マーリンの美味しい生活

ストレス解消は観劇と食べ歩き。

ビッグフェラー

2014年06月06日 | 舞台・映画
世田谷パブリックシアターで『THE BIG FELLAH ビッグ・フェラー』を観てきました。



【キャスト】
内野聖陽  ディヴィッド・コステロ(IRAのNY支部リーダー)
浦井健治  マイケル・ドイル(NYの消防士、IRAメンバー)
明星真由美 エリザベス・ライアン(IRAメンバー)
町田マリー カレルマ(プエルトリコ系の女性)
黒田大輔  トム・ビリー・コイル(NY市警、IRAメンバー)
小林勝也  フランク・マカードル(IRA幹部)
成河    ルエリ・オドルスコル(IRAメンバー)




IRA(アイルランド共和軍)のNY支部リーダー、デイヴィッド・コステロを中心に繰り広げられる活動家たちそれぞれの生き様を、彼らの日常風景のなかで描き出す人間ドラマ。

難しい話なのかな・・・と警戒していましたが、意外にも笑えるようなシーンも多く、でも恐ろしさもあり、濃密な人間ドラマにどっぷり浸かってきました。面白かったです。

何よりも内野さんを始め出演者の皆さん全員が素晴らしいです。

時代は1972年から2001年9月11日の朝までの約30年。その間の世界情勢の変動は民族紛争やテロリズムにも大きな影響を与え、そんな流れのなかでメンバーの内面にもさまざまな変化が起きていく…。

「ビッグ・フェラー」ってなんだろうと思っていたら、英語の「ビッグ・フェロー」の砕けた言い回しで「大きな男」、イコール「大物」という意味なのだそうです。

IRAのリーダーだったマイケル・コリンズ(内野聖陽さんが演じるデイヴィッド・コステロ)がそう呼ばれていてモデルの一人になっているとか。コリンズは外見的にも内面的にも大きくて、カリスマ的な人だったということで、尊敬の意味を込めて「ビッグ・フェロー」と呼ばれていたんですって。

冒頭、キルトの正装でスピーチをする内野さんは、男らしくユーモアもありカリスマ性のあるコステロで、まさに皆がこの人に付いていきたいと憧れるリーダーそのものでした。

軽薄でお喋りなルエリと寡黙で真面目なマイケルとの対比が面白かったです。

アメリカ社会の中にはアイルランド系の人が多くを占めていて、ケネディ家をはじめクリントン元大統領もアイルランド系だそうです。
彼らの先祖はイギリスによって祖国を追われてきた移民で、初期には警官や消防士とかの仕事にしかつけなかった。それだけに祖国アイルランドへの愛とイギリスへの反感が強い・・・こういったことを踏まえて観たので彼らの感情などが少しは理解できたように思います。

30年の間に、政治情勢は大きく変化していき、それによって登場人物たちの気持ちや人間関係も変化していきます。

この後、ネタバレあり。

IRAの活動がしだいに衰退していき組織が窮してくると内輪もめが起きたり、お互いに警戒し合うようになる。
とても有能なのに女だからという理由でエリザベスが粛清されるシーンや密告者を探しに来たフランクがマイケルやルエリにリンチを加えるところは凄く恐ろしかった。
しかし、それに怒ったコステロが、アル中からやっと立ち直りかけたフランクの顔にお酒を塗りたくり口に無理やり流しこむところ・・・あくまでも何も言わず静かに・・・でしたが、とても酷いシーンでした。

自分たちもテロを仕掛けているくせに、イスラム過激派のテロを批判して「あいつら何考えてるんだか・・」みたいな批判をするところも変ですよね。人間って自分のやってることがわかってないんだなあ・・

結局コステロが、自分が裏切り者でFBIとつながっていた事を皆んなの前で告白して、糾弾され最後は自らマイケルに殺されに行くのですが・・・余韻のある終わり方でした。あの銃声は誰が誰を撃ったのか

コステロはトムよりもマイケルに撃たれたかっただろうなぁ

9・11の朝、淡々と朝食をとり消防士として仕事に行く準備をするマイケル。彼が出かけた後に起こるあの惨劇。

皮肉な終わり方でした。

内野さんが渋くていい大人の男になったなぁ、とか成河さんも相変わらず上手いなぁとか色々感心することはあったのですが、何と言っても浦井健治くん・・・あの天然系の、「薔薇サム」でのおバカな王子も浦井くんらしくて良かったのですが、「シャーロック」での二役といい今回の寡黙なマイケルといい難しい役を次々とこなすその演技力にますます磨きがかかっていて今後がとても楽しみです。