報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「地上移動の魔道師達」

2018-01-23 19:13:45 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月3日13:18.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 JR北与野駅]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の2番線の電車は、13:18分発、各駅停車、大宮行きです〕

 今日で稲生の帰省は終わり。
 この後、羽田空港に向かうことになっている。
 その理由はイリーナやダンテと合流する為。
 明日、ダンテが羽田空港からまた海外へ飛ぶ為、その見送りを兼ねてのことである。
 羽田空港までは大宮駅西口からバスが出ているので、それで向かうことにした。

〔まもなく2番線に、各駅停車、大宮行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕

 ホームに入線して来るのは、いつものJRE233系。
 この時間はガラガラなのだが……。

〔きたよの、北与野。ご乗車、ありがとうございます〕

 今日はUターンラッシュのピークとされる。
 その為か、明らかに長距離客の出で立ちをしている乗客が目立った。

〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 各駅停車しか止まらない小さな駅。
 停車時間など僅かであり、すぐに発車する。

〔次は終点、大宮、大宮。お出口は、左側です。新幹線、高崎線、宇都宮線、川越線、京浜東北線、東武野田線とニューシャトルはお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
〔The next station is Omiya,terminal.The doors on the left side will open.Please change here for the Shinkansen,the Takasaki line,the Utsunomiya line,the Kawagoe kine,the Keihin-Tohoku line,the Tobu-Noda line,and the New Shuttle...〕

 稲生はポケットからバスの乗車券を出した。

 稲生:「この乗車券を持っていると、優先乗車できます。この券面の番号順に」
 マリア:「そうなのか」

 予約定員制という。
 事前予約して乗車券を購入するが、席までは指定されていないというもの。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく大宮、大宮、終点です。地下ホーム19番線到着、お出口は左側です。電車到着の際、大きく揺れる場合があります。お立ちのお客様はお近くの吊り革、手すりにお掴まりください」〕

 上記の放送も外国ではまず無いことである。
 尚、北与野→大宮において、その注意喚起は大げさではない。
 埼京線には余裕時分が設けられていないのかどうか不明だが、結構ギリギリなダイヤで走行しているのが乗っていれば分かる。
 その為、ポイントの通過速度もATCギリギリのスピードで通過する為に……。

 稲生:「うおっと!」

 特に19番線に入る場合はポイントを2つ通過することになるので、本当に大きく揺れる。
 稲生、バランスを崩して、マリアの横に壁ドーン!

 マリア:「……!」
 稲生:「……す、すいません」
 マリア:「い、いや、別に……」

 しかし、2人の顔は赤かった。

〔おおみや、大宮。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 電車を降りてエスカレーターに向かう。
 最北端と最南端にあるのは階段だけで、エレベーターやエスカレーターはホーム中央部分にある。

 マリア:「昇ったり降りたり大変だな」
 稲生:「確かにそうですね」

 それでもこうしてエレベーターやエスカレーターが充実しているだけ、日本はマシだという。
 地下鉄を核シェルターと考えている国家の地下鉄は、元からエスカレーターだけは設置していた。
 あの北朝鮮は平壌の地下鉄ですら、コンコースからホームへの行き来にはエスカレーターを設置しているほどだ。
 その為、そうとは考えていないニューヨークの地下鉄なんかは階段しか無い駅も多い。

 稲生:「あれ?電話だ」

 地上……どころか、2階まで昇った時、稲生の電話に着信があった。

 稲生:「もしもし、稲生です」
 藤谷:「あー、稲生君。藤谷だが……」
 稲生:「どうしたんですか、班長?」
 藤谷:「今日、長野に帰るんだろ?」
 稲生:「いえ。今日は偉い先生が羽田に滞在されるので、僕達もそこで一泊です」
 藤谷:「そうか。見方によっては、魔法を見れる最大のチャンスってところだな」
 稲生:「どういうことですか?」
 藤谷:「例の鈴木君さ。あれ以来、マリアさんの魔法が見たくてしょうがないみたいなんだ」
 稲生:「魔法は見せ物じゃないですよ」
 藤谷:「分かってる。だがあれ以来、鈴木君はマリアさんとは会っていない。俺にもせがんできて大変なんだ。ほら、俺はマリアさん達の正体を知ってるわけだろ?鈴木君がそれを聞いて来て大変なんだ」
 稲生:「喋ったりは……」
 藤谷:「いや、それはしていない。信用に値する人間なら分からなくもないんだが、まだそこまでの関係には至ってないからな」
 稲生:「僕はあまり信用できないと思っています。マリアさんを魔女呼ばわりしている時点で、これは……と思いましたね」
 藤谷:「分かった。稲生君達は早々に長野に引き上げたと伝えておく」
 稲生:「そうしてください。あまりちょっかいを出すと、マリアさん達も終いには怒りますから。怒らせたら怖いですよ?」
 藤谷:「そうだな。鈴木君の方は、俺が何とかしておこう」
 稲生:「よろしくお願いします」

 稲生は電話を切った。

 マリア:「何かあったの?」
 稲生:「いえ、何でもないです。藤谷班長から、お別れの挨拶をと……」
 マリア:「そうか。まあ、師匠には口添えしておくよ」
 稲生:「あ、はい。そうしてあげてください」

 稲生とマリアは西口のバス乗り場に向かった。

[同日13:50.天候:晴 JR大宮駅西口→国際興業バス車内]

 Uターンラッシュということもあってか、バスは賑わっていた。
 それでも乗車券を手にしている乗客から先に乗れるということもあり、稲生とマリアは後ろの席に隣り合って座ることができた。

 稲生:「席は決まってませんから」
 マリア:「そう」

 トイレ付きの4列シートである。
 魔道師達はそんなに大きな荷物を持つことはない(ローブの中に入る為)。
 荷棚の上に人形などを入れたバッグを置くくらいである。
 大きな荷物を持った乗客の為に、高速バスには床下に荷物室があるわけだが、座席の上の荷棚に置けるほどの大きさだということだ。
 白い帽子を被った運転手が、乗客の大きな荷物を荷物室に入れている。

 バスはほぼ満席に近い状態で、大宮駅西口を出発した。
 いつもならここまで混む路線ではないのだが、やはりUターンラッシュのせいか。
 車内放送も日本語だけでなく、英語や中国語(北京語か広東語かは不明)、朝鮮語が流れている。
 首都高はさいたま新都心線の新都心西から入るわけだが、そこまでのルートが、タクシーで暴走車を交わしたものと同じである。
 それが嘘みたいに静かな市道だった。

 稲生:「実はさっきの藤谷班長の電話なんですが……」
 マリア:「なに?」
 稲生:「マリアさんが正証寺で酔っ払って魔法を使ったのを見た人がいましてね、その人はマリアさんに会わせろとせがんで来たそうです」

 するとマリアはあからさまに不快そうな顔をした。

 マリア:「私は絶対に会わない。会う気はない」
 稲生:「ですよね。藤谷班長にもお願いしておきました。僕達はあくまで、今日中に屋敷に引き上げたことにしてくれるそうです」
 マリア:「本当はそれすら黙ってて欲しかったんだけどな。まあいい」
 稲生:「あまりうるさいようですと、後が怖いですよとも言っておきました」
 マリア:「そうだな。私に『チェックメイト(復讐完了)』されたくなければ、このままおとなしくしておいた方がいい」
 稲生:「僕もそう思います」

 稲生は頷きながらふと思った。
 昔のマリアなら、そういった目撃者がいたと分かったら、すぐに消しに行ったはずだが、今では様子見にしている。
 だいぶ丸くなったのかもしれない。
 だからこそ、そんなマリアを悪意を込めて魔女呼ばわりをした鈴木に対しては少し腹が立っていたのだ。
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“大魔道師の弟子” 「転んでも 大怪我しない 酔っ払い」

2018-01-23 14:25:13 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月1日14:08.天候:晴 東京都江東区森下 都営地下鉄森下駅・大江戸線ホーム]

〔まもなく3番線に、両国、春日経由、都庁前行き電車が到着します。……〕

 ワンスターホテルを出た稲生とマリアは、埼玉の稲生家に帰る為、地下鉄の駅にいた。
 すっかり酔いも醒め、途中のコンビニで買ったソルマックのおかげで、もう既に吐き気も無い。
 ホームドアに下半分を遮られた12-000形電車が入線してくる。
 トンネル断面が他の都営地下鉄よりも狭い為、車両も小さい。

〔森下、森下。都営新宿線は、お乗り換えです。3番線は両国、春日経由、都庁前行きです〕

 テンションの低いマリアを伴って車内に入る。
 座席のクッションは硬め。

〔3番線から両国、春日経由、都庁前行き電車が発車します。閉まるドアに、ご注意ください〕

 ホームドアが無かった頃はドアが閉まるとすぐに発車したのだが、今ではホームドアの閉扉確認もしてからなのか、少しタイミングが遅くなっている。
 尚、都営大江戸線はワンマン運転である。

 稲生:「まだ具合が悪いですか?そんなに揺れる電車では無いから、乗り物酔いすることは無いと思いますが……」
 マリア:「いや、別に……」

〔次は両国、江戸東京博物館前、両国、江戸東京博物館前。JR線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔The next station is Ryogoku,Edo-Tokyo Hakubutukan-mae.Please change here for the JR lines.〕

 鬼平犯科帳の舞台にもなる両国が次駅だが、この魔道師2人には関係の無いことらしい。

 マリア:「お腹空いた……」
 稲生:「おっ、そういえばお昼がまだでしたね。御徒町に着いたら、何か食べましょう」

 それでマリアのテンションが低かったのかと稲生は思った。
 実際は、もっと他に理由があったのだが……。

[同日14:16.天候:晴 東京都台東区上野 都営地下鉄・上野御徒町駅]

〔まもなく上野御徒町、上野御徒町。上野松坂屋前です〕

 ↑最近は『上野松坂屋』の名前は出していないらしい。

 稲生:「ここで降りましょう」
 マリア:「うん……」

 12-000形のドアチャイムは2回鳴る。
 JR東日本の車両だと3回鳴るが、2回くらいがちょうどいいかもしれない。
 JR東海や西日本だと2回が多いか。

〔上野御徒町、上野御徒町。銀座線、日比谷線、JR線はお乗り換えです。1番線は飯田橋経由、都庁前行きです〕

 乗換路線が複数あるこの駅では、乗降客は比較的多い。

 稲生:「うーん……JR側に出るか」

 電車を降りてから、稲生はマリアの手を引いてホームを歩いた。
 今では自然に手を繫げるようにまでなった。

 稲生:「アメ横には出ない方がいいかな……。あそこは年末賑わうけど、正月はどうだったかなぁ……?」

 アメ横そのものよりも、下谷摩利支天山の初詣客で賑わう。
 但し、この名前は通称であり、正式名称は日蓮正宗妙宣山徳大寺という。
 都内の一等地を他宗に取られている日蓮正宗。
 地上に出る。

 稲生:(あの商店街の中を上野方面に歩いて行くと、途中にドトールコーヒーがあるみたいだ。そこで何か食べられるな)

 稲生はスマホで検索しながらそう思った。
 水晶球要らずである。

[同日14:30.天候:晴 同地区 ドトールコーヒー]

 稲生:「ちょうどここは御徒町駅と上野駅の中間地点辺りです。つまり、ここで休んだら上野駅まで歩いて行けるということですよ」
 マリア:「うん、分かった」

 稲生とマリアはカウンター席に隣り合って座った。

 稲生:「あまり食べ過ぎると、夕食が食べにくくなるので、あくまでも空腹を満たす程度で……」
 マリア:「それでいいよ」

 ミラノサンドを食べるマリアだが、あまり機嫌良さそうではない。
 一体どうしたというのだろう?

 稲生:「あれ?父さんからメッセージだ」

 『お年玉あげるの忘れたw マリアさんの分もあるから、早く帰って来い。てか、マリアさんが帰って来ないのだが、まさか愛想尽かしてイギリスに帰ったんじゃないだろうな?』

 稲生:「……何で“魔の者”から逃げて来たってのに、イギリスに帰るんだよ。……まあ、父さんは知らないか」

 “魔の者”に身も心もボロボロにされたマリア。
 人間としての人生は強制終了させ、魔道師として生きる道を選んだ。
 それでも“魔の者”の追撃は止まず、極東の日本へ避難してきたというのがマリア。
 欧米人から見た世界地図だと、日本は向かって1番右端にある。
 極東アジアと言うのはその為だ。
 “魔の者”もヨーロッパの悪魔だとすれば、日本はそういう見方になるわけだが、日本海に阻まれて呪いの力を届かせられないという不思議な事態になっているらしい。
 全くその意味は不明だ。

 稲生:「父さんが渡したい物があるそうなので、これを食べたら帰りましょう」
 マリア:「渡したい物……?Mikudarihan?」
 稲生:「何で!?」
 マリア:「Kakekomi-Dera.」
 稲生:「日蓮正宗に駆け込み寺なんて無いですよ?江戸時代の意味で。父さんが渡したい物というのは、お年玉です」
 マリア:「Otoshidama.」

 マリアはスッと水晶球を出した。

 稲生:「いや、水晶球じゃなくて。年明けにもらえるお小遣いだと思えばいいです」
 マリア:「そうなのか。私なんかがもらってもいいのか?」
 稲生:「そりゃ、父さんが渡したいと言ってるんですから」
 マリア:「そうか。本当は宿泊代を渡さなくてはならないのに、ありがたいな」

 これで少しはマリアの機嫌も良くなると思ったのだが……。
 店を出ても大して変わらなかった。

 稲生:「あの……もし何か悩みがあるんだったら聞きますよ?」
 マリア:「酔っ払った……」
 稲生:「ああ。聞きましたよ。ケンショーレンジャーが、嫌がらせで甘酒にウォッカ混ぜたんですって。もちろん、今は病院送りになってますけどね。その後、漏れなく警察行きです」
 マリア:「ケンショーレンジャーが?」
 稲生:「そうなんですよ。寺院内を逃げ回っていましたが、ついにうちの登山部長のダンプカーをぶつけて捕まえたんです」
 マリア:「ふふふ……そうかぁ……ケンショーレンジャーのしわざかぁ……!」

 それまで俯いていたマリアだったが、ケンショーレンジャーの名前が出ると、久しぶりに『魔女の顔』になったのだった。
 その夜、稲生は久しぶりにマリアの嗜虐的な「チェックメイト(復讐完了)」という言葉を聞けたという。
 マリアの魔法による、ケンショーブルーとグリーンへの復讐がどんなものだったのかまでは聞けなかったという。
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“大魔道師の弟子” 「活躍の魔道師」

2018-01-23 10:05:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月1日13:30.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 森下駅で電車を飛び降りた稲生は、未だに瞬間移動魔法が自分には使えないことを悔やみつつ、ワンスターホテルに向かった。
 新大橋通りという都道から一歩入った区道に、そのワンスターホテルはある。
 森下地区は昔は簡易宿所が立ち並ぶ、いわゆる“ドヤ街”だった所だ。
 そのドヤ街も今は様変わりし、閉鎖したり、ワンスターホテルのように格安ビジネスホテルに改装して営業を続けていたりと様々である。
 むしろ、今でも簡易宿所のまま営業している所があるのだろうか。
 このワンスターホテル、看板に大きな星が描かれているので、一つ星という意味なのだろうと解釈できる。
 今ではそういう解釈で、利用客に説明しているということらしいのだが……。

 稲生:「すいませーん!」
 エレーナ:「おっ、来た来た」
 稲生:「エレーナ!ここにマリアさんがいるんだろ!?」
 エレーナ:「取りあえず私の部屋に寝かせておいてるから、すぐに行きな」

 エレーナはエレベーターの鍵を持って来た。
 エレーナの部屋は地下にあり、機械室の一角を改築したものだ。
 普段は宿泊客が下りて行かないように、地下1階へエレベーターは行けないようにしてある。

 エレーナ:「マリアンナが来た時には、ほんとびっくりしたよ」
 稲生:「そんなに?」
 エレーナ:「既にその時の映像は撮ってあるから、後で観る?」( ̄ー ̄)
 稲生:「観るのが何か怖い……」
 エレーナ:「私の部屋でゲロ吐いてなけりゃいいけど……」
 稲生:「吐いた!?」
 エレーナ:「物凄く酔っ払ってたからね。なに?酔わせてヤるつもりだったの?」
 稲生:「んなワケないだろ!」
 エレーナ:「エロビデやエロ漫画にも、酔わせてヤるジャンルがしっかりあるもんね」
 稲生:「いや、そりゃあるけどさ」

 エレベーターが1階に着く。
 空調機械室ということだが、そんなに機械の音はうるさくなかった。

 エレーナ:「こっちだよ」

 表向きには『仮眠室』ということになっているらしい。
 従業員休憩室は1階にもあるが、エレーナだけ住み込みの為、個室を作ってもらったようだ。
 機械室内に無理くり作った『仮眠室』は、実質的に6帖分くらいの広さがあるだろうか。
 カーペット敷きだが、かぎ型をした部屋だ。
 それでも3点ユニットバスや洗濯機が置いてある辺り、住めるようにはなっているらしい。

 稲生:「マリアさん……」

 中のベッドにマリアは横たわっていた。

 エレーナ:「良かった。吐いてない」

 エレーナは心底ホッとした様子だった。

 稲生:「マリアさん、大丈夫ですか?しっかりしてください!」

 確かに泥酔していたのだろう。
 酒の臭いがした。

 稲生:「まさか、急性アル中で……!?」
 エレーナ:「いや、それは無い。そういう寝方じゃないから」

 エレーナは確信を持った様子で答えた。
 ホテル業務という特性上、本当に酒の飲み過ぎで救急車沙汰になった宿泊客を扱ったことがあったからだ。

 稲生:「無理やり起こすのもどうかなぁ……?」
 エレーナ:「いや、そこは無理にでも起こしてもらって、連れ帰ってもらわないと」

 と、その時だった。
 プー!というブザー音が室内に鳴り響いた。

 稲生:「うわっ、何だ!?」
 エレーナ:「内線電話だね」

 室内に内線電話があり、それが鳴ったのだ。

 エレーナ:「フロントからだ。……はい、エレーナです」
 オーナー:「ああ、私だ。ちょっと悪いんだけど、フロントまで至急戻ってきてくれるかな?できれば、マリアンナさんを連れて」
 エレーナ:「マリアンナをですか?それはまたどうして?」
 オーナー:「何か、警察の人が来てるんだ」
 エレーナ:「マジっすか!?」

 エレーナは電話を切った。

 エレーナ:「あーあ。マリアンナ、終わったな」
 稲生:「な、なに!?」
 エレーナ:「ケーサツがタイーホに来たってさ」
 稲生:「ええーっ!?」
 エレーナ:「おい、マリアンナ。とっとと起きろ。年貢の納め時だぞ」
 マリアンナ:「う……」
 エレーナ:「しょうがない。また私が担いでやるか」

 明らかに今のエレーナ、野次馬根性100%である。

 稲生:「マリアさん、一体何をしたんだろう……!?」
 エレーナ:「酔っ払って、ケンカでもしたんじゃね?」
 稲生:「そんな……!」

 稲生はスマホを取り出した。

 稲生:「正証寺には確か、弁護士の信徒さんがいたはずだ。その人に弁護を……。いや、父さんに頼んで、そっちルートで弁護士を紹介してもらうか……」
 エレーナ:「いい人脈持ってるね」

 しかし何故か法道院では、そういうのを嫌った。
 人脈構築の出来が組織のメリットだと思うのだが、何故それを生かそうとしないのか。

 そして1階に戻ると、ロビーにはスーツ姿の男2人と与太者風の男が1人待ち構えていた。

 刑事A:「お忙しいところ、申し訳ありません」
 刑事B:「実は……」
 与太者:「あーっ、こいつだ!この女だよ!」

 与太者風の男は驚いた様子で、マリアを指さした。

 マリア:「ん……?」
 与太者:「この女、宙に浮いてたんだよ!」
 マリア:「あーっ!私のスカート覗いた痴漢!!」
 与太者:「オメーが宙に浮いてたからだろ!」
 エレーナ:「『この人、痴漢です!さてオジさん、ケーサツ行きたくなかったら10万円払ってよねw』ってか」
 稲生:「これは一体、どういうこと?」

[同日12:30.天候:晴 ワンスターホテル]

 酔っ払ったマリア、再び瞬間移動魔法でワンスターホテルにやってきた。

 マリア:「ヒック!……今度は同じく日本を活動拠点にしているエレーナに、新年の挨拶をしておくのダ」

 この時間帯、ホテルではチェックアウトした客の部屋の清掃や、これからチェックインする客の歓迎準備で忙しいはずだが……。

 マリア:「フロントにはいない……」

 上を見上げると、換気の為か、部屋中の窓が開け放たれている。
 そして、掃除機を掛ける音が聞こえて来た。

 マリア:「4階か5階にいるのかな?……パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。Fly to me!トゥ・ヴェ・ルゥ・ラ!」

 マリアは無意識のうちに、セルフ・テレキネシスともいうべき、空中浮遊魔法を使用した。
 酔っ払った勢いというのは凄い。
 それでスーッと4階まで浮かぶ。

 与太者:「わわわっ!?」

 ホテルの横に生えている木。
 てっぺんまで登れば、3階くらいの高さまである。
 そこにあの与太者がいた。

 与太者:「に、人間が浮いてるーっ!?」

 マリアはバッとスカートの裾を押さえた。

 マリア:「キャーッ!痴漢!覗いた覗いた!」
 与太者:「ヤベッ!!」

 与太者は慌てて木から飛び降りた。

 マリア:「待て、痴漢!!」
 与太者:「いや、俺は痴漢じゃねぇ!空き巣だ!」

 与太者はホテルを専門に荒らす空き巣であった。
 空き巣というか、ホテル荒らしとでも言うか。
 マリアに驚いた空き巣、ミスって交番の方に逃げてしまった。

 空き巣:「いっけね!こっちには交番があったんだっけ!」
 警察官A:「ん?ちょっとそこのあなた、ちょっといいですか?」
 空き巣:「ヤベッ!」

 空き巣は慌てて逃げ出した。

 警察官B:「おい、どうして逃げるんだ!待て!」

 捕り物が発生し、空き巣はこうして警察に逮捕されたのだった。
 何でも前科16犯の常習犯だったらしい。
 因みにこの間、マリアはホテルの中に入り、エレーナにクダを巻いたり、ロビーで吐きそうになったりしていた。
 で、ついに意識を無くしてエレーナの部屋に寝かされていたというわけだった。
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