たにしのアブク 風綴り

87歳になります。独り徘徊と追慕の日々は永く切ない。

世界で初めて円周率自乗の公式を発見した日本人

2016-12-11 11:08:24 | 本・読書

最近、こんな本を読みました。
鳴海風著「円周率を計算した男」上下(大型活字本)
読んだ動機は、
いつも行く図書館の大活字本の棚で、
以前から目について気になっていた本でした。



3.14159265359‥‥‥‥‥‥で始まる円周率の計算。
徳川鎖国時代の日本には、
西洋での円周率の研究成果は伝わっていなかった。
ところが、まったく独自な方法で、
円周率の計算を競っていた日本人が大勢居た。
和算・日本の数学――算木とそろばんと紙と筆に尺貫法。
村松茂清は寛文3年(1663年)に著した「算爼」で、
円周率の求め方と小数点以下、21桁まで計算した。



和算の大系を確立し没後、算聖と謳われる関孝和、
-寛永19年(1642年)~ 宝永5年(1708年)-
「算爼」を手にしたのは、算術の修業を始めた20歳そこそこでした。
孝和が最初の著作「規矩要明算法」を寛文4年(1664年)に出した年に、
表題作「円周率を計算した男」の建部賢弘が生まれた。



本書に収められている6本の物語は、
和算の最大潮流・関流を系統する算法者と、
関流の秘密主義、権門に嫌気をもつ算法者ら、
実在した算術家らの数学研究と師弟のしらがみ、
好敵手との怨嗟、妬み、業績の競いあいなど、
年代順に主要人物が登場します。
そして切ない恋模様が物語に色彩を添える。



*標題になっている「円周率を計算した男」
建部賢弘。寛文4年(1664年)生まれ。
甲府藩主徳川綱豊の桜田屋敷に通う。
算術家関孝和の門に3年前から入門しているが、
上司であり、師でもある孝和はなにも指導しない。
賢弘は勘定衆見習いで、不満・反感を募らせていた。
師孝和は言う「円理を極めるということは、
円周率の公式を求めること」だと。



孝和の研究書「求円周率術」を渡され、
今やることは円理(円周率)の公式だと知る。
「円周率計算の桁数」の計算に拘っていた自分の浅薄さに気付く。
演繹から帰納への発想の転換に気付いた賢弘は、
再び円周率計算に没頭する日々になる。円周率42桁を求めた。
しかし円理は見えてこなかった。
計算で疲れ果てた頭の片隅に気付いたことがあった。
収束値がほとんど変化しなくなった。
これが円理ではないか。近似値は無限級数になった。
円周率の自乗の無限級数の展開式の日本における最初の計算になった。



建部賢弘は極めた円理を「綴術算経」として纏め、
将軍吉宗に献上した。59歳であった。
献上した本は今でも内閣文庫に保存されているという。
それから28年後、宝永五年(1708年)算祖・関孝和が死んだ。

以下のことは読後、Webで得た知識です。
この公式は西洋では、
オイラーがベルヌーイにあてた1737年の書簡に初めて見られるもので、
賢弘の発見はこれより15年早い。
日本の数学世界では建部の名を冠にした「建部賢弘賞」として、
現代につながっている。



*初夢
平野忠兵衛・銀座役人。関流の若手算術家。
関孝和の最後の直弟子を自認。女房・お福。
建部賢弘同様に天文暦学の研究に打ち込んでいた。
8年間の研究成果を「歴算精義」にまとめ出版した。

享保14年(1729年)の大晦日。
銀座役人の年寄り役に退いた大晦日の晩、
算術研究を止める決心を女房に話そうと決心したが‥‥、
再び算術・暦学研究に精を出すことを決めた大晦日の夜になった。



*空出(からで)
勘定部屋勤めの多賀清七郎。明和5年(1768年)霜月。
久留米藩芝赤羽の上屋敷内のお長屋。妻百合が臨終の夕暮れ。
久留米藩お抱えの火消しの下役だったが、
算術の才を見出され勘定部屋勤めもするようようになった。

ある日、百合の墓参りに行くと、墓前に手を合わせる女がいた。
振り向いたその女は百合の妹、佳奈だと名乗った。
そのとき以来、佳奈はしげく清七郎の世話焼きに通いだした。
佳奈の献身に清七郎は疎ましく思うのだったが‥‥



*算子塚
鈴木安明(旧姓会田)は出羽の村山郡から江戸に出てきたのは、
明和6年(1769年)23歳のときだった。
遠縁の御普請方の鈴木清左衛門の養子になる。
幼い時からそろばん算術が得意でいた。
同役に神谷定令が居た。
関流の高弟・藤田貞資の門人で算士でもあった。

小枝という女性が居た。
養父の一人息子の許嫁だったが、子息が若くして死んだ後、
定令は小枝との縁談を決めていた。
ある日、湯島天神の拝殿前で小枝を見かけた。
安明は持っていた算子を小枝に与えた。



関流の宗頭に野心を燃やす定令と一匹狼の安明はライバルとして、
激しい算法論争を繰り広げる。
敵愾心を燃やしながら30年近くたったある日、
定令から愛宕神社で会いたいと安明に連絡があった。

老いた定令は一つの算子を出した。小枝が死ぬまで大事にしていたと。
二人の間の激しい算法論争は「小枝」への想いの激しさでもあったのだ。



*風狂算法
文化十三年(1816年)の師走。数奇者たち17人が歌仙を巻いていた。
その中に浮かぬ顔の山口和が居た。
彼は関流の算術家・望月藤右衛門の一番弟子である。
松尾芭蕉を崇拝する風流人でもあった。
和は、なにこれと、世話焼きで近づいてくる師の娘・綾乃が苦手だった。



和には、故郷・越後の水原に将来を言い交した「お恵」が居たのだ。
和がお恵に送った手紙の返事は一度も来なかった。
それに引き換え、綾乃の献身が、和にとって執拗なものになってきた。

遍歴算法を追い続けた和は二人の女性の愛に報いぬまま、長旅にでる。
和の前には、果てしなく続く一本の道があった。



*やぶつばきの降り敷く
陸前栗原郡佐沼大畑生まれの三吉が、
神田の長谷川寛の数学道場の門を初めてくぐったのは、
天保2年(1831年)だった。
同郷の先輩佐藤秋三郎の家僕としてであった。
足を濯ぐのを手伝てくれた「なみ」と初めての出会いだった。



長谷川道場の跡目争いや、流派の確執に翻弄される三吉を、
陰になり日向になり面倒を見ている「なみ」だった。
三吉には貧しさゆえに、女衒(ぜげん)に売られた姉があった。
女郎宿にいることを知った三吉は、会いにいったが……

遊歴算家としての心機一転の旅立つことになった三吉。
天保十年(1839年)10月1日の朝。
万感を込めて見送る「なみ」。振り返る三吉。
二人の胸に永年耐えていた激情が迸った。



6編の物語は歴史的事実を踏まえた、
わが国独自に発展した和算の水脈を物語として、
辿った歴史大河小説でした。

和算という余り知る必要のない分野ですが、
江戸時代の日本人に身分に関係なく愛好されていたことを知りました。
たにしの爺、読んでおいてよかったと思う、いい本でした。
表題作「円周率を計算した男」は第16回歴史文学賞を受賞しています。



鳴海風という作家は始めて知りました。1953年、新潟県生まれ。
秋田高校から東北大学へ進み、機械工学専攻を修了したエンジニアです。
何冊もの和算や暦算に関する作品を上梓しています。



この本と前後して「和算忠臣蔵」という作品も読みました。
忠臣蔵討ち入り義士と、吉良方の上杉家の武士が、
和算と剣術を通じて親友であったことと、
朝廷の暦と幕府の暦の指導権争いを絡ませた、
「忠臣蔵外伝」とも言う内容でした。
長くなりましたが、最後までお付き合いありがとうございます。

チェコ事件が背景の国際ミステリー「プラハからの道化たち」

2016-11-19 10:30:56 | 本・読書

最近、こんな本を読みました。
高柳芳夫著「プラハからの道化たち」(大型活字本 上・下)
東欧の自由化運動の引き金になったプラハの春。



第二次大戦後、ソ連の共産主義支配による鉄のカーテンに閉ざされた東欧諸国は、
言論・表現の自由、経済活動まで規制されていました。
経済改革と自由化を求める人々の運動が幾度か起きましたが、
ソ連軍を主力とする「ワルシャワ条約軍」によって鎮圧されていました。



国を挙げて最も、自由化運動に取り組んでいたチェコスロバキア。
共産党第一書記のドブチェクは行詰った経済立て直しと、
「人間の尊厳を認める社会主義」の建設を目指していました。しかし突如、
1968年8月20日、ソ連軍戦車を主力にワルシャワ条約軍は、
首都・プラハに侵攻・制圧しました。チェコ事件が起きました。
ドプチェックら指導者は逮捕されたり、追放されてしまいました。



この事件当時、筆者・高柳芳夫は外交官として、
西ベルリンの日本総領事館に勤務していて、情報収集に奔走していた。
本書は、このチェコ事件を背景に国家の独立と、
自由が蹂躙されていく過程で、倒れていった人間の運命を描いた、
「国際ミステリー」です。



序章はチェコスロバキア共産党中央委員会の建物の会議室から始まる。
典雅で華麗な室内のテーブルには中央委員会幹部会のメンバー、
上席にはドプチェック第一書記が着き、緊張した面持ちで席を占めている。
1968年8月20日の日のことだ。



チェコ自由化のための運動「プラハの春」は、
ソ連にとっては看過できない「反革命」の潮流だった。
幹部会は推進派、反対派に分かれて緊迫していた。
幹部会は対立のまま夜が明けた。



その頃、東ドイツの国境に近いボヘミアの国道を、
一台のフォルクスワーゲンが疾走していた。
運転席には日本人の青年と助手席には金髪の若い女性が座っていた。
ワーゲンは国境の遮断機の前で止められた。
自動小銃を抱えた国境警備兵は言った「国境は閉鎖された」



国境の町に夥しいソ連軍戦車が地響きを立ってて進行してくる。
止められていたワーゲンの日本人が叫けんだ「ソ連の戦車だ」
ワーゲンは国境への道を猛スピードで突き進んでいった。
国境線の遮断機が上がり始めたが、「その車、止めろ」ソ連将校が叫んだ。



ワーゲンは止まることなく走り出した。
銃声が起こりワーゲンに吸い込まれた。
助手席の女が悲鳴を上げて崩れ落ちた。
エンジンから黒煙が上がって青年はドアから転げだした。



東ベルリンの空港を離陸して、チェコの首都プラハに向かう機内に、
東栄物産西ベルリン支店臨時駐在員の川村良平が居た。
この物語の主人公で、作品になかでは「わたし」と一人称で語られる。
チェコと交わしているプラントの進捗状況を確認する出張だった。
隣の席に来たアメリカ人が話しかけてきた。スミスという名の名刺を差し出した。
飛行機は「百塔の都」と呼ばれる東欧の古都・プラハの飛行場に着陸した。
物語はここから一気に動き出します。



「逃亡幇助業者」(フルフトヘルファー)
プラハにはソ連軍侵攻以来、自らの命を犠牲にしてまで、
地下に潜った改革派のリーダーらの国外脱出に奔走する地下組織があった。、
「わたし」の身辺にも地下組織の影が伸びて、引き込まれていく。
「わたし」に近づいてくる男や女は敵なのか。
強大なソ連警察組織の前に救いのない悲劇的な結末が待っていた。



高柳芳夫という作家を初めて知りました。1957年外務省入省。
ドイツ大使館勤務、ベルリン総領事館副総領事等を歴任した外交官。
在任中から推理小説を発表する。そのことで1977年に外務省を退職する。
海外に題材をとった「国際スパイ」小説のジャンルを確立し数多くの作品を発表。
「プラハからの道化たち」は(1979年9月講談社から発刊。1983年7月同社文庫)
1979年に第25回江戸川乱歩賞を受賞、第82回直木賞候補になる。
1990年を最後に小説家を廃業する。



たにしの爺が、なぜ、この本を手に取ることになった理由は、
「プラハ」という題名に惹かれたからです。
モルダウが流れる、憧れの東欧の古都・プラハ。
尖塔が多くあることから「百塔の都」とも呼ばれている。
今年の正月、サントリーホールのニューイヤーコンサートでプラハ響を堪能した。
そんなプラハの歴史物語かと思い借り出しました。
「国際スパイ小説」でした。



推理・スパイ小説としては筋立てが粗く、
ご都合主義的な説明表現で済ましてしまう場面があったり、
「突っ込み」を入れたい箇所がいくつかありますが、それなりに楽しめました。
プラハ市内に関する描写は細かく、良く知る筆者ならではの書き込みはさすがです。



ただ、祖国の自由化に奔走して、チェコ国家秘密警察、ソ連KGBに逮捕され、
あるいは犠牲になった「逃亡幇助業者」「脱国者」を、
「道化」とする表現には違和感を禁じえなかった。

一夜のうちに、全土を外国軍隊に占領され、国家の独立と民族の自由が蹂躙された小国。
列強に囲まれた小国が大国の思惑に翻弄される民族の抵抗の歴史。
そのように読めば、ミステリーとしての粗さは少し容認できる気がします。



筆者が一番、言いたかったことは「世界から圧迫や支配が消失しない限り、
自由のために闘い、死んだという事実の意義」は、
今でも重いという感懐ではないでしょうか。



この小説が書かれた1979年から37年たった今でも、
クリミヤ、ウクライナ、あるいは旧ソ連邦から独立した周辺の小国に、
再びロシアによる圧力が高まってきています。
また、中国による東・南シナ海で続く、力による海洋進出・現状変更など、
ボーダーへの圧力が続いているのが現実です。



ときは、次期米大統領にトランプ氏が当選しました。
他所の国のことより、「自分の国が大事」が世界の潮流になったとき、
日本民族の決意が問われる事態が「なしとしない」時期が来るかもしれない。

(本と花以外の写真は、旅行案内などネットから借用しました)

一茶俳句で、人生行間を埋めた評伝小説「ひねくれ一茶」

2016-11-11 11:30:55 | 本・読書

最近、こんな本を読みました。田辺聖子著「ひねくれ一茶」

一茶といえば誰もが知っている俳句――
*我と来て遊べや親のない雀
*やれ打つな蝿が手をすり足をする
*やせ蛙まけるな一茶これにあり
*雀の子そこのけそこのけお馬が通る
――など、弱き者へのいたわりに満ちたものです。
句から見えてくるものは「好々爺」の姿です。



田辺聖子著「ひねくれ一茶」で描かれる一茶は、
辛酸な幼年期と、寄食にありつく行脚俳諧師の江戸生活、
そして故郷の家屋・田畑の相続争いに執着する凄まじさ。
作者は一茶が詠み続けた膨大な俳句を追いながら、
小林一茶の苦節人生の時空を埋めた長編小説でした。



読んだ動機は、
いつも行く図書館の大活字本の棚で、
以前から目について気になっていた本でした。
田辺聖子著「ひねくれ一茶」(4分冊)の元本は、
平成4年(1992)に講談社から刊行され、
1993年に第27回吉川英治文学賞を受賞しています。
その後、文庫版を底本に大活字本になったものです。



6歳で江戸に出て、荒奉公に明け暮れ辛酸の末、
好きな俳諧にうち込み、放浪した修業時代。
やがて江戸で評判を取り、風雅を詠む俳諧人として人気を得ます。
俳諧好き大店の旦那衆や神社仏閣の食客となりながら、
同好の士やライバルの集まる席で歌仙を捲くことが生業になります。
行脚俳諧人として房総、京浜などを回って歌仙で路銀を得ます。
江戸での棲家は3畳にも満たないネズミの走る掘っ立て小屋で、
着たきりスズメの帷子にはノミ、シラミ、肌は疥癬・田虫の巣。
食べ物は先々の食客で舌が肥えて結構、美食家になっています。



一茶はとにかく多作で「吐いて一句」「吸って一句」と、
俳諧行脚、歌仙の宴席などで俳句を詠み散らします。
作者はこれらの句をつないで、一茶の心情と生活とを描き出します。

故郷の柏原に帰り、50歳過ぎて3回も結婚して、
独自の句境を確立した晩年と結婚生活の章が、
一茶の絶倫振りが、実におかしく面白く、
3男一女の子どもを幼くして亡くして切ない。



一茶の俳諧人生に貫くもう一本の縦糸は、
「土地田畑家屋家財」の相続争いです。
雪深い北信濃の柏原村の貧農の長男で生まれた小林一茶。
祖母にかわいがられて育ったが、母亡き後、
継母に二男ができてから境遇は一変、江戸に丁稚奉公に出されます。
江戸に出ても片時も忘れない父親が言い残した、
「土地田畑家屋家財」はお前のものという遺言です。



俳諧人として名声を得てからも、貧乏暮らしの「劣等感」に苦しみ、
また、その裏返しとして有産俳諧人への「反抗心」も湧きます。
そんな時、父親の遺言だけが希望として、「資産に執着」します。
老境に至っても執拗に、江戸から柏原まで、なけなしの金を節約しながら、
何回も江戸と故郷を幾日も掛けて往復します。
小説の三分の一はこの異母弟との財産争いの確執が描かれます。



江戸への憧れと、屈折と、ひねくれと、郷愁と、童心を持ち続けた一茶。
 「名月や江戸の奴らが何知って」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
田辺聖子さん、渾身の逸作ですね。
田辺聖子さんは、多くの小説、随筆を書かれ、数々の文学賞を受賞し、
2008年には文化勲章授与の大作家です。

終末ケアの元彼氏の死に向き合う「モルヒネ」

2016-10-22 12:25:13 | 本・読書

最近、こんな本を読みました。
動機は、まったく埋め合わせで手に取りました。
安達千夏さんという作家もはじめて知りました。

「モルヒネ」(上・下)図書館から借り出した大活字本です。
元本は2003年に祥伝社から出版され、
のちに文庫版で流通しているようです。



「モルヒネ」は化学薬品で「医療用麻薬」に分類されている劇薬。
がんの痛みを消し、延命効果があり、
自然界が人類に与えた最高の鎮痛薬だという。
麻薬ヘロイン生成の原料にもなり、厳しく管理されている。

この劇薬をそのまま文学作品の題名にした、
安達千夏著「モルヒネ」は恋愛小説でした。

小説の主人公・藤原真紀は忌まわしい過去を引きずっている。
いつでも死を選ぶことができる終末医療の医師になった。



幼くして母は入水自殺し、ある日暴力父に殴られた姉を抱きながら一夜過ごす。
気がついたら姉は死んでいた。そのとき真紀は小学生だった。
医師の養父母に引きとられて育つ。
死について考えながら医療ホスピスの道を志した。
30代になった真紀は在宅医療に携わる医師として誠心誠意働く。

勤める医院の院長と婚約している病棟に「厄介な患者」が入院した。
7年前に勝手に消えてしまった元恋人の倉橋克秀だと知った。

彼は余命2~3カ月の末期脳腫瘍患者として現れたのだ。
ピアニストを目指し7年前に真紀を捨てオランダ渡った。
一切の延命治療を拒否し続け死と向き合う彼と真紀は‥‥

モルヒネを欲しがる克秀、100ccのモルヒネは死につながるが、
適量のモルヒネは痛みを和らげたり、気持ちを静めたりする。



ホスピス、延命、安楽死、尊厳死‥‥重いテーマを抱え、
婚約者の院長、死に向かう元彼、終末医療医師の真紀。
抜き差しならない恋模様を通して死についてストーリーは進む。

初めて知った作者の安達千夏でしたが、
調べてみると相当なベストセラー作家でした。
すばる文学賞作家で「モルヒネ」以外にも多くの作品があることを知りました。



この本を手に取った動機はまったく単純なんです。
「鬼平犯科帳」の3分冊を借りて、あと2冊を借りられる。
池波さんの隣りが「ア行」で派手な装丁の安達さんの本が目に入った。
9月の長雨の日に少しづつ読んでいました。
久しぶりにこの手の小説を読みました。
「鬼平」と違って、読みづらい書き方の小説でした。

ホモ・サピエンスは地球を支配し、滅亡に導くのか(気になる本)

2016-10-19 12:28:35 | 本・読書
16日の日曜日の毎日新聞「今週の本棚」欄に興味深い本の紹介がありました。
本村凌二氏の評によるユヴァル・ノア・ハラリ著「サピエンス全史」上・下です。
(河出書房新社、上下各2052円)

冒頭の17行ほどの書き出し部分が、たにしの爺には、
目からウロコ的な「人類史のジョーク」として記憶に残りました。

切抜きを添付しておきますので、読んで見て下さい。
歴史の真実であって、そして、
実に面白いジョークになっています。



該当部分は、紹介された本に書かれている記述なのか、
それとも、評者が本書の紹介の導入部として書かれたのか、
その辺は定かではないです。

本書を手にとって見れば分かることですので、
後日機会があったら確かめてみたいと思っています。

本書は原始人類のネアンデルタールの後、
姿を現した私たち人類の祖先になるホモ・サピエンスが、
いかにして、地球の支配者になったのか、
それは「人類が噂話でまとまる集団」だったからで、
「虚構と神話」を信じることが始まりだったと言う。
そのサピエンスはいまや、
地球を荒廃させる最も危険な生物に成り下がっていると。

上下二冊を購入するとなると4000円を超す出費になる。
行きつけの図書館に購入リクエストをしてみよう。
新聞各紙とも日曜朝刊には「本の紹介・書評」ページがあります。
よくもまあ、こんなに固い本ばかり取り上げるものだと、
感心していますが。
我慢して読んでみますと、実に為になって面白いです。


「あかぼし俳句帖」(小学館・ビックコミック)が面白い

2016-09-26 11:53:03 | 本・読書

俳句でつながる人生恋歌!!
カバーのコピーから――


この夏以来、たにしの爺、コミック漫画にはまっています。
有間しのぶの原作を奥山直が作画する「あかぼし俳句帖」。
定年を5年後に控えた窓際サラリーマンの、新たなトキメキ発見ストーリーです。



主人公・明星啓吾(あかぼし・けいご)氏は、
大手自動車メーカーに勤め、宣伝部長として、
切れ味鋭い「キャッチコピー」で売り上げ増に大貢献したと、
自負の塊(かたまり)で「でかい顔」を売り物にしているが、
今では、出世コースに乗り遅れ、閑職の「広報部」のヒラ。

年下の上司から小言を言われ、周囲からも邪魔扱い。
「窓際族」の集まる「喫煙所」でエンコウ(煙交)して、
退社まで時間を潰す定時帰りの日々です。
肩書きが無くなり、部下も居なくなった元エリートの悲哀です。



定時帰りの途中、趣味を探すことで書店に立ち寄ります。
あれこれ、ムックや雑誌を手にとって思案するうちに、
俳句の雑誌に見入ります。これなら俺にもできる。
かつては名コピーで鳴らした(自称)感覚が蘇える。
雑誌には女流俳人・水村翠(みずむら・すい)が特集されていた。

独り暮らしの主人公(家族も居ない悲惨な境遇なんです)。
帰りによく立ち寄る常連の居酒屋が「お里」です。
愚痴を聞いてくれる女将サンとは永年の付き合い。
お酒を戴いたり、夕飯を食べたり、慰められたり、
孤独な明星サン。いい感じの「人生の止まり木」です。



この「お里」にはもう一人の、ご常連サンが居ました。
雑誌に特集されていた女流俳人・水村翠さんです。
インテリアショップの雇われ店長を勤める翠さんも、
「お里」で仕事帰りを憩い、女将とは大の仲良し。
翠さんを見初めて、お近づきになった明星啓吾サン。
彼女に近づきたい一心で俳句の指導を乞うのだが……。



下心丸出しで「翠さん」に自作を披露してみせる。
とんだ迷惑な「翠さん」。でも、そこは女流俳人です。
「だめ句」の所以を指摘したりします。
有頂天になった明星さん。句作りに没頭します。
そのうちに疑問の壁にぶち当たります。
なぜ自分の句は、五七五なのに俳句になっていないのか。

やがて「翠さん」の助言と添削によって、
出世コースから外れた「おっさん」の人生が、
「恋模様」の十七音に彩られはじめます。



「翠さん」は明星さんの俳句世界を広げるために、
自分の所属する俳句結社「帆風」に入会させます。
ベテランぞろいの俳句同人に囲まれて、
鎌倉に吟行に行くことになった明星さん、
合評会で苦吟の披露をしなければなりません‥‥



壁に突き当たりながら明星さん、
俳句の世界の深さにのめりこんでいきます。
「翠さん」への想いは??ライバルも居ます。

季語のこと、古語など、俳句世界の入門としても、
初心者の何処がダメなのか、わかりやす書かれていて、面白くて勉強になる物語です。



この作品を知ったきっかけはテレビの「NHK俳句」
夏井いつきさん選者で、ゲストは漫画家の有間しのぶさん。
そのとき「あかぼし俳句帖」が話題になっていました。



ストーリーの途中に挿入される俳句は、すべて、著名作家の引用区を除いて、
登場人物の詠む俳句はすべて有馬さん自作していると言う。

現在、4巻まで出ています。
何巻まで続くか知りませんが読み続けるつもりです。
小学館の公式サイトでは、1巻の冒頭部分を試し読み用に公開中です。

宮下奈都著『羊と鋼の森』 (文藝春秋/1500円)を読みました。ピアノの音から森を感じる

2016-09-12 12:39:25 | 本・読書

「全国の書店員が<いちばん!売りたい本>」として選んだ、
2016年、本屋大賞受賞作「羊と鋼の森」を読み終えました。
以下は小説の始まりの幾つかの一節の引用です。



森の匂いがした。秋の、夜に近い時間の森。風が木々を揺らし、
ざわざわと葉の鳴る音がする。夜になりかける時間の、森の匂い。



目の前に大きな黒いピアノがあった。その人が鍵盤をいくつか叩くと、
蓋の開いた森から、また木々の揺れる匂いがした。
夜が少し進んだ。僕は十七歳だった。



僕はピアノの音が少しずつ変わっていくのを、そばで見ていた。
秋の、夜、だった時間帯が、だんだん狭く限られていく。
静で、あたたかな、深さを含んだ音。そういう音がピアノから零れてくる。
「ここのピアノは古くてね」「とてもやさしい音がするんです」
その人は話し始めた。 



 
調律師として音を追い求めていく少年。
先輩らの音を聴き、ピアノ少女姉妹との出会いを通じて、
成長していく過程が、静謐で美しい文章で綴られる。
久しぶりに手にした文芸書に心地よい時間を過ごしました。

「関ヶ原・敗者たちの勝算と誤算」(著者:武光誠、大型活字文庫)を読む

2016-08-27 13:49:25 | 本・読書

市川市中央図書館の大型活字本のコーナーで見つけてきました。
大変興味深く、一気に読み終えました。実に面白いです。

いま、NHKの大河ドラマ「真田丸」が関ヶ原の戦い前夜に差し掛かっています。
主君・秀吉の遺言を無視し、勝手に振舞う徳川家康。
許せない石田三成は、家康成敗を決意する。
最も信頼できる武将・大谷吉継に協力を要請するが、‥‥



この大型活字本「関ヶ原・敗者たちの勝算と誤算」は、
石田三成と西軍の中心になった大谷吉継はじめ、
安国寺恵瓊、毛利秀元、上杉景勝、立花宗茂、真田昌幸、島左近、
宇喜多秀家、小西行長、直江兼続の12人の武将たち。

関ヶ原の戦いで徳川家康と敵対する側に立った所以と、
理想、野望、義理、保身、打算が渦巻く戦国ドラマを通して、
敗者たちの思いと運命の変転と生き様が描かれています。
大型活字でストレス無く、一気に面白く読み終えました。



石田三成は「反徳川家康」同盟の形成に自分を追い詰めていく、
石田三成はなぜ、徳川の天下取りを忌避したかったのか――

冒頭に置かれた章――石田三成から終章の直江兼続まで、
反徳川陣営に参加に至る葛藤、思惑、戦さの最中の優劣、
勝算、裏切りなど各武将の心理状態、心情に分け入って、
史実をもとに、筆者(武光誠)はリアル想像で筆勢を進めます。
そのときの状況と独白で構成された臨場感一杯の戦国フィクションでした。



三成はつぶやく、
「大きな流れに身をまかせるのは、楽だ、しかし、それに、何の益があるだろうか」
――この日本には夢を追って生きる侍が多くいる。かれらの夢を叶えるためならば命も惜しまない。

「しかし」と三成はつぶやく。
――かけがえのない「侍の夢」を奪うのが、家康どのだ。
すべての侍は家康どのの天下の下、
忠実な番犬、小役人、あるいは農夫たちへの奉仕者に成れというのか。

石田三成は、このとき家康と対決する道を選択した。
「われら戦国の男子は、己の器量を用いて思うままに出世することを夢見てきた」
徳川の秩序は「生まれたままの身分にあった生涯をおくれ」と言う。

三成は声をだして言った「徳川の支配のもとで、ただ生きていくだけで良いのか」
そして三成は自分に語りかけた。
「『己の技で一国一城の主たらんとする武士の夢』よ。この夢を持つものが集えば、
『豊臣の世を保つ』理想が具現化する」

決意を込めた三成の書状が樽井宿(大垣)にいる大谷吉継に発出された。
大谷吉継は三成と並ぶ「豊臣恩顧の武将」だった。
第二章は、いま歴女たちの間で真田幸村と人気を二分する「大谷吉継」の、
「起つか退くか」葛藤がドラマチックに描かれます

作者の武光誠さんは、1950年、山口県防府市生まれ。
1979年、東京大学大学院国史学博士課程を修了。現在、明治学院大学教授。日本古代史を専攻し、
歴史哲学的視野を用いた日本の思想・文化の研究に取り組む学者さんです。(同書から抜粋)
日本の歴史物語など多数の作品があります。

NHK真田丸は「武士の夢を追う三成」が、
「階層固定化をもくろむ腹黒・家康」に追い込まれ、
抜き差しならぬ状況から「勝算無き」関ヶ原の戦いに向かいます。

また、NHK[BSプレミアム]2016年8月25日(木) 午前8:00~9:00(60分)
英雄たちの選択「大谷吉継 関ヶ原もうひとつのシナリオ 誤算に消えた西軍必勝」
の再放送がありました。奇しくも同番組を見ました。
秀吉死後の豊臣政権を支え、家康からも信頼された大谷吉継。
なぜ圧倒的に不利な西軍に加わったのか、
歴史家たちの検証を興味深く拝見しました。

引き続いてこの本を読んでいます。
文字が小さいのでなかなか進みません。



三根山というお相撲さんがいたことを覚えていますか。

2016-06-01 12:26:34 | 本・読書

今日から6月、衣替えですね。あまり関係ないけれど長文を綴りました。
池波正太郎さんの短編物語を編集した「 武士(おとこ)の紋章」という本があります。
最近、たまたまデカ字の3分冊を図書館で見つけて読みました。
池波さんの作品はほとんど「デカ字(大活字文庫)」で読めます。
このシリーズには、戦国時代の武士が多数、登場します。
第1話「智謀の人」-黒田如水
第2話「武士の紋章」-滝川三九郎
第3話「三代の風雪」-真田信之
第4話「首討とう大坂陣」-真田幸村
第5話「決闘高田馬場」
第6話「新選組生残りの剣客」-永倉新八
第7話「三根山」
第8話「牧野富太郎」



戦国時代など武士の時代の人物のほか、2人の異色の人物が登場します。
元大関の「三根山」、植物学者「牧野富太郎」の2編が興味深く読めました。
牧野さんは、好きな植物学の研究だけに一途に生涯を過ごした人でした。
一方、三根山は大関まで昇り優勝もしたが、
ケガと持病で幕尻近くまで番付を下げても人気が衰えなかった「転落大関」でした。
妻を愛し、弟子たちには厳しく、やさしく「気配り」の人でした。
「三根山」は34歳の昭和31年・秋場所の15日間を追いながら、
苦労人・三根山こと島村島一の生い立ち、修業時代、大関までの輝いた時代、
結婚・妻の淑子さん、病気とケガで幕尻まで落ちて、
復活する肉体と精神に向き合ってきた相撲人生を描いた記録です。
昭和31年は、たにしの爺が高2の年です。



●9月16日・初日、相手は自身と同様にケガを克服した古参の清水川に勝って、
同部屋の後輩、芳野嶺に水をつける。その芳野嶺も北の洋に勝つ。
自宅に帰って若の花が鳴門海を転がすのをテレビで見て「強いな、実に強い」とつぶやく。
このように初日から千秋楽までの15日間に、さまざまな力士名が登場して、
「三根山」にまつわる土俵人生が語られていきます。
丸っこい顔で、闘志むき出しの顔貌とは言えない三根山(高島部屋)は好きな力士でした。
当時、羽黒山、名寄岩とかがいた立浪部屋がひいきでした。
というのは、この物語には出てきませんが、「大昇」という郷土力士が立浪部屋に居て、
お相撲に関心を持つきっかけになっていました。
自分で星取表まで作ってラジオの前で熱狂した懐かしい力士名が出てきます。
後期高齢者の方々には思い出す力士が出てきます。



●2日目の相手は大蛇潟、寄り切りで勝利。
●3日目は潮錦、寄り切りの勝利。
●4日目、島錦に下手投げで逆転勝ち。
●5日目、若ノ海を寄り切り。
●6日目は吉井山にも勝。
●7日目、信夫山の寄りを残して勝。
●8日目、福ノ海を破り、若乃花と並んで勝ちっ放なし。
○9日目、時津山に初黒星。
○10日目、栃光の下手投げに屈して連敗。
●11日目、安念山に速攻の寄り倒しで勝。
○12日目、若羽黒に敗れる。
●13日目、北ノ洋に物言い相撲で勝利。
この日から若ノ花が発熱で休場。優勝は1敗の鏡里と2敗の吉葉山にしぼられる。
○14日め、大天龍に送り出しで敗れて4敗目。
○千秋楽の相手は大起、出し投げに敗れる。大起といえば巨漢の力士だということが記憶にあります。
10勝5敗で2度目の敢闘賞に輝く。



これまで優勝1回、殊勲賞4回、敢闘賞1回の輝かしい戦歴に新たなページとなった。
この場所は20年間の力士生活の経験を傷だらけの肉体と精神の力で挑んだ結果が出たのだと、三根山は思った。
優勝は吉葉山を破り鏡里。この取り組みはラジオで聞いた記憶がよみがえりました。



淑子夫人との7年間に渡る婚約時代、大関になるまでのストイックな精進。
大関から落ちてもなお人気を保ち続けた三根山。
力強く、愛情深く見守る弟子たちへの気配り。
愛情をもって弟子を育てる厳しさと愛情がうかがえます。
このような人物が今の竹縄親方の宮城野部屋にいたなら、
あの「見苦しい」横綱も違った振る舞いになっていたかもしれません。



池波さんは「勝負を争う力士たちの相撲の取り方を見ただけで、敏感に、
その力士の人柄まで見透してしまうのだ。それだけに、
力士の人柄と日常の生活というものが、その体と顔と、相撲ぶりに、
ハッキリと現れるので、恐ろしい職業なのだ」と三根山の心情として書いています。


 
三根山の大関時代は一場所の収入が30万円、平幕で15万円。
5場所になれば年収が50万円になる。これが1年の生活費になると、
年間5場所制になることでの生活設計を述べています。
いまの大相撲界とは隔世の感です。



最近、モンゴルに代表する外国人力士の登場が、何かと波風の立つ角界となっています。
「栃若時代」で相撲人気が高まっていたこの頃に活躍した、
羽黒山、吉葉山、栃錦、若乃花、朝潮、突進の松登、長身の大内山、内掛けの琴ヶ濱、
名寄岩、三根山、若羽黒らの時代。
この人たちが今、すべての横綱記録を外国生まれの力士に塗り替えられる土俵を見たら、
どんな思いになることでしょうか。
 最後までお付き合いありがとうございます。

デカ字でようやく征服、高村薫「マークスの山」

2016-05-10 22:34:50 | 本・読書

この小説、かつて文庫版を手に取って見ましたが、
小さい文字がぎっしり詰まっていて、敬遠して来ました。
連休中は図書館が静かなので行くことにしています。
大活字の棚にこの本が4分冊で並んでいたので借り出しました。



ホシを追うデカの葛藤と警察組織の軋轢を、
濃密な文体で丹念に書き込まれたサスペンス。
1分冊を読むのに2日がかりでした。
比較的、速読派の爺ですが、
大活字でこれほどに難儀な小説でした。



映画にもテレビドラマにもなった評判のサスペンス小説。
内容・ストーリーについては触れませんが「警察小説」です。

警察小説と言えばいま、警察小説の第一人者、
横山秀夫の映画「64・ロクヨン」が公開されています。
近く見てこようと思っています。

「ぼくはうちゅうじん」「ちいさなちいさな―めにみえないびせいぶつのせかい」

2015-07-25 14:52:41 | 本・読書
バテバテのたにしの爺より。
暑中お見舞い申し上げます。
暑さと徘徊疲労でゼイゼイしています。

涼しくなってから歩き出すと、カナカナと蜩の声が背を押します。
アブラゼミもミンミンゼミを未だ聴いていないのに、
これからなのだろうか。どこかへ消えてしまったのだろうか。



23日が24節気の大暑で、24日が土用の丑の日でした。
ご近所からウナギを焼く匂いが漂っていました。
7月も最終週には入りました。8月8日は「立秋」です。
暦の上では秋になります。

小中学生はじめ学生さんたちは夏休みの佳境に入りますな。
夏休みの課題といえば「自由研究」と「読書感想文」が定番ですね。
今年も小学5、6年の孫たちに「お節介ながら」本を送りました。











昨年も孫たちに下記の本を送りました。
「ちきゅうがウンチだらけにならないわけ」
ところが意外なことに、「感想文」は送られてきませんでしたが、
この記事がアップされら、爺のブログへのアクセスがどっと増えて、
「読書感想文」「ちきゅう」「ウンチ」のキーワードで、
連日数百ものアクセスがこの記事に集中しました。
秋になっても続きました。








いまや「読書感想文」はWebで検索、参考にする時節なんでしょうか。
「読書感想文」はその本を読んで自分の感じたことを書くことで、
他の人や解説を読んでは自分では書けなくなってしまう。

いまや、スマホを持つ小中学生がWebを参考に「感想文」を書く、
これでは自分だけのオリジナルな感動が失われてしまう。
手にした本だけに向き合うことが出来ない時代になっている。

今年も「第61回 青少年読書感想文全国コンクール」が、
全国学校図書館協議会と毎日新聞社の主催で、
各都道府県学校図書館協議会の協力で展開されています。
どんなときでも「本は友だち」になります。
いい本でも、よくない本でも、読めば、なにか身になります。

今年の課題図書一覧はこちらで

高木徹著「国際メディア情報戦」を読んで

2014-08-31 21:44:35 | 本・読書

今日で猛暑と豪雨の8月も終わりです。
今年は猛暑日の更新が話題になる中、台風が連続来襲したり、
西日本を中心に「これまで経験したことのない」ような豪雨にも見舞われ、
広島市などでは大勢の方が亡くなるなど甚大な被害をもたらしました。

この夏、読んだ本に高木徹著『国際メディア情報戦 (講談社現代新書)』があります。
著者は長らくNHKの国際報道番組ディクターとして、
「NHKスペシャル」などを手がけた国際ジャーナリストです。

現在、ウクライナの「親ロシア派」への、ロシア正規軍の介入が明らかになり、
欧州連合(EU)とアメリカは、ロシアのプーチン首相を強く非難し、
新たな追加制裁を検討しています。
それに対しプーチン首相はそのような事実はないと突っぱねています。
31日付の毎日新聞朝刊には、
「NATO特殊部隊編成へ」――ロシアの新戦術に対抗、という記事が載っていました。
これは、ロシアがウクライナ・クリミア半島を編入した際、特殊部隊の投入と同時に、
宣伝戦を展開して一方的に独立させた新たな戦術に対抗するためで、
NATOは特殊部隊の編成などを盛り込んだ対抗策の制定を、
検討することで合意したというものです。

現代の国際紛争は長距離ロケット砲のピンポイント爆撃、
無人機による空爆など重火器攻撃とともに、
サイバー攻撃など情報戦が行われています。
「国際情報戦争」――。国際世論を、いかに自国に有利(正義であるか)を演出するものです。


「国際メディア情報戦」は高木氏が世界の要人らを取材した経験から、
世界で日々繰り広げられている情報戦の現実と、
映像力の重要性を取材現場の目で綴ったものです。
また国際情報戦は「プロパガンダの世界」で学術的証明を競うものではなく、
世界に信じさせるプロのテクニックが勝利に導くものだという。
氏は3つのキーワードから論を進めます。
その手法はアメリカのPR会社のジム・ハーフが編み出した、
「サウンドバイト」「バズワード」「サダマイズ」です。
敵対者の弱みを極大化し、あるいは情報の受け手を瞬時に納得させる言葉、
他とへばボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で、
セルビアのミロシェビッチ大統領を世界の悪党に仕上げた「民族浄化」はその傑作だという。

本書の構成は以下のようです。
序 章:「イメージ」が現実を凌駕する
第1章:情報戦のテクニック―ジム・ハーフとボスニア戦争
第2章:地上で最も熾烈な情報戦―アメリカ大統領選挙
第3章:21世紀最大のメディアスター―ビンラデリィン
第4章:アメリカの逆襲―対テロ戦争
第5章:さまようビンラディンの亡霊―次世代アルカイダ
第6章:日本が持っている「資産」
終章:倫理をめぐる戦場で生き残るために

とにかく面白いです。国際ニュースの見方が変わってきます。
高木徹氏には「国際メディア情報戦」の前に書かれた、
『ドキュメント戦争広告代理店――情報操作とボスニア紛争』
(講談社, 2002年/講談社文庫, 2005年)があります
文庫版は手元に買ってあります。引き続き読もうと思っています。

この春から「積極的平和主義」を掲げて、
世界中を駆け回り「日本の立場」を説明して歩いている安倍晋三首相。
日本海と東シナ海で向き合う最も近い国の「プロパガンダ」に、
対抗できる成果は上がっているのでしょうか。

ちきゅうがウンチだらけにならないわけ

2014-07-20 20:28:11 | 本・読書

夏の楽しみは「緑陰読書」だった時代が懐かしい。

明日は「海の記念日」で祝日休日です。
この3連休が終わると、
事実上は18日の金曜日午前の終業式から、
都市部の大方の学校は夏休みになります。

夏休みといえば「青少年読書感想文全国コンクール」ですね。
以前このブログでも書いた記憶があります。
今年は「60回記念」として、シニア部門(60歳以上)が設けられています。
生徒・学生時代に応募した経験者も再度、人生の後半になって、
読書の感性を試してみるのも楽しみでしょう。
また、熟年になって初めて読書感想文に挑戦するのも興味のあることでしょう。
応募要綱や課題図書はこちらのサイトにあります。
《青少年読書感想文全国コンクール》



大型書店に行きますと「課題図書」が山積みになっています。
出版社にとって課題図書に選定されることは、
社の収益に大きく響くことがあります。
課題図書の中から目に付いた1冊がありました。
小学校中学年の部の「ちきゅうがウンチだらけにならないわけ」
福音館書店 松岡たつひで作・40頁、定価1,512円(税込)



主人公のイヌのワンちゃんは、
「ぼくは ウンチを ひとに ひろってもらうけど
カラスは ウンチを ひとに ひろってもらわない」
「ちきゅうは ウンチだらけに なっちゃうよ」
と心配することから、ウンチの行方について見て歩きます。
ゾウやブタなどの動物、トリ、昆虫、ムシ、
海のなかのさかなや生き物のウンチなど。



「ナマケモノは、
きのうえで くらしているけど
ウンチだけは ちじょうに おりて する。」
なんて面白いことも知ります。
これら大量のウンチは、命の循環を支えていることを知るのです。

そして最後に、ワンちゃんは、強烈な疑問の一言を発します。
「ひとの ウンチは みずに ながされてしまう。
だれかの やくに たっているのだろうか。」と、



 たにしの爺は、ひとのウンチも役にたっていた時代を知っています。
農作物の有機肥料として利用されていました。
日本の農業は化学肥料が一般的になる数十年前までは、
ウシ、ウマ、ヤギ、ブタなど家畜の糞尿堆肥と、
人糞は下肥えとして作物に施肥され、人間の命を支えていました。

 乾燥した田畑には、落とし紙に使った新聞紙や家の光が風に乗って転がっていました。
 雨が続くと畑一面から人糞が匂い立っていました。

 本の主人公ワンちゃんと同じように、たにしの爺も一言。
ひとのウンチは現在、何かに役立っているのだろうか。
最大排泄動物人間の排泄物は何処に集まっているのだろうか。
突然、天から降ってきたりしないだろうか。

桜木紫乃著「起終点駅 ターミナル」「氷平線」を読む

2013-07-20 09:38:50 | 本・読書
桜木紫乃さん、晴れて直木賞を受賞
 当ブログで昨年(12年7月18日)に投稿した北海道の女流作家・桜木紫乃さんがこのたび、念願の直木賞を受賞しました。
 以下、毎日新聞のニュース(2013年07月17日 18時54分)を追加して再投稿します。
   *   *   *
 第149回芥川・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が17日、東京・築地の新喜楽で開かれ、芥川賞に藤野可織さん(33)の「爪と目」(新潮4月号)、直木賞に桜木紫乃さん(48)の「ホテルローヤル」(集英社)が選ばれた。
(中略)
 桜木さんは北海道に生まれ育つ。02年「雪虫」でオール読物新人賞を受賞した。同作を収録した「氷平線(ひょうへいせん)」で07年にデビュー。一貫して北海道を舞台に小説を執筆。候補2度目で受賞に至った。
 受賞作は、北国のラブホテルを舞台にした7編からなる連作短編集。恋人にヌード撮影を頼まれた女性店員、働かない10歳下の夫がいる清掃係など、疲弊した地方の町でつましい毎日を送る人間の切実さを丁寧に描いた。
 
 桜木さんは会見で「デビューして本が出るまで5年、ちょっとしんどかった。私にしか書けない一行があると信じて書いた特別な作品。書くことをやめなくてよかった。自分に起こってきたことには無駄がなかったと思えた」と話した。【内藤麻里子、棚部秀行】
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 今春から注目していた桜木紫乃さんの「起終点駅 ターミナル」と「氷平線」を読んだ。
桜木さんは「ラブレス」で第146回直木賞候補となり、最終選考の2人にまで残った実力派女流作家。
4月に発刊された最新刊「起終点駅 ターミナル」(小学館・1500円)は書店の店頭では平積みで置かれている。
北海道を舞台にした陰影のある作品世界に惹かれ、処女作品集の「氷平線」(単行本2007年11月、文庫版2012年4月・文藝春秋刊)も読んでみた。

「起終点駅 ターミナル」は,
北海道の中でも地方の、主として港、海、牧場を舞台に、どうにもならない運命に腹をくくって、
暗い川床を流れていくような生き様を清冽に綴った6編の短編集からなっている。
全編の底流は「男の弱さ」を描き、「女の強さ」が浮き彫りになっているように思える。

巻頭の「かたちのないもの」は、
銀座の有名店の主人公・真理子が、心身ともに鍛えてくれた元恋人の納骨式に出るために函館を訪れる話。
真理子は、恋人との別れと死を辿ることでさらに上を目指す。

2編目「海鳥の行方」は、
駆け出し女性記者の里和がデスクのいじめにもめげず、特ダネ狙いで動き回る。
ある日、港で不発弾が発見されたということで取材を命じられる。
埠頭で釣りをする中年男と知り合いになる。その男が言う。
「オンタ(雄)駄目だな。あきらめるのが早くて闘い甲斐がねねよ」
「オンタは最初は威勢がいいんだ。とにかく暴れるしアタリも強い。だけど水面に近づくとがくんと闘志がなえるんだな。
あっさりあきらめる瞬間が分かる。タモに入れる頃にはもうもう死んだみたいになって動かねぃよ」
逆にメンタ(雌)は引っ張れば引っ張るほど暴れるのだという。
その反抗ぶりは陸に上がっても変わらず、最後の最後まで抵抗すると石崎が言った。
その石崎が海に落ちて死んだという。記者は男の過去を辿って捜しだしたものは‥‥

この新人女性記者は編集局のいびりにもめげず、「ぶっ壊され」そうになりながらも、
納得できるまで記事に挑戦していく。
女性記者には、大学時代に付き合って親も公認の札幌の裁判所勤務の恋人がいたが、
「ぶっ壊され」て、ノイローゼになって自宅に戻っている。
最近の社会現象ともいえる、オンタの弱さ、メンタのしぶとさが対比される。

各編を通じて、過酷な運命への開き直りの女性と、
いつまでも挫折を引きずり抜け出せない男たち、この構図が底流となって描かれる。

表題作の「起終点駅」は、
釧路市で、主として国選弁護人の鷲田寛治は、覚醒剤使用の罪で起訴された椎名敦子の国選弁護を担当する。
判決後、敦子が訪ねてきたことで、凍結していた過去と向き合うことになる。

その他、努力の結果、念願かなって一流銀行に勤めることになった主人公、結局は母の牛飼いを手伝いに戻ってくる「スクラップ・ロード」。
再び札幌に転勤した女性新聞記者里和の登場する「たたかいにやぶれて咲けよ」は、ある新人作家をめぐるややこしい話。
6編目の「湖風の家」は、
弟が関わったとされる殺人事件から逃れ、故郷をすてた主人公・千鶴子が、
30年ぶりに帰郷した際、かつて特飲街にいた幼馴染と再会し怖かった故郷が、
貧しいながらも女同士親身な友情につつまれる。

筆者はあるメディアのインタビューに「頑張るでもなく、耐えるでもなく、静かに“腹をくくった”人たちを描いてきたように思います。個と個が一緒にいると新たな始まりをもたらす。」と話している。

なお、「氷平線」の所収作品は以下の5編「雪虫」「霧繭」「夏の稜線」「海に帰る」「水の棺」「氷平線」
 
日本文学振興会は17日、「第147回芥川賞・直木賞(平成24年度上半期)」の芥川龍之介賞に鹿島田真希氏の『冥土めぐり』、
直木三十五賞に辻村深月氏の『鍵のない夢を見る』を選出したと発表した。
桜木紫乃さんの「起終点駅 ターミナル」今回は直木賞候補作にノミネート(5日に発表)されていなかったから当然、
選考されるはずもなかったが、北海道の片隅の町で、孤独の中で、過去を封印して生きる人生は静かだ。
昨今の饒舌で騒々しい作品とは違うので、直木賞向きではないのかな。

「舟を編む」三浦しをん著・本屋大賞

2012-05-19 15:47:10 | 本・読書

三浦しをん著「舟を編む」(光文社刊)1500円。
2012年の本屋大賞第1位の本です。

とっても面白くて、切なくて、為になる本でした。
やさしい文章で綴られた内容の深い作品です。
仕事への思いが人をつくり、その心情がまた人に伝わっていく。
前半の密度の濃さに比べ、
後半はやや情緒的になってしまったが、
とにかく素敵にいい本です。

題名から想像出来ることもありますが、あえて内容にはふれません。
読んでみる気になりましたら、書評やレビューは見ないで、
ご自身でピュアに感じてください。
今ベストセラーで書店に平積みになっています。