(英語版)
(アラビア語版)
(目次)
第7章:「アラブの春」―はかない夢のひと時(16)
183 混迷深まる中東(3/3)
中東戦争まではアラブ・イスラーム対イスラエルの2項対立であったものが、イラン・イラク戦争時代には3項或いは4項対立の様相を呈した。敵の敵が味方か敵か、はたまた敵の味方が敵か味方か、判然としなくなったのである。但し対立は重層化したものの、敵か味方かの区別は国家単位であり、それぞれにとって誰が味方で誰が敵かははっきりしていた。
しかし対立が一つの国家内での政府と反政府組織の軍事的対立となったとき、他国がどちらに肩入れするかで敵と味方の区別がつきにくくなる。まして反政府組織が分裂したり、同床異夢の寄り合い所帯であったりすると問題が複雑になる。IS(イスラム国)が従来の国境を無視して国家樹立を一方的に宣言し、加えて超大国の米露や地域の大国であるイラン、トルコ或いはサウジアラビアがそれぞれの思惑で政府或いは反政府組織に介入すると問題は多項方程式を解くように際限もなく複雑化する。それこそが現在のシリアなのである。
(続く)
荒葉 一也
E-mail: Arehakazuya1@gmail.com
7/19 経済産業省
「航空燃料供給不足に対する行動計画」を公表します
https://www.meti.go.jp/press/2024/07/20240719001/20240719001.html
7/18 石油連盟
木藤 石油連盟会長定例記者会見 発言要旨・配布資料
https://www.paj.gr.jp/news/982
7/18 INPEX
ペロブスカイト太陽電池の開発を行う「株式会社エネコートテクノロジーズ」への出資について
https://www.inpex.co.jp/news/2024/20240718.html
7/16 Saudi Aramco
Aramco to acquire 50% stake in Air Products Qudra’s Blue Hydrogen Industrial Gases Company
https://www.aramco.com/en/news-media/news/2024/aramco-to-acquire-50-stake-in-air-products-qudras-blue-hydrogen-industrial-gases-company
II. 天然ガス
1.世界の消費量
(世界の天然ガスの22%を消費する米国!)
(1)2023年の国別消費量 (表http://bpdatabase.maeda1.jp/3-T01b.pdf参照)
2023年の世界の天然ガス消費量は4兆102億立法メートル(㎥)であり前年(2022年)比では横ばいである。
天然ガスの最大の消費国は米国であり、消費量は8,865億㎥、世界全体の22%を占める。同国は石油消費量も世界1位でありエネルギー消費大国である。2位はロシアの4,534億㎥、3位は中国の4,048億㎥である。これら3か国の世界シェア合計は44%に達する。4位はイラン、5位はカナダであり、6位サウジアラビア、7位メキシコに続いて8位を日本が占めている。9位、10位はドイツ及びUAEであり、上位10カ国が世界全体の消費量に占める割合は64%に達する。
これら上位10カ国の顔触れを石油の消費国順位と比較すると、米国、ロシア、中国、カナダ、サウジアラビア及び日本の6カ国は両方に顔を出しているが、イラン、カナダ、メキシコ及びドイツは石油消費の上位10傑に入っていない。
(1970年以降の半世紀で消費量4倍に急成長!)
(2) 1970~2023年の消費量の推移(図http://bpdatabase.maeda1.jp/3-G02b.pdf参照)
1970年に9,600億㎥であった天然ガスの消費量はその後1992年に2兆㎥、2008年には3兆㎥の大台を超え、2021年に4兆㎥を超え2023年の消費量は4兆102億㎥に達している。1970年から2023年までの間で消費量が前年度を下回ったのは1997年、2009年、2020年及び2022年の4回であり、53年間の増加率は4倍を超えている。
石油の場合は第二次オイルショック後の1980年から数年間にわたり急激に消費量が減った例に見られるように、価格が高騰すると需要が減退すると言う市場商品としての現象が見られる。天然ガスの場合は輸送方式がパイプラインであれば生産国と消費国が直結しており、またLNGの場合もこれまでのところ長期契約の直売方式が主流である。そして天然ガスは一旦流通網が整備されると長期かつ安定的に需要が伸びる傾向がある。これに加え最近では地球環境問題の観点からCO2排出量の少ない天然ガスの需要が増加している。この結果天然ガス消費量は石油の2倍のスピードで増加している。
(4千億㎥を超えた中国、1千億㎥を割った日本!)
(3) 米国、中国、日本、インド4カ国の過去10年間の消費量推移
(図http://bpdatabase.maeda1.jp/3-G03b.pdf参照)
米国(2023年の天然ガス消費量世界1位)、中国(同3位)、日本(同8位)及びインド(同12位)の2014年から2023年までの消費量の推移を見ると、2014年は米国が7,223億立方メートル(㎥)、次いで中国が1,884億㎥、日本1,248億㎥、インド485億㎥であり、米国とその他3カ国の格差は4倍以上であった。その後中国の消費量は急ピッチで増加、2016年には2千億㎥、2019年には3千億㎥を突破、2023年の消費量は4,048億㎥を記録し、米国との格差は2倍程度まで縮まっている。
一方、日本の消費量は2014年の1,248億㎥が過去10年間の最高であり、その後は年々減少、2023年には924億㎥と1千億㎥を切り、中国の4分の1以下、米国の10分の1程度に縮小している。インドは2014年の消費量485億㎥に対し2023年は626億㎥であり過去10年間に1.3倍増加している。
(続く)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp
(英語版)
(アラビア語版)
(目次)
第7章:「アラブの春」―はかない夢のひと時(15)
182 混迷深まる中東(2/3)
その結果イラン・イラク戦争はアラブ人対ペルシャ人(イラン)という因縁の民族的対立に加えシーア派対スンニ派という宗派対立の構図が炙り出され、君主制の湾岸諸国が世俗国家イラクを後押しする羽目になった。これに対してイランはシリアを側面支援してレバノンを舞台にシリアとイスラエルの代理戦争を演出、さらにイラク及び湾岸諸国のシーア派住民を使嗾して各国の体制に揺さぶりをかけたのであった。加えてホメイニ憎しの米国は民主主義の理念を棚上げして独裁国家イラクを支援した。
こうして中東地域ではイランとイラクが直接敵対する関係になり、湾岸諸国にとって味方(イラク)の敵(イラン)は敵という訳であり、中東イスラームという一つの地域の中に敵と味方が混在する構図となったのである。かつてのイスラーム諸国対イスラエルという単純な二項対立が宗派を介して複雑化した。逆の立場のイランにとっても同じことがいえる。即ち味方(シリア)の敵(イスラエル)は敵であり、敵(イラク)の味方(サウジアラビアなどの湾岸諸国)は敵である。そして奇妙なことにサウジアラビアにとってイラン、シリアの敵であるイスラエルはこれまで通りやはり敵なのである。
(続く)
荒葉 一也
E-mail: Arehakazuya1@gmail.com
(エネルギー関連ニュース)
原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oi
・中国経済減速懸念して原油価格下落。Brent $84.28, WTI $81.32。
(中東関連ニュース)
・イスラエル軍、ハマス幹部狙い難民安全地帯を攻撃。60人以上が死亡。
・パレスチナのハマスとファタハ両トップ、20-21日に北京で協議。
・イスラエルでユダヤ教超正統派の徴兵始まる。内閣混乱の恐れ。
・国連イラク代表、オランダ前国防相からオマーン外交官に交代。
・アゼルバイジャン、2023年1月以来閉鎖中のイラン大使館を再開。
・オマーン首都マスカットでシーア派モスク銃撃、パキスタン人4名死亡。
II. 天然ガス
1.世界の生産量(続き)
(トップを独走する米国!)
(3)主要国の2014~2023年の生産量推移(図http://bpdatabase.maeda1.jp/2-G03b.pdf参照)
2014年から2023年までの天然ガス生産量の推移について、ここでは2023年世界1位、2位、3位の米国、ロシア及びイランに加え、同6位カタール、7位オーストラリアの5カ国の動きを見る。
2014年の米国とロシアの天然ガス生産量はそれぞれ7,047億㎥及び5,912億㎥であり米国がロシアを19%上回っていた。米国ではシェールガス開発が軌道に乗り生産量が急増、低迷するロシアをしり目に両国の格差は2017年以降急速に拡大している。2020年の生産量はロシアの6,384億㎥に対し米国は1.5倍近い9,248億㎥であった。更に2022年及び2023年はウクライナ紛争による西欧諸国の輸入制限によりロシアの天然ガス生産量が急減した。2023年の生産量は米国が1兆㎥を超え、一方ロシアは10年前の2014年を下回る5,864億㎥にとどまっている。
カタールとイランの生産量は2015年までほとんど同じであった。LNG輸出中心のカタールは2010年までにLNG年産7,700万トン体制を整え、長期契約により世界のLNG市場をリードしているが、供給過剰を回避するため新規設備投資を凍結する「モラトリアム体制」を取った。このため2010年代を通じて生産量はほとんど増えていない。これに対して1億人近い人口を抱えるイランは国内のエネルギー消費を賄うため天然ガスの生産を高めた。この結果2023年の生産量はイランの2,517億㎥に対しカタールは1,810億㎥にとどまり、2014年に比べるとイランは1.4倍増加したのに対し、カタールは1.1倍の増加にとどまっている[1]。
カタールの生産量が停滞している間に意欲的な増産に取り組んだのがオーストラリアである。同国の2014年の生産量は653億㎥でありカタールの4割にとどまっていたが、2023年には1,517億㎥に拡大しカタールに迫っている。
(続く)
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前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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[1] 現在、カタールは「設備増強モラトリアム宣言」を撤回し、年産1億2千万トンを目指して設備の増強に着手、LNG輸出市場での主導権を回復しようとしている。
(英語版)
(アラビア語版)
(目次)
第7章:「アラブの春」―はかない夢のひと時(14)
181 混迷深まる中東(1/3)
第二次大戦後の中東はアラブとイスラエルが対立する世界であった。そこでは敵と味方の区別が明らかであり、民族も文化も異なるが宗教(イスラーム)が同じであるアラブ、イラン、トルコの敵はイスラエルのみであり、お互いは味方同士であった。そして米国はイスラエル(敵)の味方であるため、アラブ・イスラ-ム圏は米国を敵とみなした。即ち敵の味方は敵なのである。但し米国は遠く離れているため、シャー体制のイランのように中東一の親米国となる国がある一方、ナセル体制のエジプトはソ連になびいた。
敵、味方の構図を一変させたのが四次にわたる中東戦争におけるイスラエルの圧勝であり、さらにその後のイラン・イスラム革命であった。イスラエルの圧勝によりアラブ諸国内にはエジプト、イラクなどの世俗軍事国家とサウジアラビアなど専制君主国家との間に緊張が生まれた。さらにイラン革命でホメイニ体制のシーア派の政教一致国家が生まれると、スンニ派が実権を掌握するイラク及び湾岸諸国とシーア派のイラン及びシリアとの宗派対立が表面化した。問題を複雑にしたのがイラク及び湾岸王制国家のバハレーンでは少数派のスンニ派が多数を占めるシーア派住民を支配していることであり、他方シリアでは少数派のシーア派アラウィ教徒のアサド(父子)がスンニ派とクルド民族を抑え込んで実権を握るという少数派と多数派の逆転現象が発生したことである。
(続く)
荒葉 一也
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II. 天然ガス
1.世界の生産量
(シェールガス開発で伸びる米国、欧米の経済制裁で激減するロシア!)
(1) 2023年の国別生産量 (表http://bpdatabase.maeda1.jp/2-T01b.pdf参照)
2023年の世界の天然ガス生産量は年産4兆592億立法メートル(㎥)であり、前年(2022年)を若干上回っている。最大の生産国は米国であり、年産量は1兆353億㎥、世界全体の4分の1を占めている。同国は石油生産量も世界1位であり(I.1.(1)参照)、エネルギー生産大国である。2位はロシアの5,864億㎥で、米露2か国だけで世界シェアは4割に達する。ロシアの生産量は前年を5.2%下回っているが、これはウクライナ戦争をめぐる欧米の経済制裁によりヨーロッパ向けのパイプラインによる輸出がストップしているためである。
3位はイラン、4位中国で5位カナダ、6位はLNG輸出大国カタールである。7位から10位までの生産国を列挙すると、オーストラリア、ノルウェー、サウジアラビア及びアルジェリアの各国である。
これら上位10カ国の顔触れを石油と比較すると、米国、ロシア、イラン、中国、カナダ、サウジアラビアの6カ国は両方に顔を出しているが、カタール、オーストラリア、ノルウェー及びアルジェリアの4カ国は石油生産上位10カ国に入っていない(同様に石油生産上位10カ国のうちイラク、UAE、ブラジル及びクウェイトの4カ国は天然ガス生産上位10カ国に入っていない)。これは各国に存在する油田あるいはガス田の地質構造上の違いによるもので、ごく大まかにいえばカタール、オーストラリア、アルジェリアなどはガス単体のいわゆるドライガス田が多く、一方、イラク、UAE、クウェイトなどはガスと原油が一緒に生産されるウェットガス田であり、天然ガスが原油の生産に左右されるためである。
(50年間で4倍になった天然ガス生産!)
(2) 1970~2023年の生産量の推移 (図http://bpdatabase.maeda1.jp/2-G02b.pdf参照)
1970年の世界の天然ガス生産量は9,800億㎥であった。その後半世紀の間生産量は毎年大きく増加し、2023年には1970年の4.1倍の4兆600億㎥に達している。この間、前年比でマイナスになったのは1997年、2009年及び2020年の3回だけである。
年間生産量が1兆㎥を超えたのは1971年であるが、その後は5~7%の成長を続け20年後の1992年に2兆㎥に達した。その後、増加のスピードは加速し、年産3兆㎥を達成したのは16年後の2008年であった。そして2021年には4兆㎥を超えている。
(続く)
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