大活字本で読む葉室麟さんの時代小説。
5冊目は「潮鳴り」になりました。
これまで「冬姫」「川あかり」「蛍草」の読みレポを書いてきました。
映画にもなった名作「蜩の記」は先送りになっています。
「潮鳴り」は「蜩の記」と同じ豊後(大分県の南部)・羽根藩ものです。
伊吹櫂蔵は羽根藩の武士で俊英と謳われ、
剣術の腕も立って「出来る男」であった。
しかし、周囲になじまない性格ゆえに、
勘定方のお役目御免になってしまった。
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父の後妻にきた厳格な継母の染子とも折り合いが合わず、
異母弟の新五郎に家督を譲って、家を出てしまう。
わずかな仕送りを無心しながら、怠惰な日々を過ごしている。
海辺の漁師小屋で無頼放蕩の生活を送るようになった。
周囲から「襤褸蔵(ぼろぞう)」と呼ばれている。
「落ちるところまで堕ちていく」自分にさえ、愛想が尽きていた。
そんなある日、家督を継いでいる新五郎が
目ぼしい家財を処分したから、その一部だといって、
櫂蔵に3両を置いていった。
櫂蔵はその3両を一晩で散在してしまう。
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その翌日、弟新五郎が切腹し果てたことを知らされる。
遺書から借銀を巡る藩の裏切りが原因だと知る。
3両置いていった義弟の苦悩も聞かず、追い返した櫂蔵は
「己の浅はかさ」に悔やむ日々に変わった。
旬日が過ぎて、そんな櫂蔵に藩から出仕の話が来る。
「弟と同じ新田開発奉行並として」仕えよという。
義母・染子は「行ってはならぬ。新五郎と同じ羽目になる」という。
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義弟の無念をなんとしても晴らしてやりたい。
「落ちた花」でも、義弟のために咲かせたい。
櫂蔵は、再び城に戻ることを決意するのだった。
伊吹家に戻る櫂蔵は、三組の同行者を伴った。
酒と喧嘩の怠惰な生活の中で知己を得た者だ。
一人は元武家娘のお芳。
好意を寄せた藩の井形清四郎に弄ばれて転落した。
酌婦から身を娼婦にまで「落ちた花」だった。
櫂蔵は義母に「いずれ妻にしたい」という。
一人は江戸の大店の大番頭だった咲庵。
人生を見直し放浪の旅に出た俳諧師となっていた。
そして、かつて父・帆右衛門に仕えてい宗平と娘の千代。
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城に入り「部署に着いた」櫂蔵の周りには、
謀り事に満ちた「深い闇」が支配していた、
切腹した新五郎の足跡を追っていくと、
大商人と結託した藩ぐるみの不正が見えてきた。
中心にいるのは、かつてお芳を弄んだ井形清四郎だ。
下働きとして伊吹家に入ったお芳に染子は冷たかった。
あることから染子は、厳しいながらも
「武家の嫁」としての修行を課するようになった。
そんなある日、清四郎からお芳に呼び出しがかかった‥‥
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「落ちた花」は再び咲かすことが出来るのか。
地獄を見た者たちに「潮鳴り」が響きあった。
櫂蔵らは、不正に染まりきった藩を正していく。
「悪徳」は滅びるのはお決まりであっても、
やはり正しき者が陽の目を見るのは、時代小説の醍醐味ですね。
2014年3月31日、大活字文化普及協会発行
定本、祥伝社「潮鳴り」
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葉室麟原作「散り椿」28日から上映です。