在来線すら使わないか。
 新幹線……いや、ハイヤーか。
 ダンテはこの電車でもいいと言うだろうが、日本国内におけるアテンド責任者たるイリーナの立場が無くなる。

〔「……14時8分発、宇都宮線の普通列車、宇都宮行きです。これから先、尾久、赤羽、浦和、さいたま新都心、大宮、土呂、東大宮、蓮田の順に、終点まで各駅に停車致します。15両編成全部の車両が終点まで参ります。途中駅での切り離し作業は、ございません。途中、大宮には14時33分……」〕

 マリア:「パスタ、美味しかったよ。ありがとう」
 稲生:「いえいえ」
 マリア:「いい店知ってるね」
 稲生:「前々から、気にはなっていたんですよ」
 マリア:「そうなのか。……そうそう。気になっていることがあるんだ」
 稲生:「何ですか?」
 マリア:「実は師匠から、瞬間移動魔法についてもっと勉強するように言われた」
 稲生:「ルーラとバシルーラですか」
 マリア:「ルゥ・ラとヴァ・スィ・ルゥ・ラだ。あと、トゥ・ヴェ・ルゥ・ラなんかもある」
 稲生:「何ですか、それ?」

 稲生がマリアから軽く説明をされると、こんなことを思った。

 稲生:「ルーラがテレポーテーション、バシルーラがテレキネシス、トベルーラはセルフテレキネシスですね」
 マリア:「あー、なるほど。でも、ESPとは違うぞ。……全く無関係ってわけじゃないけど。サイキックのことだろう?」
 稲生:「そうですそうです」
 マリア:「……多分、違うと思う」
 稲生:「そうですか?」
 マリア:「だって私達は悪魔と契約して、その悪魔の力をMP(マジックパワーまたはマジックポイント)とするんだ。多分、サイキックは悪魔と契約はしていないだろう」
 稲生:「なるほど……」

 稲生は眉を顰め、首を傾げて、右手を顎にやった。

 ミク人形:「クカー……
 ハク人形:「クカー……

 そして、頭上の荷棚を見上げる。
 そこでは、マリアの使役するメイド人形達が寝そべって昼寝をしていた。
 寝台車では下段寝台より、上段寝台の方が重心の関係で揺れやすい。
 その理論からすれば、荷棚も座席より揺れるということになる。
 が、人形達は全く気にせず居眠りしていた。

 稲生:「こ、これは?」
 マリア:「私の魔法。使い魔代わりの」
 稲生:「確かに超能力に、『自作の人形に息吹を与えて使役する』ものは無いですねぇ……」

 せいぜい、念力(テレキネシス)でエスパーが手動で動かすくらいか。
 見た目は人形が自動で動いているように見えるが、実際はエスパーが動かしたい方向へ人形を超能力で遠隔操作しているだけだろう。
 それに引き換え、マリアの方は完全自動である。
 人形達が自らの意思でマリアに使役されている。

 マリア:「これが魔法と超能力の違い。ただ……エレーナ達がホウキに跨って飛ぶのには、確かに超能力っぽいのは使ってると思う」
 稲生:「やっぱり!」
 マリア:「私は魔法は使えても、超能力は使えない。だから、ホウキには乗れない」
 稲生:「えっ、どういうことですか?」
 マリア:「……エレーナ達はズルしてホウキで飛んでるんだよ。恐らく、師匠よりもっと年上の……本当に魔法の力で空を飛んでいた魔道師が見たら、多分ツッコミを入れてくるだろうな」
 稲生:「???」
 マリア:「深くは知らなくていい。イリーナ組は、別にホウキで空を飛ぶ組じゃないから」
 稲生:「はあ……」
 マリア:「1つヒントを言おう。私はさっき、紅茶サーバーを買った」
 稲生:「ええ」
 マリア:「大きくて持って帰れないから、屋敷まで発送の手続きを取った」
 稲生:「そうですね」
 マリア:「でも実際、私の屋敷に運んで来るのは誰だ?」
 稲生:「エレーナですよね?どういうわけだか」
 マリア:「そう。で、エレーナの拠点は?」
 稲生:「森下のホテルでしょう?」
 マリア:「そうだ。東京のホテルから私の屋敷まで、この日本の真冬の中、ホウキで」
 稲生:「……!?」
 マリア:「だけどヤツは、凍えて持って来ることは絶対に無い。どうしてだと思う?」
 稲生:「それは魔法で……ん?魔法で!?」
 マリア:「エレーナ(あのアホ)も、ホウキ乗りのくせに、瞬間移動魔法が使えるんだよ。凄い話だろ?」
 稲生:「今さりげなくアホって言いましたね。そう言われれば不思議でしたね。東京の森下から、本当にホウキの速さだけで長野県白馬村まで来れるのかとは思っていましたが……。エレーナのホウキの速さは、せいぜい100キロちょっと。ちょうど、この宇都宮線電車の速度くらいですね。それで短時間で、よく東京から持って来れるものだと思ってました」
 マリア:「ホウキでひたすら飛んでいるように思わせて、実は魔法でズルしてたんだ。そういうホウキ乗りの魔女、最近増えてるってよ」
 稲生:「ありゃりゃ……」
 マリア:「だから私は、最初からホウキに乗ることはしない。うちの師匠も」
 稲生:「そういうことだったんですね」

 そうなってくると、じゃあどうしてエレーナ達は未だにホウキに乗り続けるのか、という疑問が改めて湧いて来るが、稲生はあえてそこは黙っていたという。
 魔女の世界にあまり深入りすると、戻って来れなくなる恐れを感じたからだ。

 稲生:(あくまで僕は、魔道師になる為の修行をしているんであって、魔女になる修行をしてるんじゃない。だから、これ以上は知る必要が無いんだ)

 と。
コメント (2)
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