[1月3日13:18.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 JR北与野駅]
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の2番線の電車は、13:18分発、各駅停車、大宮行きです〕
今日で稲生の帰省は終わり。
この後、羽田空港に向かうことになっている。
その理由はイリーナやダンテと合流する為。
明日、ダンテが羽田空港からまた海外へ飛ぶ為、その見送りを兼ねてのことである。
羽田空港までは大宮駅西口からバスが出ているので、それで向かうことにした。
〔まもなく2番線に、各駅停車、大宮行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕
ホームに入線して来るのは、いつものJRE233系。
この時間はガラガラなのだが……。
〔きたよの、北与野。ご乗車、ありがとうございます〕
今日はUターンラッシュのピークとされる。
その為か、明らかに長距離客の出で立ちをしている乗客が目立った。
〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕
各駅停車しか止まらない小さな駅。
停車時間など僅かであり、すぐに発車する。
〔次は終点、大宮、大宮。お出口は、左側です。新幹線、高崎線、宇都宮線、川越線、京浜東北線、東武野田線とニューシャトルはお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
〔The next station is Omiya,terminal.The doors on the left side will open.Please change here for the Shinkansen,the Takasaki line,the Utsunomiya line,the Kawagoe kine,the Keihin-Tohoku line,the Tobu-Noda line,and the New Shuttle...〕
稲生はポケットからバスの乗車券を出した。
稲生:「この乗車券を持っていると、優先乗車できます。この券面の番号順に」
マリア:「そうなのか」
予約定員制という。
事前予約して乗車券を購入するが、席までは指定されていないというもの。
〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく大宮、大宮、終点です。地下ホーム19番線到着、お出口は左側です。電車到着の際、大きく揺れる場合があります。お立ちのお客様はお近くの吊り革、手すりにお掴まりください」〕
上記の放送も外国ではまず無いことである。
尚、北与野→大宮において、その注意喚起は大げさではない。
埼京線には余裕時分が設けられていないのかどうか不明だが、結構ギリギリなダイヤで走行しているのが乗っていれば分かる。
その為、ポイントの通過速度もATCギリギリのスピードで通過する為に……。
稲生:「うおっと!」
特に19番線に入る場合はポイントを2つ通過することになるので、本当に大きく揺れる。
稲生、バランスを崩して、マリアの横に壁ドーン!
マリア:「……!」
稲生:「……す、すいません」
マリア:「い、いや、別に……」
しかし、2人の顔は赤かった。
〔おおみや、大宮。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
電車を降りてエスカレーターに向かう。
最北端と最南端にあるのは階段だけで、エレベーターやエスカレーターはホーム中央部分にある。
マリア:「昇ったり降りたり大変だな」
稲生:「確かにそうですね」
それでもこうしてエレベーターやエスカレーターが充実しているだけ、日本はマシだという。
地下鉄を核シェルターと考えている国家の地下鉄は、元からエスカレーターだけは設置していた。
あの北朝鮮は平壌の地下鉄ですら、コンコースからホームへの行き来にはエスカレーターを設置しているほどだ。
その為、そうとは考えていないニューヨークの地下鉄なんかは階段しか無い駅も多い。
稲生:「あれ?電話だ」
地上……どころか、2階まで昇った時、稲生の電話に着信があった。
稲生:「もしもし、稲生です」
藤谷:「あー、稲生君。藤谷だが……」
稲生:「どうしたんですか、班長?」
藤谷:「今日、長野に帰るんだろ?」
稲生:「いえ。今日は偉い先生が羽田に滞在されるので、僕達もそこで一泊です」
藤谷:「そうか。見方によっては、魔法を見れる最大のチャンスってところだな」
稲生:「どういうことですか?」
藤谷:「例の鈴木君さ。あれ以来、マリアさんの魔法が見たくてしょうがないみたいなんだ」
稲生:「魔法は見せ物じゃないですよ」
藤谷:「分かってる。だがあれ以来、鈴木君はマリアさんとは会っていない。俺にもせがんできて大変なんだ。ほら、俺はマリアさん達の正体を知ってるわけだろ?鈴木君がそれを聞いて来て大変なんだ」
稲生:「喋ったりは……」
藤谷:「いや、それはしていない。信用に値する人間なら分からなくもないんだが、まだそこまでの関係には至ってないからな」
稲生:「僕はあまり信用できないと思っています。マリアさんを魔女呼ばわりしている時点で、これは……と思いましたね」
藤谷:「分かった。稲生君達は早々に長野に引き上げたと伝えておく」
稲生:「そうしてください。あまりちょっかいを出すと、マリアさん達も終いには怒りますから。怒らせたら怖いですよ?」
藤谷:「そうだな。鈴木君の方は、俺が何とかしておこう」
稲生:「よろしくお願いします」
稲生は電話を切った。
マリア:「何かあったの?」
稲生:「いえ、何でもないです。藤谷班長から、お別れの挨拶をと……」
マリア:「そうか。まあ、師匠には口添えしておくよ」
稲生:「あ、はい。そうしてあげてください」
稲生とマリアは西口のバス乗り場に向かった。
[同日13:50.天候:晴 JR大宮駅西口→国際興業バス車内]
Uターンラッシュということもあってか、バスは賑わっていた。
それでも乗車券を手にしている乗客から先に乗れるということもあり、稲生とマリアは後ろの席に隣り合って座ることができた。
稲生:「席は決まってませんから」
マリア:「そう」
トイレ付きの4列シートである。
魔道師達はそんなに大きな荷物を持つことはない(ローブの中に入る為)。
荷棚の上に人形などを入れたバッグを置くくらいである。
大きな荷物を持った乗客の為に、高速バスには床下に荷物室があるわけだが、座席の上の荷棚に置けるほどの大きさだということだ。
白い帽子を被った運転手が、乗客の大きな荷物を荷物室に入れている。
バスはほぼ満席に近い状態で、大宮駅西口を出発した。
いつもならここまで混む路線ではないのだが、やはりUターンラッシュのせいか。
車内放送も日本語だけでなく、英語や中国語(北京語か広東語かは不明)、朝鮮語が流れている。
首都高はさいたま新都心線の新都心西から入るわけだが、そこまでのルートが、タクシーで暴走車を交わしたものと同じである。
それが嘘みたいに静かな市道だった。
稲生:「実はさっきの藤谷班長の電話なんですが……」
マリア:「なに?」
稲生:「マリアさんが正証寺で酔っ払って魔法を使ったのを見た人がいましてね、その人はマリアさんに会わせろとせがんで来たそうです」
するとマリアはあからさまに不快そうな顔をした。
マリア:「私は絶対に会わない。会う気はない」
稲生:「ですよね。藤谷班長にもお願いしておきました。僕達はあくまで、今日中に屋敷に引き上げたことにしてくれるそうです」
マリア:「本当はそれすら黙ってて欲しかったんだけどな。まあいい」
稲生:「あまりうるさいようですと、後が怖いですよとも言っておきました」
マリア:「そうだな。私に『チェックメイト(復讐完了)』されたくなければ、このままおとなしくしておいた方がいい」
稲生:「僕もそう思います」
稲生は頷きながらふと思った。
昔のマリアなら、そういった目撃者がいたと分かったら、すぐに消しに行ったはずだが、今では様子見にしている。
だいぶ丸くなったのかもしれない。
だからこそ、そんなマリアを悪意を込めて魔女呼ばわりをした鈴木に対しては少し腹が立っていたのだ。
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の2番線の電車は、13:18分発、各駅停車、大宮行きです〕
今日で稲生の帰省は終わり。
この後、羽田空港に向かうことになっている。
その理由はイリーナやダンテと合流する為。
明日、ダンテが羽田空港からまた海外へ飛ぶ為、その見送りを兼ねてのことである。
羽田空港までは大宮駅西口からバスが出ているので、それで向かうことにした。
〔まもなく2番線に、各駅停車、大宮行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕
ホームに入線して来るのは、いつものJRE233系。
この時間はガラガラなのだが……。
〔きたよの、北与野。ご乗車、ありがとうございます〕
今日はUターンラッシュのピークとされる。
その為か、明らかに長距離客の出で立ちをしている乗客が目立った。
〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕
各駅停車しか止まらない小さな駅。
停車時間など僅かであり、すぐに発車する。
〔次は終点、大宮、大宮。お出口は、左側です。新幹線、高崎線、宇都宮線、川越線、京浜東北線、東武野田線とニューシャトルはお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
〔The next station is Omiya,terminal.The doors on the left side will open.Please change here for the Shinkansen,the Takasaki line,the Utsunomiya line,the Kawagoe kine,the Keihin-Tohoku line,the Tobu-Noda line,and the New Shuttle...〕
稲生はポケットからバスの乗車券を出した。
稲生:「この乗車券を持っていると、優先乗車できます。この券面の番号順に」
マリア:「そうなのか」
予約定員制という。
事前予約して乗車券を購入するが、席までは指定されていないというもの。
〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく大宮、大宮、終点です。地下ホーム19番線到着、お出口は左側です。電車到着の際、大きく揺れる場合があります。お立ちのお客様はお近くの吊り革、手すりにお掴まりください」〕
上記の放送も外国ではまず無いことである。
尚、北与野→大宮において、その注意喚起は大げさではない。
埼京線には余裕時分が設けられていないのかどうか不明だが、結構ギリギリなダイヤで走行しているのが乗っていれば分かる。
その為、ポイントの通過速度もATCギリギリのスピードで通過する為に……。
稲生:「うおっと!」
特に19番線に入る場合はポイントを2つ通過することになるので、本当に大きく揺れる。
稲生、バランスを崩して、マリアの横に壁ドーン!
マリア:「……!」
稲生:「……す、すいません」
マリア:「い、いや、別に……」
しかし、2人の顔は赤かった。
〔おおみや、大宮。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
電車を降りてエスカレーターに向かう。
最北端と最南端にあるのは階段だけで、エレベーターやエスカレーターはホーム中央部分にある。
マリア:「昇ったり降りたり大変だな」
稲生:「確かにそうですね」
それでもこうしてエレベーターやエスカレーターが充実しているだけ、日本はマシだという。
地下鉄を核シェルターと考えている国家の地下鉄は、元からエスカレーターだけは設置していた。
あの北朝鮮は平壌の地下鉄ですら、コンコースからホームへの行き来にはエスカレーターを設置しているほどだ。
その為、そうとは考えていないニューヨークの地下鉄なんかは階段しか無い駅も多い。
稲生:「あれ?電話だ」
地上……どころか、2階まで昇った時、稲生の電話に着信があった。
稲生:「もしもし、稲生です」
藤谷:「あー、稲生君。藤谷だが……」
稲生:「どうしたんですか、班長?」
藤谷:「今日、長野に帰るんだろ?」
稲生:「いえ。今日は偉い先生が羽田に滞在されるので、僕達もそこで一泊です」
藤谷:「そうか。見方によっては、魔法を見れる最大のチャンスってところだな」
稲生:「どういうことですか?」
藤谷:「例の鈴木君さ。あれ以来、マリアさんの魔法が見たくてしょうがないみたいなんだ」
稲生:「魔法は見せ物じゃないですよ」
藤谷:「分かってる。だがあれ以来、鈴木君はマリアさんとは会っていない。俺にもせがんできて大変なんだ。ほら、俺はマリアさん達の正体を知ってるわけだろ?鈴木君がそれを聞いて来て大変なんだ」
稲生:「喋ったりは……」
藤谷:「いや、それはしていない。信用に値する人間なら分からなくもないんだが、まだそこまでの関係には至ってないからな」
稲生:「僕はあまり信用できないと思っています。マリアさんを魔女呼ばわりしている時点で、これは……と思いましたね」
藤谷:「分かった。稲生君達は早々に長野に引き上げたと伝えておく」
稲生:「そうしてください。あまりちょっかいを出すと、マリアさん達も終いには怒りますから。怒らせたら怖いですよ?」
藤谷:「そうだな。鈴木君の方は、俺が何とかしておこう」
稲生:「よろしくお願いします」
稲生は電話を切った。
マリア:「何かあったの?」
稲生:「いえ、何でもないです。藤谷班長から、お別れの挨拶をと……」
マリア:「そうか。まあ、師匠には口添えしておくよ」
稲生:「あ、はい。そうしてあげてください」
稲生とマリアは西口のバス乗り場に向かった。
[同日13:50.天候:晴 JR大宮駅西口→国際興業バス車内]
Uターンラッシュということもあってか、バスは賑わっていた。
それでも乗車券を手にしている乗客から先に乗れるということもあり、稲生とマリアは後ろの席に隣り合って座ることができた。
稲生:「席は決まってませんから」
マリア:「そう」
トイレ付きの4列シートである。
魔道師達はそんなに大きな荷物を持つことはない(ローブの中に入る為)。
荷棚の上に人形などを入れたバッグを置くくらいである。
大きな荷物を持った乗客の為に、高速バスには床下に荷物室があるわけだが、座席の上の荷棚に置けるほどの大きさだということだ。
白い帽子を被った運転手が、乗客の大きな荷物を荷物室に入れている。
バスはほぼ満席に近い状態で、大宮駅西口を出発した。
いつもならここまで混む路線ではないのだが、やはりUターンラッシュのせいか。
車内放送も日本語だけでなく、英語や中国語(北京語か広東語かは不明)、朝鮮語が流れている。
首都高はさいたま新都心線の新都心西から入るわけだが、そこまでのルートが、タクシーで暴走車を交わしたものと同じである。
それが嘘みたいに静かな市道だった。
稲生:「実はさっきの藤谷班長の電話なんですが……」
マリア:「なに?」
稲生:「マリアさんが正証寺で酔っ払って魔法を使ったのを見た人がいましてね、その人はマリアさんに会わせろとせがんで来たそうです」
するとマリアはあからさまに不快そうな顔をした。
マリア:「私は絶対に会わない。会う気はない」
稲生:「ですよね。藤谷班長にもお願いしておきました。僕達はあくまで、今日中に屋敷に引き上げたことにしてくれるそうです」
マリア:「本当はそれすら黙ってて欲しかったんだけどな。まあいい」
稲生:「あまりうるさいようですと、後が怖いですよとも言っておきました」
マリア:「そうだな。私に『チェックメイト(復讐完了)』されたくなければ、このままおとなしくしておいた方がいい」
稲生:「僕もそう思います」
稲生は頷きながらふと思った。
昔のマリアなら、そういった目撃者がいたと分かったら、すぐに消しに行ったはずだが、今では様子見にしている。
だいぶ丸くなったのかもしれない。
だからこそ、そんなマリアを悪意を込めて魔女呼ばわりをした鈴木に対しては少し腹が立っていたのだ。