(まえがき)
イランの核開発問題にからみイスラエルのネタニヤフ首相はトランプ大統領との会談でリビアモデルを提唱した。リビアモデルとは2003年に当時のリビアが経済制裁解除と国際社会への復帰の見返りに核開発計画を放棄したことを指している。これに対してイランは、リビアがその後、カダフィ体制の崩壊に至ったと同じ事態がイランに再来することを憂慮しているようである。
以下は米国を巻き込んでイランの核開発計画解体のみならずハメネイ現体制の打倒すら視野に入れるイスラエルの野望とその背景をエジプトAhram紙の記事で概観し、次いでTehran Timesの記事でリビアモデルを拒否するイランの姿勢を検証する。
Part 1:(イスラエルの思惑)「ネタニヤフ首相、米国訪問中にリビア式のイラン核計画解体を求める」
(原題) Netanyahu seeks Libya-style dismantling of Iran’s nuclear programme during US visit(要旨のみ)
2025/4/7 Ahram Online
イスラエルのネタニヤフ首相は、イランの核開発計画の完全放棄を主張しており、米国訪問時にトランプ大統領と軍事行動の可能性について調整を図ることを目指していると、イスラエル高官がAxiosに語った。
「ネタニヤフ首相はリビアモデル、すなわちイランの核開発計画の完全放棄を望んでいる」と高官は述べた。この発言は、制裁解除と国際社会への復帰と引き換えにリビアが核開発の野心を放棄した2003年の合意に言及している。
ネタニヤフ首相は、イランとの外交合意の可能性は低いと考えており、トランプ大統領に「良い合意」の枠組みを提示する予定だ。ネタニヤフ首相はまた、外交交渉が失敗した場合のイランの核施設への攻撃について、ホワイトハウスとの合意形成を目指している。イランは核兵器開発を否定し、核開発計画の停止要求も拒否し、平和目的のみであると主張している。
米国防総省は事態のエスカレーションに備えている。 2隻の空母「ハリー・S・トルーマン」と「カール・ビンソン」はこの地域に留まり、追加の兵員と航空機材が展開されている。先週、インド洋にある米軍基地、ディエゴガルシア島にB-2ステルス爆撃機数機が派遣された。これらの爆撃機は「バンカーバスター」弾を搭載可能で、イランの地下核施設を標的とすることができる。
ネタニヤフ首相が軍事的緊急事態への対応を働きかけ、米国が地域的な軍備増強を加速させる中、外交の機会は急速に閉ざされつつあるようだ。
Part 2:(イランの反論)「リビアモデルがイランで再現できない理由」
(原題) Why the ‘Libyan model’ is not reproducible for Iran
2025/4/8 Tehran Times
テヘラン発 ― イスラエル政権のベンヤミン・ネタニヤフ首相と米国大統領との最近の会談において、ネタニヤフ首相はイランとの関係構築における理想的な方法として「リビア・モデル」に言及した。この言及は表面的には外交的なものに見えるかもしれないが、本質的にはイランに対する直接的な脅威である。
「リビアモデル」とは、リビアの最高指導者カダフィ大佐(当時)と西側諸国(特に米国と英国)の間で2003年に締結された、リビアの核兵器、化学兵器、ミサイル計画の解体に関する合意を指す。制裁解除とリビアの国際社会への復帰を約束する代わりに、カダフィはリビアの多くの戦略的能力を放棄した。しかし、このプロセスは安定をもたらさなかっただけでなく、2011年にいわゆる「アラブの春」が勃発すると、NATOはリビア国民支援を名目に介入し、カダフィ政権を倒した。本稿では、イランとリビアを比較することが誤りであるだけでなく、根本的に戦略的価値を欠いている理由を明らかにする。
(続く)