[12月29日07:00.天候:晴 千葉県成田市 成田エクセルホテル東急 稲生の部屋]
枕元に置いた稲生のスマホのアラームが鳴り響く。
東京駅京葉線ホームの荘厳な発車メロディである。
稲生:「う、うーん……」
稲生はアラームを止めた。
稲生:「もう朝か……。ううーん……」
何度も伸びをして起き上がる。
そして、バスルームに入って顔を洗った。
稲生:「昨夜は何も無かったなぁ……」
このホテル、実はサウナ付きの大浴場があるのだが、料金が別に掛かるのと、特に温泉ってわけでもないので稲生は入らなかった。
長旅の疲れもあるせいか、ホテルのレストランで夕食を取った後、すぐに部屋に戻ったのだが……。
[同日07:30.天候:晴 同ホテル1F レストラン“ガーデニア”]
ピンポーン♪
〔1階です〕
稲生:「えーと……レストランはあっちですね」
稲生はマリアを伴って、朝食会場であるレストランに向かった。
エレベーターの中でのマリアは、とても眠そうな顔をしていた。
スタッフ:「おはようございます。どうぞ、こちらへ」
稲生:「おはようございます」
2人はレストランの中に入った。
稲生:「うーん……。先生達はいなさそうですね」
マリア:「きっと、朝からお楽しみなんだろう」
マリアは不快そうな顔で言った。
稲生:「そうなんですか?」
マリア:「師匠ったら、この時の為に新しいセクシーランジェリー買ってたぞ。いい歳して、気持ち悪い」
稲生:「ハハハ……。イリーナ先生は、若作りの魔法を常に使用されていますから……」
それでも肉体そのものの使用期限が迫っている為、イリーナほどの大ベテランであっても、30代未満の歳にまで若返らせることはできないらしい。
稲生:「朝食はバイキングですね。……あっ、あそこ。オムレツの実演販売やってますよ」
マリア:「うん……」
2人が適当に見繕って食べていると、イリーナ達がやってきた。
イリーナ:「おーはよー!」
稲生:「おはようございます。すいません、先に頂いてました」
ダンテ:「いいよいいよ。イリーナ、私にも持って来てもらおうか」
イリーナ:「了解ですわ。先生は大食漢でいらっしゃいますものね」
マリア:「私も行きます」
マリアも席を立った。
稲生:「あっ、マリアさん、僕が行きますよ?」
マリア:「いいからユウタは大師匠様の話し相手になってあげてて!」
稲生:「はあ……?」
ダンテ:「はっはっは。『女心と秋の空』とは日本の諺で言うが、実際は年がら年中だね」
イリーナとマリアが料理の並んでいるテーブルへ向かう。
マリア:「昨日はお楽しみだったんですか?」
イリーナ:「1000年以上生きてるけど、もうこの体を悦ばせてくれるのは、私よりもっと長生きされているダンテ先生しかいらっしゃらないのよ。マリアも私くらい生きられたら、必ず分かるからね」
マリア:「…………」
テーブル席では……。
稲生:「先生、取りあえずコーヒーをお先にどうぞ」
ダンテ:「おお、こりゃすまんね」
稲生はドリンクコーナーからコーヒーを持って来た。
ダンテ:「女性はどうしても目先のことを気を取られがちだ。そう、料理という目先だ。その点、男性はもっと広い目で物事を見ることができる。この場合、飲み物かな」
稲生:「はあ……」
ダンテ:「ま、そんなことはどうでもいい。それより、魔道師の修行はどうだね?」
稲生:「何だか、雲を掴むような感じです。体育会系みたいな精神論とか、文科系みたいな現実論とか、そういうのは一切超越している……。うーん……上手くは言えないんですけど……」
ダンテ:「イリーナに指導を任せると、そうなる。だが、その雲を掴むと、一気に上達できるよ」
稲生:「そうなんですか」
ダンテ:「ところで、マリアンナ君はどうかね?」
稲生:「マリアさん……ですか?」
ダンテ:「彼女とは仲良くできているかな?」
稲生:「あ、はい。年末年始、僕の実家で過ごしてくれます」
ダンテ:「そうか。穴倉に閉じこもる魔女からの脱却は、ほぼ出来つつあるようだな。キミのおかげだね」
稲生:「僕は普通の人間ですよ?……ああっと……でしたよ?」
稲生は現在形から過去形へと言い直した。
見習とはいえど、今の稲生は普通の人間とは違う。
稲生の体も、今は成長も老化も著しいブレーキが掛かっているはずだ。
完璧にストップしていないのは、まだ正式に悪魔と契約していないからだ。
魔道師の体が老化しないのは、契約した悪魔の力によるとされている。
魔道師と契約できた悪魔は、その世界においてステータスを誇れるらしい。
その為、せっかくの契約先が寿命などというくだらない理由で死亡されたくはない。
契約内容には入っていないが、多くの悪魔が特典のつもりで老化ストップを掛けるようである。
但し、それにも限界はある。
何故かというと……。
ダンテ:「悪魔の力も常に一定というわけではないからね。人間はそこが理解できていないから、逆に悪魔に食われてしまうのだ。肉体の使用期限が凡そ200年から300年というのも、悪魔の力が弱まる周期でもあるということだ」
稲生:「なるほど」
ダンテ:「イリーナが今の体を使用したのが、1800年頃だ。あれからもう200年以上経っている。そろそろ交換する肉体を探さなくてはならない」
稲生:「はい」
ダンテ:「キミはマリアンナ君が好きかい?」
稲生:「も、もちろんです!」
ダンテ:「そうか。ということは、何があってもマリアンナ君を取るということだね?」
稲生:「何が仰りたいんですか?」
ダンテ:「来年、マリアンナ君に大きな試練が訪れる。それは既にイリーナも感知していることだろう。イリーナが動くだろうから、キミはキミでできることをやってくれ」
稲生:「何ですか、その試練って?」
しかし、ダンテは無言で手を振るだけだった。
ダンテ:「恐らくイリーナは、キミに『何もするな』と言うだろう。恐らくキミにとっても、何か……いや、これ以上はやめておこう。ここから先は、まだ確定事項ではない」
稲生:「ええっ?」
そこへイリーナ達が戻って来た。
イリーナ:「お待たせしました〜」
マリア:「師匠がやたら皿に山盛りにしましたが、これで良かったんですか?」
ダンテ:「おお、ありがとう。日本という国は食べ物が美味いからね、ついつい食べてしまうのだよ」
イリーナ:「あら?コーヒーが?」
ダンテ:「ああ、稲生君に持って来てもらったよ」
イリーナ:「あらま!そういえばまだお飲み物を御用意してませんでしたね、オホホホホ!」
マリア:「ユウタ、ナイス・フォロー」
稲生:「ありがとうございます」
イリーナ:「それでは今度は紅茶をお持ちしますわね」
ダンテ:「ああ。ストレートで頼む。銘柄はキミに任せるよ。さ、頂くとしよう。東京までは電車で行くのかな?」
稲生:「はい。“成田エクスプレス”を予約してあります」
ダンテ:「そうか。私はそれで十分なのだが、イリーナが、『ハイヤーにしなさい!』というシーンを予知して仕方が無いのだ」
稲生:「ええっ!?先生方はグリーン車ですよ!?」
ダンテ:「私なんかエコノミークラスでも十分なのだが、イリーナがそれを許さないのだ」
稲生:「ロスからはエコノミーですか?」
ダンテ:「いや、ファーストクラスだ。向こうの市警幹部に、最近町の治安を悪化させているマフィアの弱点を占ってあげたら、市長がファーストクラスの航空券をプレゼントしてくれてね。それだけだよ」
稲生:「す、凄いですね……!」
枕元に置いた稲生のスマホのアラームが鳴り響く。
東京駅京葉線ホームの荘厳な発車メロディである。
稲生:「う、うーん……」
稲生はアラームを止めた。
稲生:「もう朝か……。ううーん……」
何度も伸びをして起き上がる。
そして、バスルームに入って顔を洗った。
稲生:「昨夜は何も無かったなぁ……」
このホテル、実はサウナ付きの大浴場があるのだが、料金が別に掛かるのと、特に温泉ってわけでもないので稲生は入らなかった。
長旅の疲れもあるせいか、ホテルのレストランで夕食を取った後、すぐに部屋に戻ったのだが……。
[同日07:30.天候:晴 同ホテル1F レストラン“ガーデニア”]
ピンポーン♪
〔1階です〕
稲生:「えーと……レストランはあっちですね」
稲生はマリアを伴って、朝食会場であるレストランに向かった。
エレベーターの中でのマリアは、とても眠そうな顔をしていた。
スタッフ:「おはようございます。どうぞ、こちらへ」
稲生:「おはようございます」
2人はレストランの中に入った。
稲生:「うーん……。先生達はいなさそうですね」
マリア:「きっと、朝からお楽しみなんだろう」
マリアは不快そうな顔で言った。
稲生:「そうなんですか?」
マリア:「師匠ったら、この時の為に新しいセクシーランジェリー買ってたぞ。いい歳して、気持ち悪い」
稲生:「ハハハ……。イリーナ先生は、若作りの魔法を常に使用されていますから……」
それでも肉体そのものの使用期限が迫っている為、イリーナほどの大ベテランであっても、30代未満の歳にまで若返らせることはできないらしい。
稲生:「朝食はバイキングですね。……あっ、あそこ。オムレツの実演販売やってますよ」
マリア:「うん……」
2人が適当に見繕って食べていると、イリーナ達がやってきた。
イリーナ:「おーはよー!」
稲生:「おはようございます。すいません、先に頂いてました」
ダンテ:「いいよいいよ。イリーナ、私にも持って来てもらおうか」
イリーナ:「了解ですわ。先生は大食漢でいらっしゃいますものね」
マリア:「私も行きます」
マリアも席を立った。
稲生:「あっ、マリアさん、僕が行きますよ?」
マリア:「いいからユウタは大師匠様の話し相手になってあげてて!」
稲生:「はあ……?」
ダンテ:「はっはっは。『女心と秋の空』とは日本の諺で言うが、実際は年がら年中だね」
イリーナとマリアが料理の並んでいるテーブルへ向かう。
マリア:「昨日はお楽しみだったんですか?」
イリーナ:「1000年以上生きてるけど、もうこの体を悦ばせてくれるのは、私よりもっと長生きされているダンテ先生しかいらっしゃらないのよ。マリアも私くらい生きられたら、必ず分かるからね」
マリア:「…………」
テーブル席では……。
稲生:「先生、取りあえずコーヒーをお先にどうぞ」
ダンテ:「おお、こりゃすまんね」
稲生はドリンクコーナーからコーヒーを持って来た。
ダンテ:「女性はどうしても目先のことを気を取られがちだ。そう、料理という目先だ。その点、男性はもっと広い目で物事を見ることができる。この場合、飲み物かな」
稲生:「はあ……」
ダンテ:「ま、そんなことはどうでもいい。それより、魔道師の修行はどうだね?」
稲生:「何だか、雲を掴むような感じです。体育会系みたいな精神論とか、文科系みたいな現実論とか、そういうのは一切超越している……。うーん……上手くは言えないんですけど……」
ダンテ:「イリーナに指導を任せると、そうなる。だが、その雲を掴むと、一気に上達できるよ」
稲生:「そうなんですか」
ダンテ:「ところで、マリアンナ君はどうかね?」
稲生:「マリアさん……ですか?」
ダンテ:「彼女とは仲良くできているかな?」
稲生:「あ、はい。年末年始、僕の実家で過ごしてくれます」
ダンテ:「そうか。穴倉に閉じこもる魔女からの脱却は、ほぼ出来つつあるようだな。キミのおかげだね」
稲生:「僕は普通の人間ですよ?……ああっと……でしたよ?」
稲生は現在形から過去形へと言い直した。
見習とはいえど、今の稲生は普通の人間とは違う。
稲生の体も、今は成長も老化も著しいブレーキが掛かっているはずだ。
完璧にストップしていないのは、まだ正式に悪魔と契約していないからだ。
魔道師の体が老化しないのは、契約した悪魔の力によるとされている。
魔道師と契約できた悪魔は、その世界においてステータスを誇れるらしい。
その為、せっかくの契約先が寿命などというくだらない理由で死亡されたくはない。
契約内容には入っていないが、多くの悪魔が特典のつもりで老化ストップを掛けるようである。
但し、それにも限界はある。
何故かというと……。
ダンテ:「悪魔の力も常に一定というわけではないからね。人間はそこが理解できていないから、逆に悪魔に食われてしまうのだ。肉体の使用期限が凡そ200年から300年というのも、悪魔の力が弱まる周期でもあるということだ」
稲生:「なるほど」
ダンテ:「イリーナが今の体を使用したのが、1800年頃だ。あれからもう200年以上経っている。そろそろ交換する肉体を探さなくてはならない」
稲生:「はい」
ダンテ:「キミはマリアンナ君が好きかい?」
稲生:「も、もちろんです!」
ダンテ:「そうか。ということは、何があってもマリアンナ君を取るということだね?」
稲生:「何が仰りたいんですか?」
ダンテ:「来年、マリアンナ君に大きな試練が訪れる。それは既にイリーナも感知していることだろう。イリーナが動くだろうから、キミはキミでできることをやってくれ」
稲生:「何ですか、その試練って?」
しかし、ダンテは無言で手を振るだけだった。
ダンテ:「恐らくイリーナは、キミに『何もするな』と言うだろう。恐らくキミにとっても、何か……いや、これ以上はやめておこう。ここから先は、まだ確定事項ではない」
稲生:「ええっ?」
そこへイリーナ達が戻って来た。
イリーナ:「お待たせしました〜」
マリア:「師匠がやたら皿に山盛りにしましたが、これで良かったんですか?」
ダンテ:「おお、ありがとう。日本という国は食べ物が美味いからね、ついつい食べてしまうのだよ」
イリーナ:「あら?コーヒーが?」
ダンテ:「ああ、稲生君に持って来てもらったよ」
イリーナ:「あらま!そういえばまだお飲み物を御用意してませんでしたね、オホホホホ!」
マリア:「ユウタ、ナイス・フォロー」
稲生:「ありがとうございます」
イリーナ:「それでは今度は紅茶をお持ちしますわね」
ダンテ:「ああ。ストレートで頼む。銘柄はキミに任せるよ。さ、頂くとしよう。東京までは電車で行くのかな?」
稲生:「はい。“成田エクスプレス”を予約してあります」
ダンテ:「そうか。私はそれで十分なのだが、イリーナが、『ハイヤーにしなさい!』というシーンを予知して仕方が無いのだ」
稲生:「ええっ!?先生方はグリーン車ですよ!?」
ダンテ:「私なんかエコノミークラスでも十分なのだが、イリーナがそれを許さないのだ」
稲生:「ロスからはエコノミーですか?」
ダンテ:「いや、ファーストクラスだ。向こうの市警幹部に、最近町の治安を悪化させているマフィアの弱点を占ってあげたら、市長がファーストクラスの航空券をプレゼントしてくれてね。それだけだよ」
稲生:「す、凄いですね……!」