たかたかのトレッキング

駆け足登山は卒業、これからは一日で登れる山を二日かけ自然と語らいながら自由気ままに登りたい。

思い出の山・物見山(2113m)~鬼怒沼湿原

2021年03月17日 | 心に残る思い出の山

H11年

 

尾瀬の玄関口、喧騒の大清水から鬼怒沼へ向かう者は私達だけ。鳥の囀りも飲み込んでしまうほど激しい水音を轟かせ流れる根羽沢を右に先ずは30分の林道歩き。物見橋で林道と分れ道は左に渓谷美を見ながら一旦、穏やかな下りとなる。小鳥の囀りが急に賑やかになった。

周辺は緑豊かなカラマツ林で針葉樹が吐き出すフィトンチットを胸一杯吸い込んで下って行くと幅3m以上ある沢に降り立った。

雨天続きだったせいか水嵩が増し飛び石は全て流れの下だ。川面から1m位上に大木が横倒しになっているが、つるつるしていて歩けそうにない。足場を作ろうとして雄さんが大きな石を投げいれたが焼け石に水。 こうなったら覚悟を決めるしかない。勢いよく流れる川の中、素足になって渡渉。流れがきついので目が廻った。「やるじゃない!」と感心して雄さんがその様子をカメラに収める。後で写真を見たらかなりヘッピリゴシだった。

沢を渡ると本格的な登りとなる訳だが、はなから中々の登りだ。木々の吐き出す霊気は十分すぎる程あるが、とにかく蒸し暑く全身に汗が吹き出し流れ落ちる汗が目に沁みる。

途中、立ち木に真新しい熊の爪痕を見つけた。先日、尾瀬で200m先に居た熊が突進し人を襲ったばかり、お互い顔を見合わせ先を急いだ。 やがて一面の霧の中に突入、展望が無いので苦しさが増す。稜線に登りあげても急坂は一向衰える事はなかった。前方は湿潤な深い森が口を開けている。

出発してから2時間10分、右に幅5m位の波状に何層も重なる岩に出た。これが千枚岩 “すごい”と思いながらも地図を見れば未だ先は長くヘナヘナと力が抜けた。気を取り直し“良し!”と掛け声だけは元気よく先を急ぐが疲れからかピッチが上がらない

木に足を、枝に手を掛け体を摺り上げると腿の筋肉がストライキを起こして体が持ち上がらない。そんな動作を3・4回繰り返していると「それじゃぁ何時になっても頂上に着かないぞ」と雄さんが後ろで笑いお尻を持ち上げてくれた。

ギンリョウソウがそんな私を元気づけるかの様に、あちこちに頭をもたげている。綺麗な白だった。

  

ギンリョウソウとマルバシモツケソウ

右の花はマルバシモツケソウではなく「クロヅル」だそうです。

モウズイカさんが教えて下さいました。有難うございました

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大岩を過ぎてもなお苦しい登りは続いた。少し先で擦違った登山者が「これからはもっと厳しいですよ」・・・その言葉に愕然。 「湿原まで行けないかもしれない」山を始めて、言った事も無い言葉が思わず口に出る。 雄さんも大分、疲れていたが、まさかの私の言葉に「あのピークがきっと物見山だ、頑張れ!」と激を飛ばした。しかしピークに見えた場所まで登ると、そこから45度向きを変えて山道は尚も続いていた。

6人のパーティ(5人だったかもしれない)が下って来て「ここを登り切った所が山頂ですよ」と涼しい顔。川が増水している事を伝えると「泳いじゃおうかな」と冗談まで飛び出す余裕。私達の方はと言えば体力の限界を超えヨレヨレ状態。雄さんが「もう、帰ろうか」と言えば素直にそうしていたかもしれない。

10時35分、物見山(毘沙門山)到着。強烈な蒸し暑さの中、急登を重ねて着いた山頂は展望も無くジメッとした何の感激も湧かなかった山頂だった。キノコが生えそうな倒木だったが体力回復の為、その上に腰を掛け15分ほど休憩  

物見山から小沢を二つ渡り樹林帯から抜け出ると、さっと爽やかな風が体を包み何時の間にか広がった青空の下に緑の草原、その中を二本の木道が真っ直ぐ伸びている。その両脇には一面のワタスゲ、一歩踏み入ればピンクのサワラン、青いタテヤマリンドウ、赤いモウセンゴケ、キンコウカと花盛り。「山上の花博」と言ったら良いだろうか。 しかし辛い登りだった。その辛さを享受したからこそ得られた楽園だ、そして此処には尾瀬の様な混雑もない。

  

モウセンゴケとタテヤマリンドウ

 

キンコウカ

 

ヒメシャクとサワラン

長くなりましたので湿原は次回と致しますのでコメント欄は閉じました。